【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第四二話:駆たちの日常》

 六月。ウィンターウッドの街。駆はこの街のウォーリアーズ傭兵団支部の運営を任されることになっていた。

 そんな暖かなある日、昼ご飯を買いに出かけようと支部の庭に出た駆。

 ふと遠くから聞こえてくる軽やかな足音に気づいた。その足音は、どこか懐かしい響きを持っていた。駆はその音に導かれるようにして、支部の門から顔を(のぞ)かせる。

 

「駆さん!」

 

 明るい声が響くのと、金髪碧眼の愛嬌(あいきょう)ある太眉(ふとまゆ)の少年が駆の視界に現れたのは同時だった。

 レオンだ。故郷のグリーンヒルズ村に帰省していた彼が、ウィンターウッドに戻ってきたのだ。

 

「レオン! 久しぶり!!」

 

 駆は嬉しそうに微笑みながら、レオンを迎い入れるため門の(かぎ)を開けた。

 

「駆さんも元気そうで何よりずら。支部の運営、どんな感じですかずら?」

 

「まあ、色々あるけど、何とかやってるよ」

 

 ちょっとした雑談を交わしながら、レオンの荷物を支部の屋敷(やしき)に入れるのを手伝う駆。

 

「あれ? そういえば、ミケは?」

 

 そしてレオンの相棒、猫の魔物のケットシー:ミケの姿がないことに気づいた。

 

「実はそれについて話がありましてずら……」

 

 駆が尋ねると、レオンは真剣な表情で口を開いた。

 

「実は、故郷の村から《オーク》を連れてきたんですずら」

 

 レオンは慎重に話を始めた。

 

「今ミケはそのオークと一緒に街の外にいますずら」

 

「え、そうなの」

 

 駆は少し驚きながらも頷いた。

 

「もちろん大人しい性格ですずら」

 

「あ、そうなんだ。それなら安心だね」

 

 駆の懸念(けねん)をレオンはすぐさま感じ取り答えた。安心する駆。レオンは続ける。

 

「ある日オークが一匹村にふらっと現れたずら。『以前村から逃げ出した豚の一頭が変異して戻って来た』と村の皆は考えたずら。おらも、たぶんそうだと思うずら。それで村の皆はオークをどう扱っていいかわからなくて、()れ物を触るように接していたんですずら。エルミン様の一件もあったし、かなり丁重(ていちょう)に、丁重すぎる程に(かしず)いて接していたずら」

 

 レオンは説明した。

 

「そういう状況は悪くはないけど……良くもないと、おらは思ったずら。ちょっとやり過ぎだと」

 

「確かにね」

 

「おらはそのオークに、おらは『おーちゃん』と呼んでるずらが、おーちゃんに外の世界について知って欲しいと思ったずら」

 

 レオンは決意を込めて話した。

 

「学んだうえで、おーちゃん自身が、自分の納得する生き方を決められるように、ここで生活させてみたいずら……どうでしょうかずら?」

 

 心配そうに駆の顔色を(うかが)うレオン。

 駆は少し考え込んでから、静かに口を開いた。

 

「なるほど、いい考えだと思う」

 

 そして駆はウンウンと(うなず)き、手をサムズアップしながらこう付け加えた。

 

「目の付け所がシャープだよ」

 

 

 

 レオン達が支部戻ってきて、二週間が経過した。

 

「おーちゃん、今日も元気そうだね」

 

 駆は微笑みながら、レオンに話しかけた。

 

「ここでの生活に慣れて来たみたいずら。一安心ずら」

 

 ある晴れた日、支部の中庭でおーちゃんは、駆やレオン、ミケと一緒に庭の花壇(かだん)に水をやったり草むしりをしたりしていた。

 おーちゃんは人間のように服を着て支部の中でゆったりと過ごし、ぼんやりと外の景色を(なが)めることが多かった。人間とほぼ変わらない何気ない日常を過ごしている。

 駆とレオン、ミケは彼との(きずな)を着実に深めていった。おーちゃんは、すっかり支部の一員として家族のように扱われ、日常の一部となっていた。

 ある時はおーちゃんを市場に連れ出したこともあった。おーちゃんは市場に興味津々で、市場にいる人々も彼に視線を向けていた。前者はプラス、後者はマイナスな感情によるものであっただろう。

 だがおーちゃんが街の外でよく見る好戦的で粗暴(そぼう)なオークと異なると、市民たちもほどなく気づくことになり、奇異なものを見る視線も落ち着いていった。時折心無い声も浴びたが、それは少数であった。

 服を着て、人間と変わらない行動を取る魔物に、概して人々の対応は温かった。

 

「おーちゃん、自分の生き方は自分で決めれるずら。おらはそのことを伝えてたくて、おーちゃんをこの街に連れてきたずら」

 

 レオンはおーちゃんに優しく語りかけていた。

 

 

 

 ある時、駆,レオン,ミケ,おーちゃんの四人は、薬草採取のクエストを受注し任務に当たることになった。野山に分け入り、風のささやきと鳥の歌声が響く中、彼らは薬草を採取していた。

 

「これで目的の薬草は全て揃ったね。みんな、お疲れ様」

 

 駆は手に入れた薬草の入った籠を確認して言った。

 

「お疲れ様ずら。丁度お昼時間ずら。キャンプを張りましょうずら」

 

 レオンは微笑みながら応えた。

 彼らは山の開けた場所でキャンプを開く準備を始めた。ミケは木陰でゆったりとくつろぎ、おーちゃんは草むらにぼんやりと座っていた。

 

「あれ? お弁当の数が足りない」

 

 駆はエルパッドで先程簡易的なマットと一緒に出した弁当箱が三つしかないことに気づく。

 

「さっき見たときは確かに四つあったはずなんだけど……」

 

 無くなっていたのは駆の弁当であった。

 駆は周囲を見渡す。

 そして飛び込んできた光景があった。草むらに置かれた弁当箱と、その前にいる真っ白なタヌキがむしゃむしゃと弁当を食べている姿。

 

「え? もしかして」

 

 駆は驚きながらも、タヌキに近づいていった。

 タヌキは駆を意に返さず、逃げることもなく、弁当を黙々と食べ続けていた。

 

「これは大物ずら! 逃げる気も、戦う気もまったくないですずら」

 

 レオンも少し笑いながら言った。

 聞けばタヌキはふつう臆病(おくびょう)で、ピンチになると逃げだすか、場合によっては死んだふりをしてやり過ごすと言う。

 だが目の前の真っ白タヌキは近づいて来た駆とレオンに一切の警戒なく、弁当を食べるのを中断する素振りさえ見せない。

 

「この子、連れて帰れないかな?」

 

 駆はふと思いつき、レオンに相談した。

 

「人間を全く恐れてないし、白いタヌキなんて珍しいし、何かの巡り合わせかも」

 

 駆はタヌキに優しく問いかけた。

 

「名前はなんて言うの?」

 

 もちろんタヌキは答えることなく、だが食事を中断し、駆を見つめ返した。

 その瞳にはどこか人懐(ひとなつ)っこい光が宿っていた。

 

「なんか感触は良さそうずら……駆さん、せっかくだし名前をつけてあげたらどうずら?」

 

「そうだね。野生動物に名前はないよね。そうだな……」

 

 駆は思案しながら答えた。

 

「『しろちゃん』ってのはどうかな?」

 

 おそらく『おーちゃん』に影響を受けたネーミング。

 レオンは微笑みながら同意した。「いいと思いますずら」

 

「しろちゃん、もし良かったら僕たちと一緒に来ない? 食べ物は毎日あげるよ」

 

 駆はしろちゃんと名付けたタヌキに手を差し伸べた。

 しろちゃんは駆の手を軽く()いでから、小さな声で鳴きながら、駆の手に自身の手を『犬のお手』のように乗せた。

 同意の証。駆はそう受け取った。

 

 

 

 支部。ある日、駆の元にレオンが魔物図鑑片手にやってきた。

 

「駆さんこれ、見て欲しいずら!」

 

 レオンは魔物図鑑を広げながら駆に語りかけた。

 声と表情に興奮の色を含んでいる。

 

「しろちゃんは《雪たぬき》っていう魔物みたいずら!」

 

「雪たぬき?」

 

 駆は驚いた様子でレオンの話に耳を傾ける。

 

「そうみたいずら。寒い地方のタヌキが(まれ)に変異することがあるらしくて、雪を操る能力があるらしいずら」

 

 レオンは魔物図鑑の該当部分を指さしながら説明した。

 イラストと名前、生態について書かれている。

 

「なるほど、しろちゃんってただの幻想的で賢いタヌキじゃなかったんだね」

 

 屋敷の一角。そこでは雪たぬき:しろちゃんが食事を取っており、その白い毛並みが窓から注ぐ陽光を反射して美しく輝いていた。

 

「しろちゃん、冬になったら雪かき手伝ってね」

 

 あの日、お手をしたしろちゃんは駆の誘いを受けて一緒にキャンプ地で食事を共にした。ちなみに駆はレオンの弁当を分けてもらった。

 そして食事を終えた後は、駆たちに寄り添って山を下り、それ以来一緒に支部で暮らしているのであった。

 

「大活躍間違いなしずら!」

 

 駆は微笑みながらしろちゃんに歩み寄り、(そば)で優しくしろちゃんの頭を()でながら言った。

 しろちゃんは駆の手に顔をすり寄せ、小さな声で鳴きながら応えた。

 

 

 

 おーちゃんやしろちゃんとの絆を深めながら、日々の仕事をこなす駆とレオン。

 彼らが引き受けるのは決まって比較的低いランクのクエストであったが、これには理由があった。

 

「レオン、パパから……いや王都の本部から手紙が来たよ。聖魔闘技大会(グラン・コンベンション)の開会式セレモニーに観覧者として僕達も呼ばれたから、六月の末までに王都に来て欲しいって」

 

 『王都でパーティや行事があったり、魔法使いやモンスターマスターの力を必要とするクエストが支部のどこかで受注されたら応援に行って欲しい』そう信彦と美香子から頼まれていたからだ。

 故に駆達はいつでもこの支部を開けて出動できるように、大きな仕事は受けないようにしていた。

 そもそも支部のメンバーは駆とレオンの二人に、おーちゃんとしろちゃんの二匹だけなので、戦力的に困難という側面もあったが。

 

「分かりましたずら」

 

 定期連絡でおーちゃんのことは信彦も了解済みで、『一緒に連れて来てもよい』と手紙には書かれていた。しろちゃんのことは知らせていないが……まあ大丈夫だろう。

 しろちゃんは魔物。モンスターマスターでない駆が仲間にしているのは少々問題あるが……戦闘員ではなく、ペットだ。かつてのモンスターマスターでなく猟師見習いであったレオンが魔物のミケを相棒にしていたように、特例となるはずだ。

 

「じゃあまだ日にちはあるけど、後で忘れ物に気づいて戻るのもあれだし、今の内から余裕をもって準備、始めよっか」

 

「ずら!」




・あとがき

 お楽しみいただけていたら幸いです。

 高評価、お気に入り、感想など頂けると、嬉しいです(⁠≧⁠▽⁠≦⁠)
 それでは、またお会いしましょう。
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