【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第四三話:グラン・コンベンション》

 七月も半ば。

 ルテティアの街並みは鮮やかな陽光に照らされ、輝いている。

 グラン・コンベンションの開会式セレモニー。

 セレモニーの行われる巨大な円形闘技場は、熱気に包まれている。人々の歓声が重なり合っている。

 

「モンスターマスター達の祭典:グラン・コンベンション。冒険者である俺たちには縁遠いものだと思っていたが――」

 

 桐島一家とレオンは、王家の招待を受け、貴族や富裕層と共に特別な区画に通された。

 その場所からは、壮大(そうだい)なセレモニーの全景が一望できた。美香子はエレガントな紫のドレスに身を包み、信彦,駆,レオンの三人もジュストコールを始めとした正装で、席に着いている。

 

「案外悪くない、でしょ」

 

 美香子が微笑みながら信彦の言葉を受け継いだ。

 信彦は頷き、

 

「あぁ。闘技場全体が、この王都市民が一つとなって連帯しているさまは、見ていて力強いの一言だ。心地が良い」

 

 セレモニーが始まった。

 闘技場の正門がゆっくりと開かれ、聖魔の騎士(モンスターマスター)たちがそれぞれ相棒の魔物(ホーリーセイバー)と共に行進してきた。彼らの相棒は、リザードマン,ケンタウロス,そしてドラゴンと、まさしく多種多様であった。日の光を受けて輝く彼らの姿は、まるで神話の一幕を見ているかのようで、観衆を圧倒する美しさだった。

 

「カッコいいずら!」

 

 レオンは目を輝かせ、興奮気味に言った。

 

「おらもいつかあんな風になれたらいいずら~」

 

 駆は笑顔で(こた)えた。

 

「絶対叶うよ。努力は必ず報われるんだから」

 

 騎士たちの行進が終わると、次に現れたのはペガサスが()く豪華な、オープンカーのように屋根のない馬車に乗った王族たちだった。馬車は二両ある。

 先頭車両にはホノリア国王エドアルトと王妃エレアノールが並んで座っていた。エレアノールは銀髪を風になびかせ、その美貌(びぼう)はまさに『白薔薇(ばら)の貴婦人』そのものであった。

 

「エレアノール様、本当に素敵だわ」

 

 美香子は思わず感嘆(かんたん)の声を()らした。

 後部車両には王子アルフレッドと王女マリアが乗っていた。

 王族たちは観客たちに笑顔を向け、手を振っている。

 

「今日この場に皆が集ったことを誇りに思う!」

 

 闘技場の特設ステージに降り立つ馬車。華麗に馬車を降りる王族たち。

 エドアルト国王がステージの一際目立つ場所に立ち、開会の挨拶を行った。

 

「我らがホノリアの繁栄は、市民の皆皆々の努力と献身のおかげであることを余は、今再確認した」

 

 エドアルトの深い声が広場に響き渡る。現実世界のマイクに相当するような、何らかの魔法的仕掛(しか)けがあるようだ。

 国王の言葉は参加者全員の心に刻まれた。彼の言葉には、国の未来への希望と繁栄、そしてここに集う全ての者への感謝が込められていた。

 

「今年のグラン・コンベンションも、皆の力で素晴らしいものとなるだろう!」

 

 エドアルト国王が高らかに宣言すると、広場は大きな歓声と拍手に包まれた。

 

 

 

 開会式が終了すると、大きな会場で立食形式のパーティが開かれた。

 上流階級の人々が一堂に会し、華やかな(よそお)いで美しい音楽と共に美味しい料理を楽しんでいた。桐島一家の姿もその中にある。

 信彦は他の上流階級の要人たちと話し込み、駆とレオンは少し離れた場所で二人で食事を取っている。

 美香子は貴婦人との談笑を終えて、駆達に合流しようかと思ったその時、ふと視線を感じて振り返った。

 そこには一人の青年貴族の姿。

 

「お久しぶりです《春の微笑み》」

 

 その青年は美香子にかつて恋文を送り、美香子がアルフレッドのプロポーズを断る遠因を作った、あの青年貴族であった。

 

「私のことを覚えていますか?」

 

 青年は礼儀正しく頭を下げ、美香子に話しかけた。

 美香子は微笑みながら頷いた。

 

「えぇもちろん、覚えています」

 

「本当ですか? 光栄です」

 

 青年は少し顔を赤らめながら、まっすぐに美香子を見つめている。

 美香子はそんな青年の純真さに心を動かされながらも、一線を引きつつ失礼にならないように慎重に言葉を選んで雑談を交わす。

 

「実は、今年のグラン・コンベンションに出場することになったのですが……もしよろしければ、ご観覧いただけないでしょうか?」

 

「ええと……」

 

 美香子はどう返事を返したものか困惑しながらも、エレアノール王妃から教わった淑女のたしなみを思い出し、丁寧に応対することに努めた。

 

「ご招待ありがとうございます。時間があれば、是非観覧させて頂きますね」

 

 青年は見るからに嬉しそうに破顔させて、再び深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます《春の微笑み》。あなたの温かいお言葉が私の力となります。美香子さまの応援を頂ければ、試合に全勝出来る気がします!」

 

「ご活躍を拝見できるのを楽しみにしていますね」

 

 美香子は彼女の二つ名に恥じない優しい微笑みを浮かべながらも、心の中には複雑な感情が渦巻いていた。青年の必死な想いが伝わり、心が揺れ動かされていた。

 信彦は相変わらず別の要人たちと話し込み、美香子と青年貴族に意識を向けていない。駆とレオンは連れて来たしろちゃんとミケを交えて、同世代の若者たちとの会話に花を咲かせている。

 美香子は葛藤(かっとう)を感じながら、青年貴族との会話を続けた。彼の情熱的な言葉に耳を傾けながらも、慎重に考え巡らせ続けるのであった。

 

 

 

 グラン・コンベンションは年に一度、ホノリア王国で行われる大規模なイベントだ。七月~九月にかけて開催される。

 貴族や市民が集まり、仲間モンスターとのスポーツ競技や模擬(もぎ)戦闘を行う祭典。このイベントは、国の繁栄と結束を象徴する場であると同時に、参加者たちに名誉と栄光をもたらす重要な機会でもある。

 貴族。所領を継げない次男以下の貴族の子息たち。

 彼らは良い成績を残すことで、大貴族に召し抱えられるチャンスを狙っている。

 一般市民。農家や猟師など、さまざまな背景を持つ人々。

 貴族が参加できる部門とは分けられるものの、成績を残せば名誉モンスターマスターの称号を得ることができる。すなわち貴族に仲間入りすることの出来る千載一遇(せんざいいちぐう)のチャンス。

 耕作の友である牛が魔物化したミノタウロスを連れた農民などは、まさしくその代表例ともいえる。象徴として、市民が参加できる競技や模擬戦闘を差し示す目印のロゴに使われているくらいだ。

 

 

 

「やっぱりこの紫のドレスがいいかしらね?」

 

 その日の朝、美香子は王都のウォーリアーズ本部に向かい、ドレスの試着を行っていた。エレガントな紫のドレスは彼女の美しさを引き立て、その豊満な体躯(たいく)の魅力を最大限に解き放っている。

 

「でもやっぱり……少し申し訳ないわね」

 

 美香子は悩んだ末に青年貴族の試合を観覧することに決めた。

 あの日より数日が経ったが、(くだん)の彼が貴族の三男坊で、将来の就職先がかかった大事な試合であったからだ。

 美香子は息子やレオンとそう変わらない年齢の青年、一七歳の彼に対する親心を抱き、また自分を好いてくれている男性を無下にすることに負い目を感じ、観覧を決めたのであった。

 

「このドレスも悪くないわ」

 

 別のドレスを纏い、鏡の前に立つ美香子は微笑みながら言った。

 青いドレス。そのドレスは清楚(せいそ)でありながらも、彼女の美しさを引き立てる一着であった。しかしやはりアルフレッドにプレゼントされた、あの紫のドレスには(かな)わないという思いが胸に残っていた。

 

 

 

 試合の当日、美香子は緊張と期待が入り混じった表情で会場に向かった。未来を()けた青年貴族の必死な想いが伝わる中、彼の健闘を見守る。

 試合が始まると、青年貴族は相棒の聖魔と共に見事な技を披露(ひろう)し、その実力を存分に発揮した。美香子はその姿を見て、彼の努力と情熱に心を打たれた。観客席に拍手と歓声が広がる中、美香子も同じく彼の成功を祝福するのであった。

 

「本当に素晴らしい試合でした。あなたの技術と努力が見事に結実しましたね」

 

 試合が終わり、青年貴族に誘われたお茶の席で、美香子は彼を賞賛する言葉を贈る。

 

「ありがとうございます、美香子様。あなたが見守ってくださったおかげで、力を()くすことができました」

 

 美香子の温かい言葉に、青年は照れながらも嬉しそうだ。

 その後も試合について語り合い、一息ついたところで美香子は彼との出会いを思い出しながら、こう切り出した。

 

「そういえば、エリックさん。あなたと初めて王宮のパーティで出会って――」

 

 すると青年貴族は、エリックは少し驚いた様子。「あら、わたし何か不味いことを言ってしまった?」そう慌てる美香子に。

 

「いえ実は……美香子様との初めての出会いは、王宮の廊下(ろうか)でした。おそらくサロンからの帰りの道だったのではないか、と。ご婦人と談笑されていた際に通りかかった私に、美香子様は微笑みかけてくださったのです。それが《春の微笑み》、貴方様に出会った初めて瞬間です」

 

 美香子は思い返してみるが……一切記憶にない。

 

「あぁ、そうだったのですね。確かに……そのようなことがあった気がします」

 

 しかし美香子は淑女らしく深く頷くのである。目指すべき淑女像よろしく。

 

 

 

 穏やかな午後の日差しが、王都ルテティアの一角にある優雅なお茶の席を暖かく包み込んでいた。石造りのテラスには美しく装飾されたテーブルが並び、繊細(せんさい)に絵付けされた花柄のティーカップからは香り高い紅茶の湯気が立ち上っていた。

 

「美香子様、本日お召しになられているそのエメラルドグリーンのドレス、とてもお似合いです」

 

 美香子は、胸元が優雅にカットされたエメラルドグリーンのドレスを身に纏い、洗練された笑顔を浮かべながら紅茶を口に運んでいた。

 

「ありがとうございます、エリックさん」

 

 どのドレスを纏うか悩んだ末に、美香子が選び抜いたのがこのエメラルドグリーンのドレスであった。

 そのドレスは、陽光に照らされると静謐(せいひつ)な輝きを放ち、その淡い色味は美香子の柔らかい黒髪と白い肌によく映えていた。

 胸元のデザインは、彼女の豊かな曲線を魅惑的に強調しながらも、上品さを失わない控えめな仕立てであり、刺繍(ししゅう)は黄金の糸で精緻(せいち)(ほどこ)され、自然の草花を思わせるモチーフが浮かび上がっていた。

 (すそ)には薄いチュールが幾重(いくえ)にも重なり、動くたびにふんわりと揺れるその姿はまるで風にそよぐ若葉のようだった。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ドレスの優雅さと、美香子様の暖かさが一体となって、輝きがさらに増しているように思えます」

 

 向かいに座るエリックが雑談の合間にそのドレスに視線を向けるたび、美香子は口元に穏やかな笑みを浮かべたりしている。

 柔らかな風が二人の間をそよぎ、テラスに咲く花々の甘い香りを運んで来る。

 その穏やかな時間の中で、美香子はエリックの誠実な眼差しを見つめ、いつの間にか彼との交流を大切に思う気持ちが自分の中に芽生えていることに気づくのであった。




・あとがき

 お楽しみいただけていたら幸いです。

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 それでは、またお会いしましょう。
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