【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第四四話:魔娼(ましょう)の女 前編》

 王都ルテティアの中でも、一際(ひときわ)目を引く壮麗(そうれい)な貴族屋敷。

 かつては華やかな社交界の中心であったその屋敷は、今や不穏な黒い霧に包まれ、異様な静けさをたたえていた。

 

「みんな、油断するな」

 

 その屋敷内にいるウォーリアーズの団員たちは、緊張感を漂わせている。

 信彦が厳しい眼差しで屋敷に漂う霧を見つめながら、言葉を漏らす。

 

「まさか、ここがサキュバスに乗っ取られてしまうなんて……」

 

 美香子は淡い空色のマントを(ひるがえ)しながら静かに語る。桐島一家は以前この屋敷の主人である王党派有力貴族に招待され、パーティに参加したことがあった。

 

「完全にダンジョンだね」

 

 駆が魔導書を片手で抱きしめながら、呟く。

 通路を冷たい風が吹き抜け、木材が(きし)む音が辺りに響いた。

 屋敷内部は完全に変貌(へんぼう)しており、(やみ)に染まり空間の()じ曲げられた異界へと変わり果てていた。床は不気味な植物の根に(おお)われ、壁には(なま)めかしい女性たちや、彼女達とまぐまう男たちを描いた官能的な絵画が飾られている。

 

「ここにいる使用人たちはサキュバスに魅了(みりょう)され、正気を失っています。情けは禁物です」

 

 サンチャゴが冷静な声で警告する。ウォーリアーズの行く手に現れた数名の使用人たちを見て。

 使用人たちの表情は無機質で、動きはどこかぎこちなかった。彼らが持つ掃除道具や皿が不気味に光り、まるで武器のように振りかざされる。

 

「……彼らをなるべく傷つけないように。でも、いざという時は……」

 

 美香子が決意を込めて杖を掲げると、紫色の宝石が輝き、柔らかな光が辺りを包みこんだ。

 使用人たちを操る闇を少しずつ追い払っていく。彼らの目に理性の色がかすかに灯る。

 ジェイクが瞬時に使用人たちへと距離を()めると、腹に一撃を次々と加えていき、使用人たちを昏倒(こんとう)させていった。

 

「後ろからも来るぞ!」

 

 ルドマンが両手剣を振り上げ、ウォーリアーズ背後より密かに()い迫っていた狼の魔物:ルガルの群れの一匹を一撃で斬り殺した。その剣筋は力強い。

 

「(別の形で、出会いたかったずら……)」

 

 心の内に葛藤を抱えつつ、レオンは素早く弓を引き絞る。

 鍛錬(たんれん)賜物(たまもの)。矢はルガルの心臓を正確に射抜いた。

 

「さあ、いよいよご対面ってか!」

 

 そしてついに、彼らはダンジョンの最奥へと辿(たど)り着く。

 闘志(あふ)れるジェイクの声。

 冷たく薄暗い廊下の先の、その(とびら)(ひと)りでに開かれた。突入するウォーリアーズ。

 

「ようこそ、わっちの館へ」

 

 豪華な部屋だった。

 壁には金箔(きんぱく)が施され、床には柔らかな赤い絨毯(じゅうたん)が敷かれている。シャンデリアは闇の中で揺らめくような光を放ち、豪華な家具はその享楽(きょうらく)的な世界観を一層際立たせていた。

 部屋の中央には、豪奢(ごうしゃ)なドレスを纏った女性が立っている。

 サキュバスだ。

 その姿は絶世の美女そのもので、(あで)やかな水色髪が背中を(すべ)り落ち、魔性の瞳がこちらを嘲笑(ちょうしょう)するように(うごめ)いている。

 

「お楽しみは、これからでありんすえ」

 

 彼女の周囲には、魅了された男たち。この屋敷の主の貴族やその子息、そして使用人たちが取り囲んでいる。その虚ろな目には、狂気が宿る。

 背後には、彼女の眷属(けんぞく)たる魔物たちが控える。

 サキュバスの声は心を惑わせるような力を持っていた。部屋の空気そのものに甘く浸透(しんとう)していくようにさえ思える。

 

(たわむ)れもこれまでだ! 大人しく投降しろ!」

 

 信彦の力強い声が官能的な空気を()き消し、ウォーリアーズ一同の心を引き締める。

 受けて、サキュバスの鋭い視線が一団を射抜く。彼女が指先を一振り。

 魅了されしものたちが動き出す。

 襲いかかってきた。

 

 

 

 巨大な影が迫る。

 威圧的な巨漢のゴーレムが、屋敷の壁の一部からまるで溶け出すように現れた。

 その姿を確認したジェイク。すばやく体を投げ出し、迎え撃った。

 

「デカブツが!」

 

 ジェイクの細身かつ筋肉質な体が、驚異的な速度でゴーレムを翻弄(ほんろう)する。まるで舞うような身のこなしで、拳撃を繰り出していく。

 鋼のように硬き拳。

 止めどない連続攻撃の前に、ゴーレムは切り裂かれるかのように、その体を打ち(くだ)かれていき、遂には(くず)れ去った。

 

「気を付けてください。サキュバスには何か策があるのかもしれません」

 

 ウォーリアーズの奮闘により、サキュバスのシモベ達は次々と(ひざ)を付き、倒れていく。

 しかしなおも、サキュバスは微笑みながら(たたず)んでいた。その表情には一切の恐怖が感じられなかった。彼女の赤い瞳が鋭く輝き、ウォーリアーズを(あざけ)るように見つめている。

 

「ここで終わらせる! ジェイク!」

 

「おうよ! アニキ!」

 

 信彦が動いた。ジェイクが続く。

 サキュバス目掛けて、一挙に距離を詰める。

 剣と拳が同時にサキュバスに襲い掛かって

 

「なん――」

 

「――だと……?!」

 

 いったが、信彦の振り下ろした剣はサキュバスを斬り付ける寸前(すんぜん)で静止し、ジェイクの拳も同じく、直撃の寸前にその勢いを失った。

 

「一体、どうなっているんだ?!」

 

 信彦が(くちびる)()みしめる。

 何度となく力を入れ直し、幾度も剣を振るうも、どうしても彼女を斬り付けることができない。

 

「この(アマ)ッ!」

 

 ジェイクの動きも鈍い。俊歩で勢い体ごと突撃しても、どうしても直前で足は止まり、握りしめた拳は独りでに解かれてしまう。

 サキュバスは余裕を持て余した優雅な動きで、易々(やすやす)と、(もてあそ)ぶように軽やかに二人の攻撃範囲から外れていった。

 

「主さんらの意志の強さ、大したものでありんすな~。ホントはわっちの傀儡(かいらい)にするつもりでありんしたが……」

 

 サキュバスはウィンクしながら、残念そうにつぶやく。魅了の術。

 魔娼の力は歴戦の勇士たちの精神さえ(むしば)む。

 

「ともあれ、わっちの美貌の前では、主さんらは赤子も同然」

 

 距離を取ったサキュバスは新たなシモベを召喚する。

 部屋の(すみ)に魔法陣が現れ、そこから次々と魔物たち、

 

「人間の男に、わっちを倒せはせんがな」

 

 そして魅了され、傀儡と化した屈強な男たち。

 シモベ達は迷いなく、ウォーリアーズへと襲い掛かるのである。




・あとがき

 お楽しみいただけていたら幸いです。

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 それでは、またお会いしましょう。
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