【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第四六話:(うたげ)

 蒸し暑い八月の夜。

 月光が王都ルテティアの石畳(いしだたみ)を淡く照らし、まるで柔らかなシルクのベールのように街並みを包み込んでいた。

 激戦の余韻(よいん)が、静かに夜風に溶けていく。

 エドアルト王の命により、ウォーリアーズは貴族屋敷を乗っ取っていたサキュバスを討伐(とうばつ)し、その闇に染まった館に再び光をもたらした。

 英雄たちの疲労を(ともな)った達成感。酒場の宴に彩りを添える。

 

「団長! 今日の剣さばき、本当にスゴかったですよ」

 

 酒場の壁に掛かる魔力灯の光が、湿った夏の夜に幻のように揺らめいている。木目の温かみと、床に敷かれた柔らかな絨毯の感触。

 優雅な装いの空間であった。香辛料とアロマの心地よい香りが漂っている。

 

「今日の勝利は、ただ力だけでは成しえなかった! 誇りと信念……俺たちウォーリアーズは、闇夜に潜む誘惑にも屈しはしなかった! これからも大魔王討伐のため、そして王国の繁栄と平和のため、己を磨き上げよう!!」

 

 長いテーブルにはご馳走(ちそう)が並んでいる。

 装飾された金属グラスに注がれた濃厚なワイン、新鮮な野菜と芳醇(ほうじゅん)な果実の盛り合わせ、そして肉汁(したた)る美味そうな肉。

 駆が料理や団員の仲間たちをエルパッドのカメラで撮影している。覗き込むレオン。

 ミケやおーちゃん、しろちゃんにも席が設けられ、食べ物にありついたり、駆やレオンにじゃれついたりしている。

 

「……ふふっ」

 

 (ほほ)をほんのりと赤らめた美香子は目を細ませて、優しい微笑みを駆達、そして団員たちに向けている。

 数多の戦いや悲喜こもごもの過去の記憶の数々。酒場の暖かな光の中で彼女の瞳は柔らかに輝き、秘めた憧憬(どうけい)が、彼女を遠き昔日へと導いていく。

 

「……」

 

 弾む会話に笑い声に歌声。夜が()ける程に、酒場の宴は一層の盛り上がりを見せていく。

 そんな周囲の雰囲気とは対照的に、酒場の隅で、ジェイクは一人、グラスを傾けながら、浮かない様子で酔いどれていた。

 

「どうしたの、ジェイク……」

 

「ヒッく……セイラ、か……」

 

 トランスジェンダーの槍戦士:セイラが、そっとジェイクのもとへ。側に腰を下ろすと、(ささや)くように話しかけた。

 

「……俺達は、何のために戦ってるんだ?」

 

 ジェイクは、グラスに浮かぶ自身の顔を見つめ、呟く。

 濃紺に染まる、(うれ)いを帯びた瞳。心の奥底で複雑に渦巻く想い。決壊し、溢れ出すかのように、低い声で語り始める。

 

「俺達は大魔王討伐という(ちか)いを胸に、己の命と誇りをかけて戦って来たはずだろ? でも今じゃぁ……王侯貴族の御用機関じゃねぇか……! 王国の恥部の掃除屋だ……! ……セイラ、お前はどう思った? あのサキュバスの、哀れな娼婦の末期を」

 

 身売りされ、傷ついた心。社会の冷酷さに絶望し、遂には魔物へと変貌した娼婦。

 性の闇を抱え、魔に取り込まれ、魔人と化した女性のなれの果て。それがサキュバスだ。

 

「彼女が死の直前に語った、叫んだ想いは……ええ、きっと真実だったと思う。この社会が、この(みにく)い社会の(ひずみ)が生み出した、一つの哀れな物語……」

 

 サキュバスが貴族の屋敷を乗っ取ったのは、ただ欲望や破壊衝動(しょうどう)にかられてのものではなかった。

 

「私たちが絶対に忘れてはいけない、守るべき社会が抱える疾病(しっぺい)だわ」

 

 社会の悪意に絶望したある女性の社会への復讐(ふくしゅう)の叫び、絶望の悲鳴であった。




・あとがき

 今回は少し重めのテーマを扱いました。

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