【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第四九話:ライヘンバッハの国一揆(くにいっき)

 執政暦一三一三年一二月初旬。

 ベルギガ辺境伯領、ライヘンバッハ市。

 冷たく重い空気の中、王国北東部に位置するライヘンバッハは、高く(そび)え立つ崖上(がけうえ)に築かれた堅固な要塞たる旧市街と、交易の中心である(ふもと)の都市、そして周囲一体に広がる穀倉(こくそう)地帯よりなるベルギガ辺境伯領随一の大都市である。

 周囲の荒涼(こうりょう)たる山々と、麓を勢いある流れで押し寄せるボスポラス大河という自然の盾に守られ、大河東側の大国:アルカディア帝国との交易や、肥沃(ひよく)な大地により育まれた農産物の数々により、永く繁栄を謳歌(おうか)してきた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「皆の者! 聴け!!」

 

 しかし今日という日。

 かつて何世紀にもわたり刻み込まれた歴史の安寧(あんねい)が、血潮の(ごと)く激しい(ほむら)に飲み込まれようとしている。そんな不吉な予感が都市全体に漂っていた。

 

「モンスターマスター! ()まわしき王侯貴族たちが! 悪名高き魔物の支配者たちが、我々の生活を蹂躙(じゅうりん)し、(ほこ)りを打ち砕こうとしている!!」

 

 市街地の石畳は、()てついた夜露(よつゆ)()れ、大河の流れと共鳴するかのように煌めいていた。

 だが、そんな(うるわ)しい光景とは裏腹に、市民の怒号が風に乗り都市を包み込んでいる。

 封建制度と特権階級。生み出された格差への不満は、民衆の胸にじわりと()き上がる憤りとして蓄積されていった。

 

「今こそ《ゼオン教》の旗のもと、この地に新しき正義をもたらさん! 邪悪なる魔物とその飼い主どもを駆逐(くちく)しようぞ!!」

 

 (くも)り空の中、広場の中央に集った群衆は、肌を刺す寒風の中にも熱き血潮を感じさせる表情を浮かべ、かつてない一体感の中で(とき)の声を上げ始めた。

 乱雑な声援の中、群衆の先頭に立つのは一人の少女。

 『不治の病すら治癒(ちゆ)する』という奇跡の術を操る少女:ラファエラ。

 彼女の声は、広場の石壁に反響し、冷たい空気とともに民衆の心に激しい憎悪の火種を()き散らしていった。集う者たちは、激昂(げっこう)した眼差しとともに、砕かれた威信に対する怒りを顔に浮かべ、かつてない決意を固めたように見えた。

 

「あのネヴァースプリングの代官が、エドアルトの犬が、我らの商売を(おびや)かそうとしておる。このままでは我々が長く守り続けた誇り高き自由が、あの強欲な魔王(エドアルト)に蹂躙されてしまうぞ」

 

 老人が若者に囁く。

 広場の隅々(すみずみ)で言葉が交わされる。いくつもの不安や怒りを伴って。

 統治者たちの恣意(しい)的な政策が、自分たちの何気ない日常を(むしば)んで行くと。

 

「屈するな! 立ち上がろう、我らゼオンと共に!!」

 

 若者は拳を握りしめ、決意を固めた。

 

「剣を取れ! 市政庁を制圧せよ!!」

 

 激情に突き動かされた群衆が旧市街の市長公邸(こうてい)へと押し寄せる。

 警備兵達が急ぎ駆け付けるが、到底太刀打ちできるものではなかった。

 数と士気に圧倒する群衆たちは、治安維持の使命を帯びるも、理性を失ったようにさえ見える市民に気圧された警備兵達を蹴散(けち)らし、公邸へと流れ込んだ。

 血なまぐさい光景。

 公邸内へと籠城(ろうじょう)した数少ない警備兵達と衝突する群衆。

 獣のような叫び声とともに、マスケット銃の発砲音や剣戟(けんげき)の音が鳴り響き、石の壁に赤い血が飛び散る様は、地獄(じごく)そのものであった。

 

「我らは自由と正義を取り戻すのだ!」

 

 上空は曇り空。

 薄暗い闇が漂い、寒さと共に怒涛(どとう)の風が吹きすさぶ中、ゼオンの宗教旗:Z旗が市政庁にはためく。

 

 

 

 (こご)えるような冬の夜。

 大臣たちの集う王宮の会議室で、エドアルト国王は衝撃的な報に耳を傾けていた。

 ライヘンバッハ。王国北東部の要衝(ようしょう)であるその都市が、反乱軍の手に落ちたというのだ。

 反乱を主導しているのが、ゼオン教の信者たちであるという事実が、国王の心に一層深い影を落とす。

 

「よりにもよって、魔物排斥(はいせき)主義のゼオン教徒らが反乱の首謀者とは……」

 

 魔物は時に、野蛮(やばん)で危険なものと人々に広く認識されているが、一方で支配階級である王侯貴族や一部の平民たちは魔物達と絆を結び、聖なる魔物:聖魔たる彼らと協力して、大魔王の脅威や、それこそ文明の脅威となる魔物たちから人々を守護してきた。

 

「恐れながら申し上げます陛下……」

 

 一方で、聖魔達は治安維持の役目も担って来た。

 警察機関として、民衆を抑圧することも時にあったことは否定できない事実だ。

 

「やはり関所の廃止は悪手だったのでは?」

 

 『今回の反乱も、そのような聖魔の負の側面をゼオン教徒に利用され、民衆の不満を(あお)る要因となったのだろう』そう推測した大臣がエドアルトに進言する。頷くエドアルト。

 

「ゲオルギオス兄上の一件……大魔王と相対する辺境伯に強大な権限を持たせていたことが、先頃のクーデターの一因であった。故に余はベルギガを王領地に組み込むべく、関所を廃止する命令を下した。だが――」

 

 辺境伯領は王国の中にありながら一種の独立国のような扱いであった。王国とは別の流通(もう)により経済は回っていた。

 ライヘンバッハ市はボスポラス大河対岸のアルカディア帝国との交易によって発展した都市ではあるが、アルカディア帝国はベルギガに限らず、王国の東国境全体が面する隣国でもある。

 

『王領地に統合されれば、国王に流通を牛耳られ、王領地の都市群の風下に立つことになり、交易の中心地としてのライヘンバッハは衰退していく』

 

『関所がなくなれば農産物や工業製品にかけられた関税が廃止され、既存のライヘンバッハ産業が大打撃を受ける』

 

 経済的不安にかられたライヘンバッハ市民、そして周辺地域の農民たちを巻き込み、ゼオンが思想面で、人々の潜在的な不満――実力主義的な側面を伴いつつも、実際には一部の権力者に特権を集中させている不平等なモンスターマスター制度を始め――を表面化させ()き付けたため、反乱は起こった。

 エドアルトは、自身の政策を(かえり)み『浅はかな(まつりごと)であった』と、そう結論付けた。

 

「使節団を派遣し、交渉を試みる……!」




・あとがき

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 それでは、またお会いしましょう。
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