【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第五話:死闘(しとう)

 三人は村のはずれにある広場へと向かっていた。

 アクロポリス。村の集会所であり、魔物の襲撃(しゅうげき)などいざという緊急事態には避難所(ひなんじょ)の役目を果たす。

 しかし今その場所で、村人たちは魔物に捕らえられ、柱に(しば)り上げられている。

 

「美香子」

 

「ええ、分かってる」

 

 坂を駆け上がればアクロポリス、という場所で彼らは一旦(いったん)歩みを止めた。家の陰に身を隠す。

 そこで信彦は美香子の名前を呼んだ。それですべてを察したようだ。美香子が魔法の詠唱を始める。

 

「望みは風となること――時空を超えて! アクセル!」

 

「我が身に守りの力を――岩の(ごと)く、鉄の如く、鋼の如く! プロテクト!」

 

「神聖なる精霊よ――わたしはあなたの恵みを求める、あなたの加護を求める! シールド!」

 

 それは加速呪文、物理防御及び魔法防御向上の呪文。美香子は自分を含めた三人に補助呪文をかけた。

 

「美香子、駆、準備は良いな?」

 

「わたしは大丈夫……駆、いざという時はわたし達のことは気にせず、逃げなさい」

 

「うん……ねぇ、やっぱり今って危険な状況なの?」

 

 無意味な質問かもしれないと自覚しつつも、駆は問わずにはいられなかった。

 

「ははっ、冒険に危険はつきものさ……大丈夫。駆、自分を、家族を信じろ」

 

「……分かった」

 

 駆は魔導書を抱きしめて、決意を固めた。

 

 

 

 三人は坂を駆け上り、広場に(おど)り出た。そして張り付けにされた村人達にまで駆け寄っていく。

 広場には木製の柱がいくつも立っており老若男女問わず、村人が何十人も柱に縛り付けられていた。みな血だらけで、苦しそうに見える。

 村人達は三人の姿に気づいて、助けを求める声を上げた。

 

「助けてくれ! 魔物に襲われて、ここに縛られてしまったんだ!」

 

「わたしは後で大丈夫です! 子供を助けてください!」

 

「昨夜村が襲われました! 魔物達はどこかに行ってしまいましたが、いつ戻ってくるか……!」

 

「おい! 見ろ!!」

 

 三人は村人達の声に応えて、柱から村人達を解放しようとした。

 しかし、まず子供の縄をほどこうとしたところ、一人の村人が叫んだ。

 

「あぁ、なんてこった!」

 

 地を()みしめる大勢の重い足音が聞こえてくる。坂の方からだ。

 

「お、オークだ! オークが戻ってきやがった!!」

 

 坂から何かが飛び上がって来た。

 それは人間のような姿をしていた。

 

「いくぞ!」

 

「えぇ!」

 

「う、うん!」

 

 だが頭は(ぶた)のそれ。体はガタイの良い人間に近く、筋肉質で強靭(きょうじん)

 服は布切れを体に(まと)わせている、という感じで局部を(かろ)うじて(おお)っているに過ぎない頼りない代物であった。

 奇声を上げて、オークは三人に向かって襲い掛かって来た。

 

「びゅぴゃぁぁぁぁっぁぁぁぁぁあああ!」

 

 手には巨大な両手斧。振り上げ上段に構えて、突進して来る。

 

「きゃああああああ!!」

 

 恐怖に震える声が広場に響いた。オークの斧が、三人を(またた)く間に粉砕(ふんさい)するに違いないと。

 

真空破(しんくうは)ッ!」

 

 だがほどなく、そのオークの体は真っ二つに切り裂かれることになる。大量の血しぶきと共に、上半身と下半身がそれぞれボトリ、と別々に地面に落ちた。

 オークとはかなり離れた場所で、剣で空を()るかのような構えを取っているのは信彦。

 

「美香子、駆! この場所は任せたぞ!!」

 

 彼はそう言い残すと、剣を右手に、盾を左手に構え、オークが飛び出してきた坂に向けて突進していった。

 一番槍をあげようとしたオークに続いて、次々とオーク達が坂から広場へと駆け上がって来た。

 そんなオーク達を、見るも華麗(かれい)剣捌(けんさば)きで次々と切り捨てていく信彦。一人で何匹ものオークを切り伏せていく。その姿は、まさしく英雄。

 

「あれが、パパの本当の力……」

 

 駆は思わず、感嘆(かんたん)の声を漏らす。

 美香子の補助魔法アシストあってのことかもしれない。

 だがルガル戦の時とは段違いの戦闘能力を、今信彦は行使していた。

 

「駆、見惚(みと)れてる場合じゃないわ。周りに気を配って」

 

「うん」

 

 ルガル戦の際、どうやら信彦は手を抜いていたようだ。

 

「(僕の実力を見たかった、とかなのかな?)」

 

「――天空より降り注げ! 裁きの光、レイ!」

 

 戦闘中にも関わらず、そんなことに駆が思索を巡らせていると、美香子の魔法詠唱が空を切った

 次の瞬間天より、レーザー光線を思わせる赤い一線が走る。

 アクロポリスの(がけ)をよじ登って、広場の端で雄たけびをあげていた一匹のオーク。その脳天を赤光線が貫く。瞬時に雄たけびが途切れ、オークは後ろ向きに、真っ逆さまに崖を落ちて行った。

 美香子もまた、ルガル戦では見せなかった戦闘能力を行使していた。

 ルガル戦で手加減をしていたのは、信彦だけではなかったようだ。

 

「そっか……坂だけ見ていれば良い訳じゃないんだ」

 

 アクロポリスは小高い丘の上にあり、一本道の坂以外は崖に囲まれていた。

 信彦が斬り漏らしたオークを倒すのが自分の役目だと思い込んでいた駆。だがそれでは不十分だった。改めて坂以外に、崖にも注意を払う。

 

「それなら……」

 

 そしてあることに気づいた駆。すると口が意識するまでもなく動き出す。

 

「氷の精霊よ、力を貸してください。冷たき風を吹き起こす力を。あらゆるものを氷漬(こおりづ)けにする力を。フローズン! この世界に()てつく冬を!」

 

 崖に面した広場一帯を、薄い氷の幕が張った。

 ほどなくして、先程のオークと同じく崖を登り切ったオークが現れる。そして雄たけびをあげ――

 

「よし!」

 

 るまもなく、氷に(すべ)ってひっくり返り、崖下へ落ちて行った。

 単純な戦術であったが、効果的な策であったようだ。

 

「(昨日の夜、試しておいてよかった……僕、やっぱりRPGで魔法使いが使えそうな呪文、結構使えるみたいだ)」

 

 野営の際、時間が空いた時にルガル戦のように魔法が使えるのか、試してみた。

 すると、意外にも簡単に使えた。

 

『(こうこうこういう魔法を使いたい!)』

 

 そう頭の中で考えるだけで、口が動き出し、魔法発動の原理も定かではなかったが、駆は魔法を使うことが出来た。

 《童話の魔法使い》のように《何でもかんでも》という訳ではなかったが、試した限りRPGで魔法使いが最初に使うような炎や氷などの呪文は問題なく使うことが出来た。

 

「上手いわ、駆!」

 

 そして多少の応用も効くらしい。

 思えば昨日のルガル戦で唱えた《炎の魔法:フレイム》。一度に沢山の火球を出現させてルガルの群れに向けて無作為に攻撃した、という感じであったが、同じく昨夜試してみたところ、一つ二つの火球を出現させて任意の方向に飛ばすことも可能であった。

 

「フレイム!」

 

 再び崖を登って来て、今度は転ばずに踏みとどまったオーク目掛けて炎の魔法を放つ。

 火球は駆の思った通りのコースを辿(たど)り、オークに直撃した。焼け焦げ、地面に突っ伏す。

 

「フローズン!」

 

 しかし炎の熱で地面に折角張った氷が溶けてしまった。

 張りなおしたうえで、他の策を試してみる。

 

「風の精霊よ、僕の声を聴いて。翼を広げ、空を駆けて。敵を吹き飛ばし、仲間を守って。ウインド! この戦場に嵐を!」

 

 別のオークが崖を登り切り、氷の上に降り立つ。

 先駆者のオークの失敗を学んでか、地面に武器を突き立てて、着実に進軍する構えだ。

 駆は強風を巻き起こす魔法を唱える。

 しかし、オークはビクともせず、一歩一歩確実に歩を進めてくる。どうやらこれは悪手のようだ。

 

「天空の精霊よ、僕に力を。この世界を照らす光。雷鳴と稲妻(いなづま)の化身となりて、(とどろ)け。ライトニング! 正義の鉄槌(てっつい)を!」

 

 天から雷光の一閃(いっせん)

 真下にいたオークに雷が直撃。感電し、倒れた。

 オークが熱を持ったことによる余波で多少氷は溶けたが、これが正解かもしれない。

 

「ライトニング! ライトニング! ライトニング! フローズン! ライトニング!」

 

 アクロポリスを攻撃しているオークの数は相当なものだった。坂を防衛する信彦は横幅の狭い小道に追い込み対応していることもあり、常に五、六人に相対し、ほどなくこれを破っているのに、それを(また)いで後発が次々に現れ襲い掛かってくる。

 

「キュア!」

 

 駆も数分おきに崖に上ってくるオークを着実に仕留めているが、中々攻勢の収まる気配はなかった。

 

烈破斬(れっぱざん)!」

 

「レイ!」

 

「ライトニング!」

 

 しかし終わることなき無限の人的資源など、存在するはずもない。

 (つい)にはアクロポリスに攻めあがって来たオークを仕留めきることに成功した。そう、《全て》。

 

「まさか退却(たいきゃく)しないとは……」

 

 信彦が(いぶか)しがる。一見何も考えていないように見えるオークだが、彼らにも最低限の知性というものはある。あまりに不利な状況と分かれば、凶暴さも身を潜め、己が身を守るために我先にと逃げ出すのが、数々の魔物との戦闘を経験してきた信彦の相場観であった。

 

「そのオーク、殺すの? 息はまだあるみたいだけど……もう戦えなさそうだよ……」

 

 とはいえ、勝つことは出来たし、いつまでも考えあぐねている訳にもいかない。

 信彦は動き出す。倒れるオークの中で未だ絶命していないものを見つけ出す。

 そしてそのオークの首に剣を突き立てようとする。

 気づいた駆が口を(はさ)んだ。

 オークの死体が積み上げられたアクロポリス。駆は信彦の背中を見つめていた。まるで自分の手に血が付いていないかのように、冷静にオークの首を()ねようとしている。駆にはそう見えた。

 

「……駆、俺だって本当はこんなことしたくない。だけど、オークはルガルとは違う。生き残れば、必ず人を襲ってくる。《彼らは人を憎んでいる》……こんな凶暴なオークの群れなら、なおさら……分かってくれ、駆」

 

 信彦はオークの首に向かって剣を振り下ろす。オークの首が胴体から離れ、完全に絶命した。

 血まみれの剣を手に、信彦は振り向いた。駆は驚く。

 彼は涙で()れた瞳で、駆を見つめていた。その瞳に映る駆や美香子と同じように。




・あとがき

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 それでは、次話でまたお会いできると信じて!
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