【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第五一話:ライヘンバッハの戦い》

 執政暦一三一四年一月中旬。

 厳しい冬。氷のように冷たい風が王国北東部を吹き抜ける中、ホノリア王国一揆勢討伐軍はライヘンバッハ市周辺に展開し、堅固な要塞都市を相手に兵糧(ひょうろう)攻めの包囲戦を展開していた。

 

「今年一月初旬以降。各地でわが軍と一揆勢との間で小競り合いが起こったが、一揆軍は現在、その大半をライヘンバッハ市内に集結させている」

 

 昨年一二月下旬より反乱勢力は、ライヘンバッハ周辺の小さな村街に兵を派遣し、次々と制圧していった。

 そしてそれら村落を拠点として、一揆勢は年が明けて迫り来た討伐軍に対してゲリラ攻撃を敢行(かんこう)

 しかし討伐軍聖魔部隊の偵察(ていさう)により、彼らの隠れる場所など一目瞭然(りょうぜん)。不意打ちのつもりが、逆に不意を突かれて、ゲリラ一揆軍は蜘蛛(くも)の子を散らすように撤退(てったい)、あるいは撃破された。

 現在、一揆軍はその主力をライヘンバッハ新市街城壁付近に結集し、いくらかの兵がライヘンバッハ周辺地域の(とりで)などの防御施設(しせつ)にちりじりに配置されている、という状況である。

 

「ライヘンバッハ地域(けん)の総人口は一七万。ゼオンの指導者たちは多くの市民農民を都市内に引き込んだようだ。兵士にするために……(むご)いことだが、これは我らにとって僥倖(ぎょうこう)ともなりえる」

 

 討伐軍総司令官:アルフレッド・エドアルト・ド・ホノリア。

 聖魔の騎士団6,000と傭兵軍団15,000の総勢二万兵にも達する軍を統括(とうかつ)するは、王国の後継者たる王太子殿下。エドアルトの本気度が(うかが)える。

 

「我々は都市に通じる街道に封鎖(ふうさ)線を()いている。これほどの人口を市街に囲い込めば、食料配給などで()め事が起きるのは間違いない。結束に乱れも生じるだろう」

 

 ライヘンバッハ近郊に設けられた王国軍兵営の天幕。机上に広げられるのは大きな地図。そこに討伐軍・一揆軍双方の部隊の配置を表す(こま)が置かれている。

 アルフレッドの御前。信彦、ジェイク、騎士団長を始め指揮官と参謀たちが集結し、今後の作戦方針について協議している。

 

 

 

 執政暦一三一四年一月下旬。薄氷に覆われた夜。

 ライヘンバッハを包囲中の王国討伐軍は、天幕に集い、今後の戦略について激論を交わしていた。

 暖簾(のれん)のように垂れ下がる幕を(くぐ)ったその先。淡い魔力灯の光は長い影を落とし、緊迫した空気を漂わせていた。

 

「報告いたします」

 

 情報武官の一人、若いながらも鋭い眼差しを持つ士官が、報告書を手に口を開いた。

 

「一昨日、ベルギガ西部トゥルネー市においてゼオン教信者が扇動(せんどう)する反乱が勃発(ぼっぱつ)いたしました。ライヘンバッハと同じく、民衆の怒りを焚き付け、王国のモンスターマスター制度に対する抗議を大義名分とした反乱です」

 

 瞬間、集まった軍幹部たちの顔に深刻な影が落ちた。

 

「幸い都市の冒険者組合の協力もあり、鎮圧(ちんあつ)に成功いたしましたが、ベルギガの各地でゼオン教徒たちによる反乱工作の動きがみられます」

 

 アルフレッド王太子は眉根(まゆね)を寄せ、机上の地図を一心に見つめている。

 

「反乱の火種は確実に燃え広がっている、ということか」

 

 ライヘンバッハに通じる街道は王国軍により完全に封鎖されている。

 港に通ずる水路は、エドアルト国王が隣国アルカディア帝国へ要請し、同じく封鎖されている。実際、ライヘンバッハの港を出港・入港しようとした艦船がいくつも帝国によって拿捕(だほ)されている。

 

「どこかに抜け道でもあるのか、あるいはゼオン教がベルギガの地に根を張っていた賜物(たまもの)ということなのか……」

 

 おそらくライヘンバッハに張り付く王国軍を引きはがすため。王国軍をベルギガ各地に分散させるために勃発しているのであろう反乱。

 軍議でそのような結論が下される。

 ライヘンバッハの一揆指導陣が要請してのものか、あるいは自発的なものなのか?

 いずれにせよ、本来アルフレッドの包囲軍に加わるはずだった増援は、ベルギガ各地に分散される形となってしまっていた。包囲軍に疲労が蓄積されていく。

 

「問題の根本を取り除く必要がある、か」

 

時を置かず、国王エドアルトよりベルギガ全土に布告が発せられた。

【一,王領地ルグドゥネンシスとベルギガ辺境伯領間の関所は今後も半永久的に維持される】

【二,ベルギガ情勢の不安定性と大魔王軍侵攻による負担軽減の観点から、ベルギガから王領地へ輸出される物品への関税を当面免除する】

 

 

 

 執政暦一三一四年二月下旬。ライヘンバッハ包囲から一月半が経とうとしている。

 

「信彦殿、ジェイク殿。ご両人にお願いしたい重要な任務(クエスト)があります」

 

 定例の軍議の後、信彦とジェイクの二人はアルフレッドの個室の天幕へと招集された。

 

「軍議でも報告があった通り、ライヘンバッハ市内で民のゼオン教に対する不満が高まっています」

 

 ベルギガ辺境伯領に関する国王エドアルトの公式の布告により、辺境伯領全土で頻発(ひんぱつ)していたゼオン教徒による反乱扇動は不発に終わることが大半となった。

 デモ段階で、あるいは事前の通報により、当局が早急に鎮圧することが可能になった。

 多くの市民が気にかけているのは、自分たちの将来の生活。(ふところ)事情。経済システムの現状維持が正式に決定されたことで、彼らが自らの身を危険に(さら)す必要はなくなったのだ。

 モンスターマスター制度廃止の主張などは、結局のところ表向きの大義名分に過ぎなかったのかもしれない。

 

「そしてこれは軍議では秘密としていたことですが……」

 

 アルフレッドは声のトーンを落とし、しかし重みを感じさせる声で続けた。

 

「市内のレジスタンス組織より接触がありました。彼らはライヘンバッハの旧市街から市外の山地へと繋がる《隠し通路》を使って、我々に接触してきました」

 

 信彦とジェイクは、静寂の中ともに小さく頷いた。

 道理で市内と市外の動きが連動する訳である。一揆軍は、ゼオン教徒はそれを使って、ベルギガ中を自由に行き来していたという訳だ。

 

「レジスタンスはその隠し通路の案内役をかって出てくれています」

 

 王太子は両者の眼差しに、これから彼が伝える重大任務を、彼らが受諾(じゅだく)してくれるであろう決意を感じ取る。

 

「信彦殿、ジェイク殿。軍団長・副軍団長たる重役のあなた方の役回りではないことは百も承知です。しかし、この任務をこなすには王国最高の冒険者であるお二人の力が是非とも必要なのです」

 

【一,隠し通路を利用し、闇夜に紛れて敵の心臓部へと潜入】

【二,旧市街の屋敷で、ゼオン教徒達の精神的主柱である《奇跡の術を使う少女》の確保、そして都市より脱出】

【三,少女の身柄の安全と引き渡しを条件に、ゼオン教徒のライヘンバッハの街よりの退去、及び一揆軍の武装解除】

 

 アルフレッドの明かした作戦は、この三段階よりなった。

 『多くの人間が関わることで、情報が漏れることは何としても避けたい』。故に、アルフレッドは個人の天幕で、王国で最大の戦闘力を誇る信彦とジェイクの二人に、この作戦の要である前二つの重大任務の実行を依頼したのである。

 

「王子さん、俺達はこれまで数多(あまた)の戦場を駆け抜け、何度となく危ない橋も渡って来た。問題なくやり()げてみせらぁ」

 

 ジェイクは、握りしめた右拳を左手のひらで受け、自信満々な口調で応じた。

 

「我々は王国の未来のために全力を尽くします。お任せください、殿下」

 

 信彦は背負う重責を噛み締めながら、胸に右手を当てて、泰然(たいぜん)とした口調でクエストを受諾するのであった。




・あとがき

 お楽しみいただけていたら幸いです。

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 それでは、またお会いしましょう。
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