【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~ 作:北条 ゆう(いすわーる)
執政暦一三一四年一二月。
ホノリア王国北辺。ベルギガ辺境伯領北の霧峰山脈山中。
切り立った
「……っ!? これほどの吹雪、予想外だわ!」
高難度クエスト。
この地に巣食い、時に麓の町村を襲撃し、地域を脅かしている
美香子は僧侶として、討伐隊を猛吹雪から守るべく魔法障壁を張っている。その手には紫の宝石が鈍く光る杖。厚手のマントの下には、胸元の開いたギリシア風のドレス。戦闘能力を考慮すれば、流石にクエスト中に喪服と言う訳にはいくまい。
断崖の細道。吹き荒れる雪が視界を白く染め上げる。
「……あっ!」
唐突に、美香子の足が《空》を踏みしめた。雪を踏んだはずが――
崩れる足場。
空を掴もうとする指先。
美香子の体は、底の見えない谷底へと投げ出された。
「(信彦さん……!)」
死の予感が、冷たい悪寒が背筋を走る。美香子が目を閉じようとしたその時――
「団長ーーッ!」
上空から巨大な影が!
雪道から落下する美香子目掛けて何かが。
視界を遮る雪を切り裂いて、銀の閃光が飛び込んでくる。
「美香子夫人、ご無事か?!」
ワイバーン。
アルフォードの聖魔で、寒冷地に生息する飛竜のモンスター。
ワイバーンは落下する美香子の元へ急降下で駆け付けると足で彼女をつかみ取り、無事討伐隊一同の待つ雪道へと舞い戻った。
「……ヴァレ、ンタイン……」
緊迫した状況下。
ワイバーンから受け取った美香子を抱きかかえるのはアルフォード……いや、アルフレッド=ヴァレンタイン。
美香子が口にしたのは、今や彼女の従者たるものの名ではなく、かつて愛を囁き合った時の、恋人であった彼の真なる名。
「(あぁ、やっぱり……)」
美香子はかつて愛した男の胸板に顔を埋め、激しく打つ心音を確かに聞き取る。
仮面の隙間から覗く緑の瞳は冷静さを失い、剥き出しの情愛と、彼女を失うことへの恐怖に揺れている。
「(貴方なのね、ヴァレンタイン)」
その瞳、温もり、
美香子は確信する。
『一国の王太子が、身分を捨て、名を偽り、ただ自分を救うため、死地へまで飛び込んで来てくれた』
その事実を。
信彦を失い、凍てついていた美香子の心。その心が激しく揺さぶられる。
『ウォリアーズの勝利だ!!』
見事ギガントドラゴンを討伐し、王都へと帰還したウォーリアーズ。
その夜。ウォーリアーズが
宴は勝利に沸く団員たちの熱気に包まれている。
「……見事な手際でした、アルフォード殿。貴方と貴方の聖魔達の力がなければ、今でもわたしたちは雪深き山中でしょう」
肉が豪快に焼かれ、脂の弾ける芳香が立ち込める中、美香子は喧騒から少し離れた場所に腰を下ろし、隣に立つ仮面の男を見上げる。
「私は課せられた任務を遂行したまで……ただ――」
王都へと帰還した彼女は露出あるキトンのドレスから衣替えし、近頃の普段着となった《深喪のドレス》、首筋までを隠す漆黒のドレスを纏っている。
「貴女が、無事でよかった」
だがその頬は暖炉の熱か、安堵感からか、それとも……
美香子の頬は仄かに桜色に染まっている。
「……」
「……」
深喪の
そう、《一周忌まで》は。
漆黒の布地に包まれた美香子の豊かな胸の奥。その中を占めるのは亡き信彦への情愛か――
「……今夜は、ゆっくりとお休みになって」
それとも――
「《わたしの》騎士様」
深喪という長い長い冬の夜。
未亡人の心は、春を待つ芽のように……
・あとがき
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それでは、またお会いしましょう。