【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~ 作:北条 ゆう(いすわーる)
執政暦一三一五年二月下旬。信彦とジェイクの殉職から一年。
王都ルテティアを包む空気は春の兆しと、冬の名残が混ざり合っている。
聖堂の周囲には、王国の英雄を偲ぶ多くの市民の姿。
「愛の灯、祈りの灯、記憶の灯」
聖堂内部。去年六月の葬儀より八か月、信彦とジェイクがライヘンバッハの潜入作戦に従事し行方不明になってちょうど一年。
深い静寂のなか、老神官の声が反響する。
「一年という月日は、悲しみを土へと還し――」
厳かな《三灯》の火が揺らめいている。
美香子が纏うのは、厚手の黒いドレス。首もとから指先までを覆う漆黒の《深喪のドレス》。
「想い出を星へと変えたか?」
だがその立ち姿は、一年前の絶望に震える未亡人のものではどこか違って……
祭壇には、信彦の遺品である磨き抜かれたミスリルの剣盾が、光を放っている。
「……信彦さん。貴方の剣と盾が、わたしを守ってくれました」
一歩前へ。
「貴方の愛が、わたしをここまで歩ませてくれました」
歩み出した美香子。
祭壇へと辿り着いた美香子が、三灯へと顔を近づけていく。
「ふぅぅぅ……」
《祈りの灯》と《記憶の灯》が揺らめく。美香子の吐く吐息によって。
「ふぅぅぅーー」
そして勢いを増した美香子の息吹によってほどなく、二灯はかき消えた。
「ベルギガ辺境伯夫人:桐島 美香子よ」
残されたのは、赤々と燃える一灯。《愛の灯》。
ホノリア伝統の一周忌の掟に則って……
祈りと記憶は日常へと溶け、愛だけが消えぬ灯として胸に残る。
「この杯を飲み干し、深喪を終えるのだ」
神官が、聖水満ちる《偲びの杯》を美香子に授ける。
美香子は神妙な面持ちで杯を受け取ると、唇を寄せていく。聖水を口に含み、呑み込んでいく。
「これより伯爵夫人は《半喪》の期間に入る」
聖水は飲み干された。
冷たい水が喉を通る瞬間、彼女の脳裏には快活な笑い声と――
「わたしは、愛を忘れず……」
熱い眼差しが交差していた。
「《新たな愛》を、恐れません」
これまで長きにわたり、太陽のように彼女に共にあった冒険者:信彦の笑い声。
そしてこの一年、影のように寄り添い続け今も葬儀に参列する騎士:アルフォードの眼差しが。
美香子、半喪の誓いの言葉。
執政暦一三一五年三月初旬。
王都ルテティア。寒風吹きすさぶ冬の装いを脱ぎ捨て、微かに花の香を運ぶ春の風に包まれている。
グラン・コンベンション。社交界華やかな、春のグラン・コンベンション。
一周忌を終えた《半喪の美香子》が、初めて出席する夜会。
「なんと……あれが、あの『春の微笑み』?」
「『黒鉄の薔薇』……一周忌の間、これほどの熱を隠していらしたとは……」
美香子が纏うのは、これまでの禁欲的な装いとは一線を画す《半喪のドレス》。
漆黒のベルベットドレスは、窓から差し込む月光を吸い込み、光沢を放っている。
大胆なカッティング。
透けるような薄い黒のレースが二の腕を優雅に覆い、覗く白肌は一年間の
「美香子夫人……」
上流階級の青年たちの間から、溜息混じりの囁きが……
一周忌を終えた彼女に許される、肌の露出のある、男を惑わす漆黒のドレス。
「伯爵夫人、
それは死者への
『あなた……わたしは新しいパートナーを探す準備ができています』
亡き夫に代わる恋人や新夫を見つけ、死んだ夫の魂を無事
《忍耐の》深喪の一年は、《求愛の》半喪の季節へと移り変わる。
「是非一曲、願えませんか?」
それは悲しみを乗り越えんとする女の、残酷なまでに美しく魅惑的な、再生への宣言。
・あとがき
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それでは、またお会いしましょう。