【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~ 作:北条 ゆう(いすわーる)
半喪の美香子が初めて参加することになった王宮の夜会。
磨き抜かれた大理石に一人の影。
「……まさか」
エリックは石像のように立ち尽くしていた。
彼にとって、この一年は地獄のような忍耐の日々であった。
『喪は愛の証、再婚は供養』
美香子への
手紙の一通、見舞いの花一輪。それすらも、今は亡き英雄:桐島信彦伯爵への不敬となり、美香子の名誉を汚すことになると律してきたのである。
「こんなことが……」
その教えを胸に、彼は美香子が半喪という名の再生の夜明けを迎える日を、指折り数えて待っていた。
しかし目の前で繰り広げられている光景は、彼が夢想していた再会の調べとはあまりにかけ離れている。
「くそッ……」
漆黒のレースから覗く、美香子の眩いばかりのデコルテ。何より彼女の豊かな曲線が、謎の仮面の騎士:アルフォードの逞しい胸板に、ワルツの旋律に合わせて幾度も、幾度も深々と沈み込んでいく。
思わずエリックの唇から、震えながら小さく悪態が漏れた。あの温厚なエリックの。
「エリック様、どうかなさいました?」
隣にいた年配のご夫人が心配そうに声をかける。
だが、その声は彼の耳には届かない。
自分が今日まで守ってきた《社会規範》――
「なんと
美香子がアルフォードを見上げる瞳に宿るのは、以前よりエリックが彼女から向けられた《親愛》とは明らかに異なっていて……
「エリック様、顔色がよろしくないようですが……」
そう、《熱》が宿っている。
毒烈なまでの。
美香子がステップを刻む度に、ドレスの裾がアルフォードの脚に絡みつき、さながら二人はひとつの生き物のように。
「ご夫人、申し訳ない……今日はこれでお暇します……」
自分が握りしめていた指先が、白く強張っている。
「気分が悪い……」
エリックは絞り出すような声を出すと、華やかなダンスフロアに背を向ける。
『あのアルフォードという男は!』
大広間の重厚な扉を抜ける。廊下は静寂が支配している。
『仮面の下に隠した、野生的なまでの独占欲で美香子様を絡め取っている!』
夜風が、エリックの火照った顔を撫でる。
だが胸の奥に
自分が見守ることしかできなかった深喪の期間。
あの騎士は美香子の傍らで、共に剣を振るい、共に血を流し、
「私は、間違っていたのか……」
彼女の心の隙間を埋めていったのであろうか?
闇に沈んだ王都の街並み。
夜会の喧騒は引き潮のように遠ざかっていく。
ダンスを終えた美香子は一人、火照った身体を冷ますように窓辺に。
漆黒のドレスに包まれた豊かな胸が、激しいワルツの名残でわずかに上下している。彼女の瞳は、満足感に浸りながらも、ある青年の姿を探して会場を彷徨っていた。
「……おかしいわ。エリックはどこかしら?」
美香子が小さく呟く。
夜会の序盤、彼女はエリックと短い言葉を交わしていた。彼はこの一年、伝統に則り非の打ち所がないほどの沈黙を守り、彼女の喪が明けるのを待っていた。
その真面目すぎるほどの眼差し。《亡き信彦が持っていた》ような《誠実さ》。
「エリック? ああ、あの若き騎士なら少し前に顔を青くして中座されましたよ」
近くにいた年配の男性が、心配そうな様子で美香子に告げる。
「妻の話相手になってくれていたのですが、体調を崩されたようで。風に当たるとおっしゃって……そのまま帰られたのかも」
美香子の心に、一筋の冷風。
胸に小さな穴が開く。
「体調を……そうですか……」
アルフォードと踊っている間、エリックはどのような気持ちで自分を見つめていたのか……
美香子の胸の奥を、チクリと痛みが走った。
・あとがき
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それでは、またお会いしましょう。