【第四章 完結】異世界かぞく! ~人妻と不倫(こい)するNTR冒険譚~   作:北条 ゆう(いすわーる)

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《第七話:妖精(ようせい)エルミン》

 翠峰(グリーンヒルズ)村の村人である少年レオンは今年の春に一三歳になった。

 父は猟師(りょうし)で、レオンもその家業を()ぐべく弓の練習に(はげ)んでいた。その日、(いのしし)()ろうと森の中を相棒のケットシーと共に駆けていた。

 

「はぁはぁ……逃げられちゃったずら……」

 

 だがまだまだ半人前で、見失ってしまった。レオンは息を切らしながら、木々の間から見える空を見上げる。青く()んだ空に、白い雲がぽっかりと浮かんでいた。

 視線を森に戻すと、ケットシーがレオンの元までやってきて、物欲(ものほ)しげに見つめていた。

 

「ありがとう。助かったずらよ、ミケ」

 

 レオンはケットシーのミケにおやつの干し肉を渡す。ミケはそれをモグモグと美味しそうに食べ始めた。

 捕獲には失敗したが『貰うものは貰う』ということのようだ。

 実際、ミケはしっかりと猪を追いかけていて、レオンは何度か矢を()かけたが、命中しなかった。ミケがキチンと役目を果たしていたのは、事実ではあった。

 ちなみに、ミケは名の通り三毛猫で、体毛は白黒茶色の三色まだら模様。

 

「村に戻るずら」

 

 ミケが食べ終わると、レオンは言う。頷くミケ。

 ケットシーは人語を解する魔物化した猫で、体力も強靭でまるで猟犬のよう。

 グリーンヒルズでは食糧(しょくりょう)をネズミやその系統の魔物から守る役割の他に、狩りのお供としても活躍している。

 

「もし、そこの少年!」

 

 森林地帯から、村へと至る山道に出るレオン。

 すると、後方から声が飛んできた。

 

「お、オーク?!」

 

 振り返ると彼の視線に入ったのは、豚の顔をした人型の生物。ただ宙に浮いていた。

 驚きのあまり、思わず尻餅(しりもち)をついてしまった。

 

「すみません、驚かせるつもりはなかったのです。大丈夫ですか?」

 

 オークらしき生物はスーッと軽やかに宙を舞うと、レオンの元まで辿り着き手を差し伸べた。

 

「あ、ありがとうずら」

 

 レオンはおずおずと手を掴み、立ち上がった。

 よく見ると、その生物の体は人間の子供サイズであった。レオンよりも小柄(こがら)だ。

 そして人語を(かい)し、レオンなどより余程(よほど)流暢(りゅうちょう)に、この地域の《標準語たるルーサ語》を話していた。

 

「むにゃ~」

 

 ミケが二足歩行になると、オークの子供らしき生物にお辞儀をする。

 外敵にはたちまち警戒態勢を取るケットシーがこの態度。

 

「あんた……いや、あんた様は何者ずら?」

 

 明らかに只者(ただもの)ではない雰囲気を(ただよ)わせる生物に、かしこまるレオン。

 すると生物は「おっと、名乗りが遅くなり、失礼いたしました」と落ち着いた声色で話すと、被っていた帽子を右手で外し、胸に左手をを当てて、

 

「私は《妖精のゴブリン》。名をエルミンと申します。ある《オークの群れのリーダー》をしております。本日は、グリーンヒルズ村の《豚を買い取りたい》と思い、訪ねて参りました」

 

「へ、へぇ! 商人様、ずらか? そ、それは失礼しましたずら! 村まで、ご案内しますずら!」

 

 最初ボロ布をまとっていたエルミン。だが気づけば、三角帽子に、清潔そうな純白のシャツ、それに装飾のついた華麗な上着:ジュストコールまでまとっていた。本当にいつの間にか。(まばた)きするうちに。

 そして貴公子顔負けの礼節を弁えた挨拶(あいさつ)

 すっかり恐縮したレオンは、初対面の時とは別の意味で縮こまってしまうのであった。

 

 

 

「なるほど……つまり、エルミン様はオークの群れを人間と共存できるように導かれている、ということずらか?」

 

「はい、そうです。それが私たち妖精の役目なのです。そして、群れの一人が、この村の出身なのです」

 

「へぇ」

 

「彼は家畜として食べられてしまうという恐怖からオークとなり、そのまま一人村の牧場から逃げ出したのですが、仲間を残して自分だけ逃げ出してしまったことが、ずっと心残りだったそうなのです」

 

「確かにうちの村では豚を沢山育てているずら。美味しいと評判ず……あ、これはその――」

 

「えぇ、もちろん。あなた方人間が豚を食べることを非難するつもりはありません。それは生物として当然のことです。魔物も肉を食べますから」

 

「(ふぅ~、失言したかと思ったずら)」

 

 胸を()でおろすレオン。

 

「この村出身のオーク、オルディンという名なのですが、彼はいつもそのことを気にかけていて、罪悪感に苦しめられているようでした。私は彼の気が少しでも済むならと、グリーンヒルズを訪れた次第なのです。数匹の豚を買い取らせて頂きたいのです。お代は、もちろんお支払いいたします」

 

 そう言うと、エルミンは右手の指をパチンッとならした。

 

「た、大金ずら~~~!!」

 

 するとエルミンの左手に革袋が現れる。解いて、中をレオンに見せる。

 デナリウス金貨が大量に詰まっていた。金貨一枚の価値は一万デナリウス。レオンが目を見開いて驚くのも当然であった。

 ちなみに銀貨一枚は一〇〇デナリウス。銅貨一枚が一デナリウスで最小単位の貨幣だ。

 

「それで、レオンあなたに頼みがあるのです」

 

「頼みずらか?」

 

「はい。私たちのことを村の方々に事前に伝えてきて欲しいのです。あなたも知っての通り、普通の人間の皆さんはオークを恐れていますよね?」

 

「確かに、そうずら」

 

 レオンはエルミンと話すうちに、オークも人間と同じように感情や理性を持っていることを知った。信念を持ち、仲間や家族を大切にしていることも知った。

 

「最近村の豚がオークになってしまったずら……彼は、エルミン様達とは違ったずら。牧場で暴れまわって、村で色んなものを破壊して、豚も多く逃げ出してしまったずら……幸い、死者はでなかったずら。オークは死んでしまったけど……」

 

「……申し訳ありません、レオン。彼に代わり同族を導く妖精として謝罪いたします」

 

「エルミン様が謝ることじゃあないずら……それに、何だかその暴れたオークの気持ちも、今なら少しわかる気がするずら。ただ、怖かっただけなのかも知れないずら」

 

「そうかもしれません……レオン、実はストレスの多い豚というのは美味しくないのです。美味しい豚というのは、ストレスの少ない環境で大切に育てられた豚なのです」

 

「エルミン様は物知りずら~」

 

「ありがとう。つまりレオン、あなたの村では豚を愛情を持って育てていたのだと思います。貴方が言う通り、そのオークは復讐心などではなく、ただ恐怖から暴れてしまったのかもしれません……もちろん、許されることではないかもしれませんが……」

 

 エルミンは申し訳なさそうに、再度頭を下げる。

 そこでレオンは手を差し出した。

 

「仲直りずら。エルミン様のお話を聞けば、きっと村のみんなも分かってくれるずら。豚もまだ少し残っているずら。その子たちを買って欲しいずら……今は復興で入用だと思うから、少し値が張るかもしれないずらが……」

 

「ありがとう、レオン。もちろん、代金は《色を付けて》お支払いします。復興の手助けが出来れば、私達ゴブリンが求める《人間とオークのわだかまり》を解くキッカケになるかもしれませんから」

 

 二人は互いに握手(あくしゅ)した。それは和解の象徴だった。

 憎しみを抱き続けてはいけない。だが、悲劇を忘れてもいけない。

 大切なのは乗り越えること。悲劇と憎しみの連鎖を繰り返さないことなのだ。

 

 

 

 その後、エルミンと一度別れたレオンは一人村に戻り、村長に事情を説明していた。

 村はグリーンヒルズという名前の通り、緑豊かな丘陵地帯(きゅうりょうちたい)に位置していた。牧場や畑が広がり、空気は清々(すがすが)しく、心地よい自然の(にお)いが香っている。

 

「ほう、そのオークの子供の姿をした、ゴブリン、とやらは大金を持っていて、村の豚を買いたいと言っていると……そうかそうか。ありがとう、レオン……」

 

 村長は(ひげ)をさすりながら、何か思慮(しりょ)(ふけ)った後、レオンに次のように言った。

 

「……なれば歓迎の準備をせねばな、戻ってそれを彼らに伝えてきておくれ。そうさな、一刻と半刻(三時間)ほどお待ちいただきたいと伝えてきておくれ」

 

「分かったずら」

 

 エルミンの元へと足早に戻るレオン。

 彼は山道の入り口にいて、そこには彼の仲間たちがいた。

 

「村長の許可が出たずら! 歓迎の宴会を開くから、申し訳ないずらが、ここで少しお待ち頂きたいずら!」

 

「ありがとうレオン。良ければ、こちらに来てください。今、お茶を入れたところです、皆で飲みましょう」

 

 エルミンの仲間のオーク達は(みな)身綺麗(みぎれい)で、都市に住む中流階級の人間たちのような洗練された(よそお)いだった。

 彼らはテントを立てて、焚火を燃やし、テーブルを囲んでお茶をしていた。

 

「お、お茶?! そんな高級なもの、飲んだことないずら!」

 

「君がエルミンが言っていた男の子だね。こっちへおいで、砂糖菓子もあるよ。猫ちゃんにはミルクだね。うちの山羊のミルクは(くせ)が無くて、美味しいよ」

 

 人の好さそうな、眼鏡をかけたオークの青年がほほ笑みながら、レオンとミケを手招きする

 

「さ、砂糖!? そんなの貴族様しか口にできない高級品ずら、恐れ多いずら……」

 

「何遠慮してるんだい。ささ、おいで」

 

 少し小太りのおばさんオークに背中を押され、導かれ、レオンとミケはオークの一団と共に、おやつと歓談を楽しんだのであった。

 そして約束の時間が経って、村から使いの人間が来た。レオンにエルミン達を連れてくるよう言った。

 

「分かったずら……エルミン様、皆さん、準備が整ったずら~!」

 

 かくしてレオンは村にエルミン一行を迎えた。

 村人は総出で彼らを持て成し、宴会を開いた。食事や酒を振る舞った。

 そして――

 

「ここは……狩猟小屋?」

 

 朝、目覚めるとレオンは村のある山の狩猟小屋にいた。

 

「昨日は宴会があって……そのあと……どうなったずら?」

 

 レオンは宴会の途中で寝てしまったので、記憶がなかった。久しぶりにお腹いっぱいになって、エルミン達のおかげで税や復興のための資金も目途がついて、これで村も安泰だと、そう思った安心感で事切れて、寝てしまったのだ。

 色々なことがあって、気づきも多かったと同時に、疲れてもいたし。

 

「とりあえず、村に戻るずら。ミケ、行くよ」

 

 隣で丸まっていて寝ていたミケを揺すり、しかし起きないのでミケを抱えて、レオンは村に戻る。

 

「こ、これは……どういうことずら……」

 

 しかしそこにあったのは、人気なく、廃墟(はいきょ)となった、変わり果てたグリーンヒルズ村であった。




・あとがき

 という訳で今回は回想回でした。
 次話は、駆達とレオンが邂逅(かいこう)した(のち)のお話となります。

 第八話でも再び読者の皆様とお会いできると信じて!
 高評価、お気に入り、感想など頂けると、嬉しいです(^^)

 それと、先週土曜日から毎日更新させて頂いていたのですが、来週からは《毎週土曜日夜9時10分頃の更新》とさせて頂きたいと思います。
 よろしくお願いします。
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