拝啓、 。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。 作:桜ナメコ
初めまして。
ハッピーエンド厨です(唐突な自己紹介)
曇らせも好きですが、それはそれとしてハピエン厨です。
肌に合わなければブラウザバックをお願いします。
原作開始よりも、少し前の時間軸からスタート致します。
ACT.1「夢語アリカ ♯覚醒 ♯空腹 ♯前途多難」
あなたは私を覚えていないだろうけれど、私はあなたを知っています。
あなたが何かを思い出すことも、あなたが何かを知ることも、あなたが何かに気がつくことも、それら全てが遂には叶わぬことだとしても、私はあなたを忘れません。
あなたが貴方を思い出すまでに。
きっと多くの困難に見舞われることでしょう。
数多の理不尽があなたの前に立ち塞がることと思われます。
先は遥かに遠く、振り返ったとしても後に大した意味など残ってはいないのかもしれません。
心苦しくはありますが、残念なことに退路はなく既に選択の余地はありません。
世界は証明を求めています。
それは咎の清算にして対価の奉納。
例えあなたが世界を望まずとも、世界はあなたを望むのです。
だけど、私は信じています。
心向くままに、あなたはあなたの物語を綴ってください。
ともすれば、この閉ざされた世界でも希望の種は芽吹くでしょう。
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「うっっっそでしょ、残飯でもダメなの!? 厳しすぎないこのクソルール! バカだよ、おバカ! バカバーカ! 何考えてやがる、終いにゃ普通に死にますけど!?」
怒号一歩手前の少女の慟哭が路地裏のゴミ捨て場に響き渡った。
浅葱と翠色が入り混ざったような独特の色合いの長髪と小柄な体躯に見合わぬ純白の大翼、頭上にはどこか無機質な灰色の円環、そして無駄にデカい胸。
控えめに言っても美少女と評されるであろうその少女――夢語アリカはこの超大規模学園都市であるキヴォトスにおいては少数派であるどの学園にも所属していない
明確に断言をしなかったのはアリカの記憶が酷く朧げなものであるのが理由の一つだった。
実を言えば、この可愛らしい見目の美少女こと夢語アリカとして、私の意識が覚醒したのはほんの数日前のことなのである。
キヴォトスにヘイロー、連邦生徒会にゲヘナ、トリニティ、ミレニアムの三大自治区などなどたっぷりetc……記憶の引き出しには確かにこの世界の一般常識と言える情報の数々が眠っている。
自身の状態を確認したのちに、私は小さく頷いた。やはり知識に問題はない。
問題があるのは知識に実体験が伴っていないこと、そして自分が何者であるのかをまるきりさっぱり忘却してしまっていることだった。
さて、名前以外の全ての個人情報を忘却した状態でこの世界に放り出された私は、それはもう焦りに焦ったというものだ。
何しろ、ふと気がついた時には自分が見たこともない街にやたらとゴツい拳銃を携えて立っていたものだから、驚かないというのが無理な話である。
拳銃なんて物騒なものには触れたことすらないはずが、やたらとグリップが手に馴染んでいるのも不気味さと恐ろしさを増長した。
本能的にわかってしまったのだ。自分はこの拳銃を正しく扱うことができるのだと。
先にも述べたが知識としては知っていた。
キヴォトスでは多くの者が『ヘイロー』と呼ばれる天使の輪っかのようなものを持っていて『ヘイロー』を持つ者の身体は基本的に皆頑丈である。銃撃戦で死人が出ないのが普通であるというもはやバグのような世界線だった。
死人が出ないからといって、じゃんけんをするような感覚で引き金を引くのは文化人としてちょっとどうかとは思うのだけれど。
ある程度の生存保障がされた上での銃撃戦など、もはや感覚的にはサバゲーに近しいものがあるのかもしれない。
他人事のように分析し、ため息を一つこぼす。
まあ、結局の話だが、私が躊躇いなく人に向かって引き金を引くことができるかと言えば、その回答は限りなくノーに近いのだった。
だがしかし、ほんの数日でもキヴォトスに身を置いていれば銃撃戦の音など直ぐに聞き慣れてしまうものである。
実際、アリカは既に自身に危害が及ばない程度の銃撃戦であれば特に抵抗なく睡眠が取れる身体になってしまっていた。どうしてくれんだ、こんにゃろう。
さてはて。
いい加減、現実逃避はやめて本題に移るとしましょうか。
目覚めたら名前しか思い出せぬハイパー美少女だった私だが、気がつけば早くも餓死寸前という空前絶後のピンチに陥っていた。
何故か、本当に何故かはわからないのだが、この素敵で可憐でボインな身体は食事という行動に対して絶望的ともいえる制限を受けているようなのである。
…………ねぇ、誰か助けてくれません?
いや、本当に。冗談抜きで!
私、一度も食事せずに三日目の朝を迎えているんですけど!?
思考が荒ぶりそうになるのをなんとか抑え込み、パニックに陥らないよう深呼吸を繰り返す。
「………ふぅ……はぁ……………いや、違うじゃん? そんなのないでしょーが! 別にこんな所で詰みポイント作らなくてもよくない!?」
冷静に、冷静に。
落ち着いて現状を振り返り、込み上げてきた感情は変わることなく怒りである。アンガーマネジメントの限界を悟った瞬間である。
項垂れた私の前にあるのは、食べかけで捨てられた生ゴミたちの山。悲しいことに鼻の捻じ曲がりそうな悪臭にはとっくに慣れてしまっていた。
全ては餓死を防ぐために。
プライドやら何やらを捨て去り、比較的、マシに見える残飯へと手を伸ばそうとする。
が。
『――には――の権限がありません』
機械音声のような無機質な声が脳内に生じたと思えば、直後、頭の奥深くに鈍く響くような頭痛が広がる。
とてもじゃないが耐えられる痛みではない。
少しの間、悶え苦しむ。そして、残飯から手を引っ込めると痛みは時間をかけて和らいでいくのだ。
「はぁ…………はぁ…………っ、ぁ……っ! やっぱ、ダメか……キッツイなぁ……」
やっぱり、というのも私が残飯に接触しようとしたのはこれで二回目なのである。
付け加えて述べるのであれば、この不可解な頭痛現象を引き起こした回数は既に六回にも及んでいた。
「ああ、もう! 食事ができないとかどんなクソゲー!?」
以下、私がこれまでに頭痛を味わうことになった状況記録の羅列である。
どうか、少しでも私の憤りを是であると肯定して頂きたく思う。
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一回目:記念すべきキヴォトス内での初食事。折角なのでと奮発し、少々お高めの洋食店へ。上機嫌に煮込みハンバーグを注文しようとするも、注文直前で脳内にて電子音声が発生し、強制キャンセル。
※その後、何故か店内にて爆破事件が発生。死に物狂いでの退店を余儀なくされる。
二回目:仕方ないので大衆向けのラーメン屋で気分を切り替えようとしたところ、再び脳内に生じた電子音声によって注文を強制キャンセル。
※その後、どう見ても悪の組織な美人さん一行のご来店により、サイレント退店を余儀なくされる。
三回目:いい加減にお腹が減ってきたので風情なんて無視して、コンビニにておにぎりを四つ購入。ようやく買い物ができたと気を抜いた直後、おにぎりの包装を破いて口を開いた瞬間、脳内に生じた電子音声により食事の強制キャンセル。
※その後、金をドブに捨てたことになるのが癪だったので、路地裏で雑魚寝していた4人の少女たちにおにぎりを押し付けた。
四回目:そろそろ嫌な予感がしてきたが、めげずにスーパーへと向かう。もしかして自炊したものならばという思考の元の行動だったが買い物の途中、調理場所のアテがないことに気がつき断念。
妥協案としてインスタントラーメンを試してみることにしたが、お湯を注ぎ終わった直後に脳内に生じた電子音声によって食事の強制キャンセル。
※その後、3分間のタイムリミット内でラーメンを受け取ってくれる相手を探し回り、大食いが趣味だという金髪の美人さんを発見。快く引き受けてくれたので無事に(ラーメンは)救われた。
五回目:流石に生命の危機を感じ始めたので形振り構わずに空腹を満たすための手段を取り始める。幾度も『権限がない』と連呼されていたので、常人が食べないであろう残飯を標的に定め、ゴミ捨て場の巡回を開始。人間、こうも追い詰められては何でも出来るようになるらしく、抵抗感なんてものは極度の飢餓感に埋め潰されてしまっていた。
やや経って、半分も食べられていない状態のハンバーガーが捨てられているのを発見。ぱっと見では状態も悪くなさそうだったので、覚悟を固めてゴミ捨て場へと手を伸ばす。しかし、ハンバーガーへと手が触れる直前に無情にも脳内に電子音声が生じ、強制キャンセル。
※その後、というか現在、残飯すら食べることができない事実を信じられず、二度目の挑戦をするも六回目の頭痛に阻まれる。
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「あぁ、もう! 終わってるよ、こんちくしょーがよぉ……!」
意識がぼやける中、走馬灯のように自身に降りかかった数々の不幸の思い出を思い出し、堪え切れない苛立ちが口から溢れた。
店で注文ができない。
仮に食糧を買うことができたとしても、食べることが許可されていない。
自炊……少なくとも、お湯を注ぐという工程を踏んだ時点で刑罰が執行される。
そして遂には、残飯でさえ口にすることを許されないときた。
「どう足掻いても無理だってぇ…………私、何か悪いことしたかなぁ……」
ここまで来ると、まるで世界が私の生存を否定したがっているかのような錯覚に陥りそうになる。
幸先が悪いどころの話ではない。夢語アリカの人生は、既にどん詰まりと表する以外にない見るも無惨なものに成り果てつつあった。
「…………ぅぅ……お腹、減ったよぉ…………死にたくないよぉ……」
残飯が食べられないのなら、態々ゴミ捨て場に留まる理由もない。
半泣きになりながら、私は妙に重たい全身に鞭を打って当てもなく歩き始める。
「…………どうしよう」
見知らぬ世界、迫る餓死、一人ぼっちで抱え続けるには重過ぎる悩み事の数々。
わけがわからない。
意味がわからない。
状況を理解したくもない。
もう何も考えたくない。
帰りたい。ここではないどこかに。
この場所に居たくない。
「……………………あれ……なんで?」
自分が涙を流しているのだと気がつくまでに、長い長い時間がかかった。
ぽろぽろと一度流れ始めた涙は堰が切れたかのように止まらなかった。
「…………?」
どうして泣いているのか理解が出来ずに混乱して、私はしばらくの間、涙を拭くことすら忘れてその場で立ち尽くしていた。
✳︎
「……何か、悲しいことでもあったのですか?」
声がした。
柔らかくて、丁寧で、どこかほんの少しだけ冷たいような、それでもとびきりに綺麗で優しい声が聞こえた。
「…………」
思考はボロボロで、意識なんてあってないような状態で、ただ一つだけ思い浮かんだ望みを口にした。
「…………お腹、いっぱい……ごはん、食べたいです」
私の願いを聞き届けるとその美しい声の持ち主は、静かに何か感情を噛み締めるような反応を見せながら、頷きを返してくれた。
「まぁ……それは……ええ、私にお任せください…………その望み、嫌というほどに叶えて差し上げましょう」
その声がどうしようもないほどに優しくて。
私の全身から力が抜けていくのがわかった。
「…………ぁ」
「おや、大丈夫ですか? ふむ……失礼しますわね」
その人は地面へと倒れ込んでいく私を抱き止めると、流れでお姫様抱っこをしてくれる。
華奢な腕の割に安心感が凄いのはキヴォトス人が故なのか、それとも彼女の手つきがまるで割れものに触れるような優しいものだったからだろうか。
遠のいていく意識の中、上品で、かつさりげない香水の匂いが強く記憶に刻まれていくのがわかった。