拝啓、 。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。 作:桜ナメコ
少し短めの主人公回。
もう少しで原作に入ります。
感想評価、誤字脱字報告ありがとうございます。
ここ数時間、トラックの助手席から見える景色は変わり映えのないものだった。
砂に埋もれている街――かつて街だったものと評する方が正しいだろうか。
それらを横目に給食部のトラックは程良いスピードで道路を進んでいく。
運転席に座るフウカちゃんの横顔をぼうっと眺めていると、私とフウカちゃんの間に座っていたハルナちゃんに頰を突つかれた。
「……んむぅ? どったの、ハルナちゃん」
「ふふ、特に用事があるわけではありませんわ。単なる暇つぶしです」
「ハルナちゃんの暇つぶしになるなら、ほっぺでも何でも好きにしていいけど……面白味には期待しないで欲しいかな」
「…………アリカさんは、今日もアリカさんですね」
「…………哲学か何かかなぁ?」
むぎゅりと片手で両頬を挟まれる。
すべすべでほっそりとした色気を覚えるハルナちゃんの指が暫しの間、私のほっぺを弄ぶ。
体温が低いのだろうか?
どこかひんやりとして心地の良いハルナちゃんの指先を、何故か反射的に咥えそうになったがギリギリでその衝動を抑え込む。
……何故、いま私はハルナちゃんの指を美味しそうだと思ったのだろう? 特別お腹が減っているわけではないはずなのだけど。
「二人とも見れば元気なのはわかるけど、休憩は必要ない? 大丈夫なら暫くはこのまま運転を続けちゃうけど」
私たちに慈愛を感じさせる微笑みを浮かべていたフウカちゃんの質問に、ハルナちゃんと私は頷きとサムズアップを返す。
妙に慣れたような仕草でハルナちゃんが作ったグーサインを、フウカちゃんはため息を吐きながら叩き落としていた。
「フウカちゃんの方こそ、ちょっとでも疲れたときはすぐに休んでいいからね? 私が運転代わってあげるから!」
「いや、それはいい。なんか不安だし」
「何で!?」
「いざとなれば私が運転しますわ」
「…………私、ハルナがハンドル握ってるところ見たことないんだけど」
「普段はアカリさんに任せていますからね。基本的に私は戦況把握に努めていますので」
日常会話に『戦況把握』という単語が出てくるとは、これがキヴォトスクオリティーというやつである。
流石、弾薬が自販機で売られている世界だ。余りにも物騒過ぎる。
「……それにしても、かなりの遠出だねー。出発前から聞いてたことだけど」
「ふふっ、美食の探求にはこの程度の困難は日常茶飯ですわ。むしろ少しの障害もなく得られる幸福などより、よっぽどスパイスが効いていることでしょう」
「まぁ、運転してるのは私なんだけどね……なんて言葉は、自分から着いてきた私が言うことでもないか」
本日は休日。
ハルナちゃんはアビドス自治区にあるラーメン屋さんを訪れる予定だったようで、常に暇な私と珍しく時間の空いていたフウカちゃんは彼女の予定に付き合う形で小旅行を楽しんでいるところだった。
ゲヘナ自治区のほんの一部――生活圏内以外の世界を知らない私が様々な場所を楽しめるようにという配慮もあり、フウカちゃんが直々に運転をしてくれているというわけだ。
アビドス自治区に入ってから直ぐに見えてきたのは、まるで世界観が綺麗に入れ替わったかのような砂漠の姿。
砂に埋もれて廃墟と化したかつての街並みは、そう簡単に見慣れるような光景ではないはずだったが、いつの間にか気づかぬうちに見飽きてしまっている。
「…………」
「……アリカさん? 外に何か?」
「…………んー、いや。特に何かがあるわけじゃないよ。ちょっと、ぼうっとしてました」
奇妙な感覚を味わっていた。
まるで、このような光景を何度も見たことがあるかのような。
「…………でも既視感、とは違うなぁ」
首を傾げる。
瞬間のイメージが重なるのではなく、慢性的な経験を体験しているような……どこか懐かしさを覚えるような、不快ではないそんな感覚。
気持ちの置き所がわからなくなるような、そんなふわふわとした心持ち。
順調に進むトラック。
無言で頭を撫でてくれるハルナちゃんの手のひら。
少しばかり眠気が首をもたげてきたが、辺り一帯に広がる廃れたこの風景から目を離すのが惜しい気がしたので。
「…………ぁ、んぅ」
一つ欠伸を噛み殺した。
✳︎
気がつくとそこに居た。
穏やかに風が吹き込む教室。
その窓際の席で目を覚ます。
窓から見える空はどうしようもないほどに透き通った青色で、ぽつぽつと浮かんだ雲が流されていく様を眺めていた。
「……あっ、やっと起きた? あなたがお寝坊さんなの、ちょっと新鮮だなぁ」
声をかけられた。
やけに聞き覚えのある懐かしい声だった。
「
「うん。あなたの頼れる先輩こと――だよ!」
「…………先輩は元気ですねぇ」
「もちろん! それが一番の取り柄ですから」
こぼれた声。
自分が何と口にしたのかがわからないような、意識のどこかが不明瞭になっているような、そんな感覚が続いている。
声の方向へ振り向くと、私のよく知る――がそこに立っていた。
柔和な雰囲気と人好きのする笑顔を携えた彼女は私に近づくと、ゆっくりと頭を撫で始める。
「いつまで眠っているのかなって、あなたのことをずっと待ってたんだよ」
「……それは、謝った方がいいのかな?」
「ふふっ、冗談だって。謝る必要なんてない。何だかとっても楽しそうにしてたから、ちょっと意地悪言ってみただけ」
「そっか」
席から立ち上がろうした所で、誰かが教室へと入ってきたことに気がついた。
「あれ、起きたんだね。調子はどうかな?」
「…………? はっ、本当です! ――さん、目が覚めたんですね!」
落ち着いた声音の――と感情表現が豊かな――は今日も一緒に行動していたようだった。
「特に問題ないかな。少し眠いけど」
「そう? なら、よかった」
「道理で――さんが着いてこないわけですね。まったく、恥ずかしがり屋さんなんですから!」
「あの傍若無人な猫気質様を恥ずかしがり屋で済ませる――は流石だよね」
「ふふん! もっと褒めてもいいですよ、――!」
「わー、――ちゃん、超可愛いよー!」
――は満面の笑みで――の頭を撫でくりまわしていた。随分と慣れた手つきである。
――も全力で受け入れているあたり、日常茶飯の出来事なのだろう。
「と、まぁ茶番はここまでにしておいて、だね」
「まさかの茶番扱いですか!?」
「ふふっ、――ちゃんはこっちにおいで。――お姉ちゃんが遊んであげましょう」
「わーい、流石の――さん! 話が分かりますね!」
先輩が――ちゃんと戯れているのを横目に――がゆっくりと近づいてくる。
「…………久しぶりだね」
「……うん」
久しぶり、なのだろう。
彼女がそう言うのならきっとそれが正しい。
名前も知らない誰かが私の瞳を覗き込む。
「綺麗な群青色だ」
「……これ、セクハラじゃない?」
「それを私に今更、言うの?」
「……何で強気なの、この人」
彼女らの顔はわからない。
表情は読み取れる。
声も、性別も、見目の美醜も。
きっと、それら全てが既知のものであることを私は理解していたのだろう。
しかし、やがて何もかもがわかったようでいて、けれど思考を回そうとすると何一つわかっていないことに気がつくのだ。
そうだ、これは。
「――夢を、見ているんだね」
「…………そうとも言うのかもしれないね」
彼女は見つめる。
優しい顔で私の瞳を。
「ねぇ、アリカ」
髪をすく彼女の手櫛。
静かに瞼を下ろす。
「今、楽しい?」
「…………」
『うん、勿論』
口にした返答が、彼女らに届けばいいなと思いながら意識が急速に覚めていく。
✳︎
目を開ける。
目尻に浮かんだ涙を拭った。
「…………なんか、変な夢を見たような?」
喪失感と充実感がごちゃ混ぜになったような感情が後味として残る夢。
いまいち、想像はつかないが――
「アリカさん、着きましたわよ」
「寝起きでラーメン入らないとか言わないわよね?」
うん、今はいいや。
「言うわけないよ! すっごい楽しみにしてたんだから! 連れてきてくれてありがとう、フウカちゃん!」
だって『ハルナちゃんが絶賛するラーメン屋さん』の方が、よっぽど気になりますからね! 楽しみだなぁ、柴関ラーメン!