拝啓、 。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。 作:桜ナメコ
筆が進みすぎて、まさかの二回行動。
期待せず、のんびり待っていてください。
感想評価、誤字脱字報告 いつもありがとうございます!
ACT.5「シャーレ出向 ♯混乱 ♯送迎 ♯対面」
「はい、どーん! っと到着です。今日も今日とて、アリカお姉ちゃんが来ましたよ、ヒナちゃん!」
ゲヘナ風紀委員本部。
委員長が常駐しているということで、委員会内でも厳重な扱いを受けている部屋のドアが、勢いよく開かれた。
何だ何だ、と室内に居た風紀委員たちから視線が集中するも、その正体を確認すると皆すぐに納得の表情を浮かべて視線を戻す。
「うるさい」
「にべもなく即答!?」
そんな中、相変わらず目元に隈を落とした白髪の少女――空崎ヒナは闖入者の顔を見ることもなく、書類との睨めっこを続けていた。
「顔ぐらい見てくれても良くない!? ねー、ヒナちゃんってばー!」
「…………あと1分待って」
「……! はい、待ちます!」
まるで忠犬だ。
周囲の風紀委員たちの目には尻尾をぶんぶんと振りながら、お座りの姿勢を取るアリカのイメージがありありと浮かんでいた。
「はぁ……いらっしゃい、どうしたの?」
丁度、きっかり1分後。
ヒナが席を立ち、大人しく待てをしていた姉(偽)を迎えにいく。
元気の良い翠の美少女の手にはバスケットが吊り下げられていた。
「えへへ、給食部からの出張朝食サービスだよー! サンドイッチ作ってきました〜!」
「…………そう。ありがとう」
ちょっと馴染みすぎでは?
口から飛び出しかけた言葉を呑み込み、ひとまずは感謝を伝える。
この子がゲヘナの生徒じゃないことを忘れそうになりつつある今日この頃である。
「多めに作ってきたから皆で分けて食べてね!」
「「「はーい!!!」」」
顔面だけは文句なしに整った美少女の微笑みに委員の皆が虜になっているが、まぁ、いつものことと言えばいつものことだ。
「……ヒナちゃん、また無理してない?」
「…………このぐらい無理の内に入らない。それにここ数週間はどうしても休めなくてね」
「むぅ……まぁ確かに、どっかの凄くて偉い人が居なくなっちゃったって噂の話はハルナちゃんから聞いたかも。インフラ関係がボロボロなのも、それが原因なんだっけ? お陰様でフウカちゃんのメンタルが最近ヤバいんだよね。回復のためにずっと一緒に寝てるもん。役得すぎる」
「お気の毒にね……厳密にはサンクトゥムタワーの動作不良だけど、概ね違いはないかな」
アリカが毎朝のように朝食を届けにやってきているのは、常人ならいつ倒れてもおかしくないような仕事量を捌き続けているヒナを案じてのことなのだろう。
心配をかけているのは理解しているが、状況が休息を許さない。
書類仕事だけでなく治安維持にも手を回しているヒナは薄々と限界が近づいてきているのを察していた。
「……ついさっき、チナツを連邦生徒会本部に向かわせることを決めたの。ただ情報部の話が正しければ、向こうも打つ手に困っているのだと思うけど」
「なるほど?」
「何か混乱を収束させる手立てが見つかれば良いけど、期待はしすぎない方が良さそう」
状況を理解したような、そうでもなさそうな不思議な顔で首を傾げているアリカを見ていると、終わらないデスマーチに放り込まれているような心境が平常心へと戻っていくのがわかる。フウカが彼女を抱き枕にしているというのも納得だ。
そんなとき、連邦生徒会の元へと向かわせているはずのチナツから連絡が入る。
『すみません、委員長! 例の原因不明の機械の不調でヘリコプターの出動が難しく、現在の治安状況だと地上の移動を行うには相応の戦力が――』
「…………そう、仕方ない。別の方法を考えるから、チナツは本部に戻って来て」
『了解しました。すみません』
「チナツのせいじゃない。謝らなくていい」
とことん上手くいかない現実に気が遠くなりそうだ。
考えるべきは何だ。優先事項はどれだ?
移動手段の確保、それとも暴動の鎮圧?
皆の疲労も溜まっている。そろそろ部隊の統率にも乱れが生じ始めていた。
思考に集中するヒナは無意識の内に凄まじい圧を周囲に与えていた。
誰もが彼女の邪魔をしないようにと考え、動こうとしたその瞬間である。
「――ねえ、ヒナちゃん。チナツちゃんをどこに運べばいいの?」
普段通りの口調、いつもと何一つ変わらない声音で、彼女はヒナに話しかける。
「……それは――」
「偶にはおねーさんに頼ってよ? とびきりの速さで送ってあげる」
胸を叩いてそう言ってみせた夢語アリカがいつもより少し大人びて見えた気がして、ヒナは僅かに目を見開いた。
✳︎
風切り羽。
わざわざ意味を調べたことはないけれど、いつからか当たり前のように語彙の中にあったなんてことの無い一つの単語。
それがふと脳裏に浮かんだ。
「――調べなくても、いいかもなぁ」
感覚で理解に至る。
もう言葉に移す必要はない。
空を掴み、大気を蹴り上げ、風を断つ。
双翼の制御は完璧。
最近は体力の管理も問題なく行えるようになってきた。
心地の良い浮遊感。
重力と戯れているような感覚。
率直に言って、絶好調だ。
今の私ならきっと何処までだって飛んでいける。
「よーし、かんっぺきに掴んだ。チナツちゃん、しっかり捕まっててね」
「あ、アリカ? ま、まさかとは思いますが――」
「大丈夫、大丈夫! びっくりしないように少しずつ速度を上げていくから!」
現在、私はチナツちゃんこと火宮チナツ――ゲヘナ風紀委員会の救急担当なメガネちゃんをお姫様抱っこして、キヴォトス上空を低速で飛行していた。
それにしてもお胸がでっかさんなのよね、この子。
もしかしてキヴォトスって一年生の方が発育良かったりするのかな? こんなの、ホシノのおじさまとヒナちゃん涙目だよ。
「怖かったら、もっと抱きついてもいいからねー!」
「いや、これ抱きつかざるを得ない速度ですって!? これ以上速くとなると――」
「んー? まだ出力5、6パーってとこだけど? 20ぐらいまでなら給食部のフウカちゃんでも大丈夫そうだったから、風紀委員会のチナツちゃんなら30はいけるよ!」
「あの人はもはや特殊な訓練を受けてる判定ですよ! 下手な風紀委員より修羅場を潜ってます!」
なんてこと言うんだ。
フウカちゃんがおいたわし過ぎるでしょ。
「さてはて、それじゃあ――」
「…………ッ!」
首に回されていたチナツちゃんの腕に力が入ったのを確認し、意識を双翼へと向けた。
「ちょっと、上げるよ!」
薄らと蒼の光を纏い始めたその大翼が羽ばたく。同時に、私の身体は爆発的な推進力を獲得して加速する。
「――――ッ!」
ある程度の速度に到達し、速さが安定したところで声なき悲鳴を上げていたチナツちゃんの背中を軽く叩いた。
「…………なん、ですか?」
「ふふっ、下を見て――さいっこうの景色が広がってるよ!」
眼下に広がるは、数千の学園が集まって作られた学園都市キヴォトス。
ヘリコプターや飛行船を使えば、同じような景色は見られるのだろうが――きっと生身の空から見下ろすこの景色は格別だ。
「――息を、呑むような絶景ですね」
「そうでしょ? 私が宝物みたいに思ってる景色だからね!」
食い入るように辺りを見渡しているチナツちゃんの姿を見ると、この景色を見せられて良かったなという思いが染み染みと湧き上がってくる。
折角なので、この空の旅には欠かせない最後の楽しみも堪能して頂くことにする。
「よーし、見つけた。あの建物が、連邦生徒会の本部だね?」
「え、ええ、そうですが……待ってください。何か今、凄く嫌な予感が」
「それじゃ……早速、急降下と行こうかな? あ、錐揉み回転のオプションって付ける?」
「絶ッッ対に付けないでください!!!」
「りょーかいです!」
目標確認。
それじゃ、華麗なる着陸をお見せしよう。
「そーれ!」
「――――ッ!!!!!」
そして、少女の絶叫が大空へと響き渡り……着陸の後、割と本気で頭をぶん殴られた。
✳︎
「痛い、痛いよぉ……」
「自業自得です! まったく、もう二度とやらないでください」
「うぐ……な、なんか、空を飛んでるとテンションが上がっちゃいまして……善処はします」
「確約してほしいのですが……」
拳骨を落とされた頭を抑えながら、私とチナツちゃんは連邦生徒会の本部の建物に足を踏み入れようとしていた。
エントランスを抜け、ロビーに出ると何やら見目の良い女性たちが何人も集まっている。
「…………どうしたんだろ?」
「……あれは、ミレニアムとトリニティの生徒ですね。質問を受けているのは……連邦生徒会の七神リン首席行政官です。丁度、私たちの用事も彼女に関係することでしたので好都合かと」
「私たち……といっても、私送迎以外は特に力になれないと思うけど?」
「安心してください。元より、風紀委員会ではないアリカに必要以上の苦労をかけるつもりはありませんので」
おとなしそうな雰囲気のチナツちゃんだが、明らかに先輩と見てわかるような相手であっても、物怖じすることなく話しかけに行く胆力の持ち主のようで。
「リン首席行政官、ゲヘナ学園風紀委員会所属一年の火宮チナツと申します。風紀委員長が現在の状況についての説明を要求しています。納得のできる回答を頂けますか?」
おー、行ったー! かっこいいー!
アリカさん、感激です。全力で拍手しちゃう。ぱちぱちぱち〜!
「……また面倒な相手が増えましたね。仕方がありません、説明はまとめてした方が効率的ですから。呑気に拍手をしているそちらの方は? 用件は何でしょう?」
七神リンという名前(らしい)のメガネをかけた黒髪の長髪に青のインナーカラーを入れた美人さんが、私を見る。
ふむ、そんなに熱烈な視線を送って貰って悪いのだがこちらはただの野次馬である。
「用事は特にないかな?」
「では、退出を。現在、連邦生徒会に暇人の相手をする余裕はありませんので」
「塩対応にも程があると思うよ。全然、泣くけどいいの? ギャン泣きするよ、赤子の如く」
「やめてください」
無駄に気力を込めて宣言をしてやると、リンちゃんからの圧力が僅かに和らいだ気がした。
「…………はぁ、いいでしょう。口を出さないのであれば見逃します。今は言い争いをしている時間も惜しいので」
「ありがとう、リンちゃん」
「誰がリンちゃんですか、叩き出しますよ」
顔、怖っっわ。
ごめんじゃん。
そして、リンちゃんは話し始めた。
サンクトゥムタワーが正常に働かなくなった原因、そしてキヴォトスが混乱に陥ることになったその理由を。
・
・
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「連邦生徒会長の失踪――やはり噂は……」
「サンクトゥムタワーの最終管理者が行方不明に……道理でこんな状況に」
黒髪の立派な黒の翼を持つスタイル抜群な女性と、気の強そうなツーサイドアップの女の子がリンちゃんの話を聞いて何やら考え込んでいて余裕がなさそうなので、比較的、余裕のありそうに見えた銀髪の女の子に手を振ってみる。
私に気がつくと彼女は困惑した様子を見せながらもフリフリと控えめに手を振り返してくれた。可愛い。
「何やってるんですか?」
「……おじさんには話が難しくて、ちょっとついていけなかったかなーって」
「こんなおじさんが何処にいますか……」
「砂漠」
「…………砂漠?」
うん、砂漠。
アリカさん、実はあんまり嘘つかないの。
さて、いい加減、誰一人として話題に挙げないため居心地が悪そうにしている彼女が可哀想になってきたので触れてあげよう。
「で、混乱の原因についてはわかったけど……そこの新人OLちゃんのお手本みたいな格好してる可愛いらしい女性はどちら様なの?」
「し、新人OL!?」
割と明るい茶髪のボブカット。
白のブラウスに黒のタイトスカート。
二つボタンのジャケットはきっちりと留められている。
第一印象として、あどけなさの残った成人女性だというのが強く残った。
普通に可愛い――が、それだけだ。
人並みに垢抜けているし、粗を探そうとしても見つからない程度に外面は整っている。
だがしかし、その女性からは不思議なほどに『個性』というものを感じなかった。
仮にこれが『没個性』という外見を表現しているのだとしたら完璧である。
そんなかなり失礼なことを考えているように見える私なのだが、決してその女性の魅力を低く見ているわけではないのだ。
不思議だったのは、これだけ『何処にでも居そうな普通の女性』という印象を受けるのに、実際に彼女のような存在に出会ったことは一度もないということだった。
疑問に首を傾げている内に、その女性の身元がリンちゃんから説明されていく。
なんでも彼女は失踪した連邦生徒会長が指名した「先生」であり、その主な活動は超法規的組織「シャーレ」の顧問を務めることだという。
まあ、雑にまとめてしまうとキヴォトス内における「何でも屋」で「先生」は主に生徒の為に働いてくれるとのことである。
で。
本日の本題である『キヴォトスの治安どうにかせい問題』は「先生」の権限があれば、サンクトゥムタワーの制御権にアクセスできるとのことで解決が図れるとのこと。
問題だったのは、そのサンクトゥムタワーの制御権を取り戻すために必要な工程として、バカ騒ぎをしている不良生徒たちを叩きのめさなくてはならないことであり――
「え、私は戦えないけど?」
「あなた、本当に何のために来たんですか?」
「顔が怖いよ、リンちゃん」
「もっと怖くなってもいいのですよ?」
「ごめんなさい」
どうしてか我が家から離れたこの場所でもニートのような扱いを受けていることである。
チュートリアルのイライラリンちゃん、口悪くて好き。
最終編だとあまり面影ないけれど。
長ったらしい説明は割と端折りましたので、キヴォトスの内情が詳しく知りたい方は是非ご自分でプレイしてみてくださいな。