拝啓、 。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。 作:桜ナメコ
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30キロほど離れた場所にあるというシャーレの部室に向かうまでの間――ぽっかりと生まれた空き時間を前にして、最初に口を開いたのは翠色と浅葱の長髪を持った少女だった。
「何にせよ、自己紹介はした方が良いよね? ほら、やっぱり折角一緒に戦うなら、仲が悪いよりは良い方がいいと思うのです」
腕を組み、うんうんと何度も頷きながらそう提案した少女の元へと視線が集中し、3秒ほどの沈黙が訪れる。
すると彼女は僅かに頬を引きつらせて、そっぽを向いた。
「…………な、何です? 何か文句あります? とりあえず全員『お前は戦わねぇだろ』みたいな視線送るのやめません!?」
半泣きになる彼女の言葉にジト目を向けたのは、髪をツーサイドアップにまとめた少女だった。
「……そんなこと誰も言ってないわよ。ただ皆仲良く、みたいな話が意外だっただけ。それも、あのゲヘナの生徒から提案されるだなんてね」
心底意外だという顔をする少女。
隣に立っていた銀髪の女性が続いて口を開く。
「……そう、ですね。私の場合はトリニティでも見ない純白の大翼を持った生徒が、ゲヘナの制服を着ていることに気がついて驚いてしまいました。失礼を謝罪します。自己紹介、とても良い提案だと思います。是非行いましょう」
「…………一口にゲヘナと言っても、様々な方がいらっしゃるものですね」
黒の大翼を持つ美人までもが優しげな笑みを浮かべたのを見て、メガネをかけた真面目そうな女の子が複雑そうな顔をしていたが、自己紹介をすることに異論はないようだ。
ならばと思い、その場にいた唯一の大人は口を開く。
「私も皆のことを知りたかったから賛成だよ。少し手短にってお願いしないといけないのは、心苦しいところだけど」
向けられた柔和な笑み。
ふんわりと包み込むような安心感に加えて、心の芯の強さが伝わってくるような確かな信頼感を覚えさせるその人を前に、ほんのりと赤面する者もいた。
可愛らしい見た目にさっぱりとした話し方は、意外なほどによく似合う。
ほとほと『大人』という雰囲気が滲み出ている女性であった――ともすれば、それが不自然に思えるぐらいに。
「……なら、戦闘は不参加な予定の私が自己紹介ぐらいは先陣を切りましょー! 多分、私が一番政治的な役割に関与してないからね。ジャブってやつだよ、ジャブ」
努めて明るく振る舞う翠色の彼女は、コホンと可愛らしい咳払いをしてから自己紹介を始める。
「私はアリカ。夢語アリカです! 無職、無所属、記憶喪失の三本揃いで、ちょっとした事情から半強制的に友達のニートやってます! よろしくね!」
「「「………………???」」」
「ツッコミ所しかない自己紹介を一番最初に持ってこないでください、アリカ」
ほぼ全員の頭の上に疑問符が浮かぶなか、メガネをかけた少女は頭の痛くなるアリカの自己紹介に深いため息を吐いた。
何が頭の痛くなる原因かといえば、意味のわからない自己紹介の全てが事実であるからこそなのだが、それを深堀りするには時間が足りていないだろう。
「……アリカの話は一度忘れるとして――」
「酷くない!?」
「――忘れるとして」
「……ひゃい」
じろり、と冷たい視線を向けられて小さくなるアリカ。この少女が先生を除いた現在のメンバー内で最年長に当たることを誰が信じられよう。壊滅的な威厳の無さである。
「コホン、ゲヘナ学園所属の一年、風紀委員の火宮チナツです。戦闘では主に医療等の支援を担当しています。以後よろしくお願いします」
背筋の伸びた見ていて気持ちの良い一礼。
真っ直ぐな気質がそのまま映されたかのようなチナツの姿にアリカが頬を緩める。
「…………?」
少女の瞳はどこかとても眩いものを見るかのようで、
「じゃ、じゃあ、次は私の番ね。ミレニアムサイエンススクールのセミナー所属、早瀬ユウカよ。正直、戦闘は専門外なんだけど……まぁ、そうも言ってられない状況みたいだから手を貸すわ……代行にも頼まれちゃったし」
ついで口を開いたのは藍の髪を持った少女――早瀬ユウカだった。
仕方ないから手伝ってあげますよ感を装っておきながら、多分大概のことなら何でも手伝ってくれそうな優しさを感じさせる少女だ。やけに印象が具体的だが気にしてはいけない。確定申告手伝ってくれないかなぁ、なんて本音を吐き出すのは御法度である。
「……! ユウカちゃんも非戦闘員なの?」
「希望に満ち溢れた目を向けてくれたところ悪いけど、戦わないだけで戦えはするわよ。人並み程度には」
「裏切られたぁ……」
「ちょっと、涙目にならないでよ!? あー、もう! 大丈夫だから! あなたの分まで、私が頑張ってあげるから、ね?」
定期的に自身をスーパー美少女などと宣うアリカの容姿は確かに可愛らしいものだった。
今が非常事態でなければ、ユウカは彼女を過保護なまでに溺愛していたかもしれない、という予感がするほどに、アリカの姿はユウカの好みのど真ん中に収まっている。
そんな少女に泣かれてはたまったものではないとユウカは慌ててアリカの前で膝をつき、ハンカチで涙を拭いとった。そして、あやすように頭を撫でるとアリカは無防備な笑みを見せる。
「そ、そう? なら、応援してるね!」
「…………!!! ええ、前衛は任せなさい!」
もう一度述べよう。
この女、最年長である。
ユウカが静かに闘志を燃やすのを横目にコホンと咳払いを挟み、次に話し出したのは凛とした銀髪の女性だった。
「では、それほど語ることもないので手短かに。私はトリニティ自警団の守月スズミです。閃光弾を用いた制圧を主軸にしています。それではハスミさん、次をどうぞ」
決して言葉数は多くない。
けれど冷たさは感じさせることのない、不思議な雰囲気。きっと誠実な人なのだろうと自然と思わせるような、真っ直ぐな女の子だった。
「……では、最後に私が。トリニティ総合学園の正義実現委員会所属、羽川ハスミです。戦闘では後方からの狙撃を得意としています。皆様、よろしくお願いします」
なんか色々大きい美人。
これが第一印象にきてしまうのは、もはや避けられまい。女の子に言うのは少々デリカシーに欠けるため、口に出したりはしないのだが。
「わぁ……! すっっっごい! おっきーい! ふわっふわの、もふもふだね! こんなに立派なの、初めて見た!」
「なっ…………おお…………りっ――――ッ! ひ、人が気にしていることを…………ゆ、許しませんよ、ゲヘナ!」
「ぴゃいっ!?」
すぐ隣にお手本のような反面教師を見つける。
目を輝かせてハスミの元へと駆け寄り、何度も何度も「大きい」に類似した言葉を賛美として繰り返すアリカにハスミは激昂した。
巻き込まれたとため息を吐くチナツに、そろそろ出発した方が良いのでは? とソワソワしているスズミ、念入りに武器を確認しているユウカとバラバラな少女たちを視界に入れ、
「あっ、今先生ちゃん笑ったでしょ!? 助けてくれても良かったじゃん! 私に悪意がなかったのわかるでしょー!」
「ごめんね。でも、アリカも楽しんでいるみたいだったから」
「それは、確かにそうかも? まぁ、いいか。ちゃんと話は聞いてたね? チナツちゃんが回復、ユウカちゃんが前衛、スズミちゃんが集団の制圧でハスミちゃんが単体の狙撃! 戦闘をするなら、皆が得意なことぐらい覚えてた方がいいでしょう?」
アリカの言葉に目を見開く。
先生ちゃんと呼ばれた大人が尋ねる。
「私が避難する、とかは考えないんだね?」
「あ、それは確かに……うーん、避難したいときは遠慮なく私に伝えてね? 大人でも怖いときは逃げてもいいと思うから!」
でもさ、と言葉を続けて。
「子供の前で大人が意地を張りたい気持ちも、私はわかる気がするの。まさか、そんなにカッコいい目をしてるのに『逃げたい』なんて言わないでしょ?」
そんな風に発破をかけて、自らをニートと称した生徒はまぶしいくらいに微笑んだ。
✳︎
「――って、嘘でしょ!? 先生ちゃんって銃弾一発も耐えられない紙装甲なの!? 先に言ってよ、そういうことは! それで戦闘参加とかバカなの死ぬの!? 頭にだけキヴォトス成分詰めこんできたわけ?」
「心配してくれてありがとう、アリカ」
「心配半分呆れ半分なんですけどねー! 冷静にもほどがないかなぁ……?」
シャーレ部室の近辺。
不良生徒たちが暴動を起こし、大騒ぎになっている街の一角。
治安が最悪なその場所に私たちはやってきていた。
交戦を開始する直前になった際に発覚したその衝撃的な事実に、私は動揺しっぱなしであった。つい先ほどまで「よーし、ユウカちゃんの応援するぞー!」なんて呑気に後方で過ごしていたのが嘘みたいだ。
だって、ほら。
まさかこんなに戦場のすぐ近くまで来てから、ようやく「キヴォトス人と違って簡単に死ぬ体なのだから気をつけるようにね!」なんて新情報が飛び出してくるとは思わないじゃないか。
まぁ、そういう大事なことはもっと早くに言いなさいよと思ったのは私だけのようで、他の皆は周知の事実だという風に平然とした顔をしていたのだが。
「もー、鎮圧してから先生ちゃん連れてくる方が絶対に危険じゃなかったでしょ、これ。急ぎの用なのは何となく理解してるけど」
後方腕組み応援部隊という名の穀潰しこと私が居たから良かったものの、もし私が着いてきていなかったらただでさえ少ない戦力の一人を先生ちゃんの護衛に回す必要が出てくる。
素人判断で悪いが、少なくとも戦略として良いものとは言えないはずだ。
……それだけ、リンちゃんもとい連邦生徒会側に余裕がないと見るべきか。
「それで指揮を取るんだっけ? いいけど、翼の届く位置から離れないようにね。戦況が見にくかったら抱えて近付いてあげるから」
「抱えて、近づく?」
「うん。ぴゅーっと空でも飛んでね」
「なるほど?」
さては信じてないな、この人。
ついジト目になってしまった所で、事前に渡され耳につけていた無線イヤホンから連絡が入る。
『先生、ただいまより交戦を開始します。指揮をどうぞ』
少し離れた位置で瓦礫に身を潜めているユウカちゃんとスズミちゃんを目視、その付近にはチナツちゃんの姿も見える。
連絡を入れてくれたハスミちゃんは更に後方へと陣取ったようで既にライフルの照準を合わせているのが確認できた。
『……ありがとう、ハスミ。それじゃあ、始めよう! 目標はシャーレ部室の地下奪還。まずは一点集中で混戦を抜ける。建物内に突入してから、経路を限定して迎撃に移ろう。皆、無理をしないように気をつけて』
息を呑む。
隣に立っていたその人が、余りにも真っ直ぐな目をしていたから。
それこそ、ハルナちゃんに心を奪われていなければ、あっさりとこの横顔に惚れていたのだろうなぁとそんな確信を抱きそうになるぐらいに。
戦闘が始まる。
統率の取れた部隊の出現に、それまでは不規則にただ好き放題騒ぐことを目的として暴れ回って居た不良たちの目の色が変わる。
点在する不良生徒たちのヘイトは自然と先頭を走るユウカちゃんへと集まった。
次の瞬間、集中砲火を浴びる彼女の姿を幻視して――
『スズミ!』
「はい! 閃光弾、投擲します!」
世界が一瞬間、白に染まる。
『今の内に距離を詰めて、ユウカ! ハスミはユウカの被弾方向が限定されるように牽制を!』
対大人数。
それもゲリラ戦に近い混沌とした戦況を見極め、先生ちゃんは指示を出し続けていく。
「……何だか皆、強くない? ユウカちゃん、事務職って言ってたよね?」
「頼りになるよね」
「先生ちゃん、動揺って言葉知ってる?」
風紀委員会や自警団などの自治組織に所属している他の三人はまだ理解できるのだが、生徒会の会計があんなに強いの割と謎なんだけど。
可愛い見た目に反して、泰然自若がよく似合う大木のようなメンタリティをしている先生ちゃんも大概である。
ある程度の安全が確保された所で、先生ちゃんを横抱きにして前線へと近づく。
流石の先生ちゃんも物理的に戦況が見えないことにはどうにもならないようである。少しは人間らしいところが見られて安心したのはここだけの話。
「こ、これはちょっと恥ずかしいかも……」
「急に普通の女の子みたいな顔するのやめて」
「どういう意味かな!?」
お姫様抱っこを選択したのは、先生ちゃんを守るための方法としてこれが最も合理的だったのだから仕方ない。
これでも少しは先生ちゃんに配慮しているのである。正直に「抱っこの方が防御力が上がりますよ」なんて伝えたら、困るの一言では済まないはずだ。
「さてと……今のところは順調そうかな」
「皆が頑張ってくれてるおかげだね」
瓦礫の陰へと身を隠して一息つく。
もうこのまま抱えていた方が安全そうだなと思ったので、先生ちゃんを下ろすのはやめた。このキヴォトスパワーの前では人一人抱える程度の疲労などないも同じである。
「このまま、何事もなければ――」
シャーレ突入は時間の問題。
そう話しかけた瞬間である。
『逃げて! 先生ッ!』
「アリカ!」
「――ッ!!!」
ごう、と何かが空を切るその音が聞こえた時にはもう遅い。
着弾。
そして、爆発。
回る視界のその隅にソレを捉える。
知識としては知っている。
だが肉眼で見るのは初めてだ。
「……戦車、とか。治安、世紀末過ぎるでしょ」
「痛――く、ない? あれ?」
死角から現れた戦車の砲撃が私たちの隠れていた瓦礫へと直撃した。
追撃が来ないようにすぐさまスズミちゃんが閃光弾を投げて対応に回るが、初撃で完全な不意打ちを貰ってしまった。
まぁ、十数メートル吹っ飛ばされたとはいえ、咄嗟に抱え込んだ先生ちゃんは無傷なようなのでいいとしよう。
「ごめん、先生ちゃん。ちょっと驚かせちゃった。怪我してないよね?」
「それはこっちのセリフだよ。アリカは大丈夫……そう、だね?」
「ギリギリ防御が間に合ったから。やっぱり、抱えたままで良かった」
翼で覆った部分は無傷。
擦り傷は放っておけば治る。
服もちょびっと汚れたが許容範囲内。
「――問題、なし!」
翼の方に気合を入れる。
立ち上る煙やら砂埃やらを羽ばたきの一つで吹き飛ばし、視界を切り拓いた。
周囲を見渡した。
遠く離れた方でユウカちゃんたちが戦車と対峙している。明らかにこちらを狙っているような敵の姿は見えなかった。
「――――!」
『チナツちゃん、先生ちゃん預かって!』
「えっと、アリカ?」
戸惑う先生ちゃんを無視して、双翼を広げる。
助走に三歩。
時間にして一秒強。
爆発的な推進力を確保して、私は地上から空へと飛び出した。
「――――ッ!!??」
「あ、アリカ!? 先生を預けるというのは……」
「それ以上でも以下でもないかな? ちょっとこの人、よろしく」
超低空飛行をほんの数秒。
空中にて目一杯に減速し、チナツちゃんの元へと丁寧に先生ちゃんを放り投げてから、すぐさま再加速。
『何かあったの? アリカ、大丈夫?』
『怪我とかじゃないから、気にしないで大丈夫。戦車の対処に専念して!』
先生ちゃんの心配の声に努めて冷静に返事を送りつける。
やや少しして、私はゆっくりと地上に降り立った。
「あら? あらあら、ふふふっ、驚きましたわ」
「本当かな? なら、そのびっくりしてる可愛い顔を是非とも見せて欲しいところなんだけど」
黒の着物。
狐の面。
纏うは他と一線を画すほどの危ない匂い。
「出会い頭に戦車砲ブッパはアリカさん的にはノーマナーだと思うけど、キヴォトス的にはオッケーだったりするのかな?」
足が震える。
冷や汗が止まらない。
自分じゃ役者足りえぬことなどは、本能的にわかっていた。
「随分と可愛らしい伏兵さんですが、私あまり優しい方ではありませんの。ですので、忠告は一度だけ」
でも、見つけてしまった。
平気で戦いに戦車を持ち出すような凶悪な相手が、姿を隠そうとするその瞬間を。
動けるのは自分だけ。
なら、やるしかないのも一つの真実だ。
「そこをお退きなさい」
「やだよ。かかっておいで、狐のおねーさん」
銃を構える狐面の女性。
翼で身体を守れるようにと心構えを作りながら、仕方なくファイティングポーズをとる。
少しの沈黙。
「あの、あなた……その、銃は?」
「べ、別に、まだ一度も撃ったことないからちょっと怖いだなんて、思ってたりしないんだからね!?」
「私、弱い者いじめは趣味ではないのですが……」
「簡単に弱いとか言うの良くないと思うなぁ! 事実だけどさ! ミスマッチなのは仕方ないでしょ! 何でもいいからかかってこいやぁ!」
そんなぐだぐだとした入りから、絶望的な戦力差の一戦は人知れず始まった。
実はアロナちゃんサポがない珍しい戦闘。
シッテムの箱の支援もないので独自解釈で、今だけちょっと先生をナーフしています。最終編一章とか見ると必要ない気もしますけれど。
先生の台詞に""がないのは仕様です。
安心してください。