拝啓、 。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。 作:桜ナメコ
体調も8割は回復したので、新年度初投稿。
温かいお言葉も頂けて、しっかりと休んでまいりました。
今年ものんびり行くので、よろしくお願いします。
「……アリカ、次これ」
「はいはい、任せて。あ、ヒナちゃんこっち確認だけよろ」
「そこ」
「並べときまーす」
うわぁ、ヒナちゃん仕事できすぎて草。
昨日のハルナちゃんも凄かったけど、これはちょっと次元が違うレベルでヒナちゃんが速すぎる。先生ちゃん、驚きを通り越して菩薩みたいな顔しちゃってるじゃん。手だけは動かしているのが更に狂気みを増していて怖い。
シャーレ出勤2日目。
私の姉兼妹であるゲヘナ風紀委員長――空崎ヒナちゃんの実力は、書類仕事でも段違いだった。
まったく、お姉ちゃんの威厳がどんどんと損なわれていってるぜ……最初から大してなかっただろ、とかいう正論は聞きたくないです。
まぁ、正直言って予想の範疇ではある。
これでも私は風紀委員会の部室に顔パスで入ることが出来る程度には風紀委員会内部の事情を知っているのだ。朝ご飯の差し入れついでに掃除とかの雑用を手伝ったこともあるし。
だから、ヒナちゃんが鬼のような速度で書類を捌くことができるのは理解していたのだ。
……とはいえ、まさか一切のペースダウンを許すことなく、初心者の私への指導を並行して行えるほどだとは思っていなかったが。
そんな場所を変えていても仕事に身をやつすお手本のような社畜姿を見せているヒナちゃんだが
「ヒナちゃん、ご機嫌だね?」
「……そう? ああ、なるほど……そういえば緊急出撃を考えなくていい仕事環境なんて、いつぶりかしら」
「わーお、ブラック。知ってたけど」
そんなこんなで爆速で仕事を進めていくこと数時間。
くぅくぅと程よくお腹が鳴き声を立て始めた頃合いになったときには、なんとシャーレの仕事(あくまで書類関係だが)に終わりの目処がついてしまったのである。
お昼時ということもあり、昼食の後はしばらくのチルタイムでも過ごそうかなんて話をしながら、お弁当を開ける。
「はい、ヒナちゃんにもフウカちゃんお手製のお弁当だよ」
「……ありがとう。フウカにも伝えておいて」
「えぇ、自分で言いなよー。あ、今日泊まって行けば?」
「…………考えとく」
ヒナちゃん、実は我が家のお泊まり常連さんである。それというのも初対面時に私が無理を言ってお泊まり作戦を決行した後は、フウカちゃんがヒナちゃんの不摂生を心配するようになったり、我慢出来ずに『やっちゃった』ハルナちゃんのことをヒナちゃんが捕縛したのちに、直送で我が家へ運んできてくれたり、私が妹との交流をもっと増やしたくなってだる絡みをしたりと、様々な理由があってヒナちゃんは私たちと関わる機会が多かったのだ。
「仲がいいんだね、二人とも」
「お姉ちゃんだからね!」
「うるさい」
「塩対応だぁ……」
きんぴらが傷ついた心に沁みるぜ……あっ、ほんとに美味しい。ご飯がとまらん。
「……そっちも、アリカがいつも通りに過ごせているのがわかってよかったわ」
「……あはは、やっぱり警戒されてたよね」
「最初だけよ。あの子が遠慮なく笑えている時点で、警戒の半分以上は形式だけのものだったから……アリカは基本的に無警戒で無防備で、世間知らずのアホの子だけど、人を見る目は確かなの」
なんだかとても心外なことを言われているような気がするけど、タコさんウインナーが可愛くて美味しいから詰問は後にしといてやる。というか、私のためにタコさんウインナーを作っているフウカちゃんなんて想像するだけでも既に可愛い。早く私かハルナちゃんと結婚してほしいものだ。切実に。
「……時々、アリカの言葉は驚くほどに
「ヒナは……アリカが心配?」
「…………別に」
「皆、本当に好きだねぇ……私も可愛い生徒だとは思うけど」
フウカちゃんとの新婚生活を妄想していると、何やら温かい視線がこちらに突き刺さっていることに気がついた。
「な、何? なんでそんな優しい目してるの、二人とも」
「美味しそうにご飯を食べるね、って」
「沢山食べないと大きくなれないわよ」
「ほっといてよ!? 急に何さ!?」
ヒナちゃんの方がまだ小さいでしょ! 特にいえば、お胸とか! ほら、おっぱいとか! 見てよ、この立派な膨らみを!
「ふん」
「いっったぁ、おっぱい叩かないで!?」
「…………」
「……んっ、ちょ、なんで今揉んだの!?」
✳︎
「ということで、午後からは猫を探します」
「わーお……いきなり何でも屋過ぎない?」
「猫……」
シャーレ正面入り口。
そこに集まったジャージ姿に着替えた先生ちゃんと武装を整えたヒナちゃん、折角なら体操着に着替えたかった私の三人は、タブレットに表示された一枚の写真を囲んでいた。
……え、ヒナちゃん体操着のお古くれるの? やった! いつもお洋服のお下がりありがとう! 姉なのに妹のお下がりとはこれなんぞ。
「可愛い黒猫さんだ! うん、顔は覚えまし
た!」
「アリカはこういうの得意なんだね。私、あまり動物の見分け方はわからなくてさ。頼りにしてるよ」
「まっかせて、先生ちゃん! あ、他に目撃情報とかってあるの?」
「少しだけどね。そこら辺の情報はまとめてデータにしておいたよ。今二人に送ったから確認よろしく」
黒猫さん探し。
比喩でもなんでもないただの雑務だが、生徒に頼られたからには応える他に選択肢がないのが先生ちゃんという生き物だ。
まぁ、ヒナちゃんの息抜きにもなるだろう。
ちょっと任務に大して過剰戦力な気もするがそこはご愛嬌。
まず最初に先生ちゃんとヒナちゃんは二人でシャーレの周りをぐるりと見て回るようなので、私は早々に空へと飛び出し、一人で適当な路地裏を回ってみることにした。
スマホを開いて、送られてきたファイルを開く。アロナちゃんのお仕事だろうか? 黒猫さんの目撃情報が時系列順によくまとめられ、場所ごとに地図アプリ上へと表示されるようになっていた。非常にわかりやすい。
「……っと、ちょい休憩」
十分ほど飛び回り、成果はなし。
ひとまず適当な建物の屋上へと着地し、方針を考え直す。
上空からのパッと見では中々野良猫が発見できなかった。もう少し、ゴミ捨て場とか猫がいそうな所を中心に見て回ってみようか。
とーん、と路地に向かって飛び降りて、着地直前のところで強めの羽ばたきを一度だけ。
ふわりと着地し、薄暗い道をゆっくりと歩き始める。
「……もう懐かしいな」
ハルナちゃんに拾われるまでの数日間。
ホームレス同然だった私にとって、狭く暗い路地は数少ない安住の地であった。
ゴミ捨て場から食料が回収できていたのなら、文句なしだったのだが……まぁ、今となっては関係のない話だ。
「…………にゃー」
そんな妙な感慨に耽りながら路地裏をほっつき歩いていた私だったが、しばらくして私の耳は大層可愛らしい猫の鳴き声を遠くの方から拾い上げた。
「……!」
音を立てないように静かに離陸。
鳴き声が聞こえた方へとゆっくりと、慎重に距離を詰めていく。
そして――私は素晴らしいものを見た。
「……にゃ〜、にゃー?」
「ふしゃぁぁっ!」
「にゃ、にゃ〜」
そこにあったのは、威嚇する黒猫に、しゃがんで猫の鳴き真似をしながら近づこうとしている妹の姿。
え、何あれ可愛い!? 可愛すぎない? 私の妹、天下取れるって! 可愛い〜! 録画しよ、録画。
ヒナちゃんが根気強く可愛らしい声をかけ続けると、段々と黒猫の様子も落ち着いたものへと変化していく。
「……ふふ、偉い。おいで」
「にゃう……」
ヒナちゃんが満面の笑みで猫を抱きしめたのをしっかりと確認し、スマホの録画を止めてから、足音を忍ばせて彼女の背後へと近づく。
「ひーなちゃん?」
「…………!?」
「お手柄だね、もう見つけたんだ?」
今きたところですよ〜、とアピールしてみるが、ヒナちゃんは顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせてしまっている。
「な、あっ、どこ、から……!」
「んふふ……アリカさん、ちょっと何のことかわからないにゃ〜」
「――アリカ!!!」
あ、やっばい、ヒナちゃんその銃連射はマズいって!? 死ぬ死ぬ普通に死ぬ、なんかチュドドドドドドーンっみたいな絶対銃からでちゃいけない音してるし、弾というかもはやビーム出してるよね!? やっばい、一発掠ったんだけど! 本気で当てにきてない!?
「ぜぇ……ぜぇ……死ぬかと、思った」
「…………避けきった。確かに狙いは雑につけたけど、あの弾幕を無傷で……?」
息も絶え絶えの私と何かに驚いているヒナちゃん、そしてヒナちゃんの腕の中で大暴れしている黒猫。
「ふしゃぁぁあっ!」
「ご、ごめんね、びっくりしたね」
「お姉ちゃんもびっくりしたにゃー」
「次は当てるわ」
「ごめんなさい」
猫への声と姉への声の温度差で風邪ひきそう。もちろん、こっちが冷えている方。まったく、そんなに本気で怒らないでよ。ごめんじゃん。
「あれ、そういえば先生ちゃんは?」
「そういえば……」
てっきり私はヒナちゃんと一緒に行動しているものと思っていたのだが、どうもそうではないらしい。
まぁ、幾ら治安が世紀末なキヴォトスといえど、十数分目を離しただけで一人の大人がどうこうなるわけがあるまい……なんて思考が過っている時点で、多分私は既に何かしらの択を誤っているのではなかろうか?
無言でヒナちゃんと見つめ合いながら「まさかねぇ……」なんて思考を共有していると、遠くの方から爆発音が聞こえてくる。
「アリカ!」
「わかってる! ちゃんと猫ちゃん抱えてて! 爆速で向かう!」
直後、私とヒナちゃんは弾き出されたピンボールのような勢いで爆発の発生源をめがけて飛び出した。
✳︎
「…………温泉開発、かぁ」
何を言っているのだろう、この子たち。
頭の中の冷静な部分が現実の理解に苦しんでいるのを自覚しながら、彼女は愛すべき生徒たちの青春活動を大人しく見守っていた。
発破。掘削。爆発に次ぐ大爆発。
本気で温泉が湧き出るのだと信じて疑っていない少女らの横顔には美しき労働の汗が伝っていて、今行われている活動がテロ活動でさえなければ、彼女はきっと何の疑問も浮かべることなく少女たちへと拍手を送っていただろう。
「さて……どうしたものかな」
自らを温泉開発部と呼称した少女たちの青春活動を阻止する。この先、彼女が取る行動としてそれは確定事項だ。
悩みの種は温泉開発部の持つ戦力が見るからに膨大なものであること。
当然のように持ち込まれていたショベルカーにブルドーザー、何やら火炎放射器まで抱えている生徒の姿まで見える。
連邦捜査部シャーレの特権を使用すれば、ある程度の無理を効かせて戦力の徴収が可能であることは理解していた。それを決行する気はサラサラなかったが。
では現在の戦力はと考える。たった一人、専属でシャーレに所属している生徒の言葉を思い出した。
『戦い? 無理無理、超がつくほどの専門外です。アリカさんクソ雑魚だから、そこのとこ本当に頼りにしないでねー?』
……うん、ダメそう。
「……やっぱり、話し合いでどうにか引き下がって貰うしかないよね」
振動で揺れる地面にしっかりと足をつけ、凄まじい騒ぎになっている工事現場へと向かおうとして――彼女は目の前に降り立つ銀星を見た。
「――っと、よかった。ひとまず、戦闘中じゃなさそうだ……ちょっと先生ちゃん! 一人じゃ危ないんだから、ヒナちゃんと一緒に行動しててよね?」
「気づかなかった私にも非はある……けれど、不用心なのも確かよ、先生。それじゃあ、この子を預かっていてくれる? 私はあのテロリストたちを鎮めてくるから」
黒猫とごっつい銃を抱えたヒナを更に横抱きにして飛んできた少女の姿に思わず目を丸くする。
「……力持ち、だね?」
「一応、キヴォトス人だからね。それにヒナちゃん、超軽いし」
ヒナから黒猫を預かる。
彼女が単独でも戦闘を行うとのことだったのでシッテムの箱を起動し、戦況を読めるように周囲を確認していると、いつの間にか隣に立っていたアリカの翼がこちらの身体を外側から覆うように広げられていたことに気がついた。
「ありがとう、アリカ」
「これくらいはね。動きたくなったら遠慮なく言ってよ?」
「了解。頼りにしてる」
「……まぁ、今回は本当に何もしなくても大丈夫だと思うけど」
相変わらず自分の武器には手を伸ばそうともしないアリカだが、ヒナの後ろ姿に向ける視線に心配の色が全く含まれていないことが気になった。
「……ヒナってそんなに強いの?」
「みたいだよ。少なくともゲヘナじゃ飛び抜けた実力を持ってるって評判……キヴォトスでもトップクラスって聞いたかな。なんでもデフォで全身が私の翼並みに硬いらしい」
「何それ無敵?」
戦車砲を無傷で退けたアリカの防御力が常時展開されていると考えるだけでも、既に人間戦車のようなものだ。いくらキヴォトスの人間の身体が強靭なものであるといっても、そこまでの話は聞いたことがない。
「……ま、まぁ、一応支援はするよ。何もしないっていうのもヒナに悪いし」
「今私に文句言いましたー?」
「アリカが守ってくれて凄く安心するなぁ!」
コントのようなやりとりを交えつつ、ヒナの応援団と化す二人。
そんな彼女らの声援を受け、ヒナはゆっくりと愛銃を構える。
「……それじゃ、戦闘を始める。ねぇ、温泉開発部。バカ騒ぎならせめてゲヘナ自治区で起こして貰えるかしら? その方が、よっぽど手間がかからないから」
「な、な、ななんで、ここに風紀委員長が!? 皆、敵襲だ! 敵襲! 風紀委員長が単独で攻め込んで来たぞ!」
開演するは見ている側が可哀想になるほどの蹂躙劇。
体調万全かつ先生の支援を初めて受けて、完全に加減のわからなくなった空崎ヒナは、その日、一人で優に50を超える温泉開発部の部員を数分とかけずに叩きのめし、彼女らに確かな恐怖を刻み込むのだった。
✳︎
「ふっふっふっ、今日はお休み! 割と気分で出勤の有無を決められるシャーレは最高の職場です! なーんて、浮かれてみたはいいんだけどさ」
「あはは……やっほー、アリカ」
「なーんで先生ちゃん、ゲヘナに居るのさ?」
「そっちこそ、なんでそんなに学食の厨房に馴染んでるの?」
「は、働いてるから?」
「…………無給で?」
「む、無給とか言わない! フウカちゃんのお手伝いが出来るだけで、私は充分なの!」
「えっと、フウカちゃんって言うのは……」
「あ、私の保護者です」
「またなの!?」
そろそろ、アビドス編が近づいてきました。
ゲームデータ風の自己紹介とか遊びで挟んでみるかもだけど。