拝啓、  。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。   作:桜ナメコ

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第1章 砂と巡礼と神秘論者の悪巧み
ACT.7「アビドス訪問 ♯支援要請 ♯出会い ♯再会」


 

 

 

 

 

 私がシャーレに所属してから、ある程度の時間が経ちました。

 最初の内は先生ちゃんと二人で云々と唸りながら行っていた書類仕事も、今ではすっかり手慣れたものです。見たこともないフォーマットで送られてきた資料に関しては知りません。私も先生ちゃんも、ユウカちゃんが来るまで放置するか、リンちゃんに直接泣きついています。揃いも揃って情けねぇ。

 

 と、まぁ、そんな具合に充実した毎日を送っていた私ことアリカちゃんなのですが、ここ最近、連日出勤していたこともあり、先生ちゃんから連休を取るように告げられまして――件の事件が起きたのはその翌日のことでありました。

 

「はいはい、もしもし……こちらアリカさんですけど、どったの先生ちゃん? お休みに電話なんて珍しいね」

 

 学校へ向かうハルナちゃんとフウカちゃんを見送った後に、偶には二度寝でもしようかな、なんてうとうとしていると、スマホに電話がかかってきた。

 電話の相手は先生ちゃん。登録されている番号の数が寂しいだなんて事実からは目を逸らそう。家族と妹の分があれば十分でしょ。

 

 先生ちゃんに何の用かと尋ねてみれば、何やら多量の焦りが混ざった声が聞こえてくる。

 

「ご、ごめん、アリカ! 今から、私が送る座標まで来て貰ってもいいかな!?」

「わーお……いきなりだね。先生ちゃんにしては、余裕とかなさげな感じ?」

「うん……私、このままだと餓死しそうなんだよね」

 

 がし……がし?。

 え、今、先生ちゃん餓死って言った? 

 

「ちょ、そういうことは最初に言って欲しいかなぁ!? えっ、今どこ? どういう状況? 大丈夫なの、先生ちゃん!?」

「お、落ち着いて、アリカ。えっと事情を話すと、昨日、アビドス高等学校っていう学校から物資の支援要請を受けて、とりあえず向かってみたんだけど……その道中で遭難しちゃって。あはは……もう丸一日何も食べてないや」

「おばか! もっと早くに連絡しなさい!」

 

 お腹が減るって超辛いんだよ!

 甘く見てたら怖い目見るんだからね!?

 

 どたどたと音を立て、急いで外出のための身支度をする。気づけば、つい先ほどまで全身に屯していた睡魔は嘘のように居なくなっていた。

 

「着替えよし、スマホ持った。銃も知らない内に装備済み。水もあって、食料は……今日だけ私のお弁当をあげればいいかな?」

 

 冷蔵庫からスポーツ飲料水のペットボトルを4本取り出し、肩掛けのバッグにつめる。荷物を持ちながらでも飛びやすいように、とフウカちゃんが渡してくれた愛用品である。

 

 最後に家を出る前に私とハルナちゃん、フウカちゃんの家族用のメッセージグループにアビドス自治区へと向かう旨を書き込めば、出発の準備は完了だ。

 丁度、先生ちゃんから座標が送られてきた。

 久々の長距離飛行だ。体力管理にだけは気をつけて、かつ可能な限り最速で先生ちゃんの元へ向かうとしよう。

 

 それにしてもアビドス高校ってことは……ホシノのおじさまとまた会えるかも? 前に会ったときはまだスマホを持ってなかったから、今度会えたら連絡先を交換したかったんだよね。

 

「まぁ、それもひとまず先生ちゃんと合流してからの話かな?」

 

 地を蹴って。

 翼を空へと打ちつける。

 ふわりと身体を浮かばせて、身体の調子を確認してから、一気に大空へと加速する。

 

 幸い、今日は誰かを運んでいるわけではないため、自分以外のことに気を回す必要はない。

 

 座標から考えると、ゲヘナにあるシェアハウスから先生ちゃん遭難地点までは直線距離で200km以上300km未満といったところだろう。

 

 その程度の距離なら、そこそこ急げば――

 

 

 

「待っててね、先生ちゃん。()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 その発言の異常さに彼女は気づかない。

 妙なところで感性が謎にズレている少女は、自分が何を言っているのかを深く理解していないのだ。

 それが特別なことなのだという考えに至らなかったが故に、後に夢語アリカはこともなげに口にする。

 

 体力消費を考えず、全力を出した場合であれば――彼女の最高飛行速度は音速にも迫るのだということを。

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

「お待たせ、先生ちゃん。ちょっと時間かかっちゃった。身体の調子は大丈夫?」

「早くない???」

 

 休日の生徒に助けを求めるという苦渋の決断に至った先生は、SOSの連絡から一時間と経たずしてやってきたアリカを前に驚愕で打ち震えていた。

 やだ、うちの子すごい。なんて呟くと、思ったよりも余裕そうだねと呆れられる。

 

 アリカは着地するとすぐに座り込んでいた先生へと駆け寄り、バッグを地面へと下ろしてペットボトルを取り出した。

 

「……はい、まずは水分。意識に問題はないんだね? 先生ちゃん、身体よわよわなんだから、あんまり無茶しないの」

「ごめんって。噂には聞いてたけど、まさか本当に遭難するなんて思わなくてさ」

「噂に聞いてたなら尚更でしょうに……」

 

 手渡されたスポーツ飲料水が先生の全身に染み渡る。死滅しかけた細胞たちが歓喜に叫びを上げているのがよくわかった。

 

「……、……っ、…………ふぅ……生き返る……」

「それはよかった。ご飯もすぐに食べる? 先に、どこか休めそうな場所を探してからでもいいけど」

 

 チラチラと辺りを見渡すアリカ。

 場所を変えようか? という提案は先生が遭難していたのが、主人を失いただ砂に埋もれゆくのを待つだけの寂しげな住宅街だったからだ。確かにピクニックをするには気分の良いロケーションとは言えなさそうだ。

 

「緑豊かな公園とまでは望まないから、せめてベンチくらいは置いてある広場とかが近くにあればいいんだけど…………よし。ちょっと5分だけ離れるね。パッとこの辺見回ってくるよ」

「えっ、いやそこまでは――」

「それじゃ、お水飲んで休んでてねー!」

 

 いうが早いか、こちらが制止する間もなくアリカの姿は一瞬にして空へと消えていく。アリカはよくキヴォトス人の規格外代表としてゲヘナ風紀委員長のヒナを挙げるが、彼女も彼女で大概であることをちゃんと理解しているのだろうか?

 

「……心配させちゃったな。少し反省しないと」

 

 彼女のテンションがいつもよりも高いように感じたのは、きっと本心を隠すため。なぜならば、誰よりも彼女は『飢え』に対する恐怖を知っているのだろうから。

 呑気で陽気なおバカさんのように見えて、実をいえばとても繊細なその少女の手は、恐怖と解けた緊張からか、僅かに震えを残していた。

 

 反省の念を込めて少し過剰なぐらいに水分補給を続けていると、何かの気配が近づいてくるのがわかった。

 

「…………?」

 

 アリカにしては早いようなと視線を送れば、そこには――

 

「……大丈夫?」

 

 水色のマフラーを巻いた獣耳の生徒がロードバイクを傍に止め、首を傾げて立っていた。

 

「…………あなたは?」

「……私? 私は砂狼シロコ。アビドス高校の二年生」

「えっ、アビドス!?」

「うん、そうだけど……それがどうかした?」

「あ、いや、私もちょっとアビドス高校に用事があって……その途中に道に迷っちゃったんだけど……あはは」

 

 恥ずかしい所を見せてしまったと笑って言うと、シロコは少しばかり頬を緩めてから高校への案内を買って出てくれた。

 

「ありがとう。でも、少しだけ待ってくれる? いま、私を手伝ってくれてる子が見回りに出ていて……」

「わかった。それで……えっと、あなたは……」

 

 シロコの言葉が歯切れ悪そうなものになってから数秒後、彼女は自身が自己紹介を済ませていないことを思い出す。

 慌てて先生は立ち上がってから、シロコの目を真っ直ぐと見つめて口を開いた。

 

「ごめんね。私ばかり名前を聞いて。私は先生。連邦捜査部シャーレからアビドス高校の救援依頼に応じるために来ました。よろしくね、シロコ」

「…………ん、よろしく」

 

 ちょっとだけ目を見開いて、その後に柔らかく微笑みながらシロコは私が差し出した手を握り返してくれた。

 一目見たときはクールな少女といった印象を受けたシロコだが、思いの外表情の変化に富んでいる。心優しいごく普通の女の子なのだろうと勝手に想像なんかしていると、ぐいっと一気に体がシロコの方へと引き寄せられた。

 

「し、シロコ!?」

「ッ! 下がって! 何か、来る!」

 

 ガチャリと銃を構えて、空を睨んだシロコの前に――待って。空を、睨んだ?

 猛烈な嫌な予感がシロコへとストップの言葉をかける前に、その何かがもの凄い勢いで地面へと着弾する。

 

 ズダンッ、といえ鈍い衝撃音と共にすり鉢状のひび割れが地面に走り、砂埃が立ち上った。

 謎の飛来物に対してシロコは躊躇うことなく、その銃のトリガーを引ききった。

 

「ちょ、シロコ待っ――」

「ッ!」

 

 そうして放たれた弾丸は土埃を切り裂いて。

 

「ふぎゅ――」

 

 芸術的なまでに無防備に晒されたアリカの額の中心へ叩き込まれ、その意識を一瞬にして奪い去るのだった。

 

「…………気絶、してるね」

「……ごめん。まさか知り合いだとは……学校の保健室まで連れて行く。先生、歩ける?」

「うん、頑張ります」

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「……ぅん……んぁ?」

 

 目を覚ます。

 目の前にピンク髪の可愛らしい女の子が眠っているのを見て、私はゆっくりと瞼を下ろした。

 

「……」

「…………」

「………………」

 

 あ、これ、ホシノのおじさまも起きてるな。

 私が起きたのも多分、バレてる。

 

「…………これ、どういう状況なの?」

「……んー? それがおじさんもよくわかってないんだよね……ふわぁ、ねむ……」

「そっかぁ……じゃあ、このままでいっか……」

「うんうん、たまにはお昼寝の時間も必要だよぉ……」

 

 お互いに目を閉じたままスローテンポで会話を続ける。自堕落に布団と隣の少女の温もりと共に心地よく微睡んでいると、勢いよくドアが開く音がした。

 

「ホシノ先輩! また性懲りもなく、カタカタヘルメット団が襲撃してきたわ! 出撃よ!」

 

 どこかで聞いたことのあるような、元気の良いハリのある声。

 声の主は一直線にこちらへと近づいてくると、ピシャッとベッドを囲んでいたカーテンを勢いよく開く。

 

「んー? 出撃かぁ、それは大変だねぇ」

「ちょっとなんでホシノ先輩まで寝てるの!? その子が起きたらびっくりしちゃうでしょ! もう! 早く布団から出て、出撃の準備をしないと!」

 

 反射的に目を閉じたのだが、私の知ってる知識だとヘイローの状態で起きてるのはバレちゃうんだよね? このまま狸寝入りを続けるのは愚策でしょうか?

 

「もー、セリカちゃんは元気なんだから……まったく……はい、起きてアリカちゃん。寝坊助さんは怒られちゃうよ」

 

 おじさまにゆさゆさと肩をゆすられたので、大人しく起き上がることにする。

 なんだかんだで割と思考も目覚めてきている頃だった。

 

「……ん、っと。おはよう、ホシノのおじさま。久しぶりだね……ってあれ? アルバイトの子だ」

「あ、あんたも起きたのね……ってホシノ先輩、この子と知り合いだったの?」

 

 思い出した。

 柴関ラーメンでアルバイトをやっていた面倒見の良い黒髪猫耳っ子ちゃんだ。

 おじさまは確か……セリカちゃん? って呼んでたはず……うん、多分。一回しか聞いてないから、ちょっと記憶力に自信がないけれど。

 

「あれ、言ってなかった? 流石のおじさんも、まったく見知らぬ子のベッドに潜り込んだりはしないって」

「そ、それもそうよね……じゃなかった! ホシノ先輩、今襲撃を受けてるの! 早く皆のところに行くわよ!」

「もう、セリカちゃんってば……そんなに腕を引っ張らなくても、おじさんは逃げたりしないってば〜」

 

 ばびゅーんっ! と凄い勢いでおじさまの腕を引っ張って、部屋――おそらくは保健室だろうか――の外へと出ていってしまった暫定セリカちゃんを見送って、数秒ほどフリーズしてから、ポツリとつぶやく。

 

「え、襲撃って何?」

 

 治安終わってない? いや、もういい加減にそろそろ慣れてきましたけどね。これが日常になってるの一種のバグだと思うんだよね、私。

 

「もしくは、これを異常と思う私だけがバグ個体なのか……だけど」

 

 余りにも、ゾッとしない話だ。

 考えるだけアホらしい。

 

「流石に、この状況で二度寝はできないかな」

 

 そうこうしている間にも、銃撃戦の音が聞こえ始める。

 ベッドから降りて、窓へと向かった。

 翼の感覚を確かめる。まだ十分余力は残っている。

 

「おじさまが居るなら安心だろうけど、まずは先生ちゃんを見つけないとなぁ」

 

 ひょいと窓枠を飛び越えて、ふわりと空へと浮き上がる。

 交戦場所はそう遠くない。

 下手に気配を悟られて撃ち落とされることがないように細心の注意を払いつつ、高度を上げて状況を確認する。

 

「…………カタカタヘルメット団、結構人数が多いんだね。キヴォトスの命名センスはちょっとわからないや」

 

 黒や赤のヘルメットを身につけた生徒たちが数十人で銃を乱射しているのに対して、おじさま側の陣営は、軽快な動きを見せている前衛が一人と後衛に――え、なにあれ、超カッコいいんだけど!?――かなり大きな銃(だと思う)を満面の笑みでブッパしている女の子が一人いるだけだ……あ、丁度、ホシノのおじさまとセリカちゃんも校舎から出てきた。

 

「先生ちゃんは……見えない、かな。それならそれで安心できる。もしかして、室内から指示を出してるのかな?」

 

 それはそれで化け物的な戦況把握能力なんだけど、まぁ、これもいつものことか。アロナちゃんも頑張っているのだから、そんなこともある。気にしていたってしょうがない。まぁ、相手からしたらたまったものではないだろうが。

 

「……よっと、着地成功」

 

 これまでたった二人で場の均衡を維持していたと思えば、おじさまたちが参戦した時点で負けの目はかなり薄れたはずだ。

 状況を掻き乱すことなく、大人しくしていようと屋上へ着陸する。

 

「え?」

「――はぇ?」

 

 そして、屋上にてドローンを操作していた黒髪の眼鏡っ子と遭遇した。

 

「こんにちは?」

「こ、こんにちは」

 

 とりあえず、良い子そうなので安心したよね。うん、だからそんなに警戒した目を向けないで貰えると嬉しいかもしれないです。

 

 

 

 

 

 

 

 









 ぬるっとアビドス編開幕です。
 前章までで書き忘れたことがあるような気もしますが、ひとまず本編時空を進めていきます。
 EXその他のサイドストーリーの時系列はふわふわ時空ということでよしなに。
 話を進めないと色々なキャラとの絡みが生まれないのです(連載の宿命)

 感想評価、誤字脱字報告 いつも感謝です。
 踊り狂って喜びますのでどうぞお気軽に。





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