拝啓、  。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。   作:桜ナメコ

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ACT.7「アビドス訪問 ♯夢見人 ♯対策委員会 ♯誘拐計画」

 

 

 

 

 

 

「………………アビドス、ね」 

 

 ポツリとつぶやきが零れた。

 冷たく寂しげで、それでいてどこか感傷に浸るような僅かな温度を残した声は、誰に届くわけでもなく空へと消えていく。

 

「あっ! ――さん、こんな所に居たんですか? ――が探していましたよ!」

「…………はぁ、今はお話をする気分じゃないって言っておいて」

「えぇ!? 待ってくださいよ、――さん! もう! 相変わらずの気分屋さんですね……やっぱり――とは顔を合わせたくないのでしょうか?」

 

 灰と群青の二色に彩られた世界。

 少女は長い長い廊下を歩く女性の背中を追いかけた。

 

「……はぁ、強情だね」

「――さんに言われたくはありません!」

「私も君が本当に談笑したいだけなら、追い返したりはしないよ」

「むぅ……」

「そう剥れないで。子供をあやすのは得意じゃないの」

「別に剥れてなんかいないですよ!」

 

 少女の髪を撫でた女性に――は抗議の視線を送るも、その女性は素知らぬ顔で窓の外を眺めている。

 

「……それで、帰らないの?」

「…………私が帰ったら、――さんはまた一人ぼっちじゃないですか」

「へぇ……相変わらず――は優しいね」

「ふふん、もっと感謝してくれてもいいんですよ?」

「まぁ、私は一人の方が好きなんだけど、知らなかった?」

「い、意地悪はしないで欲しいのですが……!」

 

 涙目になった少女を見て、くつくつと愉快そうに笑う女性。

 その笑顔の発生理由となった少女は思わず、笑顔を見せてくれたことを素直に喜べないといった複雑そうな表情を浮かべた。

 

「着いてきたいのなら、ご自由に。どうせ暇だってことに変わりはない」

 

 笑みを収め、再び廊下を歩き始めたその女性は、月に詩を読む歌人が如く、端から聞かせるつもりのない誰かへのメッセージを密やかに独りごちる。

 

「……さて、お手並み拝見といこう。叶うことなら、もう二度と私に出番が訪れないことを願うよ――ねえ、ユメガタリ」

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 ん? 何か背中のあたりがゾワゾワってしたような……? まぁ、いいや。一々、気にしていたってしょうがない。

 そんなことよりも今の私には全身全霊をかけて行わねばならない一大事が差し迫っているのだ。

 

「そんなわけで、来て早々にゴタゴタに巻き込んじゃったけど……改めて、久しぶりだね、アリカちゃん。アビドス高校へようこそ」

「うん。久しぶり、ホシノのおじさま。また会えて嬉しいな!」

 

 アビドス廃校対策委員会。

 その部室にて、おじさまも所属しているというどことなく不穏な名前の委員会のメンバーと私は相対していた。

 先生ちゃんは既に挨拶を済ませているとのこと。つまり、ただ今より私に待ち受けるのはこれまでに幾度となく失敗してきた自己紹介の時間というわけだ。

 

「じゃあ、まずは皆に挨拶をしないとだね。コホンッ――私は夢語アリカ。シャーレ所属のしがないニートだよ。普段はゲヘナに住んでるんだけど、何か用事があれば直ぐに飛んでくるから、気軽に声をかけて欲しいな。えっと、こちらが連絡先です! 仲良くしてね! えへへっ」

 

 堂々と胸を張って、とびきりの笑顔で明るく元気に。

 一人一人に先生ちゃんの提案で作っていたモモトークのIDの書かれた名刺を渡していくと、先ほどデッカい銃を乱射していた女の子が頭を撫でてくれました。あっ、この人、撫で上手だ! 気持ちいい……眠くなってきちゃう。

 

「アリカ、アリカ、しっかりして」

「はっ! 危ない、なんて魅力的なお手手なんだ……!」

 

 先生ちゃんの声で落ちかけた意識を持ち直し、周りを見ると、なんだか生温かい視線を感じる。またか、また私は自己紹介に失敗したのか!?

 

「今日も絶好調だねぇ、アリカちゃん。おじさんはもう自己紹介したし……あ、シロコちゃん、ちゃんとごめんなさいした?」

「……忘れてた。さっきはごめん。危ないと思って撃っちゃった。頭、痛くない?」

「あたま……頭?」

「ん、さっきアリカを気絶させたのは私……赤くなってはなさそうだね、よかった」

 

 どうやら私が気絶したのは彼女に華麗なヘッドショットを叩き込まれたからだったらしい。よかった、熱中症とかの自滅じゃなくてアリカさん安心しました。

 

 シロコちゃんとおじさまに呼ばれたケモ耳な女の子が、私の前髪を持ち上げて額に傷がないかを確認してくる。

 ……うん、とっても顔がいい。こんなことやられたら、先生ちゃんぐらいならイチコロだね、イチコロ。私がハルナちゃんにベタ惚れでよかったよ。

 

「えっと……シロコちゃん……で、あってる?」

「あってる。砂狼シロコ、アビドスの二年生だよ。よろしく」

「……ッ! えへへ、うん! よろしくね!」

 

 わぁ、びっくり。ちょっと見惚れちゃった。

 カッコいい系だと思ったら、すんごい可愛い笑い方をする女の子だ! 柔らかい雪溶けのようなそっとした笑顔の浮かべ方……この子推せる、推せるよ先生ちゃん!

 

「すっごいキラキラした目だ……」

「どうしたんだろ、アリカちゃん」

「可愛いですね〜!」

 

 何故か私が頭を撫でられた。

 ……この撫で撫でが上手でお胸がご立派な、ゆるゆるふわふわとした雰囲気の女の子はどちら様なのだろう? 

 油断していると直ぐに懐いちゃいそうだから、早めに自己紹介をしてもらいたい。流石に名前も知らない相手の撫で撫でに屈服していたら、フウカちゃんやヒナちゃんから危機管理能力の甘さについて呆れられてしまいそうだ。

 

「それじゃあ、次は私の番ですね〜。私は十六夜ノノミです! シロコちゃんと同じ二年生ですよ。先生にアリカちゃん、こんなに可愛い方たちがやってきてくれたのは久しぶりで、嬉しくなっちゃいました!」

「あれ、今、私も可愛いに含まれてた?」

「え、先生ちゃんは可愛いよ?」

「――アリカはちょっと静かにしてようねー」

「理不尽だぁ!?」

 

 何故か怒って顔を赤くした先生ちゃんから逃げ出そうと狭い室内でダッシュをすると、当然のように何かと衝突しそうになる。

 その何かが、私を優しく受け止めた。

 

「もう、急に走ると危ないわよ」

「わぷっ、ご、ごめんなさい――あっ、ラーメン屋のお姉さん!」

「黒見セリカ、セリカでいいわよ。また会ったわね」

 

 誰かと思えば、それは私がハルナちゃんたちと柴関ラーメンへ行った時に接客をしてくれた猫耳のお姉さんだった。

 おじさまの口から何度もその名前を聞いていたが、ようやく本人から名前を聞くことができて、感動しているアリカさんです。

 

「ラーメン屋って何のことでしょう……?」

「あー、セリカちゃんの新しいアルバイト先のことだね……私たちには隠してるつもりみたいだけど」

「……どうしてホシノ先輩はそれを知ってるの?」

「んー? 偶々だよ、たまたまー。いやー、偶然って怖いね〜」

 

 何やら背後で気になる会話が繰り広げられている気もしたが、今は目の前のセリカちゃんだ。アルバイトの制服が余りにもキマッていたのでお姉さんだと勘違いしていたが、彼女はまだぴちぴちの一年生なのだそう。制服にツインテの姿だと、確かに少女らしさが増して可愛らしい。

 

「えへへ、あのときはありがとね! ラーメン、とっても美味しかったよ」

「そ、そう? なら、いつでもまた食べに来て。店長もきっと喜ぶから」

「本当!? じゃあ今度は妹も連れて行くね!」

「妹がいるの? 楽しみにしてるわ!」

 

 現在、私が安定した飛行で運搬できる人数は一名までだ。身の安全を保証しないのであればギリギリ三人ぐらいまで可能だが。

 そのため、再び柴関ラーメンにハルナちゃんとフウカちゃんを連れて行くには、またフウカちゃんに車を出してもらう必要がある。ちょっと気軽には誘いにくいかも。

 遠出に誘えるのがお一人様までと考えると、相手はヒナちゃんかアカちゃんになるだろうか? チナツちゃんは空を飛ぶのがあまり得意じゃないみたいだったし、()()はアレだし。

 そんな思考を回しつつ返答した私の陰で、ホシノちゃんと先生ちゃんが何やらボソボソと会話を進めている。

 

「……妹みたいなものがいる、とは言ってたけど?」

「あー……うん。まぁ、大体間違ってないかな」

「間違ってないんだ……そっかぁ……」

 

 どこか遠い目をし始めたおじさまはさておき、長きに渡る自己紹介パートもついに最終盤を迎えまして――なんて大袈裟にためる必要は実はないのです。

 最後の一人とは既に屋上で自己紹介をし終えているのである。

 

「最後はアヤネちゃんだね! さっきは驚かせちゃってごめんね? まさか屋上に人が居るなんて思わなくてさ」

「いえ、確かに驚きはしましたが、謝られることではありません。私の方こそドローンを向けてしまって……」

「気にしないでよ。不審者を見つけたら誰だって警戒ぐらいするもん」

 

 奥空アヤネ。

 赤縁メガネと先のとがったお耳が可愛らしい黒髪ボブの女の子。

 屋上にいながらも先生の指示を聞き、戦線の支援と戦況の偵察と私への攻撃を別々のドローンを用いて同時に行なった割と訳の分からない分割思考を可能とする真面目っ子な一年生。

 

 話してみるとびっくりするほどの常識人。それにめちゃんこにいい子でした。

 面倒見の良いセリカちゃんに、キヴォトスでは絶滅危惧種レベルの真面目っ子っぽいアヤネちゃん…………アビドスの未来は明るいに違いないね!

 

 

 ✳︎

 

 

「とか思ってたのに、借金9億ときましたか。流石のアリカさんもびっくりだね」

「驚きすぎて真顔になっちゃったよ、この子」

 

 先生ちゃん、うるさい。

 こんなの真顔にもなるでしょうが。

 

 自己紹介にアイスブレイクを終え、しばらくの時間が経ちまして。

 カタカタヘルメット団への対策がある程度まとまった辺りで、話題はこの委員会の存在理由――アビドス廃校対策委員会とは何ぞや、なんて話になりました。

 

 すると発覚したのは、先人たちからの心底嬉しくない贈り物にして莫大なる負の遺産の存在。

 合計9億6235万などという馬鹿みたいな額の借金が彼女たちの頭を悩ませている悩みの種だというのである。

 

 9億……9億ってなんだ? 9億は9億だよね、うん、9億だよ(緩やかなる錯乱)

 もはや10億の方が適切だよね、なんて余りにも人の心がない言葉は大人しく呑み込むのが正解じゃんね?

 

「……アリカちゃんは優しいね。でも、これはおじさんたちの問題だから、アリカちゃんがそんなに心配することはないよ。だから気にしないでね」

 

 無一文の素寒貧な私にとっては天文学的な数字にすら思える借金の総額に目を回していると、何やら聞き捨てならない言葉が耳に飛び込んできた。

 

「むっ……おじさま、その言い方はなんか嫌かも」

 

 急に意識が正常に戻った私に目を丸くしたホシノのおじさまは困惑したように、話の続きを促した。

 

「えっと、嫌っていうのは……?」

「…………関係ないことなんて、ない。そんなこと言われたら、私はちょっと寂しい」

「……それ、は……えっと、アリカちゃんのことを除け者にしたいとかじゃなくて、これは単純にアビドスが負うべき問題だからっていう話なだけで……アリカちゃんなら、私の言いたいことわかるよね?」

 

 感情論を全開で振り回した私にやや面食らった様子のおじさまだったが、すぐに冷静になると物分かりの悪い子供を宥めるようにゆっくりと、私に落ち着くよう発言の意図を言い聞かせてくれる。

 

「……でも、心配するのは当たり前じゃない?」

「…………っ」

「友達だもん。それ以外関係ないよ。何ができるわけでもないけど、何か手伝えることがないかなって思うのは私のわがままかな?」

 

 ただ、納得はできない。

 言葉通りの意味だけがおじさまの言葉にあったのであれば、私は大人しく引き下がっていただろう。

 でも、彼女の言葉には見過ごせない冷たい色が載っていて……だから、黙っているわけにはいかなかった。

 突如として湧き上がった強烈なまでの衝動に突き動かされるようにして、私の口は動いていた。

 

「……そんな簡単に、一人になろうとしないでよ、()()()()()()

「――――ぇ?」

 

 そのとき、おじさまが信じられないようなものを見たような顔をして息を呑んだ。

 

 同時に、周りの皆が呆気に取られているのがよくわかる。

 コイツは急に何を言っているのだと、そう言われても仕方がないような突飛な行動をしている自覚はあった。

 そもそも、自分でも不思議なくらいだった。

 まだ、2回しか会ったことのない相手に、これほど執着する理由が果たして私にあっただろうか?

 

「……ホシノの意見も、アリカの言葉も、どちらも間違っているわけじゃないと思う。その上で私は先生として、あなたたちを助けることができたらと思うよ」

「…………」

 

 おじさまは私と同様に静かに何かを考え込んでいて、場を整えようとする先生ちゃんの言葉に反応したのはおじさまの様子を心配そうに見ていたセリカちゃんだった。

 

「…………正直、急に現れた大人にそんなこと言われても信用なんて出来ないけど――まぁ、アリカに免じて、ちょっとぐらいなら信じてあげてもいいわ……ちょっとだけ、だけど」

「……セリカは素直じゃない」

「ちょっと、シロコ先輩!?」

「ふふっ……そこがまたセリカちゃんの可愛いところですよね〜」

「ノノミ先輩まで!?」

 

 騒がしい外界の音だけを左耳から右耳へと流し込みながら、内心で首を傾げる。

 自分の言葉に、発言に、行動に納得をしている。理解している。そこに後悔はなく、寧ろよくぞ言ってやったと清々しい気分すらあった。

 

 けど、確かな違和感がそこにある。

 

「――あれ、なんでだろ?」

 

 確かにそこにあったはずの衝動の原点は――何度探しても私の中に見つからないままだった。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 翌日。

 振り替え休日を頂いた私の姿はゲヘナ学園食堂にあった。

 

 鳴り止まぬ悲鳴と怒号。

 止まること知らない銃声。

 弾丸が飛び交い、至る所で爆発が起こる。

 

「…………なにこれ」

 

 言語では形容のし難いレベルで特徴的な呆れ目をしたフウカちゃんはその華奢で思ったよりも背丈の高い身体を縄でぐるぐる巻きにされていて。

 

「なるほど……珍しいこともあるものね」

 

 軍服風のいつものコートに身を包んだ可愛らしい妹はいつ見てもゴッツい愛銃を携え、その瞳を冷たく輝かせて。

 

「ふふふ……ちょっと話し合いとかどうです?」

 

 ダラダラと冷や汗を大量に流しながら、ぐるぐる巻きにされたフウカちゃんを横抱きにし、薄らと大翼に光を灯した私は不敵に笑ったのちに、情けなく停戦の申し込みをする。

 

「だめ。偶には痛い目を見るのも悪くないわよ」

「お姉ちゃん、ヒナちゃんは笑顔の方が可愛いと思う」

「大人しく捕まるなら、私も笑顔になるかもね」

「わーお、取りつく島もなし……」

 

 真顔のまま、ヒナちゃんが銃口を私へと向け直した。

 ヒナちゃんの後ろには顔見知りばかりの風紀委員会の皆の姿がズラリと並んでいて――あ、何人かは手を振ってくれてる。意外と和やかだ!?――いつでも発砲準備は完了しているようである。

 

「それで……降参する、アリカ?」

「お、お姉ちゃんの威厳を見せてあげるよ! いい感じに手加減してかかってきなさいな! 皆、怪我しないよう気をつけてね!」

「気が抜けること言わないで。気遣いはありがとう」

 

 ヒナちゃんの最後通告に否を叩きつけて、私は全てを諦めた顔をしているフウカちゃんを抱えて食堂から飛び出す。

 

「よーし、美食研究会、総員撤収!!!」

「「「「 了解〜!!! 」」」」

 

「全員、人質の安全に注意してアリカと美食研究会を取り押さえなさい!」

「「「はい、委員長!!!」」」

 

 そして程々に撃ち合いを続けていたハルナちゃん他3名の美食研究会の面々へと声をかけ、私たちのフウカちゃん誘拐大作戦は始まった。

 

 

 …………うん、何故にどうしてこうなった?

 

 

 

 

 

 








 原作開始時点の初期おじさんは絶対に後輩のバイト先を速攻で把握しているものと信じています。
 何故かゲヘナではっちゃけてますが、次話もきちんとアビドス編です。
 このタイミングのこのタイトルの並びでセリカ誘拐事件じゃないことあるんですね……とかいう作者も困惑の展開ですが、アビドス編です。
 

 感想評価、誤字脱字報告 いつもありがとうございます。
 モチベになりますのでお気軽に。
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