拝啓、  。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。   作:桜ナメコ

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 1場面しか書いてないはずが文字数が4000を超えていたので、キリの良い内に投稿します。
 保護者組と絡むと書きやすくてたまらない。
 
 



ACT.8「違法市場 ♯脱兎 ♯勝負 ♯銃という名の何か」

 

 

 

 

 

 

「わっ、きゃっ、あぶっ、ふぎゅ――いっったいなぁ、もう!」

「つまづいて、こけて、撃たれて……よく私を落とさず逃げれてるわね」

「私がフウカちゃんを落っことすわけないでしょ? 怪我の一つもさせてあげないんだから!」

「そ、そう……嬉しいけど、誘拐犯とは思えない台詞よ、それ」

 

 それを言われたら割と何も言い返せなくなるので、できれば見逃してもらえるとアリカさん的には嬉しいです。

 

「うぐっ……そ、それは、その……事情があって」

「……ま、今日はそういう日なんだろうなって朝からわかってたから、別に怒ってないけど」

「うぇ、バレてました……?」

「昨日寝る前に、ハルナが『明日の給食は作り置きのものをメインで用意することをお勧めします』ってわざわざ言いに来てたから……まぁ、ハルナにしては成長した方よ」

「せめてもの気遣いが実質的な犯行予告になってる!?」

 

 驚きの新事実が発覚する中、大勢の風紀委員会の皆が程良く弾幕を飛ばしてくる校内を私は全速力で走っていた。

 そう、走っているのである。飛ぶのではなく。しっかりと、この細っこい両足で大地を踏みしめ、校舎の中を駆け回る。

 ……まぁ、後方の様子を確認しながら時々、翼で加速を入れるのはご愛嬌として貰いたい。こうでもしないとヒナちゃんには普通に追いつかれちゃうし。

 

 わざと追いかけられるように逃げ続けるというのも、中々に苦労する。

 そりゃ対ヒナちゃん撤退戦なのだから、ある程度の苦労は承知の上だったが、想像以上に集中力が擦り減る任務だ。

 

「あー、アリカちゃんだぁ! はろはろ〜、なんだか大変そうだね!」

「キララちゃん、おっは〜! また今度ゆっくり話そーね!」

「うん、頑張ってー!」

 

 その途中、ピンク髪の友達ギャルに出会ったり。

 

「おや……今日も元気なようで何より。ただ、あまり騒ぎすぎないように」

「わぁ、アリカお姉ちゃんだ! 久しぶりだね〜!」

「イロハちゃんにイブキちゃん! 今度、遊びに行くよってマコトちゃんに伝えといてよ。残念ながら、今はちょっと忙しいんだけどッ!」

 

 おサボり上手な働き者と純粋無垢の小さな頑張り屋さんと挨拶を交わしたり。

 

「……いったい何をしてるんですか、アリカ。いえ、状況を見れば何をしたのかは瞭然ですが」

「あれ、チナツちゃん……今日は休暇なの?」

「いえ実働隊ではないというだけです。今、本隊に連絡を入れた所ですよ」

「ダメだ、職務に忠実すぎる」

 

 いい感じに追手を突き放した所で、偶々すれ違った風紀委員の友人にあっさりと通報されたりと――なんだか逃亡劇中に、随分と私の知り合いも増えたものだと感じ入ってしまいそうになる不思議な感慨を覚えたのだが、それはそれ。

 デフォルトで身体能力が超人的なキヴォトス人の身体を以ってしても、いい加減に疲れてきたなと思い始めた頃合いにて耳元の無線から、艶やかで冷たく澄んだ美しい声が聞こえてきた。

 

『アリカさん、陽動お疲れ様でした。こちらも安全圏への離脱の目処が立ちましたので、そろそろ本気を出して頂いて構いませんわ』

「はい、りょーかい! フウカちゃん、外飛び出すから舌噛まないように気をつけて!」

「怪我しないようにね」

「フウカちゃん好き〜」

「はいはい、私もだから前見なさい」

 

 ハルナちゃんからの指示を受け、フウカちゃんに愛を投げつけながら、私は近くの窓から校舎の外へと飛び立とうとして。

 

「させると思う?」

「うひゃっ!? 鼻先掠った! あっぶない!」

 

 単独で私に追いついたヒナちゃんの狙撃に脱出を阻まれた。

 

「び、ビックリしたぁ……」

「呑気なものね」

「えへへ…………あっ、UFO」

「通じるわけないでしょう?」

「あいたっ」

 

 ツッコミの代わりにそこそこな威力の弾丸を額に叩き込まれる。

 こっちがフウカちゃんをお姫様抱っこしているからといって、躊躇いなく無防備な頭に攻撃してくるのはお姉ちゃんちょっとどうかと思います。

 

「……というか、ヒナちゃん以外の子を振り切ったなら、もう私の勝ちでもよくないかなぁ!?」

「どんな理屈よ……」

「いや、だって今日、ヒナちゃんは現場班じゃないって聞いてたし。実質的に私たちの勝ちってことにしない?」

「外部に出るつもりがないだけ。こうも校内で騒ぎを起こされては、自分の手で鎮圧する他にないわ」

 

 淡々と正論を返しつつ、ヒナちゃんがゆっくりと距離を詰めてくる。

 すぐに増援が来ないことから察するに、支援要請は必要ないと判断されたのだろう。

 

「どうするの?」

「……外にさえ出られれば、ってとこかなぁ」

 

 耳元からフウカちゃんの囁き声。

 可愛さに浮かれて油断しそうになるが、なんとか理性を現実に引き戻す。

 

「それで、どうしてこんなことをしたの?」

 

 この距離ならば逃がさない。

 その確信を得たのだろう。

 銃を構えつつ、足を止めたヒナちゃんが誘拐なんてまねをした私へ素直に疑問をぶつけてきた。

 

「ま、ヒナちゃん相手だし別に隠すことでもないか……ちょっと建前が欲しくてさ」

「建前……?」

 

 あ、そのキョトンとした顔、とっても可愛いね。

 

「うん、フウカちゃんが私たちに誘拐されたっていう建前。これから、ハルナちゃんたちとブラックマーケット? にある屋台通りに出かける予定でね……折角ならフウカちゃんも連れていこうかなって。でも、普通に行くわけにもいかないでしょ? 違法な場所らしいし」

「……すごい複雑な感情になるんだけど」

「……なんとも気の抜ける理由ね」

 

 あまりにも気軽な理由での誘拐行動を叱るべきか、それとも誘拐という手段を選んでまで自分とご飯を一緒にしたいという好意に感謝をするべきか、葛藤するフウカちゃんを横目に心底呆れたとヒナちゃんがため息を吐いていた。

 え、何? 欠席届の偽造販売と同レベルの犯行だって? 何その可愛い犯罪、誰がやったのさ。

 

「ということで、忘れずにお土産買ってくるから外出の許可くれない?」

「あげない」

「だよねー」

 

 ならば仕方ない。

 

「……勝負しようか、ヒナちゃん」

「負ける気はしないけど?」

「ふふっ、あんまりそうやってアリカちゃんを甘く見てるとビックリするよ」

「痛い目を見る、じゃないのね」

「可愛い妹に痛い目にあって欲しくないからね」

 

 え、どうしたのフウカちゃん?

 そういうところよって何の話?

 

「…………私も妹を痛めつける趣味はないから安心しなさい」

「妹の発言が強者過ぎてお姉ちゃん泣きそう」

「……せめてどっちが妹かハッキリしてくれない?」

「「私がお姉ちゃん(姉)だけど???」」

 

 フウカちゃんの言葉に二人で返事をハモらせる。

 何でもないような雑談を続ける最中、二人ともがお互いに集中力を高めていっているのがよくわかった。

 

「……じゃあこの銃を私が上に投げるから、地面に落ちたら追いかけっこの仕切り直しってことで」

「わかったわ」

 

 未だに一発も撃ったことのない『銃』を手に取り、ヒナちゃんと視線を合わせてからぽーんと上へと投げ飛ばす。

 ほんの一瞬だけヒナちゃんの注意が逸れた。

 それを見逃すことなく、全神経を双翼へと集中させる。

 

「ふーかちゃん。目、閉じて」

「――うん」

 

 普段、飛行する際に翼へと向けている『何か』を過剰なまでに両の大翼へと溜め込み、凝縮し、弓の弦を引き絞るかのように、その瞬間が訪れるのを待ち構える。

 

「――ッ」

 

 落ちる。

 『銃』がゆっくりと。

 それでも確かに。

 止まることなくしっかりと。

 

 落ちる、おちる。

 時間が引き延ばされていく感覚。

 肌の感覚は敏感に。

 意識が鮮明に透き通る。

 

 おちる、おちる、おちる。

 ストンと全身の力を極限まで削ぎ落とす。

 余計なものは全て捨て去る。

 

 ほんの一瞬だけ、瞼を落とした。

 

「――」

 

 直後、かつんと乾いた硬い一つの音がする。

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 自身にできる最速で。

 ただ普段よりも少しだけ丁寧に。

 空崎ヒナは夢語アリカの制圧に動く。

 

 合図が鳴る。

 銃が床へと落ちた音。

 驚くことに反応速度は互角だった。

 

「……!」

 

 10メートルもないような、ヒナにとっては文字通りあってないような距離にいたはずの少女が前方に――自身に向かってくるようにして動き出したことに気がついて、彼女は二度目の驚愕を覚えた。

 

「――ッ!」

 

 けれども、大きな問題はない。

 意識が驚きに染まる中、反射的にヒナの身体は迎撃態勢へと既に移行していた。

 

 生憎と手加減はできそうにないが、幸いアリカの身体はそう柔らかくはない。

 本人の話では硬いときと柔らかいときの差が大きいという評価だったが、少なくとも明確な戦闘中において、ヒナはアリカが大きな怪我をしているところを見たことがなかった。

 

 気絶まではやむなし。

 そんな判断と少しの謝罪をしながらも、ヒナは引き金を引こうとする。

 だがしかし、武器も持たずに何を考えて――そんな思考が脳裏を過っていたからなのだろうか。

 

「――ぇ?」

 

 ソレを目にして、空崎ヒナは致命的なまでの隙をアリカに晒すことになる。

 

 こちらへと伸ばされたアリカの右腕。

 気がつけば、その手の中に無機質な黒のグリップは握られていて。

 銃を拾う動作なんて全く見えなかったというのに、右手には合図として投げられ地に落ちたはずのソレが存在していた。

 

 突きつけられた銃口。

 

 奇襲に次ぐ奇襲。

 幾度の驚愕を短時間で叩き込まれ、コンマ数秒、空崎ヒナは思考能力を完全に奪われる。

 

 結果、身体は回避行動を選択する。

 

「ま、撃つわけがないんだけどね」

 

 ――たとえ、彼女が自身へ発砲することなど有り得ないのだと頭が完全に理解していたとしても、もはや理性による制御から離れた身体は止まらない。

 

 大きく飛び跳ね、射線から逃れようとするヒナの身体は丁度、前方へと走り込んできたアリカの目の前を空けるような形となり、少女はこの一瞬の攻防で極上の助走路を勝ち取った。

 

 小さな背中と蒼銀の光を纏ったその双翼を見て、空崎ヒナは自身の敗北を確信する。

 正面から相対する分には何も問題ないとそう考えていたが、こうなって仕舞えば、ヒナに打てる手など残ってはいない。

 

「……はぁ……確かに、びっくりしたわ…………帰ってきたら反省文ね」

 

 どんな魔法を使ったのやら。

 初見殺しのような突撃だったとはいえ、負けは負けだ。

 

『……アリカを取り逃したわ。他の美食研究会のメンバーも離脱済みと判断。危険性の程度から追撃の必要はないと思われる。一旦、全員元の仕事に戻って』

『『『 了解です! 委員長! 』』』

 

 主戦場となった食堂の環境が荒れてしまったことについては、美食研究会とフウカに任せてどうにかなるレベルだ。

 無線での情報整理によって判明した今回の騒動の被害は驚くほどに少なかった。

 

 それほど気に留めることではあるまい。

 それよりも次の仕事を、と思考をすぐに切り替えたヒナは気づかない。

 

「やっと……やっと、尻尾を出しましたね……夢語アリカ! ヒナ委員長を誑かしたあの女も、これでもうお終いです! 見ていてください、委員長……ようやくあの女の魔の手から委員長を守れる日が――」

 

 暴走癖のある自身の優秀な部下が不穏な呟きをこぼしていたことに。

 

 

 

 

 

 






 バレンタインのバの字もないお話でした。
 チョコ食いたい。
 
 
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