拝啓、 。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。 作:桜ナメコ
「脱出完了! お待たせ、ハルナちゃん!」
「ええ、ご無事で何よりです。フウカさんもその様子を見るに既に事情説明は受けた後のようですわね」
「全肯定はしないからね……後で片付け手伝いなさいよ」
「ふふっ、勿論です」
どう足掻いても、何故か手元に戻ってくる不思議な『銃』のおかげでヒナちゃんの意表をつくことに成功した私は、幸運にもフウカちゃん誘拐作戦を完璧に成功させることができた……はいそこ、呪いの銃とか言わないの。実は私も薄々思ってはいるんだから。
一度、適当な場所に降り、フウカちゃんを縛っていた縄を解いてから、ハルナちゃんが送ってくれた座標へと向かえば、そこには笑顔で私たちを出迎えるハルナちゃんと当然のような顔で給食部のトラックのハンドルを握るアカちゃんたち美食研究会の姿がありました。
「ふふっ、トラックお借りしていますよ」
「……もはや壊さないで返してくれるならいいんじゃないかなと思い始めてた自分に気がついて、今絶望しているわ」
「元気出しなさいよ、フウカ」
「給食部の部長さん、お腹減ってるの? ミント風味のハンバーガー、一口だけ分けてあげようか?」
「それとも、運転席を代わりましょうか? フウカさん」
「……違うでしょ。気遣うべきはそこじゃないわよ……あとハンバーガーはいらない。気持ちだけ受け取っておくから」
アカちゃんたちにジト目を向けるツンツンモードなフウカちゃん。
長時間のグルグル巻きが負担になっていないか心配だったので、フウカちゃんにバレないようにじぃと全身を見回していると、コホンとハルナちゃんの咳払いが聞こえてきた。
「……さて、では休憩の暇もなく申し訳ありませんが、早速移動を始めましょうか。時間は有限ですから」
「それはいいけど、一台で全員乗れるかな?」
給食部のトラックはそこまで大人数での搭乗を想定していない。
6人となると、全力でぎゅうぎゅう詰めに座れば何とか、といった具合だろうか?
短い距離なら私が1人を抱えて空を飛べば済む話だが、ブラックマーケットとやらがあるのはかなり遠くの方だという。
アビドスと同程度の距離ならば無理とは言わないが、往復を前提に考えるとそれなりの重労働になるのは目に見えていた。
フウカちゃんの疑問に対して、イズミちゃんはトラックの陰に隠すように停められていた二輪車を引っ張り出してくる。
「当然、バイクの準備も万全ですわ」
「ハルナ、明日のデザート抜きね」
「じょ、冗談ですよね……?」
ふふん、と胸を張って答えたハルナちゃんがフウカちゃんの言葉を聞いて、顔を真っ青にしていたけど、無許可で備品を掻っ攫ってきたらしいので一先ず擁護は置いておこう。こっそり半分こしようね。
「……トラックだけじゃなく遂にバイクまで……はぁ……仕方ない。アリカ、後ろに乗る?」
「いいの? やったぁ!」
「うん。しっかり掴まって」
バイクのエンジンをかけたフウカちゃんの背中へと飛びつき、むぎゅりと抱きつくと彼女は暑苦しいわよ、なんて言いながらとっても素敵な笑顔を浮かべてくれた。とっても可愛い。お羽で抱っこまでしちゃったよね。
「――ッ!?」
「ちょっとハルナー? いつまで固まってるのよ! 置いてくわよー!」
「あら、珍しい姿ですね⭐︎ 本当、ハルナはあの二人に弱いんですから」
「最近のハルナはこんなのばっかで私はもう見慣れちゃったぐらいだよ!」
フウカちゃんに叱られて茫然自失状態にあったハルナちゃんが意識を取り戻し、バイクに乗る私たちの姿を視認して、直後、再び彼女の動きが硬直する。
さては、フウカちゃんと私の可愛さ盛り盛りハッピーセットに悩殺されちゃったに違いないね。
「ちょっとハルナ? 総ツッコミ受けてるけど、大丈夫?」
「……私もバイクの運転練習をするべきでしょうか」
「ああ、うん。大丈夫そうね。心配して損した」
どことなく釈然としていなさそうなハルナちゃんをトラックの助手席に乗せてから、ようやく私たちは移動を開始する。
目的地は連邦生徒会の手すら及ばないという一定の秩序を基に存在する無法地帯ことブラックマーケット。
「フウカちゃん、危ない場所だから、着いたらハルナちゃんを真ん中にして手を繋ごう」
「……それは名案ね」
到着後、ハルナちゃんの機嫌が一瞬にして最高の状態へと更新されたことは言うまでもあるまい。
✳︎
「フウカさん、次はこちらです! あの屋台、間違いありません! 店主が気まぐれで営業時間を決めているという滅多にお目にかかれない串焼き屋さんです! この機会を逃す手はありませんよ!」
「フウカちゃん、フウカちゃん! クレープ! クレープあるよ! 一緒に分けっこにしよ! あずきホイップにチョコバナナ、苺たっぷりも美味しそうだよね!」
「ふ、二人とも、ちょっと落ち着いて……!」
もはや二児の母にしか見えなくなってしまったフウカの様子を眺めつつ、赤司ジュンコはみたらし団子を口に運んだ。美味しい。
先程まではハルナを真ん中にして歩いていた彼女たちだが、ハルナとアリカが興味のある方にあっちへこっちへとフウカの手を引いて歩くため、今ではフウカを真ん中とした横一列がデフォルトとなっている。
邪魔にならないようにとフウカが注意をすると、アリカが満面の笑みで手繋ぎから腕組みへと移行した。悪ノリする形でハルナも同じような姿勢を取ると、茹で上がったタコのような状態のフウカが出来上がりというわけだ。あの二人、無駄に尋常ではないほど顔がいいので刺激が強いのである。
なんだか、たこ焼きが食べたくなってきた。
ここがブラックマーケットだというのをつい忘れてしまいそうになるほど、ほのぼのとした光景が目の前には広がっているわけなのだが、少し周りを見渡してみれば道を闊歩しているのはスケバンやらヘルメット団などの不良生徒ばかりだった。
いくら治安が悪いといえどゲヘナでも中々にお目にかかれない不良率だろう。
「……いつもよりちょっと騒がしい?」
何気なく辺りを見渡して、周辺の雰囲気が少しばかり物々しくなっているような感想を覚えた。
いつでも臨戦態勢へと移行できるように武器の様子を確かめながらも、団子を食べ進める。
「あら、ジュンコさんも気づきました? どうやら何かあったようですね⭐︎ この方向ですと……銀行の方でしょうか?」
「……まぁ、私たちに関係はないでしょ。この銀行で騒ぎを起こすのは大物だとは思うけど」
一瞬、アカリの瞳が薄ピンクの輝きを灯していたように見えたが、気のせいだろう。
屋台通りでの3人デートに浮かれて普段の聡明さが剥がれ落ちつつあるリーダーの少女は、まだブラックマーケットの異変に気がついていないように映る。
「…………まぁ、何かあっても私たちだけで対処できるわよ。今回はヒナの襲撃を考えなくていいから気が楽でいいわね」
残っていた最後の団子を口にして、のんびりとした心持ちのまま思考する。
考えるのは目の前にて、アリカからクレープを"あーん"されて顔を真っ赤にしている彼女についてだった。
(なんだかんだいってギリギリ多分一応は)頼れる年上の先輩であったハルナだが、ここ最近は色恋沙汰に一喜一憂する年相応の乙女のような姿をよく晒すようになった。
その姿を面白がるアカリに、何をしているのだろうと呆れ半分、疑問半分なイズミ。
ジュンコ自身といえば、そんなハルナの姿には少々の困惑と微笑ましさを覚えてしまっている。
……悪いことでは、ないのだろうけど。
どこか引っかかる所があるのは事実だった。
「あっ、ジュンコちゃん、串貰うよ! 向こうの方にゴミ箱みっけた! ここ、意外と皆マナーいいんだね」
「……あ、ありがとう」
皆の分の紙皿やら何やらをまとめて回収していたアリカに団子の串を渡す。
うきうきで遠くへ離れていく彼女の背中を、隣にいたアカリが追った。
「なら私も一緒に行きますよ、リカちゃん」
「アカちゃんってば心配性〜。えへへっ、ありがとね!」
結局、アカリが護衛についていくのなら自分で行った方がよかったのに、なんて考えを浮かべつつも、その場で彼女らが帰ってくるのを待っていると、ふらりと傍にやってきたハルナの声が聞こえてくる。
「浮かない顔をしていますね、ジュンコさん。何か悩みごとですか?」
「……別に悩んでなんかいないけど」
「……そうでしたか。それなら良いのですが」
実際、悩んでいるわけではない。
ただ少し、これまでのジュンコの中にあったハルナのイメージと現在の彼女の姿の間に乖離が生まれてしまっているだけで、そこに善も悪もないのは確かだ。
困ったように笑うハルナを見て、僅かに申し訳なさを覚える。
自分の中でも感情の整理がついていないのだから、彼女に満足のゆく説明を行えないのは言わずもがなだった。
「ハルナは……アリカと出会って変わったわね」
「……そう、ですか? ええ、まぁ……確かに言われてみれば、心当たりの一つや二つは思い浮かびますが」
指摘されるほどの変化でしょうか、と思案するハルナを見て首を横に振った。
何もそれは彼女に反省を促すために放った一言ではなかったから。
ふと、彼女の状態にピタリと当て嵌まる表現を思い出した。
丸くなった。
良くも悪くも、常識的かつ穏健的に。
より正確にいえば、今のハルナはアリカとフウカのスケールに自身を合わせているように見えた。そして、重要なのは本人がそれを苦に思っていないことなのだろう。
今までの彼女がおかしかったのだと、そんな常識的な意見は今更必要ない。
これまでジュンコは散々、彼女を筆頭にした美食研究会の3人に振り回されてきた。先輩である彼女らには悪いが、ジュンコはあの3人ほど倫理観を捨てた覚えがない。
平気で飲食店を爆破し、我が物顔で他校の自治区へと侵入し、事あるごとに給食部の部員を誘拐する。
全ては己が信じる美学が故に。
そんなハルナの考えが理解できずに頭が沸騰しそうになったことなんて、もはや数えきれないぐらいである。
今のハルナにはそれがない。
いや完全に根絶したわけではなく、極限まで薄れているというのが正確な表現だとは思うが、それはそれ。
決して悪くない変化だ。
そのはずだ。
頭では理解している。
でも、どうしてだろうか。
心のどこかにその変化を『つまらない』と感じている自分がいるのは。
✳︎
「……けぷっ、お腹いっぱい……美味しかったぁ」
「ふふっ、よかったわね……はい、お水」
「わ、ありがとね、フウカちゃん」
会計のほとんどはハルナちゃんが涼しい顔で請け負ってくれた。
申し訳ない、なんて思うことの方がよっぽどハルナちゃんに失礼だと思うので、目一杯に食べることを楽しみました私ちゃんことアリカちゃんです。
屋台通りから通り二、三本分は離れた露地裏で、私たちは食休みの時間をとっていた。
現在は食休みなんて概念とは縁遠そうなアカちゃんと、アカちゃんほどではなくとも大食いの気があるイズミちゃんが屋台通りに残っており、ここに居るのは既に腹の具合に満足しつつある残りの4人だった。
少しばかりジュンコちゃんの表情が晴れ晴れしたものでないことが気にかかるものの、ハルナちゃんが留意しているようなので、心配する必要はないだろう。
フウカちゃんといえば、屋台通りがブラックマーケットに存在するからか、彼女としても今日初めて出会った美食も少なくなかったとのことで。
「……やっぱりタレ? 市販のものじゃないのは確定だとして――」
訳ありの店主たちが磨き上げた秘伝の一品たちを前にして、料理人として良い刺激を貰ったようだ。家に帰ってからすぐに料理研究を始めかねない熱量である。
本当に料理のことが好きなんだなぁ、かっこいい横顔だなぁ、つの可愛いなぁとか思っていると「ちょっと見過ぎ」なんてジト目で言ってくる。かわいい。
とてもここが違法地区だとは思えないほどのんびりとした時間を過ごしていると、遠くの方から爆発音が聞こえてくる。
気を抜いたらすぐにコレだよ。流石のキヴォトスクオリティーだね、こんにゃろう。
「…………?」
「……!?」
爆発が起こった方向へと目を向ける。
それは私たちがつい先程まで食べ歩きを楽しんでいた場所――屋台通りが位置する方向だった。
「……! アリカさん、しばしの間、フウカさんを連れて上空へ退避を。ジュンコさんと私で状況を確認次第、可能であればアカリさんたちとの合流を図りますわ」
「……わかったわ」
「了解だよ。フウカちゃん、首に腕かけてね」
「うん……気をつけなさいよ、ハルナ」
「ええ、ご心配ありがとうございます」
迅速にかつ丁寧にフウカちゃんを横抱きに抱え上げ、むんと翼に気合を入れ直して地を蹴りつける。
上昇する視点。
ふわりという浮遊感にも慣れたものだ。
「……っと、この高さまでくれば、一安心かな」
「相変わらず、当たり前のように飛ぶわね……」
「ん……? まぁ、お羽がついてるからね」
「そういう話なのかな……?」
「え、私何か変なこと言った?」
「…………妙な所で頑固な思考してるのよね」
まったく変なフウカちゃんだなぁ。
「さてと、上から様子を見に行ってもいいけど……フウカちゃんも居るし、今回は大人しくしとこうかな」
「ハルナなら大丈夫よ。死んでも死なないような、なんて言葉があんなに似合う人も中々いないもの」
「わーお、軽めの暴言。確かにハルナちゃんならいつだって飄々としてそうだけど」
高度を維持したまま、空に大きく円を描くようにして飛行を続ける。
旋回しながら注意を均一に周囲一帯へと向けていると、視界の端の方で大きな爆発が起こったのが見えた。
「…………ッ! って、あれ? あそこ、屋台通りじゃ、ない?」
「まさか別件? 流石というか、納得というか……お手本のような治安の悪さしてるわね」
「
「ちょっとそれどういう意味!?」
ハルナちゃんたちの行動に支障は出ないだろうか、そんな確認をするために騒動の中心を視認するために高度を下げる。
文句ありげなフウカちゃんにペコペコと頭を下げて、お許しを頂けそうになった頃には爆発に関与したと思われる集団の捕捉は完了していた。
「…………フウカちゃん、一回降りるね」
「……? わかった」
フウカちゃんに一声かけてから、一気に高度を地面ギリギリまで落とし、徐々に速度を緩めて着陸する。
砂埃を立てて、着地した私を見て彼らは一斉に武器を向けてくる――あ、前科持ちの彼女だけはすぐに銃を下ろしてくれたみたい。デジャヴってやつだろうからね。
「……で、なんだけど」
私の姿を目視すると、彼女らの警戒はそっと和らいだ。
直後、その代わりとでもいうように何とも気まずい沈黙が場に満ちる。
私はフウカちゃんを下ろしてから、明らかに一人だけ尋常ではないほどの焦り方をしているその人に向けてジト目を送り、ゆっくりと口を開いた。
「こんなとこで何してんのさ、先生ちゃん」
「…………ぎ、銀行強盗……かな?」
「リンちゃん呼ぶけどいい?」
「ごめんなさい、それだけは許して!?」
いや、ほんとにアビドスの皆どうしちゃったのさ……一丁前に目出し帽なんかつけちゃって。
あ、紙袋の子は初めましてだね、こんにちは。
「えっ、今、と、飛んで、えっ、どこから!?」
「空から?」
「そうだけどそうじゃないです!」
元気いっぱいでよろしい。
感想評価・誤字報告 感謝しかないです。
毎回、熱心に「ここすき」機能を使ってくれている方がいるようで、更新の度に楽しみにしております。本当にありがとう。
以下 駄文。
原付・バイクの区分についてはいまいち自信がなかったので、呼称をバイクに統一。多分原付だよね、あれ。
本当は物理的に二人乗りが出来ませんとかだったら、脳内補完でフウカに抱きつきながらアリカがホバリングしてたことにしてください。
黒舘ハルナを書くのなら避けては通れないテロリスト問題について。
作者的にはテロリズムあってこそのハルナだと思うので、完全な善人として表現することはないと思います。本作ではかなりマイルドにしているつもりですが。
あと、凄い勝手な妄想ですが美食研の面々は大小の差があれど、ハルナの美食ファーストな在り方に脳を焼かれていて欲しい。
独立した思想を持ってる美食研の中で、敢えてハルナがリーダーとして描かれている理由を考えるとそんな個人的推論に至りました。
人の数だけ解釈の数があると思うので、そこはよしなに。
解釈違いのニキネキたちが居たのであれば、是非とも貴方なりの解釈を描いてみて頂きたいです。めちゃんこに興味あります。