拝啓、 。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。 作:桜ナメコ
ちょっと長め。
ブラックマーケット編ラスト
「――申し訳ありませんでした」
「えぇ……?」
そんな彼女の謝罪の言葉を耳にしてから数秒後、赤司ジュンコは思わず呆れの滲んだ声を溢した。
✳︎
モノローグより僅かに時間を遡り、視点はスーパーでハイパーな美少女のアリカちゃんこと私へと戻りまして。
ひょんなことから始まった私とワカモちゃんの喧嘩は長時間の激戦を経て、ついに新たなフェイズを迎えようとしていた。
「そもそも、なんでそんなに可愛い顔してるのに、変なとこで自信なくなるのさ……先生ちゃんなんて押してダメなんだから、もっと押さなきゃダメに決まってるでしょ!?」
ワカモちゃんのちょっと赤くなってしまったすべすべの頰を撫でながらそう言うと、呆れた顔で彼女は文句を言ってくる。
「どんな脳筋思考回路ですか……見るからに相思相愛の貴女方とは違うのです。こんな無法地帯で家族デートとか舐めてません? 危うく手が滑って先制攻撃を叩き込むところでした」
ぺしりと私の手を払いのけて、彼女はさらりと聞き逃すことのできない情報を付け足してきた。
「ちょっ、急にそんな危ないこと言わないでくれるかなぁ!? え、さっき見てたの? う、うわぁ……超浮かれてたの恥ずかしいんだけど!?」
「まったく、何が悲しくて他人のデートなんかを眺めなくてはならないのですか……チッ、思い出したら苛々してきました」
「八つ当たりが凄い……普通にデートに誘えば良いのに」
それができたら苦労しない、とため息一つで伝えられたような気がした。
「……あの方は貴女と違って、いつでも己の職務に精を出しているのですよ……そんな所も素敵ではありますが」
「今、私を刺す必要あったかなぁ……? まぁ、確かにそーゆーとこあるよね。そりゃ納得です」
「……理解者面するのやめてくれません?」
「わーお、嘘でしょ……結構本気で怒ってる」
「……そ、それに……私の方からいきなり声をかけるのは、その……少々はしたないような……は、恥ずかしい気持ちがですね……」
「乙女か」
「乙女ですが何か??」
そう。気がついた者もいるだろう。
私たちの争いは一周回ってワカモちゃんの恋愛相談編へと帰ってきていたのである。
ほら、そこで呑気に観戦してるアカちゃんたちも助け舟を出してくれて良いんだよ? え、見てる方が楽しい? 応援はしてあげるよって……対岸の火事扱いは酷くないかなぁ!?
こうなったのもつい先ほどのこと。
ぜぇ、はぁ……とお互いに息を切らし、ゆっくりと呼吸を整えている最中、冷静に考えてみると言い争いの原因が分からないことに気がつきまして。
迷うことなく私の方から一時停戦を申し込んだよね。私たち実は揃いも揃ってバカなんじゃないかな?
別に恋敵というわけでもないのに、どうしてほっぺの引っ張り合いにまで争いが発展してしまったのか…………平和なもんだなぁ。
「というか、ワカモちゃんって先生ちゃんの連絡先持ってるの? 教えてあげようか?」
「どうして貴女があの方の連絡先を……!?」
「いや、上司だからね? それに割と皆知ってるからね? 結構なフリー素材レベルだよ、あの人の存在って」
「なんて卑怯な……くっ、しかし! 背に腹は変えられない、ということですか……」
「聞いてる? 聞いてないね? ワカモちゃん、何度見てもお顔可愛いねぇ」
「だから、貴女に褒められても嬉しくないと言っていますよね!?」
「聞いてたんかい。ならちゃんと返事しなさいよ」
随分と都合の良い狐耳だこと。
モフモフで可愛いね。毛並み艶々で綺麗だね。仲良くなったら撫でさせてくれるかなぁ?
「視線がうるさいです」
「理不尽オブ理不尽!?」
ちょっ、痛い!? 本当に撃つじゃん!
本気のデコピンぐらいには痛かったんですけど? 手加減、上手だね君。
そんなこんなで完全に雑談フェイズへと移行し始めた矢先のこと。
視界の端の方で、もぞりと何かが動いた。
「……?」
「――ッ!」
私が首を傾げたと同時に、気配に勘づいたワカモちゃんは咄嗟に私を背後ろに隠す。
あらヤダ、かっこいい。この子、本当に敵だったんだよね……? あ、お面つけ直しちゃったんだ。またお顔見せてくれるといいなぁ。
「……な、にを……して、やがる、厄災の狐! 高い金を積んで、やっとあの忌々しいテロリストたちを罠に嵌めたんだ! お前も、さっさと取り分に見合った仕事をしろ!」
息も絶え絶えといった様子でそう叫んだのは、広場の隅で倒れ伏していた不良生徒の一人だった。
話し方から察するに、ヒフミちゃんが言っていた美食研究会襲撃作戦を画策したメンバーの中核人物と推測してもよさそうだ。
何にせよ、その生徒の発言で場の空気が一変したことに変わりはない。
「――ふむ……確かに、仮にも傭兵ですからね」
無機質な装填の音。
「一度は請け負った仕事をそう簡単に放り出しては、あの方にも顔向けが出来ませんか」
ワカモちゃんの視線の先には、こちらも既に臨戦態勢を整え終えている美食研究会の面々がいる。どうやら既にハルナちゃんも自分で移動できる程度には回復していたようだ。
「ま、待ってよ、ワカモちゃん。少し落ち着いて――」
「引っ込んでなさい。貴女は、対象外です」
「……ッ!」
獲物を逃がすつもりはない。
言葉の奥から強烈な意志が伝わってくる。
彼女自身の誇りをかけ、契約を全うするためにワカモちゃんは再び、ハルナちゃんへと銃を構えた。
訪れた急展開にして、突然のピンチに、鈍りかけていた思考を再加速させる。
どうする? 考えろ。急げ。早く。
何か……何かないか? できることは? やるべきことは?
そもそも、私は皆にどうなって欲しいのだろう?
戦ってどうなるんだ。家族と友達と、友達になりたい人の誰かが傷つくだけでしょ?
本当に、本当に皆をこのまま戦わせていいのか?
考えるまでもない。
「――いい、わけが……ないでしょ!」
「……貴女は本当に、私の言うことを聞いてくれませんね――そこを退きなさい、夢語アリカ」
両手と翼を広げての仁王立ち。
銃剣の剣先が触れるか触れないかの位置で、私はワカモちゃんの前に立ち塞がった。
「…………」
「貴女が相手なら、撃てないとでも?」
「ち、違う――舐めないで。そんなに私がワカモちゃんを馬鹿にしてるわけないでしょ」
「……では、どうするおつもりで?」
緊迫の一瞬。
次の言葉が後の全てを左右する。
本能も、理性も、私の全てがそう言っている。
少しの罪悪感を振り切って。
覚悟を決めた。
「……時間が、欲しい」
「――具体的に」
「5分――いや、3分でいい」
1秒、2秒と息の詰まる時間が過ぎる。
固唾を呑む。呼吸が震える。
しばらくして、はぁ……と露骨なぐらいのため息が聞こえた。
「勝手にしなさい」
「――ありがとう。絶対、無駄にしないから」
「おい!? 何を勝手に――!」
銃を下ろしたワカモちゃんに頭を下げてから、すぐさま私は
その傷だらけで一人では立つのもままならないといった様子で、抗議の声を上げていた不良生徒の元へと。
そして。
「――お願い。私に出来ることがあれば、何だってする。貴女たちの怒りも、思いも、全部ちゃんと受け止める。それを私の
深々と、頭を下げる。
謝罪――とは言えないだろう。
そもそも、相手がハルナちゃんたちを逆恨みしている可能性だって捨てきれないのだから。
何が悪いのかを知らないまま放った『ごめんなさい』なんて言葉は、ある種の侮辱に他ならない。
だから『お願い』だ。
まずはこれ以上、戦いたくないのだと。
その一心のみを伝えるための、私に出来る最大限の努力がコレだ。
ただ言葉で伝えるのみ。
頭を下げ、まずは話し合いをしましょうと。
「ふ、ふざけて――」
「ふざけてなんか、いない。信じられないなら、今すぐにでも撃っていい。それでも私は主張を変えたりはしないから」
真っ直ぐに目を見る。
言葉とは偉大な武器だ。
誰にだって扱えて、誰にだって効力がある。
危険で冷たく、柔らかで温かな、誰一人として完璧に操ることなどできない不完全な刃だ。
けれど、何故かいつだって手元に存在する得体の知れない『銃』なんかよりも、私にはその刃の方がよっぽど信じられるものだった。
「武力でしか、解決できない問題はきっとある。けど……今がそうだとは思わない。貴女たちも理由があって、こんなことをしたんでしょ? まずはちゃんとそれを聞かせて欲しい」
話を続ける毎にガリガリと精神力が削れていくのがわかる。
明言する。
このやり口が卑怯であることを私は自覚していた。
私は信じている。
無抵抗な相手に対して、その人の命に関わるようなレベルの重傷を問答無用で負わせられるほど、キヴォトスの生徒の根底は――◽️◽️の根底は悪に染まっていないのだと。
私は人の――◽️◽️の善性を信じている。
だからこそ、無策のまま、無警戒に、互いの手札の存在すら無視して堂々と交渉の席へと着こうとしている。
◽️◽️の善性に全ての判断を委ねるというクソみたいな◽️◽️のやり方で、私は本来であれば持ち得ない権利を強制的に用意させようとしているのだ。
性質の悪さは一級品。
裏を知っていれば、吐き気を催すほどの醜い交渉術。
なぜならそれは、突き詰めて言ってしまえば、自分を人質にした脅迫と何ら変わりがないのだから。
話し合いを所望する。
敵対行動はご自由に。
こちらに抵抗するつもりはない。
取り繕えば、それらは単なる綺麗事で。
穿った見方をすれば、それらは弁護のしようがないほどの悪質な罠だった。
「話し合いをして気に入らないことがあれば、そのときは今度こそ戦いを受け入れます……だから、一度だけ武器を下ろしてはくれないかな? 少しだけで構わないから」
それがどんなに卑怯で悪質だったとしても。
それでも、友人の誰にも傷ついて欲しくないというこの想いだけは本物だ。
「時間はあるのでしょう? お互いに、怪我人は少なく済むに越したことはないと思わない?」
目の前の不良生徒が怯んだのがわかった。
私の言葉に気圧され、その意志の中に生まれた揺らぎを見つけた瞬間、ダメ押しのように尤もらしい建前を提供する。
「――――ッ、少しだけ……だからな」
「ありがとう。とっても助かるよ」
我ながらとても褒められたやり方ではないな、と自嘲したくなる気持ちを抑えつつ、私は彼女にとびきりの笑顔を向けてやった。
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相手が◽️◽️だったのならば。
夢語アリカは決して、このような手段を用いることはなかっただろう。
流石の彼女もそこまで能天気じゃない。
単純な性質の話だけをするのなら、彼女はまず間違いなく、疑いようのないほどの善人だった。
ただし、結果に至るまでの過程において、在り方を変えることなく前へと進み続けるいう一点においては、彼女が信頼を寄せている同居人にも負けず劣らずの頑なさを持っていた。
諦めが悪く。
妥協を許さず。
謙虚に見えて傲慢で。
図太いようでその実繊細で。
無邪気さの裏には仄かな打算が隠れている。
端的に言ってただの馬鹿ではない。
無邪気で無防備。
このキヴォトスで人畜無害という言葉がトップクラスに似合う少女――それが、彼女を知る多くの者がイメージするアリカの人物像なのかもしれない。
間違ってはいない。
それもまた正しく彼女の持つ側面の一つであることは確かだろう。
けれど、彼女はさして悪意に疎いわけでもなく、また脳死で奇跡に夢を見ていられるほど楽観的なわけでもないのだ。
つまるところ、要するに。
これは、夢語アリカという少女が愚かしいほどに善良で、ほんの少しだけ腹黒く、このキヴォトスにおいてただ一人◽️◽️と◽️◽️の狭間に生きる凡人だったというだけのお話なのである。
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そうして現在、美食研究会(主にハルナの爆発テロ)の被害者たちによって結成されていたというブラックマーケットでの襲撃部隊の面々は、先程までワカモとの戦闘を行っていた広場に勢揃いしていた。
多少の時間はかかったが、アリカが主導となって屋台通りのあちこちで倒れていた彼女らを、手分けして広場へと回収してきたのである。
ぶつくさと文句を言われてはいたが、あの厄災の狐まで働かせていたのはアリカの手腕故だろう。どこで才能を発揮しているのやら。
これほど大勢の生徒たちを集めた張本人が何をしているのかといえば――
「……うん、こっちも大丈夫そう。追加の豚汁出来たよ、アリカ」
「ありがと! 流石だね、フウカちゃん!」
「…………どうして私までこんなことを」
「……ワカモちゃんってば、ビックリするほど割烹着が似合うね。良いお嫁さんになりそう」
「ぶちのめしますわよ」
「あらやだ本当に怖い」
芋煮会、ならぬ豚汁パーティーをゲリラ的に開催し、フウカと共にその配膳をしていた。いや、なんで?
突飛な状況変化には慣れている赤司ジュンコは大人しく理解を放棄して、豚汁を口にした。うん、美味しい。
「うーん、毎度のことながら美味しい。流石のフウカたんクオリティーだ」
「な、馴染み過ぎじゃないですか、先生? ……あっ、本当に美味しいですね!?」
視界の端の方では、シャーレの先生だという大人の女性とトリニティの制服を着た大人しそうな少女が、豚汁を味わっているのが見える。
その先生の隣には銃火器が山のように積み重なっている。それが意味するのは現在の状況が停戦状態にあるということ。
美食研究会も不良生徒たちも、あのワカモまでもが、今は銃を先生の管理下へ預けていた。なお、どうしても装備解除が不可能だったアリカのみは別である。
「さっきはありがとうね、お嬢ちゃん」
「ふふっ、困ったときはお互い様ですよー。あっ、モツ煮のおかわりいいですか?」
「ははっ、健啖家なのは良いことだ。大盛りにしてあげよう」
「ありがとうございます⭐︎」
「あっ、ずるい! 私も、私も食べたい!」
「あいよ。ちょいと待ってな」
少し目を離していただけのはずが、広場の中にはチラホラと屋台が出始めていて、遠くの方では見覚えのあり過ぎる金髪の生徒と灰色がかった髪の生徒がマイペースに食事を楽しんでいるのがわかった。
流石はブラックマーケットで商売を営んでいるだけのことはあるようで、商魂逞しいという言葉がよく似合う店主たちの様子がそこには広がっている。
いい加減にどうしてこんなことに、という疑問の答えは広場の中央に。
そこには豚汁を片手に真剣な顔で話し合いをするハルナと不良生徒たちの姿があった。
「平和的な解決。それがアリカさんからの提案です。私も可能な限り、その意向に沿って問題の解決を図りたいのですが……」
「今更、話し合いだぁ? ふざけんなよ、このグルメテロリスト! 誰のせいで私のバ先が吹き飛んだと思ってやがる!」
「私なんて何もしてねぇのに爆風で店の外まで吹っ飛ばされたんだぞ! 今度はお前を爆弾に括り付けてやろうか!?」
「あたしが贔屓にしてた屋台だって、気づけば木っ端微塵になってやがった! 比喩でもなんでもない文字通りの木っ端微塵だよ! イカれてやがる!」
「…………ふむ、皆さん元気で何より。お一人ずつお話を伺うとしましょうか」
今にも暴動が起きそうなテンション感だが、ハルナの表情は全く変わらない。いつも通り、憎たらしいほど涼やかな顔をしていた。
「じ、じゃあ、私から! どうせあんたは私のことなんて覚えてないだろうけど、あんたのせいで私と私の友達は酷い目にあったんだから! この前、二人で遊びに行った料理店で、折角、奮発してオムライスを注文したのに――」
料理も食べられず、爆発により擦り傷を負い、友達と最悪の休暇を過ごしたと、割と正論でしかない不良生徒の文句にハルナは何かを思い出すように瞼を下ろす。
「……いいえ、確かに覚えていますよ。貴女と……そちらの方は、二ヶ月ほど前にミレニアム自治区の洋食店でご一緒しましたね」
「ぇ、嘘、なんで……?」
文句を言っていた少女と、手を向けられた不良生徒は驚愕で息を呑む。
「――真の美食とは、孤高であり普遍的でなくてはなりません。つまり、それは自己の中に確かな芯を持ちつつも、世界への寄り添いを決して怠らないということです」
唐突な持論の展開。
ぱちくり、と虚をつかれた不良生徒たちは瞬きを繰り返し、滔々と話を続けるハルナの顔へと目を向けた。
「価格やサービス、味や見栄えといった要素は確かに大切なものですが……美食家として、それが誰に届けたい一品であるのかを正しく捉えられなければ、料理人に無作法というものでしょう。理想と現実、マーケティング戦略と実態の差――その有様が美食という名に値するのかを考える上で、客層の把握など当然です」
そして、と彼女は言葉をつないだ。
「あの店はその名に値しなかった。食材の品質詐称、クリーンとは言えない営業形態、特定の相手に対する接待サービス……改めて爆破の理由を聞きたいのであれば、いつでもお話致しましょう。ですがその前に一つ話をさせてください」
一息入れて。
バカみたいに整った顔をしたその女性は、あっさりとその言葉を口にした。
「きっとその怒りは、私が不必要に貴方たちを傷つけてしまったが故のものなのでしょう。言い訳はしません。店を破壊するための爆発に貴女たちを巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした」
彼女が頭を下げた。
その瞬間をジュンコは呆然と見ていた。
聞き間違いだろうか?
謝った。
あの、ハルナが。
自らの行為を間違いだと認め――
「――――
……ですが?
何故、今この流れで、そのような言葉が彼女の口から飛び出てくるのだろうか。
「……え?」
「はい?」
「……ん??」
ハルナの謝罪に騒ついていた不良生徒たちも一斉に頭上へと疑問符を浮かべて、再びハルナの元へと視線を集中させる。
「私は後悔などしていません。何故ならば、私はただ私の信じる美食のために、その道を選び取っただけなのですから」
「…………えぇ?」
思わず、呆れの声が口から溢れる。
それと同時に「これでこそハルナだ」なんて考えが頭に浮かんでいたことに気がついて、ジュンコはつい笑ってしまったのだった。
✳︎
ハルナが嬉々として言葉を紡いでいく。
そこには何も恥じることはないのだと、自らの所業を誇りとすら思っていそうな彼女を前にして、誰も彼もが一斉に口を噤んだ。
悲しいことに人間というのは自らの常識の埒外に存在する"生き物"を見ると、無言のまま理解を放棄したくなる弱き生物だった。
「ええ、手段を変える。それはアリカさんとの約束であり、今の私の意思でもあります。これ以上は決して、無関係な犠牲者が出ないように最大限の努力を致しましょう」
これで十分でしょう? なんて何故か満足げにしている彼女の瞳を見て、誰かがようやく気がつく。
「も、もしかして、こいつ……私らに怪我をさせたことは悪いと思ってるが…………
「「「 !? 」」」
沈黙が場に満ちた。
妙な空気感など気にも留めずに、ハルナは決定的な言葉を彼女らへと口にする。
「…………? 何をそんな当然のことを? 爆破させる方に問題があるのは、考えるまでもないでしょうに?」
「ダメだコイツ本気の目をしてやがる!?」
武力による制圧も、言葉による説得も、人情に訴えかける感情論も、例えその全てが相手でも、彼女の意志を歪めることはできないのだ。
決して忘れてはならない。
そもそもの話――黒舘ハルナという少女があの空崎ヒナを相手にしても、全く動じることのなかった稀有な一例であるということを。
「さあ、お話の続きを聞きますわ。疑問があればお答えしましょう。私はただ真なる美食を追い求め、この世に存在する全ての美食を守りたいだけなのですから」
話し合いは既にハルナのペースになっていた。
被害者たちは半ばヤケクソのような心持ちにになって、口々に自身の遭遇したテロケースについて語り始める。
十数では留まらない勢いのソレらの苦情について、ハルナは冷静なまま事情説明を行っていき、次第に声が減り始める。
出された結論の全てが爆破テロであるという一点のみを除けば、ハルナの思考や推論はどれも理に適ったものが多く、不良生徒の中には彼女のことを見直した者も少なくなかった。美味くなければ即断で全部爆破! というわけではないことを知らない者も多いのだ。
なお、余談ではあるが、理由がふざけている爆破テロのほとんどは給食部(フウカ)への当てつけばかりであった。
そんな中、まだ溜飲の下がりきっていない不良生徒とハルナの口論を遠くの方から見ていた一人の少女がこっそりと笑みを浮かべていた。
「…………ん、よかった。やっぱり銃撃戦よりマシだよね……ハルナちゃんの誤解もちょっとは解けたみたいだし。ふふっ、時間くれてありがとね、ワカモちゃん」
「…………連絡先」
「え、自分で聞いてくればいーのに。先生ちゃん、あそこにいるよ?」
「踏み潰しますわよ?」
「怖いよ。泣くよ。ごめんじゃん」
✳︎
『アリカさんと美食……ですか? それは、私にとっては殆ど同じ意味の言葉なのですが……』
そんなハルナの言葉をふと思い出した。
それから私は何を聞いたのだったか。
『い、いえ! あ、アリカさんを食べるだなんて、そんなことは決して、決して考えたことはありませんわ!? ……確かに少し気にはなりますけど――ってそうではなく!』
弾丸を放つ。
両手から伝わる衝撃。
目標の消失を確認。
すぐさま反転して、走り出す。
『私にとっての美食――その要素として、彼女が決して欠けてはならないピースだとそういう意味での言葉です。ええ、それ以外に他意はありませんとも』
押し寄せる的。
撃って、撃って、撃って。
装填の最中、空を見上げた。
真紅に染まった空を見上げた。
『彼女と共に頂く食事は、それだけで幸せな気持ちになれるのです。まるでこれ以上はないとつい勘違いしてしまうほどに』
ああ、そうだ。
こちらが照れてしまうぐらいの惚気を聞いたのだ。
忘れていたのも納得だ。
直後、逆さまの銀星が天へと駆け上る様を目に焼き付けた。
もしも願いが叶うのなら。
また、皆でお腹いっぱい食事をしたいと。
ささやかな祈りを星に託した。
装填を終えて、走り出す。
そうして、今も尚、遙か上空で戦っている彼女らを想いながら――赤司ジュンコは戦い続けた。
感想評価、誤字脱字報告
いつもありがとうございます。
くっっっっっそ忙しくて趣味に手が回らない状態がしばらく続きそうです。ただでさえ亀投稿なのに、更にペースが落ちそうなのが目に見えてます。すまねぇ。
もし楽しみにしてくれている方が居るなら申し訳ない。せめて月に一回更新くらいできたらいいなぁと思ってはいます。
以下 駄文 メタ要素あり
ハルナ:ヒロイン枠としてどこまでテロリズムを許容するか悩みました。
「善意による破壊・理性的な暴走・ナチュラルに我欲的」
美食関係以外では基本的に面倒見の良い常識人。
この要素にプラスしてアリカ・フウカへの好感度補正を入れています。解釈違いの方はブラバか、今作ハルナという認識で読んでくれ。原作ハルナをそのままマイルドに、は設定として難しいと思うのです。
ジュンコ:イズミのエミュが難しいお陰で視点を背負わされがち。先生ちゃんに次ぐ二人目の未来視点描写。可愛い。いっぱい食べて、にこにこしててくれ。
ワカモ:お口わるわるで態度が甘々な狐。割烹着が似合う女の子ランキング上位ランカー
アカリ:モツ煮美味しい
ファウスト:豚汁美味しい
先生ちゃん:存在がフリー素材
フウカ:豚汁のお礼に秘伝のタレを味見できてご満悦。もはや存在が割烹着みたいなところがある割烹着が似合う女の子ランキング大本命。
アリカ:実は腹黒系な善性の塊とかいう面倒な性格してる