拝啓、  。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。   作:桜ナメコ

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 おまたせ。

 番外だけど、ほぼ本編導入なので悪しからず。
 
 一度目の忙しさのピークは超えました。
 二度目のピークが来る前に、筆が止まらないことを願います。






EX-01 act2

 

 

 

 

 これは、ちょっとした小話の後日談。

 今となっては少し懐かしいくらいの出会いの記憶。

 

 時間軸をぐいと遡り、物語の場面は私がまだ彼女のことをただの家出娘だと勘違いしていたあの頃へ。

 

「あれ、ヒナちゃん? どーしたの、こんなとこで。さては、寂しくてアリカお姉ちゃんに会いに来ちゃったなー?」

「…………どうして、あなたがここに居るのよ」

 

 ある日のお昼時――を少し過ぎたとき、閑散としてきた食堂にヒナちゃんは一人で現れた。今思えば、あの頃のヒナちゃんは激務続きで食事を取る時間すら十分になかったのだろう。

 

「え、そんな不思議そうな顔する? お姉ちゃん、フウカちゃんのお手伝いしてるだけよ?」

「確かここの生徒ではないと聞いていたけど、違ったかしら……あと、私はあなたの妹ではないわ」

「ん、その認識で間違いないよ。まぁ、ここの生徒じゃないのはヒナちゃんも一緒でしょ? 校則とか堅苦しいことは抜きにして、一緒にお皿洗いしません? あっ、家出は兎も角、学校のおサボりは程々にするんだよ」

「…………ツッコミ所が多過ぎる」

 

 こめかみに手を当て、遠い目をする少女。

 彼女はコホンと咳払いをしてから「もう何でもいいか」なんて小声でつぶやいてから、こちらを見た。

 

「はぁ…………まぁ、いいわ。何か余り物をもらえる?」

「はーい。フウカちゃん、ご注文のお姉ちゃんスペシャル一つ入りましたー!」

「余り物って言ったわよね……!?」

「ふふふ、特別サービスで私とお揃いの賄い定食だよ。完璧なぐらいの余り物です!」

「言ってて悲しくならない?」

「フウカちゃんのごはんはいつでも何でも美味しいので無問題!」

 

 ジト目を向けてくる妹に本日の給食のメインであるカレーライスとおまけのハムカツ(最近の冷凍食品は美味しいです)をプレゼントすると、彼女はくぅと小さくお腹を鳴らした。

 

「…………」

「ふふっ、いっぱいお食べ」

「……っ、いただきます」

 

 そんな怖い顔しなくてもいいのに。

 可愛くていいと思うけどなぁ。

 

「それで、高等部に何の用事? というか、ゲヘナ学園って中等部あったんだね」

「…………別に大したことじゃないわ」

「つれないなー。妹が頼ってくれなくて、お姉ちゃんは悲しいよ」

「……ん、誰が姉よ」

 

 もぐもぐと小さな口を動かし、こくんと嚥下。食事マナーに気を遣いながらもしっかりと文句を忘れないヒナちゃんを笑顔で眺めていると、彼女のスマホに連絡が入った。

 

「…………はぁ……食事の途中で申し訳ないけど、ここまでにするわ。せっかく用意して貰ったのに、ごめんなさい」

「うぇ、呼び出しでも食らったの? それにしても急だけど。ご飯ぐらい食べ終わってからでもいいんじゃない?」

「急用、だそうよ。早く行かないと」

「――そんな疲れたままの顔で?」

 

 一瞬、ヒナちゃんは目を大きく見開いた。

 

「…………もう行くから」

「はーい。無理しちゃダメだよー」

 

 言っても聞かない子だよね、君は。

 うん、そんな気はしてた。

 

 食器を片付け、手を洗う。

 厨房のフウカちゃんへと一声かけて、私は食堂を後にした。

 

「さてと、ヒナちゃんには悪いけど……おねーちゃんは、見ての通り、自分勝手で我儘な面の皮が分厚いただの美少女さんなんだよね」

 

 

 

 十数分後。

 

 

 

「なーにあれ、つっっっっよ。え、なんか私の妹超強くない? お姉ちゃんびっくり」

「……ええと、妹とは?」

「あの子、あの子! あの、デッカい銃ぶっ放してる白いモフモフな子。この前、妹にしたんだよね!」

「あ、なるほど。そういう……」

 

 ふむふむ、と頷きを繰り返したのは、私を後ろからすっぽりと抱き込むアカちゃんこと、鰐渕アカリちゃん。

 フウカちゃんが私のお目付け役として抜擢した通りすがりのテロリストである。通りすがりのテロリストって何ですか?

 

 

 

 

✳︎

 

 

 

 

「ちょっとヒナちゃん追いかけてきてもいいー?」

 

 なんて聞いた私へとフウカちゃんはすっごい渋面を浮かべていた。

 

「……風紀委員長がわざわざ呼び出される現場なんて、絶対に碌なものじゃないし……でも危ないからって止めれば、それこそヒナを連れ戻しに飛び出して行きそうだし……うーん、ハルナが暇してれば良いんだけど……」

 

 ぶつぶつと何かを考え込んでいるフウカちゃんを不思議に思っていると、お淑やかさと快活さが入り混じった耳心地の良い声が聞こえた。

 

「あら、ハルナがどうかしましたか?」

「――え?」

 

 振り向くとそこには金髪の映える彼女の姿。

 

「あ、アカちゃんだ! こんちゃ〜」

「あら、こんちゃ〜ですね、リカちゃん。ちょっと久しぶり、でしょうか」

「えへへ、そうかも? もっと構ってくれてもいーのよ?」

「またまた可愛いことを言ってくれますね〜」

 

 アカちゃんに頭を撫で撫でして貰うと、自分が今から何をしようとしていたのかを忘れてしまいそうになる。

 幸福感にぼうっとし始めた頭をフルフルと横に振り、コホンと一度咳払い。意識を現実へと引き戻してから、よいしょと話題も引っ張り戻す。

 

「フウカちゃん、ハルナちゃんがどうかしたの?」

「えっと……まぁ、アカリなら……大丈夫、だよね? ……よし、ねえアカリ、今から少し時間ある?」

「予定なら空いていますけど……丁度、お昼ご飯を済ませて、食休めに何か軽く摘めるものでも、と思っていた所ですので」

 

 食休めに軽食を挟むとはこれ如何に。

 まぁ、アカちゃんの胃袋については考えるだけ無駄である。ブラックホール搭載の美人さんとはよく言ったものだ。やけに美人なブラックホールだな、なんて考えた奴は前に出なさい。アリカちゃんが全力でグーパンをしてやろう。

 

 いっぱい食べる君が好きだよ。

 

「ふふっ、リカちゃんってば、またそんな可愛いことを」

「あ、ゾクっときたぁ……アカちゃんって感じがするぅ……」

 

 ピンクな瞳のアカちゃんと目が合い、何かが背筋にはしる。

 ぷるぷると震えていると、フウカちゃんの呆れ声が耳に届いた。

 

「はいはい、仲が良いのはわかったから……それじゃアカリ、今から少しの間アリカの護衛を任せてもいい?」

「はて……護衛、ですか? 構いませんが……因みに報酬は?」

「…………今度、一食、好きな物を満足するまで用意してあげる」

「あら、太っ腹ですね? では、任されました。ふふっ、友情って本当に素晴らしいですよね★」

「うぐ……は、早まったかなぁ……?」

 

 

 ✳︎

 

 

 そんなこんなで、ただ今戦場です。

 爆発だらけです。

 そこら中にドリルが転がっております。

 はい、そうです。お察しの通りです。

 皆さんご存知、暴れているのは温泉開発部です。

 

 ……ここ屋内だよ??? 

 

 せめてこの前みたいに爆発させるなら駐車場とかにして欲しいかなぁ……ああ、いや、別にアリカさん駐車場爆破を容認してるわけじゃないから、こっち向いてそんなに笑顔にならないでね、メグちゃん。

 

「アリカちゃん! やっほ〜、今日も温泉開発日和だね!」

「逆にいつなら温泉開発日和じゃないのさ、とツッコミたくなるような挨拶をありがとう……あの、君がこっちに来ると銃弾が追いかけてきちゃうのわかってます?」

 

 翼を広げて自分の身体と隣のアカちゃんを銃弾の雨から守りつつ、無邪気で真っ赤なワンコ娘にジト目を向けると、彼女はコテンと首を傾げた。

 

「アリカちゃんって、時々難しいこと言うよね」

「あ、うん、わかりやすく言うね。(私が)危ないから向こう行っておいで」

「えー、折角会えたのにー!」

「また今度落ち着いてから遊ぼうねー」

 

 素直さは美徳である。

 そうは思うが、私に言われるがままに治安維持を行なっている風紀委員会の方々の方に走っていくのはどうなんだろう。

 あっ、なんか普通に離脱できてそう。メグちゃんつっよいなぁ。

 

「リカちゃん、リカちゃん」

「ん……? あれま、ごめんねアカちゃん。息苦しくなかった?」

「大丈夫ですよ。護衛のつもりが守られてしまいましたねー」

 

 撤退していく温泉開発部の面々を見送りながら、ぼうっとしているとお羽抱っこ状態だったリカちゃんがつんと頰をつついてきた。

 慌ててパッと翼を広げると、さすさすと翼の角を撫でられる。なんかモゾモゾして変な感じだから、やめて欲しい……ちょっぴり癖になりそうなゾワゾワ感があるのが、余計に危ない感じがします! これ、ダメです! 禁止!

 

「で、なんだけどさ」

「はて、何でしょう?」

「なーんで、私たち今、あの子たちに銃向けられているんだろう」

「うーん、さっぱりわかりませんね★」

 

 銃を構える風紀委員会の方々。

 銃口は完璧に私とアカちゃんを捉えている。

 

「あ、あのー! お話とかどうですかー?」

「手を上げろ! 何か不審な動きがあれば、直ぐにでも発砲する!」

「もしかして対話とかの文化知らない感じ???」

 

 言われるがままに、両手を上げた。

 ダメだ、完全に敵視されちゃってます。

 ……あの、確かに敵視はされてるけど、まだグレネード撃ち込むには早いからね? アカちゃん? 私の声、聞こえてます?

 

「おい、後ろに居るのは美食研究会の!」

「…………!? 応援を呼べ! 温泉開発部だけに構ってる場合じゃないぞ!」

「くそー! こっちの手が回らないことをわかって! 卑怯だぞ!」

 

 風紀委員会さんたちの動きが活発になる。

 火に油、なんてレベルの騒ぎじゃなくなって来た感じがしますね、はい。

 いや、はいじゃないが?

 

 ここから、入れる保険あるかなぁ。

 助けて、ハルナちゃん! って、ハルナちゃんが来たらいよいよ収集つかなくなるから、それはなし。

 

「どうしましょうか?」

「一旦捕まっちゃってもいいんじゃない? 悪いことしてないわけだし」

「うーん、確かにそうですが……リカちゃん、学籍は?」

「それを言われると、確かにまずいんだよねぇ……」

 

 くっ、せめてヒナちゃんがここに居てくれたら私が不審者じゃなくて、お姉ちゃんであることを証言してくれたのに! カスミちゃんのバカ! なんで、ヒナちゃんと追いかけっこ始めちゃうのさ! ……すんごい泣き顔だったけど大丈夫だよね?

 

「……まぁ、実のところ、逃げるだけでいいならどうにでもなるんだけど」

 

 ばさり、と大翼を動かす。

 確かに、と頷いてアカちゃんは銃を下ろした。

 ちょっとの時間、考える。

 うん、決めた。

 

「けど、可能な限り、冤罪は解いておきたい気持ちもあるからなぁ…………ねぇ、アカちゃん、お願いが」

「――どちらでも。リカちゃんが望むように」

「……! ふふっ、ありがと」

 

 両手を上げたまま、ゆっくりと前へと歩き出す。途端、前方からガチャリというリロードの音が幾つも重なって聞こえてくる。

 

「お、おい! お前、今の話を聞いて――」

「ん、どーぞ。腕とか縛っとく? 何もしないけど、その方が安心かな?」

 

 はい、どーぞと一番近くの風紀委員会の子に両手を向ける。綺麗な銀髪をツインテにまとめたその子は私の顔と無防備に差し出された腕へと交互に視線を反復横跳びさせていた。

 

「じゃ、じゃあ……その、縛るぞ……し、縛るからな?」

「ふふっ、あんまキツくしたらダメよ? 跡になっちゃうと心配させちゃうし…………あっ、代わりにと言っては何だけど、アカちゃんには何もしないで欲しいかな。アカちゃんにとって、私は有効な人質としての価値ぐらいはあるんじゃないかなって少しは自惚れてみたいのです」

「……そう言われては、私も下手な抵抗は出来ませんね★ そこの方、少し私の銃を預かっていてください」

 

 温泉開発部の残した資材から、そこそこ丈夫そうなロープを見つけ出し、風紀委員会の女の子は私の腕を慎重に縛る。

 アカちゃんは望んで武器を手渡すことで、自ら無力化されて私の後ろを着いてきてくれた。

 

「じゃ、ゆっくりお話できるとこに行こっか? 誤解させるような所に居た私たちにも悪い所はあったしね」

「な、何なんだ、こいつ……や、やりにくい……!」

 

 ゲヘナらしくない……見た目も、性格も。

 どこかふわふわとした雰囲気の美少女を前に銀鏡イオリは終始ペースを乱されながらも、職務を全うするのだった。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 風紀委員会 本部

 

「何で居るの……というか何してるの、貴女」

「あっ、ヒナちゃんだ。えへへ、さっきぶりだねー!」

「……ええ、そうね。で、何してるの?」

 

 ヒナちゃんってば、そんなにため息が多いと幸せが逃げちゃうよ……逃げ出した幸せの分だけ、お姉ちゃんが君を幸せにしてあげるから、安心してね!

 

「…………! あまり恥ずかしいことを言わないで」

「えー、そんな変なこと言ってないのに……あっ、ここ行けそう」

 

 ムッとした顔で、ちょっと頰を朱色に染める妹がやっぱり可愛い。具体的言えば私と同じぐらい可愛い。

 

「あら、流石リカちゃん。やりますねー……っと、こんにちは、ヒナさん。お邪魔しています」

「アカリ……ハルナは居ないのね」

「ええ、今日は個人的にリカちゃんに付き合っていたので…………ここは大胆に――うん。完璧、です」

「個人的に……? まぁ、いいわ……それで、何をしているの?」

 

 アカちゃんを見て、眉を顰めるヒナちゃん。

 何か気になることでもあったのだろうか? まぁ、ボランティアで高校生の治安維持班に参加するぐらいだし、ナチュラルテロリストなアカちゃんと相性が悪い可能性は十二分にありえるだろう。

 

「くっ、風紀委員として、こんなテロリストに負けるわけには――そこッ! ふふっ、これでどうだ、アリカちゃん!」

「わーお、びっくり。そこ抜けるんだ!? 天才的だね、イオリちゃん!」

「これが風紀委員の――って、ヒナ委員長? いつの間に」

 

 コホン、という咳払いがよく響いた。

 しんと鎮まる室内。

 一瞬にして、場の緊張感が高まる。

 

「ねぇ、アリカ――何を、しているの?」

 

「えっ、ジェンガだけど? ヒナちゃんもやる?」

「やらない――あとイオリは後で反省文」

「委員長!?」

 

 ヒナちゃん、それはちょっと可哀想じゃない? 歳上に容赦ないのは、経験則から知ってたけどさ。

 

 数分後。

 

「はぁ……つまり、アリカは私を追いかけて事件現場にやってきて、温泉開発部の知り合いと話している所を目撃されたことで共犯と疑われ、冤罪を晴らすために無抵抗で連行されて、冤罪を証明した後にジェンガで遊んでいたと」

「ヒナちゃん、状況まとめるの上手だね」

「うるさい。茶々を入れるくらいなら、大人しくジェンガでもしていて」

「妹の塩対応が止まらない……!?」

「誰が姉よ」

 

 またも深いため息を吐くヒナちゃん。

 幸せな逃げていく理由が私にある気がして、さっきの幸せにしてあげるよ宣言がマッチポンプでしかないことについては、気にしちゃいけない。

 

「アリカが迷惑をかけたわね、アカリ、イオリ」

「へえ……そうなるんですね★ やはり、リカちゃんは興味深いです」

「い、いえ、委員長に謝られることではなく…………えっ、姉? この人が、委員長の?」

「その妄言については気にしなくていい。どちらかと言えば、私が姉だから」

「なる、ほど……? えっ、はい???」

 

 ヒナちゃんがペコリと頭を下げたところで、一旦、話はひと段落を迎えた。

 何故か困惑し続けているイオリちゃんを横目に、ヒナちゃんが私の両頰をぷにぷにと引っ張ってくる。

 

「なんで着いて来たのよ……危ないでしょう」

「むう、自分のことを棚に上げるの良くないよ。おねーちゃん、そういうとこはヒナちゃんの悪癖だと思うな」

「私も、貴女の無鉄砲な所は悪癖の一つだと感じている。大体、この前の落下だって私が居なければ、どうなっていたことか」

「それは、それ。これはこれ……とはならない?」

「ならない」

「ありゃ、手厳しい」

 

 ローテンポに言い争いをする私たちをアカちゃんが柔らかな微笑みを浮かべて眺めていた。

 

「――さて、それじゃ本題に戻ろうかな」

「「「本題?」」」

 

 ヒナちゃんにアカちゃん、イオリちゃんまでもが、不思議そうな顔で私を見る。

 

「やだなぁ、そんな目で見ないでよ。まさか、私が何の理由もなくヒナちゃんのことを追いかけてたとでも思ってたのー?」

「「「……………………」」」

「ちょ、お姉ちゃんは断固として抗議するよ!? 心外、此処に極まれりだよ! 不貞寝してやるんだからね、もう!」

 

 私のことを何だと思っているんだ、全く。

 大事な理由があったに決まっているでしょ。

 

「アリカ、悪かったから機嫌を直して」

「つーん」

 

「リカちゃん、起きないと翼をこしょこしょですよー?」

「ちょ、そ、それはなし! ダメ! ズルだから! 本当に怒るからね!?」

 

「え、えっと、機嫌を取るとか……どうすれば……あ、アリカちゃん、飴とか食べる?」

「えっ、飴! いいの!? っ、じゃなかった! 不貞寝です、不貞寝中ですから……ぽ、ポケットとかに入れてくれても、いいんだよ?」

 

 ()のように硬い意志で、不貞寝敢行を続けていると、背後で三人が小声の作戦会議をしているのがわかった。

 天の岩戸みたいだなぁ、なんて天照気分を楽しんでいると、耳元にちょっと低めで透き通った囁き声が聞こえて来る。

 

「お、起きてくれないと、嫌いになるよ……お、お姉ちゃん」

「起きた! 起きました! 私が、ヒナちゃんのお姉ちゃんです! えへへ!」

「――ッ、うるさい黙って、さっさと本題とやらに入ってくれる?」

「はーい、えへへっ、ほっぺゆるゆるになっちゃうよ……ふへへ」

 

 背後からの「なんて単純なやつ……!?」「そこが可愛いところですよねー」「そうかな? そうかも……?」なんて会話を聞き流しつつ、ヒナちゃんをギュッと抱きしめていると、三秒ほどで引き剥がされた。

 

「じゃ、本題ね。まぁ、実は大事なことではあるけれど、大したことじゃないのです」

「…………?」

 

 疑問符を浮かべたヒナちゃんの手を取る。

 それから、部室の外へと歩き出すのだ。

 

「お昼ごはん、まだ途中でしょ? 食べなきゃダメだよ。食事は元気の源だからね。疎かにしてたら倒れちゃう」

 

 意表を突かれたようなキョトンとした顔。

 瞬きをパチパチと繰り返す。

 イオリちゃんも似たような表情を浮かべる中、満面の笑みを浮かべていたアカちゃんが対象的だった。

 

「ま、待って、アリカ……私、今から事後処理が――」

「そんなの、後でもいいでしょー? というかボランティアなんだから、年下のヒナちゃんが無理するのも変な話じゃない?」

「いや、違っ……私、本当は――」

「いいから、いいから! ほら、行くよー」

「ちょっと、話を……! なんか力強くない……!?」

 

 やけに抵抗するヒナちゃんを、翼の助けも借りつつ引っ張って食堂へと向かう……ぐぬ、流石ヒナちゃん、抵抗が強い! なんて頑固な女の子なんだ……!

 

「ボランティア……? 年下……?」

「うわ、委員長が力比べで負けてる姿なんて、初めて見た……えっ、アリカちゃんってあんなに強いの!?」

 

 マズいぞ、思ったよりもヒナちゃんが強い。

 集中しないと、身体ごと持っていかれそうなこの感覚は……釣りで大物を釣り上げる瞬間と近しいものがある。余裕がなくなり、段々と外野からの声が聞こえなくなってきた。

 

「ぐぬぬっ……お姉ちゃん、不健康は許さないんだからね!」

「だ、から……話を、聞きなさいって!!!」

 

 段々、私の身体が浮き始める。

 完全に翼の力に頼り始めた私に対して、ヒナちゃんは腰を落とし、踏ん張りに力を入れ直す。

 ヒートアップしていく力比べ。

 足場の床には放射線状の亀裂が走り始める。

 

 そんな頃合いだった。

 

「――ちょ、ちょっと! 貴女、ヒナ委員長に何をしているんですか!?」

 

 君が、天雨アコが、私の前に現れたのは。

 

 

 

 

 







 感想評価、誤字脱字報告 いつもありがとうございます。
 
 こんなにも、テンポも更新頻度も遅い拙作を楽しんでくださっている方がいるのであれば、有り難い限りです。

 

 






 いつも通り、どうでもいい蛇足のメタ話。

 本編のみで、アコちゃんとの関係性を補完できる気がしなかったため、1話分の番外編を挟ませて頂きました。
 次回より、本編に戻ります。
 



・アカリ→アリカの呼び方について。

 出会った直後は『リカさん』呼び。
 その後登場時は『リカちゃん』呼び。
 原作では、ハルナを呼び捨て。他は『さん』付け。(多分)

 ということで今回、呼び方を『さん』に変更をするか悩みました。

 元々はただのミスなのですが、私がエミュったアカリは割とノリと、個々人への友情を大切にするタイプでしたので、しつこいぐらいに『ちゃん』付けで呼んでくるアリカに対しては同じ『ちゃん』付けで話をするのでは、という結論に到達。
 初対面のみ『さん』、アリカパワーで『ちゃん』に変更。
 という過程があったことにして、このまま『ちゃん』付けで話を進めていきたいと思います。



 アリカ:実は馬力だけなら、ヒナと良い勝負。

 フウカ:今日も今日とて過労中。比較的、カレーは安牌メニュー。

 ヒナ:最近、妹のような何かが出来た……という自認に気づいて呆然。

 アカリ:後日、報酬として容赦なく手作りコロッケを選び、フウカを半泣きにさせる。

 メグ:赤色レトリバー。無事脱走に成功。

 カスミ:ヒナは無理。ほんと無理。頼むから無理。

 イオリ:ジェンガの才能アリ。反省文は許してもらえた。

 アコ:この人の為の一話なのに、一文しか出番がなかった。





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