拝啓、  。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。   作:桜ナメコ

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 難産でした。
 一万文字近いから許してクレメンス。

 ※注意
 アコちゃんへの独自解釈強めです。
 気になる方はブラバ推奨。




ACT.9「姉戦争 ♯状況整理 ♯宣誓 ♯奇遇」

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずは一旦のペースダウン。

 緊張感の破壊とスローテンポな事情聴取から始めよう。

 思考を回しつつ、口を開く。

 

「……あ、アリカちゃん!? どうしてここに!?」

「どうしても、こうしてもないけれど。私がここに居て何か問題でもある? というか、アビドス自治区に皆がいる理由を聞きたいのはこっちの方だよ」

「私たちは、その、そこの便利屋の身柄を確保するために……」

「……なる、ほど?」

 

 振り向くと、そこには見慣れぬ生徒たちの姿がある。その中で唯一どこかで見かけたような気がする爆弾魔系悪戯っ子が、ふりふりと手を振っていた。うむ、可愛い。あの集団が便利屋とやらと考えて良さそうか。

 

「…………」

 

 それはそれとして、着地と同時に私の腕の中から抜け出してから早々に臨戦態勢を取ろうとしたホシノちゃんのほっぺをふにふにと引っ張る。

 

「なに、ふるのは、あいははん」

「いやぁ、ぷにぷにしてるなぁって」

「…………ん、ありがと」

 

 ついと後方に後輩が居ることを視線で示せば、彼女はパチクリと瞬きをしてから気の抜けるような笑顔を見せる。

 

「――で、そろそろ、ラーメン屋さんを爆破した理由について詳しく」

 

 かなりの人数の風紀委員を引き連れて、こちらも臨戦態勢となっていたイオリちゃんへと言葉を投げた。

 

「…………そ、それは……その……」

「アリカさんは珍しくちょっぴりおこですよ、チナツちゃんにイオリちゃん。君たちそんなに無秩序な組織じゃないでしょ? どーしたのさ、これ」

 

 少なくとも、ヒナちゃん好みのやり方ではない。あの子、面倒臭い後始末が嫌いなのと元来の性根の良さのせいで、基本的に全ての作戦を無関係な人への被害を極限まで抑える方針で立案しているのだ。それも結果的にその皺寄せが自分に来ることを承知の上で。

 

 ほんのりと苛立ちを覚えた理由は、偶然にも本日ヒナちゃんが現場にいないことを知っていたから。

 彼女という個が居ないだけで、組織としての在り方が揺らぐことなどあってはならない。それを許してしまったら、いよいよヒナちゃんはこの場所から逃げることが出来なくなってしまう。

 

 だから、彼女らを通して問いかけた。

 きっとこの指令を送ったであろう少女へと。

 恐らくは、この世界で私が最も期待をしている相手でもある彼女へと。

 

「君たちは――君は、何をしているの?」

「「――ッ!?」」

 

 そのとき、ぽんと肩に手をのせられる。

 気がつくと、どこか呆れたような顔で私を見るホシノちゃんの姿があった。

 

「……アリカちゃん」

「……あ、ごめん。つい熱が入っちゃって」

「いいよ。私も気をつけよって思ったから」

 

 コホン、と咳払い。

 私が落ち着いたのを確認し、おずおずとチナツちゃんが説明を開始した。

 

「……イオリが先走ったことは認めます。その判断が、余計な被害を与えてしまったことも。ただ、これほどの規模の爆発が生じたのは私たちにとっても想定外でした」

「ふーむ、なるほど?」

「恐らくですが、そのラーメン屋には既に爆弾が設置されていたのではないでしょうか? その……確かに、最終的に刺激を与えたのは私たちなのですが」

「――だとしても、非戦闘員のいるお店に攻撃をしたことに関しては、君たちに落ち度があるよ。そこは間違えちゃいけない」

「…………ッ!」

 

 事情は理解した。

 牽制射撃、威嚇の予定が思いもよらぬ大爆発を引き起こした、ということだろうか。

 

 ……いや、それだけじゃないはずだ。

 もっと、何か確固たる理由があったはずだ。

 多少、強引でもこの付近での戦闘行為を正当化できるような、そんな理由が。

 

 そうじゃなきゃ、あの子はここまで大胆に動かない

 …………多分。いや、きっと。恐らくは。そうだと良いなぁ、とアリカさんは思っています。

 

 極端な例だが、例えば――この地域がブラックマーケットのように連邦生徒会の手から離れている地域である、なんて建前があったのであれば。

 

「……まぁ、今気にすることじゃないか」

「何か言った、アリカちゃん?」

「んー? なんでもないよ」

 

 こんな事件が起きてしまった要因について考えるのは、事件を収束させてからでも遅くない。

 

「……それじゃ、必ず店主さんには謝りに行くこと。許す許さないを判断する資格は私にないから。正直言って、こんな説教が出来るほど、出来た人間をしているつもりはないけれど――子供の間違いに見て見ぬ振りが出来るほど、非情なつもりもないんだよ」

 

 誰もが納得するような導きを与えられるほど、自分のことを高尚なものだとは思えない。

 あくまで私に出来ることは――いや、私がするべきことは、進むべき道がそれで間違っていないかと問いかけ、後ろを振り返るためのちょっとしたきっかけを与える程度に過ぎない。

 だって、しっかりと考え直して道を決めるだけの力を彼女たちは持っているはずだから。

 

「はい、そこー。どさくさに紛れて逃げ出しちゃダメだよ。ちゃんとおじさんは見てるからねー……それに今の話を聞く限り、君たちも爆発に無関係って感じじゃ無さそうだからね。大人しくしててよ」

 

 私の背中側に立っていたおじさまがのんびりとした口調のまま、隙を見計らっていた便利屋さんへと牽制を入れる。

 

「……あちゃー、バレちゃった。どうする、アルちゃん? どんどん、厄介そうなのが増えて来てるけど」

「逃げるのは……難しいかもね。逃げ切れても一人か二人が限界じゃないかな」

「わ、わ私が、囮になりましょうか……!? その、アル様だけでも……!」

 

 爆弾魔っ子にクールなお姉さん、小動物味のある女の子と、中々個性的なメンバーに囲まれた『アル』という名の赤髪の女子生徒は、キリッとした目つきで迷いなく言葉を返した。

 

「囮はナシ、逃走も一旦は考えなくていいわ。それに……あの話を聞かされて、責任を放り投げて逃げ出すような小物には成りたくないもの」

 

 ……あれま、随分と筋の通ったカッコいい女の子ですこと。ハルナちゃんと出会っていなかったら、うっかり惚れていたかもしれない。

 

 さて、戦闘一歩手前といった感じだった空気感に関しては、少しぐらい掻き消すことが出来ただろうか?

 それならば、私の出番もそろそろ終わりだ。

 子供同士の揉め事の解決に関しては、もっと相応しい人物がここにはいる。

 チラッと視線を送れば、軽い頷きが返ってくる。意思疎通がバッチリすぎて驚いちゃった。さては、私のこと好きだな。

 

「それじゃ場が落ち着いてきた所だし、ゆっくりとお話をしたいんだけど……皆、いいかな?」

 

 決して大柄ではないその身体。

 武力もなければ、財力がある訳でもない。

 ただの普通の人間だ。

 キヴォトス人に比べれば、弱っちいただの可愛い女の人だ。

 

 真っ直ぐと場の中心へと歩き出て来たその人は、やっぱり不思議なくらいに頼れる笑みを浮かべていて。

 

 

 

『――いいえ、その必要はありません』

 

 

 

 聞き覚えのある声が、先生ちゃんの提案を拒絶した。

 ホログラム越しに、見慣れた特徴しかない彼女の制服を映し出す。

 

 ああ、もう……本当に何をやっているんだ、君は。君が相手なら、アリカちゃん普通に怒るぞ。

 

 

 

 

 

 

「……君は?」

『初めまして、ですね。私はゲヘナ学園風紀委員会の行政官を務めています、天雨アコです。どうぞお見知り置きを。貴方が噂の連邦捜査部シャーレの先生ですね』

「初めまして、アコ。『噂の』かは知らなかったけど、私が先生で間違いないよ。よろしくね。それで……話し合いの必要がない、というのはどういう意味の言葉かな?」

 

 天雨アコ。

 それは私がこのキヴォトスで唯一、呼び捨てで名前を呼ぶことを決めている生徒。

 横乳丸出しのバカみたいな服、自他共に認めるヒナちゃん狂い、賢いくせに頭に血が上りやすく、仕事のストレスからか割とヒステリー気味である、なんて特徴が目一杯に詰め込まれたちょっと残念な可愛い女の子だ。

 

『必要がない――いいえ。正確に言えば、その余地がないというだけの話です』

「…………余地、がない?」

『ええ、譲歩なんてしてあげません。当然、シャーレの介入は想定内です……つまり、貴女がここに現れることは、私の狙い通りでした』

「アコの言う貴女って、私のこと……ではなさそうだけど……つまり――」

 

 嫌な予感がする。

 この襲撃の主目的がものっっっすごいくだらない私怨である可能性が濃厚になってきた。

 

 いや、そんなバカな話があってたまるか。

 ないない。流石のアコでもそれは無い。

 

 せめて便利屋の捕獲とか、最悪でも先生ちゃんの捕獲とか、そこら辺が主目的で、ついでに私へ文句をぶつけられたら万々歳! みたいなノリであるはずだ。頼むからそうであってくれ。

 

『ええ、はい。今となっては、便利屋もシャーレの先生も取るに足らない些事も同然……貴女です、貴女。ちょっと!? 何、目を逸らしているんですか、聞こえていますよね!? 全部全部、貴女が悪いんです! こっちを向きなさい! この、腹黒巨乳ロリ天使!』

 

 ダメだ。最悪の予想が的中した。

 

 というか、誰が腹黒巨乳ロリ天使だ。

 割と私の自認とのズレが小さいからこそ、腹が立つ。

 

「人聞きが悪い上に、恐ろしい程に中身が詰まってない言い掛かりを投げつけて来ないで欲しいんだけど……はぁ、それで、どうしたの、アコ」

『ふふっ、良いんですか、アリカさん。そんな軽口を叩ける余裕が今の貴女にあるとは思えませんけどね』

「確かに、既に戦慄しかけてるよ。まさか、ここまで残念な頭をしてるとは、アリカさん思ってもいなかった」

 

 先生やアビドスの皆が意外なものを見るかのような目で、私を見ているのがわかる。

 その中で、おじさまだけが、黒服とのやり取りを知っているからか「君たち仲良いねぇ」とでも言いたげな目をしているのが印象的だった。

 

『こちらには先日、アリカさんがゲヘナ学園で引き起こした誘拐事件の歴とした証拠があるんですよ!』

 

 胸を張って何を言い出すかと思えば……確かに事実だけど、明らかに茶番だったでしょーが、アレ。

 

「え、誘拐事件……? シャーレに帰ってからお話ね、アリカ」

「ん、流石、アリカ……後で話を聞かないと」

「ふふっ、アリカちゃんは大胆ですね〜♣︎」

 

「あの子、アルちゃんよりアウトロー何じゃない……? 可愛い見た目でよくやるねー」

「はぁ……アコは何してるのやら」

 

 なんか、背後からの騒めきがすごいぞー?

 フウカちゃん誘拐事件なんて、多分、毎月の恒例行事みたいなものだと思うから、こうも大事みたいに騒がれても実感がないんだよなぁ。

 

 そんなキラキラした目でこっち見ないでよ、シロコちゃん。アリカさん、ちょっと困ります……あと先生ちゃん、お説教は普通に嫌です。

 

『ただでさえ、学籍を持たずに無許可で学園に入り浸っている貴女がこのような不祥事に関わっていることが、もし万魔殿にでも知られたら……どうなるかは想像に易いと思いませんか?』

「マコトちゃんなら、二つ返事で許してくれると思うけど……? というか、既にイロハちゃんにはバレてるし。因みに、許可証ならこの前イブキちゃんに似顔絵付きのカード貰ったから、無問題なんだよね」

『うるさいです。今、反論も正論も聞きたくないので黙ってて下さい』

「凄いこと言うね、君???」

 

 そんな無敵モードに入られては、最早感心する他になかった。きっとお酒でも呑んだに違いない。じゃなきゃ、ウイスキーボンボンか何かを大量摂取したのだろう。

 というか、何だかアコの様子が本当におかしいような……顔色も良くはなさそうだし。

 ほんのりと心配の念が顔を覗かせる。

 抵抗は無駄らしいため、仕方なくアコの言葉に耳を傾ける姿勢をとったところで、彼女は勢いよく抱え込んでいたらしき文句を吐き出し始めた。

 

『――とにかく! 悪いのは、全部貴女のせいですから! だから、貴女は私の言うことを聞かなくちゃいけないんです! 大体、何なんですか、貴女! いきなり現れてはあろうことか不遜にもヒナ委員長の姉を名乗り、ゲヘナを好き勝手に闊歩して回って騒ぎ立てたと思えば、呑気に給食部のお手伝いを始めて、その翌日には万魔殿に遊びに行ったその足で、風紀委員会の皆に粉をかけにやってくるとか、率直に言って喧嘩売ってません? そのまた翌日に美食研究会とテロを起こすとか、頭沸いてますよね? ちょっと空が飛べるから何ですか、ヒナ委員長の次に整った顔だからって何でも許されるとは思わないことですね! そもそも、姉って何ですか!? 誰に断りを得て委員長の姉に立候補してるんですか! 私だってヒナ委員長にお姉ちゃんって呼ばれてみたいですよ! 名乗るならせいぜいが妹ぐらいにしておくべきでしたね! ヒナ委員長は何の気の迷いかそういうものだと諦めかけていましたが、私の目の黒い内はこれ以上の勝手は許しませんから! 覚悟しておいてくださいよ! それと、アホで呑気で人畜無害です、みたいな顔をしておきながら、急に真剣な顔し始めるのとか本当にやめてください心臓に悪いです大嫌いです! さっきだってそうですよ。何もあんなに真っ直ぐな目を向けてこなくてもいいじゃないですか! ええ、ええ! 知ってますよ! これが八つ当たりなのも、全部全部! 苛々してるんです頭回ってないんです機嫌悪いんです! わかったならもっと甘やかしてください! 委員長に近づくのやめてください。誰に嫉妬すればいいかわかんなくなって頭パンクするんですよ、アレ! 甘やかしてるの狡いです! 何、遠慮なく抱きついているんですか、羨ましい! 早く代わりなさい! というか、お姉ちゃんお姉ちゃんと毎日のように騒いでごちゃごちゃ喚き散らかして、数えきれないぐらい委員長に怒られているのですから、いい加減に諦めてくださいよ! それでもそんなに誰かのお姉ちゃんになりたいのであれば、もう私の姉になればいいじゃないですか!? 何でそんな簡単なことすら思いつかないんですか! ほんっっっとに、大嫌いです、貴女なんて! さっさと捕まって偶にはちゃんと顔を見せに来てください! ほら、早く!』

 

「わかった。完全に理解した。さては君、ここ数日寝てないでしょ?」

 

 カロリーが高いよ。カロリーが。

 後半部分とかもう聞くの諦めちゃったよ、私。

 皆、引いちゃってるじゃん。呆れてるじゃん。ねぇ、先生ちゃん何でニコニコしてるの? 

 「慕われてるねぇ」じゃないんですよ。アレ、完全に愛憎半々で本人が感情を扱いきれてないパターンじゃないですか、やだもう子供か。いや、子供だけどさぁ!?

 

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 それは、彼女と出会ってから数日ほど経ったある日の夕暮れ時。

 ヒナちゃんに仮眠でもとって来なさい、と席を外すよう伝えたその後に。

 

「彼女一人が居なくなっただけで、成り立たなくなる組織――それが、あの子にとってどんな意味を持つか、わかってる?」

 

 そんな言葉を口にした。

 

 ほんの数日間の様子しか知らない新参者の意見など、聞くに値しない戯言だろう。

 解決案すら持たぬまま、自分勝手な意見をぶつけてくるその部外者を前にして。

 

 多くの者は首を傾げた。

 残った少しの者は揃って顔を俯かせた。

 

 その中で、ただ一人だけ。

 その少女だけは、真っ直ぐ前を向いていた。

 

「――わかっています」

 

 返答は簡潔に。

 その一言に、強烈な意志を込めて。

 

 君、一人だった。

 責任の所在とその重みを、誰よりも鮮明に認めることができていたのは。

 

「……委員長のことは大好きで、心より敬愛しています。何よりも頼りになる方で、誰よりも優しい、強い人です。そのことを疑ったことはありません」

 

 少しだけ、あの子自身に彼女の言葉を聞かせてやりたかったなんてことを思った。

 

「きっと、私は誰よりも委員長に期待をしています。誰よりも信頼をしていて……だから私は――他の誰よりも、委員長を追い詰めている」

 

 周囲で騒めきが起きる。

 静かに彼女の言葉を聞き続けて、次の瞬間、私は目を見開いた。

 

「でも、まだ負けていない。折れてない。例え、相手がヒナ委員長でも、私には譲れないものがあるんです」

 

 眩しいと思った。

 その覚悟の強さを。

 

「周りから何を言われても……例え『ヒナ委員長がいない風紀委員会なんて大した相手じゃない』なんて認識が、間違いじゃなかったのだとしても。努力を続ける他に道はない。痛い所を突かれましたが……これでも、必死に食らいつこうとはしているのです」

 

 彼女は、天雨アコは宣言した。

 ともすればそれは、空崎ヒナに勝利するよりも遥かに大変な目標を。

 

「――だって私は、ヒナ委員長が穏やかにのんびり過ごせるような世界の実現を、まだ諦めていませんから」

 

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 

「みたいな、めっっっちゃんこにカッコいいこと言ってたじゃん!? 何でこんな暴走してんのさ!? 絶対に寝不足だろ、寝ろ!」

 

 あの宣言を聞いて以来、密かに私の中でハルナちゃんに迫る勢いで上がっていた天雨アコの株価が現在、大暴落中である。

 

「あ、あの……アリカちゃん」

「何だい、イオリちゃん」

「アコちゃん、アリカちゃんが構ってくれなくて、あの……えっと、結構ストレス溜め込んでたから……その、ちょっとだけ許してあげてほしい、みたいな……」

「なーにその可愛い理由……普通に叱るけど?」

 

 第一、あの子別に私のこと好きじゃないでしょ。なんなら、ヒナちゃんの同担拒否オタクみたいなものじゃない? 大嫌いって何回言われたか、わからないぐらいだよ?

 

「……それはアコちゃんが悪いけど」

「だよね? 急に暴走して、ヒナちゃんに迷惑かけるとか、本末転倒にも程がある。いったい何徹目なの、あの子」

「ごめん、そこじゃない」

 

 顔を顰めるイオリちゃん。

 首を傾げていると、何やら周りの雰囲気がこれ以上ないぐらいに緩まっていることに気がついた。

 

「えぇ、何この終戦ムード……圧倒的に被害者のアビドスの皆まで臨戦態勢解除してるの控えめに言って意味わかんないんだけど……? まぁ、話が穏便に進むならそれに越したことはないけど」

「なんか毒気抜かれちゃったからねぇ……ま、だからといって何の落とし前もなく、この話を終わらせられるとは、思って欲しくないけどさ」

 

 空気を切り替えるためのリロード音。

 直後、おじさまが放った威圧感によって、その場にいた風紀委員会の全員が一斉に臨戦態勢へと変わる。

 

「うへー、そんなに固くならないでよ。こっちも、ごく普通の提案しかするつもりはないから」

「提案だと……?」

 

 警戒の色を示すイオリちゃんにまず一つ、とおじさまは人差し指を立てる。

 

「爆発の被害にあった柴店長への謝罪……アリカちゃんも言ってたけど、これだけは絶対に譲らない」

 

 そして、もう一つと。

 彼女は何の緊張感もなく、次の言葉を口にした。

 

「さっき言ってたアリカちゃんの誘拐罪、無かったことにしてあげて」

「え、ちょっ、おじさま!?」

 

 それ、合ってないようなものだけど!?

 本当にいいの、その提案で!?

 

「こっちの要求としては、たったそれだけ。下手にゲヘナ学園なんかを相手に借りを作ろうとしても、身動きが取れなくなるのは私たちの方だからね。この二つを条件に、今回だけは君たちを見逃すことにする。どうかな?」

『くっ、そんな慈悲なんて』

「これ終わったらすぐにでも寝かしつけに行くから、アコは黙ってて」

『……ッ!? ひゃ、ひゃい』

 

 場にそぐわない嬌声が聞こえたかと思えば、次の瞬間、ブツ――と音声が切れた。

 ……本当に何しに来たんだ、あのバカ。

 早く様子を見に行かないと。

 

 おじさまの提案を受けた風紀委員会の皆様はというと――実質的な指揮官を務めていたアコが居なくなったことで、完全に混乱状態を迎えていた。

 あの子、ほんっっとに何の役にも立ってないねぇ、今回!? アリカさん、そろそろ怒りを越えて心配になって来たぞ。

 

「元々、無理がある話だったでしょ。変に拗れなかっただけでも充分……」

「けど、これだけの大隊が揃っているならせめて便利屋だけでも!」

「いやいや、欲張ってあの人怒らせたらヤバいでしょ! さっきの圧、委員長並みだったよ!?」

「もう、アリカちゃんだけ連れて帰れば、行政官も満足するんじゃないかなぁ……」

 

「「「それはそうだろうけど!!!」」」

 

 ざわざわと、今後の方針を話し合っている彼女らを横目に、私もそろそろ便利屋さんとやらと絡んでみることにしようと思う。なんだか、時間がかかりそうだし。

 

 とことこ、と彼女らの元へと歩いて近づき、フランクに挨拶をかます。

 

「やほやほ、便利屋さん。私の記憶が間違っていなければ、二度目ましてだね。前はちょっと挨拶をする余裕が無かったけど」

「え、ええ、そうね。あのときは、見事な仕事ぶりだったわ。その……」

「…………? ああ、お名前か。自己紹介もしてなかったね。バタバタ騒ぎでごめん。私は夢語アリカ。連邦捜査部シャーレ所属のしがない美少女ニートだよ。よろしく」

 

 一瞬間「ニート?」といつものように空白の時間が流れかけたが、先ほどカッコいい顔をしていた女の子が咳払いをして直ぐに返事をしてくれた。

 

「こ、こちらこそよろしく。私は陸八魔アルよ。便利屋68の社長を務めているわ。それでこっちが――課長のカヨコ、室長のムツキに平社員のハルカよ」

 

 キラキラとした目で役職名を発表していくアルちゃん。そんな役職が重視されているほど大規模な組織のトップだったとは驚きである。敏腕社長、という奴なのだろう。

 

「くふふっ、会いたかったよ。空飛ぶ巨乳っ子ちゃん!」

「…………はぁ、呑気に自己紹介なんかしてる場合じゃないけど」

 

 小悪魔っ子ちゃんこと室長のムツキちゃんは興味深そうに私の翼を撫で始め、クールビューティーな課長のカヨコちゃんはため息を吐きながらも、アルちゃんの意思を尊重する構えを崩さないままでいる。

 平社員だというハルカちゃんといえば、胡乱な目つきで銃を抱え込みつつ、何かをぶつぶつと呟き続けていた。ふつーに怖い。

 

「個性的なメン……社員さんたちだね」

「そ、そうかしら……?」

 

 まぁ、キヴォトス人って基本的に皆、アクが強いから、便利屋の皆様も多分に漏れずにといった具合なのかもしれないけど。

 

「で、君たちは何やったのさ。爆弾仕掛けたの? ラーメン屋さんなんかに?」

「そ、それは……その……!」

 

 すっごい勢いで目を泳がせ始めるアルちゃん。この様子だと件の大爆発は彼女たちにとっても不慮の事故以外の何物でもなかったようだ。

 

「悪意は無かったってことで、一旦は置いときます。ただ、少しでも自分たちに落ち度があるって感じているなら謝りには行くように。その方がきっと君たちの為になる。それに、社長さんなのでしょう? ちゃんと負うべき責任は無理のない程度に負うように、ね」

 

 説教臭い言葉を口にし過ぎて、そろそろ私も本格的に疲れてきた。出来ることなら、今直ぐにでもハルナちゃんを抱きしめてお昼寝を始めたいぐらいだが……まぁ、もう少しの辛抱だ。

 

「……ええ、わかっているわ」

「ん、ならよし。頑張れ、社長さん」

 

 大人しく頷きを返した素直なアルちゃんの頭を脳死で撫でていると、ようやく話し合いが終わったらしき風紀委員会の皆様に呼び出された。

 

「アリカちゃーん!」

「はいはい、なんです?」

「私ら撤収しまーす! それで、何だけど……」

 

 何度か話したことのある顔見知りの風紀委員会の生徒ちゃんから、撤収についての詳細情報を聞くことにする。

 

 かくかくしかじか、斯斯然然。

 ふむふむ、なるほど?

 

「えっと、つまり? 撤収ついでに今から私もゲヘナに帰って……一日だけ、アコのお姉ちゃんになって欲しいってことでいい?」

 

 何それ正気?

 なんて言葉が私の口から飛び出そうとした瞬間だった。

 

 

 

「――今、誰が誰の姉になると言ったの?」

「ぇ……?」

 

 

 

 何故か過去最高に機嫌の悪い妹の声が、すぐ隣から聞こえた。

 

 

 

 

 

 







 感想評価、誤字脱字報告
 いつもありがとうございます。
 不定期更新で申し訳ねぇです。

 
 
 

 








 以下いつもの駄文。
 メタ要素あり。

 今作における天雨アコの解釈について。

 ヒナのことを普通に盲信してるし、意味わからんくらいに敬愛はしているものの、依存はしていないものと解釈しました。
 彼女が頑張る理由を考えた所、一番私的にしっくり来た内容が「ヒナが頑張らなくて良い世界の実現」であったため、ちょっぴりその方面に彼女のメンタルを寄せて書いてみました。
 解釈違いの方々が居れば、ぜひ貴方なりの解釈でアコちゃんを表現してみてください。絶対に読みに行きます。

 アコに向けるアリカの矢印が重たい理由は、優しい願いの為に困難に向き合い足掻き続けるその在り方が、単純に好みのドストライクだったから。実はハルナ、フウカの次くらいには重たい感情を持っている。


 
 
 アリカ:黒服→説教おじさん()の連続で割と限界メンタル

 おじさま:密かにアリカを『罪作りな女』と認定

 アビドスs:ホシノがいるとメンタルの硬さが跳ね上がる

 先生:唯一、アリカの疲れを察している大人

 イオリ:普通に怒られて地味に凹んでいる人 その1

 チナツ:普通に怒られて地味に凹んでいる人 その2

 アコ:900文字近い台詞。驚異の原稿用紙2枚越え

 アル:頭、撫で撫でが気持ちよかった

 便利屋s:何で社長の頭を撫でてたの?
 
 ヒナ:妹(偽)の姉(偽)が別の誰かの姉(偽)になる現場に遭遇

 
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