拝啓、  。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。   作:桜ナメコ

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 文字数少なめ。
 ぼちぼち進めていきまする。





ACT.9「姉戦争 ♯激突 ♯報告 ♯開戦」

 

 

 

 

 

 

 

 

「――今、誰が誰の姉になると言ったの?」

 

 恐ろしく冷たい声が響いた。

 

 決して大きな声ではないが、一言一句全てがはっきりと鼓膜の奥に突き刺さるような、そんな声。

 それを直接向けられた彼女は分かりやすく肩をビクッと震わせて、ゆっくりと隣に目を向ける。

 

「…………や、やぁ、ヒナちゃん。こんなとこで奇遇だね。お姉ちゃんに会いに来てくれたの?」

「私に姉なんて居ないけど」

「ぴ――」

 

 一撃必殺、或いは痛恨の一撃か。

 純白の大翼を持つ少女が泡を吹いて気絶するのを眺めつつ、私はそっと息を落とした。

 

 良かった、と。

 安堵したのだ。あの反応が出来るのなら、その本質は変わっていないのだと。

 先ほどまでの彼女は、随分と無理をしているように見えたから。

 

「ちょっ、アリカちゃん!? め、メディック! メディーーック! アリカちゃん、普通に気絶したんだけど! えっ、息してない?? 待って、冗談にならないって! 死にかけてるんだけど!?」

「ま、待ってください! これにどう対処しろと……! この状態のアリカを助けられる人なんて、救護班にはいませんよ!?」

「ひ、ヒナ委員長! あ、アレはちょっとした冗談で――」

『ちょっと!? なんで倒れているんですか、貴女! 私の姉になるという話はどこに――ってヒナ委員長!?』

 

 

 アビドスの皆や便利屋の皆も賑やかで元気が良いとは思っていたが、ゲヘナの風紀委員会も負けず劣らずのようである。

「……アコ、世迷い言はそれぐらいにしなさい」

 

 かつてないほどの緊張感。

 威圧感に気圧されて、つい私の身体も硬直する。

 

「アレは貴女の姉でも、私の姉なんかでもない」

『――ッ』

 

 

 

 

「――私の妹よ」

「聞き捨てならないなぁ……!?」

 

 

 

 

「あ、起きた」

「……確かに呼吸は止まってましたけどね」

「まぁ、アリカちゃんだから……」

 

 姉が姉なら、妹も妹である。

 この十数週間、みっちりとぐっでぐでに甘やかされた空崎ヒナという名の少女のメンタルは既に夢語アリカの手によって汚染されきっていた。

 誰がどう見ても手遅れの重症患者。

 目がすわっているように見えるのは多分気のせいではない。

 

「えっ、あの子、ヒナの妹だったの!? ヒナに妹が居たなんて、私知らなかった!」

「社長、それは――」

「教えなくてもいいんじゃない? その方が面白そうだし!」

「……はぁ」

 

「アレがゲヘナの風紀委員長……噂に聞いていたよりも、大分面白い感じの子が出てきたね……というか、もしかしなくても妹のような何かってあの子のこと?」

「ゲヘナの生徒って、変なやつしか居ないの?」

『せ、セリカちゃん! そんなストレートに言っちゃうのは失礼だよ!』

 

 そんな周囲から集まる視線など気に留めることなく、現世へと意識が戻ってきたアリカと突然姿を現したヒナの言い争いは尚も続いていた。

 

「私の方がどう見てもお姉ちゃんでしょー!? ほら見てよ、このおっぱい! 包容力の差は一目瞭ぜ――」

「黙りなさい。そこを引き合いに出すのは反則よ、愚姉。勝ち目が無くなって泣くけどいいの?」

「ごめんなさい」

 

 二人とも、茶番の自覚があるようで何より。

 微笑ましい気持ちを抱きながら、どうしたものかと考える。

 白熱していく口論の中でも、無意識の内にヒナがアリカを姉扱いしていることに、その場に居た大多数の者が勘付きつつあった。

 

『な、な、な――なんて、下品な……! やはり、その女は委員長の姉としては相応しくありません! 貴女に任せるぐらいなら、私の方が断然――』

「いや、どの横乳下げて人のこと下品とか言ってるのさ」

『どの面下げてみたいなノリで言えば、許されると思いましたか? 普通に許しませんからね?』

 

 相変わらず、アリカはアコに対してだけ妙に辛辣だ。

 私に対しては砕けた話し方を見せつつも、一定の敬意を保ち続けて接してくれているため、口の悪い彼女の姿は少し新鮮に映る。

 

「というか、君はまずちゃんと服を着なさい」

『着てますけど!?』

 

 アコの反論を受け、アリカは少々考え込んでから、目一杯に申し訳なさそうな顔をしてみせる。

 

「……ごめんね、アコ」

『きゅ、急に何ですか?』

「私、心が綺麗じゃないから、アコの服が横乳丸出しのバカみたいな服にしか見えなくて」

 

 煽りだった。これ以上ないほどの。

 

『合ってますよ、それで! 誰が裸の王様ですか! ……って、丸出しという程ではありませんが!?」

「だってさ、ヒナちゃん。どう思う? あの服、着れる?」

「……アレか裸かの二択だったら、妥協に妥協を重ねて泣く泣く着るかもしれないわね」

 

『――脱ぎます』

「脱ぐな」

「冗談よ」

 

 真剣な顔で割と残酷な言葉をヒナが口にすると、周囲の風紀委員会の生徒たちが一斉に目を剥いた。あの委員長が冗談を、といったところか。

 私がそれほど驚かなかったのは、皆が想像するヒナの人柄というものを周りの生徒たちほど理解していなかったからだ。また、更に言えば、夢語アリカのとある性質を既に知っていたからだろう。

 

 それが意図したものであるかはさておき、アリカが関わると途端に相手のノリが軽くなるといった現象は実のところ珍しいものではない。例えば、狐坂ワカモなどはその性質を顕著に表す良い例だろう。まぁ、彼女の場合は私が相手になった場合も特徴的な反応を示すため、何とも言い難い部分はあるが、それはそれ。

 そう言った点では、彼女のコミュニケーション能力は並外れていると表すほかにない。正直言って、ちょっと羨ましいぐらいだった。

 

「大体さぁ、そもそもが凶悪的なレベルなのに、態々あんな主張の激しい服着られると、もはや見ない方が失礼だと思うんだよね」

『ほ、包容力です! これは、貴女の理論でいう溢れんばかりの包容力ですから! つまり、より姉に相応しいのはこの私ということに――』

「ノノミちゃん見習って出直してこい」

「アコ、そんなに反省文の追加が欲しいの?」

『私だけ2対1じゃないですか、これ!?』

 

 ……この子たち、本当に仲良しなんだなぁ。

 

 彼女らの言い争いは止まる気配を見せない。

 他の生徒たちは、と周りを見れば、風紀委員会の子たちは既に撤収の準備を進めていて、便利屋とアビドスの皆は交流会を行なっている。ホシノなんかはノノミの膝枕で居眠りを始めている始末だ。

 

「はいはい、3人ともそこまで」

 

 こほん、と咳払いをしてから話を始める。

 実に和やかな姉妹喧嘩を眺めるのは楽しくもあったが、これでも私は先生というやつなので。

 

「今日のところは一旦これぐらいにして、話の本題を現状に移そうか。このままだと、帰りの時間が深夜になっちゃいそうだしね」

 

 ハッと目を見開いてから、照れ笑いを浮かべる彼女たち。

 ほっと息をついてから――

 

「「『そんなことより先生は誰が一番姉に相応しいと思う?』」」

「嘘でしょ。止まらないのこれ?」

 

 第3ラウンドの開幕を告げる鐘の音を幻聴し、澄み渡る大空へと私は遠い目を向けた。

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

「つ、疲れたぁ……」

「あはは、お疲れさまだね、先生ちゃん」

「誰のせいだと思ってるの?」

「んー? 優柔不断な先生ちゃんのせいじゃないかなぁ」

「迷う余地を与えてくれた君のせいだよ、アリカ」

「…………! 言ってくれるじゃん」

 

 結局、シャーレに先生ちゃんを連れて帰ることが出来たのはそろそろ日も沈もうかといった頃合いのことだった。

 電車に乗って帰るよりかは幾分か早めの帰宅時間にしてあげられたと思っているが、そもそもの原因を作ったのも私であるため、ちょっとだけバツの悪さなんてものを感じているアリカさんです。

 

 ……まぁ、今日は先生ちゃんを寝かせるつもりがないのだけど。

 

「今、何か凄い不穏なこと考えてなかった?」

「やだなぁ、先生ちゃん。もしかしてエスパー?」

「その返しは自白と同義に捉えるよ」

 

 ジト目におとぼけ顔を返しながら、スマホで家族にメッセージを送る。

 さてと、荷物はここにまとめて、着替えは向こうに置いてあるから……

 

「…………あのアリカ、一応聞くけど何してるのかな?」

「お泊まりの準備? このソファ借りるねー」

「待って。ストップ、どういうこと!?」

 

 ハルナちゃんとフウカちゃんには突然で申し訳ないが、今日はこちらで寝泊まりを――あら、二人とも既読つけるのはっっや。ふむふむ、フウカちゃんを連れてディナーデートだとぅ!? 何それどっちも羨ましい! 効果抜群の意趣返しだよ、それ!

 

「……アリカ、こっち来て」

「まぁまぁ、ちゃんと説明するからさ」

「違う。そうじゃなくて――」

 

 真剣な声音で私の名前を呼ぶ先生ちゃん。

 数秒後、流石にお説教かな、なんて考えていた私の頭の上に柔らかな感覚が生まれた。

 

「せん、せいちゃん?」

「……頑張ってくれてありがとう。でもね、そんなに私のことを守ろうとしなくていいんだよ? 君だって、私の生徒の一人なんだから」

 

 温かい。

 その掌が、言葉が、心が。

 

「――っ!」

 

 危なかった。

 一瞬だけ、何かが完全に解けてしまうような感覚が全身を襲った。

 先生ちゃん、恐るべし。

 

「…………な、んのこと、かなぁ……アリカちゃんただのニートですから、えっと……その、うん。別に、頑張ったりしてませんけど……」

「頑固さんだね」

「……先生ちゃんが弱々過ぎるのが、悪いと思いますー」

「そこを言われると痛い話だなぁ」

 

 何とか軽口を絞り出す。

 尚も頭を撫で続けていた先生ちゃんの腕を掴み、あと数秒だけと満喫してから手をどかす。

 

「……アリカちゃんは負けませんから」

「そっか。私も折れるつもりはないよ」

「ふふっ、それでこそ、だね」

 

 全く、先生ちゃんは時々、怖い。

 本質的に、彼女はきっと私の天敵だ。

 

「それじゃ話を始めよう」

「うん、聞かせて。何があったの?」

 

 私の話はここまで、と。

 明確に話題を変えることを示してから、今度は本格的にお説教をされるだろうなと、理解しつつ口を開く。

 

「『大人』に会ったよ。先生ちゃん以外の、それも……間違いなく悪人と言われる種類の『大人』にね」

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 砂嵐は苛烈を極めていた。

 翼に◽️◽️を満たし続けなければ、直ぐにでも身体が吹き飛ばされてしまいそうになる。

 

 砂の海に沈み込んだ住宅街。

 根本から折れて、傾いたまま半分以上が砂に埋もれた電柱に留まり、耳元の無線の電源を入れた。

 

「――目標、確認したよ」

『了解。こっちは準備できてる』

『こちらも問題はなしです』

 

 砂塵に紛れ、風の音に隠れ、その海を我が物顔で航海する白き怪物。

 

 砂漠の主

 白鯨

 違いを痛感する静観の理解者

 

 デカグラマトンの第3の預言者「ビナー」

 

「――それじゃ、手筈通りに行こう」

『油断しちゃダメだよ、アリカちゃん』

『ククッ、サポートはお任せください』

「うーむ、信用ならないなぁ……」

 

 形ある災害と表現すべき怪物に相対するのは、たった三つばかりの人影である。

 

「まぁ、頭の悪い表現をすれば、どうにかするしかないのなら、どうにかするしかないってのが現実な訳でありまして――」

 

 天を劈くような鳴き声が聞こえた。

 標的として捕捉されたことを肌で理解する。

 

 さぁ、もう後戻りはできないぞ。

 翼に意識を集中させろ。

 思考回路をフルスロットルでぶん回せ。

 これより先は、全ての失策が死地と知れ。

 

 震える体に、発破をかけて。

 気合と根性とやけっぱちの闘志を炉に焚べ、声を上げる。

 

「夢語アリカ、ただ今より――交戦を開始する」

 

 知られざる砂漠の片隅にて開戦するは、ちょっとした日常を守る為だけの戦い。

 

 ささっと任務を遂行して、家に帰ってからハルナちゃんに膝枕を所望しよう。

 そんな決意を心に宿し、私は砂嵐の中へと飛び込んだ。

 

 

 






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 いつもありがとうございます。

 ACT.9はこれにて終了。
 ゆっくり更新していきますので、今後ともよろしくお願いします。










 以下駄文

 次話より、ようやく本編のアビドス2章に突入予定。
 ただし、展開的にかなり巻きになりそうな予感。
 というのも、黒服関係のアレコレがアリカのせいでオリチャー確定しているので、そこまで書くことがなさそうだな、と。

 ですので、代打としてビナー君を呼びました。
 (一応、彼を登場させる理由はありますが)

 なるべく早めにミレニアム編に突入できればな、と思っています。



 
 

 ヒナ:最終的に妹になった。

 アコ:意地と気合でペット枠を勝ち取った。

 ノノミ:ほーよーりょく の けしん

 先生:いっそのことアリカを妹にしてやろうかとヤケクソになりかけてから、冷静さを取り戻した。徹夜明けだったら危なかった。

 アリカ:私が姉である。

 黒服:人間大好きでしょ、に付け込まれて将来的にドラえもん化する予定。尚、隙を見せたら痛い目に遭う模様。


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