拝啓、 。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。 作:桜ナメコ
久々、投稿。生存報告。
めっさ忙しい時期の現実逃避です。
ろくに校正できてないので後で弄るかも?
迫る閃光。
その攻撃に防御は意味をなさない。
既に身をもって確かめた事実の後に、無意味な防御行動を取るほど彼女は間抜けではなかった。
翼を広げる。
空を掴み、無理矢理に身体を捻る。
神業染みた空中の姿勢制御。
頰を掠めた弾丸に構うことなく、少女は躊躇いなく拳銃を引き抜いた。
狙いを定めようと意識を切り替える。
その最中、突如として圧迫感に襲われる。
息が止まるような、世界が凍りついたかのような、一瞬の緊張。
「――遅い」
「……ッ!」
迎撃は間に合わない。
振り向くことはおろか、僅かに身体を動かすことすら許されない。
直後、後方上空より、容赦のない衝撃が少女の脳天へと叩き込まれた。
墜落は必然。
地面に全身が減り込む勢いで落下した少女の側に、一人の女性が降り立つ。
「行動も、判断も、対応も、何もかもが遅すぎる。話にならないとはこのことね」
絶世の美人。
そう表現されて然るべき、完成された美しさを無造作に携えて女性は一人立っている。
浅葱と翠色の長髪。
発育の良いご立派なソレと、灰色を閉じ込めた右眼。左眼は前髪に隠されていて、その色合いを確かめることは出来ないが、その女性の姿には、少女と重なる点が多々見られた。
相違点としては背丈の高さと其々がまとう雰囲気、そして何よりも――
「その翼は飾りなの? 空中戦ですら完封されるなんて、私なら自分の存在意義を疑うわ」
その女性の背中に双翼はなかった。
「…………のは、ブラフ? いや、違う。ダメだ。コレじゃない。分けるな。考えるな。一々切り替えてちゃ、間に合わない。頭使ってる暇がありゃ身体動かせ。本命でも、囮でもどっちでも良かった。意味は後付けでよかった。必要なのは最善手を最速で打ち続けることだけ。注意は均一に。偏るな、ちゃんと集中しろ――」
心無いお言葉を受け取った少女といえば、そんなものは耳にも入っていないかのような集中力で、何かを呟き続けている。
十数秒ほど経って、ゆっくりと少女が身を起こした。
全身が疲弊し、傷だらけの満身創痍。
体力の底は既に見えている状態で、彼女は当然のようにその言葉を口にする。
「――、次!」
「死に損ないがよく吠える……はぁ、本格的にムカついてきたわね」
「その程度を諦めて、潔く楽になれるほど私は畏れ知らずじゃないからさ……当然、君も知ってるでしょ?」
「まだ減らず口を叩けているのなら、手加減も必要なさそうね」
「端から手心なんて加えて無いくせによく言うよ」
臨戦態勢。
戦場は廃墟を模した異空間。
墓標のように地面の所々に打ち立てられているのは、その全てが銃火器であった。
懐から拳銃を取り出した少女に対して、女性は最寄りの"墓標"を引き抜き、それでよしといったような小さな頷きを挟む。
「来なさい。何度でも打ちのめしてあげる」
「――お断りです。私を虐めたいなら、ハルナちゃんかフウカちゃんにでも産まれ直してからにしてくれる?」
「貴女の倒錯的な性癖に私を付き合わせないで欲しいものね……」
一呼吸挟んだのちに、両者発砲。
最小限の動きで弾丸を回避した少女は、既に翼に力を込めて女性との距離を詰めようと動き出していて――自身よりも早いタイミングで全く同じように距離を詰めてきた女性を見て、舌打ちをする。
「温い」
「ふ、ざけてる、でしょ……!?」
「あの狐の動きをもう忘れたの?」
女性は銃の先端部で弾丸を受け流したかと思えば、流れるような動きで少女の懐へと入り込んでいた。
「まず、一つ――ッ!?」
「あん、まり! 舐めんな!」
距離を取る。横にではなく、縦に。
翼を下方向へと全力で叩きつけての高速移動。
予備動作皆無の強制急上昇。
同時に、それなりの風圧が一人地上に残された女性を襲った。
砂埃が巻き上がり、ほんの僅かな間だけ視界を奪うことに成功する。
即座に少女は発砲し、直後、視界へと飛び込んで来た閃光手榴弾に気がついた。
瞬時に思考を開始し、舌打ちをする。
「んぐぅ……!?」
「だから、簡単に迷うなと何度言わせるつもり?」
目を閉じるべきか。
ブラフの可能性。
爆発までの時間。
迎撃のタイミング。
奇襲を受ける方向。
いつの間に、という驚愕。
瞬時に脳裏を過ぎた幾つもの思考、選択肢の数々。
最適解を求めるために欲を掻いては、余りにも単純な安牌を見失う。
閃光弾が爆発し、視界が潰される。
半拍遅れるように脇腹へと衝撃が加わり、吹き飛ばされた少女は廃墟の壁へとめり込んだ。
「上空への避難、それが屋外戦においては貴女だけに許された最も効果的な自衛手段だと、いつになったら覚えるの?」
「――っ、ぁぐ……けほっ、ッ!」
口の中が酸っぱい。
ここが、
えずきながら、少女は皮肉を嗤った。
仮にここが現実世界であれば、大好きなあの子の手料理をもどしてしまっていたかもしれない、と。
「意地を張りたいのなら、分不相応な理想を掲げたいのなら、最後まで立ち続けなさい――それが貴女の選んだ戦い方なのでしょう?」
「ぅ、る、さいなぁ……いわれる、までも……ないっての」
発破をかけられ、彼女は立ち上がった。
自身の手札。相手との力量差。糸口を探る。考えて、考えて、考え続けた先に――ついには、全てがどうでも良くなった。
「……もう、いい。一回、本気で殴るから」
「はぁ……出来るものなら、好きになさい」
少女は、手に持っていた拳銃を地面へ無造作に放り投げると、理性など捨てた獣のように体勢を低くして、ため息を落とすその女を睨みつけた。
大翼に込めた◽️◽️を、一時的に全身へと行き渡らせて、拳を握る。
地面を蹴る足先、その衝撃を重心へと伝える下半身、加速に合わせて意識の流れを動かして。
どん、と。
一歩で、音の壁を突き破る。
「……相変わらず、ソレの操作技術だけは私よりも上か……はぁ、まるで呪いね。見ていて、心底うんざりする」
ぼんやりと、それこそ欠伸でもしそうなぐらいに気を緩ませて見えた女性は、高速で接近した少女を一瞥することさえせずに――
「どうしてこうも弱いのかしら、あなた」
「……っ!」
完璧なクロスカウンターを叩き込み、少女の意識を一撃で刈り取った。
倒れ伏した少女へと女は僅かな間だけ視線を向けてから、
「…………はぁ、どうせ隠れて見ているのでしょう? 後は任せるわ」
全てがどうでもいい、とでも言いたげな無気力さをのせた声音でそう言うと、その美しい女はあっさりとその場を離れていく。
言葉の行き先は明確。
始まりから終わりまで、始終全てを目にしていた『』へと向いていた。
「待って、――」
「……私に、あなたと話すことはないわ」
身を潜めていた瓦礫の山から姿を現して『』はその痛々しい背中に声をかけた。
『』は、そういうものでありたいと思い続ける存在であるが故に、かける言葉を持たない今でさえ、彼女を見過ごすことはできなかった。
「私には、あるよ」
「そう。でも、もう終わった話だわ」
一歩、足を止めたのは、せめてもの温情か。
今度こそ、彼女は『』の前から姿を消した。
かつては、すぐ隣にいた――の姿が、どうしようもなく遠かった。
ぐっ、と拳を握りしめてから、足元で倒れている少女へと目を向ける。
「……ごめんね、私のせいで」
かつて――だった『』に、今できることは何一つない。
傷だらけの小さな身体。
一方的にその身へ託された責務を、彼女が思い出す日は来るのだろうか。
無意識のまま、そっと少女の髪へと手を伸ばそうとしてやめる。
「…………保健室、どこにあったかな?」
この世界が、現世の理からは外れた時空であろうとも、その程度の心遣い以外に『』ができることはなかったから。
『』は、少女を背負って歩き出す。
見上げれば、空には一面に鈍色だけが広がっていた。
✳︎
「…………ねむい」
「おや、本日は一段と瞼が重たい様子ですね?」
「ん、おもおもです……ふわぁ……」
大欠伸。ぽわぽわとする思考。
瞬きを繰り返し、頭を左右に振る。
全くと言っていいほど、効果はなかった。
「体調が悪いわけじゃないんだよね?」
「それは大丈夫、元気だよ……えへへ、心配させちゃったね?」
心配そうに表情を覗き込んでくるフウカちゃんと、何かを考え込むような素振りを見せているハルナちゃんに大丈夫だよと本心からの笑顔を見せてから、大きく伸びをする。
本日、シャーレの仕事はお休み。
ハルナちゃんはおサボりでお店巡り、フウカちゃんは学校に行くとのこと。
ハルナちゃんについていきたい気持ちは山々であったのだが、私は私で少し気になることがあったので、私用を優先させてもらう。
ちょっと二人を付き合わせるには、気が進まない要件でもあったので。
「じゃあ、お弁当は用意しておいたから。何かあったら、遠慮なく連絡するように」
「ええ、私でもフウカさんでも、力を借りることは決して恥ずべきことなどではありませんから」
二人の目は、いつもよりも微かに真剣な色を帯びていた。何かを隠している、とまではいかないとしても、何か気にしていることがある、ぐらいの様子は簡単に気取られてしまうらしい。
それが、どうしてか堪らなく嬉しくて、思い切りよく二人のことを抱きしめる。お羽も使って、目一杯に。
「……ん、ふふっ、大好きだよ二人とも」
「……知ってる。いつもアリカが言ってくれるからね」
「――――」
「あ、ハルナちゃん、顔真っ赤だ」
「ほんと、アリカにだけは弱いわよね……」
「あ、あまり、揶揄わないでくださいな」
二人の見送りをしてから、遠出の準備を整えた。この難儀な体質のこともあり、食料と飲料には特に気をつけて。
フウカちゃんのお弁当に加えて簡易食料をそこそこと、麦茶を満タンにした水筒に水のペットボトル。常に持っているように、とホシノちゃんに念入りに伝えられたコンパスとキヴォトス広域の地図を用意すれば、大体の準備は完了だ。
こういうときにつくづく思うのは、武器の手入れという概念が必要ないことの有り難みである。万が一、何かを撃たねばならなくなったときに、呪いにも近い『謎の銃』は、必ず私の声に応えてその場に現れてくれる。それは一つの確信であり、どこか諦念にも近い気持ちを抱く必然の事実でもあった。
「……きて」
一言で、手元に拳銃が現れる。
真新しいわけではなく、壊れているわけでもない、不思議と手に馴染む最適に使い込まれた状態で不変となった拳銃。
拳銃とは言ったものの、実際は異なる。
多分、これは私の中での最も想像しやすい『銃』の形でそこに現れる何かだ。
握る。構える。リロードする。
それは素早く、滑らかで、美しい動き。
意識せずとも新しいマガジンは手元に現れ、一つとして弾の減っていない元々のマガジンは自重で落とせば、床に落ちる前に消滅する。
「――うん、撃てる」
銃なんて一度も撃ったことはないけれど、どうしてか、動きを身体が覚えている。
態々、動作を確認したのは、この先に万が一が起こり得る可能性があることを理解していたから。
荷物でいっぱいにになった肩掛けバッグはそれなりの重さだが、キヴォトスパワーがあればなんてことはない。
ああ、忘れていた。最後に一つ、ハルナちゃんに頼んで用意して貰ったお勧めのお茶請けを荷物の一つに追加して、準備は万端だ。
「さて、行こうか」
メッセージアプリを開いて『今から出るよ』と彼女へと送ってから、我が家を発つ。
これ、先生ちゃんにバレたら怒られるだろうなぁ、なんて想像もしながら。
「流石に、幾ら紳士でも黒服さんとホシノのおじさまを二人きりにさせるのは、どうかと思いましたので」
誰の耳にも届かない言い訳をこぼし、助走をつける。
――ただ今より、ゲヘナ発アビドス行き、アリカ便が飛び立ちます。
そんな脳内アナウンスを告げながら、もはや手慣れたフライトを開始した。
✳︎
「何だか、日に日に速くなってない?」
「人は日々成長するものだからねぇ」
ほどほどのペースで飛んできたが、アビドス到着までに要した時間は三十分もなかった。
先生ちゃんが高校にやってくる、とのことらしいので、アビドス高校から少し離れた地域で待ち合わせを行なった私とホシノちゃんである。
というか、先生ちゃんって本当にいつ休んでいるのだろう? あまりにも目に余るようであれば、強制介入も辞さない所存です。
「他の子にはなんて?」
「普通にサボりだよーって。多分、ノノミちゃんなら、いつもみたいにパトロールしてるって思ってくれるはず……騙してるみたいで、ちょっと気は引けるけどねー」
ちょっとだけ準備してきたよ、なんて口にしたホシノちゃんの姿は普段の盾に、プロテクターやら何やらを加えた重装備。
久々に着てムズムズするよー、なんて発言が似合わないしっかりとした武装であった。
「ふふっ、私のためだ?」
「そうだよー、アリカちゃんのためだね」
向かっているのは砂漠地帯。
ホシノちゃん曰く、昔に使われていた校舎が砂嵐による被害で埋まってしまったという砂に呑み込まれた廃墟である。
私が空を飛んでいないのは、いざというときのために力は残しておくように、というホシノちゃんからの助言があってのものだ。
慣れない砂の感覚に体力の方が先に底をつきそうな不安もあるが、そうならないことを祈ろう。
ポツポツと好きなタイミングで雑談を行いながら、道なき道を行く。
そういえば、と考えていたことを素直に呟いた。
「ホシノちゃん、絶対に黒服さんからのお誘いがあっても黙ってると思ったなぁ」
「……おじさんって、そんなに信用ないかなぁ?」
「うん。まったく」
「えぇ……?」
ちょっと傷ついた顔のおじさま。
だから、と付け足して。
「嬉しかったよ。頼ってくれて……私の言葉が、届いていたことがわかって」
お礼を言えば、彼女は不思議そうな顔をする。大方、手伝って貰っているのはこちらの方なのに、とでもいったところか。
小さく頭を横に振って、そうじゃないのだと口にする。
「信用してくれる。頼ってくれる。弱さを見せてくれるのは、あなたがその人のことを友達だって思っている証拠だと思うの……だって、私が困っていたら、ホシノちゃんは助けてくれるでしょ?」
「それは、そうだけど……お礼を言うのは――」
「だから、それを教えてくれてありがとう。これは、その親愛を伝えてくれたことへのお礼だよ」
温かい言葉を受け入れるのが苦手なのは、もしかしたら、彼女が自分のことを好きになれないからなのかもしれない。
だから、口にする。何度でも。
「他人はどこまでいっても他人だからね……当たり前に思っていたことが、伝わっていないことだって沢山ある。何だったら、口に出すまでは自分で気づいていない感情だってあるぐらい。誤解は悲しいことだから、私はしつこいぐらいに伝えるの――貴方が好きだよって。貴方に感謝をしているんだよってね」
「…………すごいね、アリカちゃんは」
「ほら、また自分を除け者にした。そーゆーとこは好きくないです」
この子の自分嫌いは筋金入りだ。
それを否定することはない。自分のことが嫌いになるような、それに足る何かがあったのであれば、その感情に私は納得するし、理解もする。けど、それはそれとして、悲しくも思うのだって確かなのだ。
僅かに表情を曇らせている彼女の手をとる。
何だか、この前も手を繋いだような気がするね? なんて言葉をつぶやいて。
「……ありがとう」
「うん! どういたしまして!」
砂漠の中を二人で歩く。
指定された目的地までは、もうすぐだ。
デカグラ編、面白いですね。
想定してた本作第二章に多大なる影響を引き起こしそうで怖い。
余裕が出来次第、のんびり書くのでお待ちを。