拝啓、 。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。 作:桜ナメコ
久々更新の割にビックリするほどの難産。
未開示の設定情報が多すぎて、雰囲気で読んでくださいとしか言えない自分の無力さに涙が止まらない。
温かい目で見守ってくださいな。
「よくもまぁ、こんな辺鄙な土地にこれだけの規模の研究施設をつくれたもんだね?」
いかにも悪の組織の研究所といった具合だなと、周囲を見渡しながら嘆息を漏らす。
「……私の哨戒が甘かったかな」
「そうじゃないでしょ……というか、日中耐えられなくなるぐらいの眠気を覚えるのは、普通にオーバーワークだからね? そろそろ皆に怒られるよ?」
それは巧妙に隠された地下施設だった。
いっそ、見事とでも言いたくなるレベルの不法建築……ああ、いや、一方的に違法だとは決めつけられないのだったか。つい先ほど、頭の痛くなるアビドス地区の土地権利に関する説明を受けたばかりだっけ。
当然のように、この場所も今では彼らの私有地と化しているのだろう。
「粗茶ですが、どうぞ」
「ん、約束通りのお茶請けだよ。百鬼夜行自治区のちょっと値の張る最中です。合わせが緑茶でよかった」
「これはどうも……ククッ、安心しましたよ。あなたが、約束を守る方であるとわかって」
「黒服さんには残念だけど、私は同時に契約書を読み込むタイプでもあるからね。無駄な小細工はしないように」
クククッ、と愉しげに笑う黒服さんにジト目を投げると、彼はその笑みを更に深くする。今日も今日とて絶好調なようで何よりだった。
「それでは、お茶会を始めましょうか」
「わぁ、感心するほどに悪役っぽい」
「早く本題に入ってよ……最中は美味しいけど」
周到に用意されていたテーブルと椅子が置かれている休憩スペースに腰を落ち着けると――この辺りには黒服さんの性格を感じました――黒服さんが湯呑みと急須がのったお盆を持ってきた。もしかしなくても、ウキウキですね?
ちょうどいいタイミングだな、とお茶請けを出したのだが、ホシノのおじさまには好評だったようでよかった。流石、ハルナちゃん。
こちらも、あむと最中を頂きつつ、緑茶を呑む。文句なしに美味しい。
「――で、私とホシノちゃんに協力して欲しい研究があるんだって?」
「ええ、その通りです。安心してください、決して貴方たちに害は与えないと約束します」
「……その目的やら手段やらを全て説明した上で、『貴方たち』の範囲と『害を与えない』の定義を、明確化してくれるなら一考はするよ。少なくとも、私はね。これ、そういう話だったでしょ?」
研究の詳細も話さずに、ふわっふわなこちらの身の安全から説明するんじゃねーですよ。本当に油断できないなぁ。
返答の直後、隣に座っていたホシノちゃんからの視線を覚える。目を向けたが、何でもないと小さく首を振られてしまった。
……私、何か変なこと言ったかな?
「……私も、一先ずの条件は、アリカちゃんと同じで構わないよ」
「あと追加で話すなら、こっちのメリットについて。黒服さんのことだから、もう既に思いついていそうな話だけど、何か提案はあります?」
質問を投げる。
ふむ、と考える素振りだけを見せてから、彼はまず一つと指を立てる。
「……今後、カイザーへの協力を取りやめた上で、アビドス高等学校が背負う負債の八割を引き受けましょう」
「――ッ!?」
ホシノちゃんの顔色が変わった。
感情の色が瞳にのる。年頃の素直で可愛い女の子らしい姿を前に、つい安心してしまったのはここだけの話。
充分過ぎる対価にも聞こえるが、まだ研究の詳細を聞いていない。
ぽん、とホシノちゃんの背中を優しく叩いてから勇気を振り絞り――少しだけ、冒険をしてみることにした。
「それ、私にメリットある?」
「アリカちゃん!?」
「――ほう」
テーブルの下で、ホシノちゃんと手を繋ぐ。大丈夫だよ、と安心させるために僅かに力を込めた。
「ククッ、期待通りの反応です。相変わらず、背伸びが上手なようで」
「わかってるなら余計な意地悪やめよーね、黒服さん」
「すみません、性分なもので」
背伸びが上手、か。
彼には私がどのように映っているのだろう。
不安の芽――私も、他の皆と全く変わらないただの◽️◽️にしか、見えていないのではないか、という微かな疑念を、気合い一つで握り潰す。
「ふむ……アリカさん、今度はこちらから一つ、質問をしても?」
「私に? 別にいいけど」
珍しく黒服が微かに悩むような様子を見せてから口にしたのは、私にとっても意外なもので。
「――そもそも、貴方には何か望みがあるのですか?」
思わず、身体が硬直した。
即答はできる。ただその答えが自分でも信じられなくて、疑問が湧き出てくる。
「ないね。我ながら驚いちゃった」
自分で言うのは何だが、こんな面倒な体質を提げて存在しているというのに、私の今は満ち溢れている。これ以上を望むことなんて、何一つないと言えるぐらいに。
それはきっと、いや間違いなく、誰に指摘されるまでもない私の中にある決定的なまでの『歪み』であった。
✳︎
「まぁ、何はともあれ、協力してもらいたい研究の話を聞いてからかな……というか、そもそもそれって、私たちが理解していい次元の話なんだよね?」
理解できるレベルの話、ではない。
理解していいレベルの話か、だ。
こちらの意図は正しく伝わったようで、彼は何度目になるか数え飽きてきた好奇心に満ちた視線を私に送りつけてきた。
「不躾が過ぎない?」
「これは失礼。いやはや、貴方にはどこまで見えているのでしょうか」
「何のことやら……いや、割と本当に何も知らないからね? 別に惚けてたりしてませんよ? これは、ただの直感――誰にとっても、知らない方が幸せなものってのはあるでしょう?」
それは善い悪いとか、正しい間違いとかの観点ではなく、ひとえに適切か不適切であるか、というだけの話。
知識とはある種の猛毒だ。
俗な例に落とし込んでしまえば、馬鹿らしくも聞こえるが――単純な話、R指定という概念がどうしてこの世に存在しているのか、その問いに対する答えとそう変わらない。
常識から外れた理外の存在、目の前の異形がソレに当たる何かであることなど一目で理解できる。それこそ、未熟な可能性を容易に歪めてしまえるほどに。
なればこそ、先生ちゃんの居ないこの場における私の役割はどうしようもないぐらいに決まりきっていた。
「ククッ、勿論、承知しています……それにしても、やはり、私の気のせいではなかったようですね。これは、貴方が完全なる◽️◽️ではないが故の影響でしょうか」
「――?」
「本当に興味深い……それは、直感などではありません。本来の貴方は、非常に聡明で賢明な知者であったのでしょう」
何が言いたいのだろう?
軽く普段の私の能天気さ加減を馬鹿にされた気はしなくもないのだが、喧嘩なら買うぞ?
「貴方はそのような存在です。このキヴォトスで、曲がりなりにも『生徒』と認められている存在である上で――貴方だけは、彼の者から離れた場でしか本来の力を発揮することができない」
ぞわっと、した。
鳥肌が立つ。何か後味の悪い怪談でも聞いたかのような、粘り気のある「嫌な感じ」に翼が揺れる。
静かに話を聞いていたホシノちゃんが、僅かに息を零したのがわかった。
「恰もそれは、この世界における『先生』の価値を、貴方だけが否定しているかのように」
ガチャ、という無機質な音がする。
次いで、冷め切った鋭い声が聞こえた。
「……黙れ」
「クク、申し訳ありません。訊かれてもいない考察を口にしてしまううのが研究者という生き物でして」
突如としてショットガンを突きつけたホシノちゃんに、黒服さんは一分たりとも謝罪の念など込められていない言葉を投げ返した。
「ほ、ホシノちゃん? 一回落ち着こ?」
「…………アリカちゃんが、そう言うなら」
どうどう、と宥めてから。
むむむ、と思考。云々唸っては思索に耽る。
やがて――
「――貴方のいう研究の目的は、その『定義』を解き明かしたい、であってるのかな?」
絞り出した結論に、黒の異形は確かに禍々しい笑みを浮かべたのがよくわかる。
パチパチと繰り返される拍手の後に、耳障りにも聞こえる愉しげな声を聞く。
「一先ずは、と私が注釈を添えるのも想定の上でしょうか」
「まぁ……識るだけで満足できる柄じゃなさそうなのは、察せられますし」
繰り返されるのは、要領の得ない迂遠な会話。
双方、意図的に核心を避け続けた交渉の果てに待ち受けていたのは、一人蚊帳の外にされていた少女の膨れっ面だった。
「私だけ除け者にして随分と楽しそうだね、アリカちゃん」
「あー、えっと……それは、ごめんね?」
どこまで話してよいものか。
そんな思考を挟んだのを彼女が見逃すはずもなく、ホシノちゃんはわかりやすく機嫌を崩して、私にジト目を向けていた。
「…………ホシノちゃんさ」
「……何?」
逡巡。のち、やけっぱち。
好きなようにやろう、と心に決めた。
いざとなれば、ちゃんとした大人に「助けて」と面倒ごとを丸投げしても構わないだろうと。
黒服は何も言わない。
私の選択をただ静観するのみだ。
「神秘って知ってる?」
色の異なる双眸が瞬いた。
すっ、と細やかな呼吸の音がして。
「――うん、わかる。ああ、そっか。これは、そういう名前の力だったんだね」
ゆったりと盾を持ち上げる。
気がつけば、息を呑むほどに。
彼女の中で、その盾へ。
濃密な蒼白い輝きが灯されていた。
「ん、流石。なら、話がはやい。それ疲れるでしょ? もっと気楽にね」
「……? このぐらいなら、どうってことないけど」
「普通はヘトヘトになっちゃうものなの。それ、ホシノちゃんがイレギュラーなだけだから」
「おや、他でもない貴方がそれを言うのですか?」
「黒服さん、ちょっと静かに」
いい加減、自覚してきたところだから、態々言わなくてもよろしい。
そりゃ、嫌でもわかりますとも。
空を飛ぶという行為がとてつもなく『燃費の悪い荒技』であることなんて気づいているに決まっている。
「で、その神秘……不思議パワーの解明、或いは利用を目論んでるのが黒服さん――大雑把な話だけど、大体そんな認識でいいはず」
視線を投げると、初めて見る表情の色。
「……ふむ、妙ですね」
焦り……いや、警戒だろうか。
少なくとも、ようやく私は彼にとっての脅威として認めてもらえたらしい。
「やはり、貴方には独自の情報網があるようだ」
「さて、何のことやら……あ、プライベートを観察するとかはホントにやめてね? これでもちゃんと乙女なんだから」
それは、彼から見た私には知り得ないはずの情報。だが、その理由を彼が解き明かすことはない。
何故ならば、張本人である私ですら正確な理由は把握できていないのだから。
「……ま、結論だけを話そう。いいかげん、互いの事情もごちゃついてきたわけだし」
返ってきたのは無言の首肯。
おかわりをしていた緑茶を飲み切って。
「剥がすのはダメ。返すのも当然ダメ。許容できるのは部分的に覗くのと残滓の提供まで……一先ず、範囲の制限はこれでどう? 研究結果の共有が義務なのは態々言う必要ないよね?」
勝負をかける。
出し惜しみはせず、さりとて値切りの一つを許すつもりのない一発勝負。
「――面白い。なるほど、確かにそこが現実的ですか」
小さく拳を握り込む。
一つ目の賭けには勝った。
やけに上機嫌な黒服からの「もしや同業ですか?」なんて冗談を「頼むから勘弁してください」の一言で弾き返し、ホシノちゃんからの「どういう意味?」といった追求の目を白々しくスルーする。
「……あと、承知の上だろうけど、どんな実験でも被験者は私が一番目ね。他の子に許可を取るときは、本人と私と先生ちゃんの許可の三つを取るように……先生ちゃんの許可取りに関しては、先に私で取ったデータを安全性の証明に使っていいから」
「アリカちゃん! それは――!」
「いーえ。これは絶対に譲りません。偶には、ホシノちゃんも大人しく面倒見られといてください……あと、危なくはないはずだから大丈夫。大体、ここで変な危害を与えようものなら、後で困るの黒さんのほうなんだし」
そう。
私に致命的な見落としがなければ、この取引は極めて危険性の低いものとなる。
それに、実のところ、私としては研究を手伝う行為に抵抗は一切ないのである。
なぜならば、
「知的好奇心を抑えなきゃいけない、なんてのは、貴方みたいな人にとっては拷問みたいなものでしょう? それは、私にとっても見逃せない不幸の一つだし」
笑って、そのまま手を伸ばす。
心からの笑顔を向けて。
もう一つの勝負を畳み掛けにいく。
「可能な限り、手伝うよ。どうせなら、私は貴方にも研究者として楽しく生きて欲しいの。好きなことを目一杯やって……暇つぶしに、或いは気まぐれに、誰かを助けてくれれば文句なし。まぁ、迷惑をかけないってだけでも及第点なんだけど」
共存が出来ないなんて言わせない。
何となく、わかったんだ。
いつかどこかで、そう在った世界があったのだと。
身体の中で何かが、本能が、ソレを叫んでいる。
「先の見えない未来ってのも、そう悪いものじゃないでしょう? だって、貴方、リアリストの癖に浪漫も嫌いじゃなさそうだし」
だから、と繋げて
「偶には後先なんて考えないで、子供の側に乗り換えてみない? どうせ、その船すぐに沈むのがオチでしょう?」
私は彼に、悪い大人たちからの鞍替えを持ちかけた。
感想評価 誤字脱字報告
毎度のことながら、非常に助かっております。
励んでいきます。
以外 余談(メタあり 自己責任)
主人公ちゃんの設定を余りにも色々と詰め込み過ぎたせいで、今節みたいな設定パートに近い話をする時に筆が止まりに止まってさあ大変って感じになります。申し訳ない。
あと単純に黒服のキャラクターむっっずい。
ただ、ブルアカ自体の世界設定として「並行世界」が関わりやすい事例だと思っているため、この世界の黒服はこんな性格だったーみたいなノリで受け入れて貰えればと思います。割とこのメンタルじゃないと、二次創作なんてやってられませんわ。
アリカ:条件付きで頭いいのでは? が示唆。甘えん坊モードが頭悪くなってるだけでは、という指摘にはだんまりらしい。
ホシノ:守られる側に不慣れで、そろそろ身体が痒くなってくる頃合い。
黒服:今作では「研究者」としての概念強め。