拝啓、  。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。   作:桜ナメコ

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ACT.10「秘匿 ♯契約 ♯目標 ♯ミステイク」

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒服さんが「それでは早速、簡単な実験を」なんて年甲斐もなくウキウキで研究の準備を始めてしまったので、私とホシノちゃんはお茶会の続きで待ち時間を過ごすことになった。

 

 そんな中で思い出したのは、

 

「もしもしー、先生ちゃん?」

『いきなり電話だなんて珍しいね、アリカ。どうかしたの?』

「ん、ちょっと小耳に挟んだ噂話があってねー。裏取りは済んでないから、飽くまで可能性の一つとして聞いて欲しいんだけど」

 

 後回しにしていた先生ちゃんへの通話である。

 

 辺境も辺境な砂漠地帯に位置する今日この頃だが、電波は良好。黒さんの秘密基地にまさかワイファイまで通っているとは思わなんだ。

 聞けば、冷蔵庫に始まり、トイレはもちろんのことお風呂まで完備されているのだとか。是非、この調子で悪役としての威厳とか諸々を削ぎ落としていって欲しいものである。

 

 話の本題は、アビドス自治区の土地の所有権の殆どがカイザーコントラクションという団体に渡ってしまっているという情報提供。

 私が休日を過ごしているという体で話を進めるために情報の出所はぼやかしたが、先生ちゃんの返答は意外なもので。

 

『……奇遇だね。こっちも丁度、その話題について話してたところ。アヤネが確認してくれたから、間違いじゃなさそう』

「あらま、それはタイムリー……ふーむ、となると、お相手はカイザーなんたらさん?」

『だね……って、詳しいね?』

「まあ、割と順当な論理の帰結というか……お手本のような、わるーい企業のやり口だなーみたいな?」

 

 それもそうだね、なんて納得してくれた先生ちゃんに、軽く近況報告を貰っていると――

 

『で、ホシノは元気?』

「わぁ、びっくりした」

 

 急なジャブを放たれて面食らう。

 その口調から誤魔化すのは難しいだろうと判断し、それほど間を置くことなく口を開いた。

 

「……皆には?」

『言ってない。君が側に居るなら大丈夫かなって』

 

 ぐぬぅ……なんて呻き声は我慢だ。

 かつてない罪悪感を覚えながら、話の続きを進める。当然、悪い大人と一緒にいます、なんてことはまだ言える段階じゃない。

 

「危ないことはさせてないよ……野暮用を済ませてたら、偶々、頭痛の種を掘り当てたってだけで」

『それならいいけど。ちゃんと休むようにね?』

「先生ちゃんには言われたくないです。きちんと寝てる? 他人を頑張る理由にし過ぎるのも考えものだよ?」

『いやいや、アリカの方が――』

「またまた、先生ちゃんってば――」

 

 まぁ、いつまでも心配を掛け合っていてもとキリがないので、今度仲良く添い寝の時間を取るよう約束をして。

 ここからは少し真面目な考察タイム。

 

「……さて、ようやく向こう様の『目的』に当たりはつけられそうな感じがしてきたね?」

『それは前に話したカイザーの狙いのこと?』

「ん、どうしてヘルメット団を買収してまで、アビドスを襲ったのか……一連の流れで、カイザー何某さんが手に入れたのは――」

『うん、こっちも同じ結論。彼らの狙いは土地の所有権。それは間違いないと思う。あとはその理由だけど……推測できるのは、実質的な自治区の乗っ取り、或いは都合の良い隠れ蓑……いや、でも、その程度のことなら今にでも……』

 

 気を遣ってか、先生ちゃんの言葉が止まる。

 言いたいことはよくわかる。

 経済的情勢という一点で見た場合、アビドス高等学校は既に詰みかけていた。

 

「そう。そこが要点……だから、私の推測だと、カイザーは『アビドス高校』には興味がないんじゃないかな?」

 

 より正確にいえば『アビドス高校』に矢印を向けていたのは、カイザーの共犯者である黒服さんだけだった。

 黒服にとっての目的が、カイザーにとっての手段であったというだけの話。

 

『純粋に、膨大な土地が欲しかった……いや、それなら他に――違う。拘っていたのは、アビドス自治区の土地……その場所自体の方?」

「うん、私はそっちが核だと思う。金銀財宝、何かはわからない……風水的にめっちゃいい立地だった、なんてオチなら平和でいいけど……とにかく、拘っていたのはそ(・)の(・)土(・)地(・)自(・)体(・)に(・)何(・)か(・)秘(・)密(・)が(・)眠(・)っ(・)て(・)い(・)る(・)って説が濃厚だと思う……推測でしかないけどね」

『……ありがとう、頭に入れておく。どっちにしろ、現地調査が必要になるってのは変わりない感じかな』

「だね。あっ、偵察に行くなら明日にしてよ? ホシノちゃんも居るだろうし、私も出勤する予定なんだから」

『うん。頼りにしてる。それじゃ、しつこいかもだけど、危険なことはしないようにね』

「努力はするよー。ばいばーい」

 

 電話をきる。

 すぐ近くで聞き耳を立てていたホシノちゃんと目があった。

 

「……危ないことはしないって、約束はしないんだね」

「まぁ、可能性が全くのゼロというわけじゃないからね? 私、基本的に守れない約束はしない主義だから」

「物は言いようかー」

 

 独断での単独行動が目立つ彼女に叱られるのは、正直言ってちょっと不服な感じもするが、周りに言わせれば、どっちもどっちというやつなのかもしれない。

 

「アリカさん、準備が整いました。よろしいですか?」

「ん、まずは解析の方だよね? 血液採取とかになるのかな?」

「ええ。可能であれば、神秘を込めた羽も頂ければと」

「用が済んだら、ちゃんと目の前で処分してよね」

「ククッ、それは勿論……用心深いようで感心します」

 

 暇をつぶしていると、相変わらず上機嫌そうな黒服から声がかかった。

 更に地下へと向かうとのことで、椅子から立ち上がる。当然のようにピタリとひっついたまま、移動するホシノちゃんが可愛らしくて、思わず笑ってしまった。

 

「神秘に神聖……暁のホルスに死の神アヌビス……例を挙げて説明されてもニュアンスまでしか理解できなかったけど……ねぇ、黒さん。私は、何なの?」

 

 黒服さんとの研究を行うにあたり、説明の義務や被験者の自由意思の尊重などの研究倫理に関する部分については、後に先生ちゃんとも確認をするという前提の上で、既に書類上の約束事を交わしていた。

 それが理解し過ぎない方が良い知識である、ということを教わった上で――この時点でホシノちゃんには聞かせないようにしたのだが――簡単な説明を受けたところ、黒服さんは私たちが内包している『神秘』の性質をある程度、理解しているとのことだ。

 例として挙がったのがこれまでにも何度か耳にしていた、ホシノちゃんの「暁のホルス」だなんて可愛くない呼称。シロコちゃんに至っては「死の神」だった。あんなにぷりちーな女の子をいったい何だと思ってやがりますの?

 何度も質問を受ける黒さんが楽しそうに、それでいてちょっと嬉しそうにも見えたのには、微笑ましさを覚えたけれど。

 

 では、私は何なのか。

 当然のように湧いて出た疑問に、

 

「全く、さっぱりわかりません。このようなケースは貴方ぐらいです。何なのでしょうね、貴方」

「おうなんだ喧嘩か、ホシノちゃんが買うぞ」

「ククッ、死にます」

「なんて情けない」

 

 彼は平然と答えを持たぬことを自白した。

 

「……それを、調べるってこと?」

 

 まだ少し、私が研究対象になることを不満に思っていそうなホシノちゃんからの質問。

 

「……ええ、その認識で間違いありません」

 

 おや、意外と口を聞いてくれるのですね、なんて顔をする黒服さんである。いや、表情筋とかいう概念はないに等しいんだけどね? 腹の探り合いし過ぎて、意外とそういうのわかるようになってきちゃったよ、私。

 

 着きました、の声で、ぼんやりとしていた思考が現実へと戻ってくる。

 案内されたそこは、ともすれば、普通の医務室と何の変わりもないような清潔感のある部屋だった。

 

 「どちらの腕の血管が見えやすいですか?」

 「多分、そんなに変わんないです」

 「では利き腕と反対側で」

 「ゴムチューブ巻いてグーパーとかする?」

 「場合によってはお願いします」

 

 まずは血液採取から。

 繰り広げられるテンポの良い会話に、なんだかなぁ、なんて顔をしたホシノちゃんがジト目を向けてくる。

 

「仲良いね、君たち」

「悪いよりはいいでしょー」

「それは、そうかもだけど」

 

 血液採取はあっさりと終わった。

 神秘を込めた羽については、また別の実験器具を扱いたいとのことで、再び移動を間に挟む。

 

「ねー、ホシノちゃん。一番、抜けそうな子どれかな?」

「……んー、これか、これ? アリカちゃん、換羽期とかあるの?」

「ふふふ……実はまだ一年も生きてないので、私にもサッパリです」

「ああ、そうだった」

 

 抜け毛で枕でも作ろうかしら、なんて呟けば、絶対にやめとこーねとお咎めの言葉。

 手触りが気に入ったのか、恐らくは無意識のまま、さすさすと絶妙な強さで翼を撫でられて、ピクリと肩が震えてしまった。

 

「ひゃっ……おじさまのえっち」

「ご、ごめんね!?」

 

 あわあわしてるホシノちゃん。

 悪趣味だが、平和的に余裕のない彼女を見るのはちょっと楽しい。

 こちらがイタズラで揶揄っているのに気がつけば、むぅとわかりやすく剥れ顔を披露してくれた。

 

「……それにしても綺麗な翼だね」

「ふふん、でしょ? 毎晩、フウカちゃんかハルナちゃんがお手入れしてくれるからね! 最近なんて、ハルナちゃんが拘りだしちゃって、羽繕い用品をトリニティ自治区からお取り寄せしていたりするのです」

「本当にゲヘナに住んでるんだよね???」

 

 トリニティ総合学園。

 それはツノや羽、尻尾なんかに悪魔系の特徴をもつ生徒の多いゲヘナ学園とは対照的に、私のような鳥系の羽……自分でいうとしっくりこないが、いわゆる天使系の見た目をした生徒の多い学校。キヴォトス有数のマンモス校&お嬢様学校らしく、ゲヘナ学園とは長らくの間、犬猿の仲なのだとか。

 「それ、美食の価値と何の関わりが?」を地で行くハルナちゃんや、基本的に平和主義なフウカちゃんと過ごしていると忘れがちだが、意外と両校の溝は深いようで、連邦生徒会長が失踪した直後はヒナちゃんが、何たら条約の件で頭を悩ませていたっけ。

 

「まあ、住んでるだけであって、そもそも私の所属ってシャーレだからね。学園単位で肩入れするとかはないよ。個々人は別だけど。私も人間ですし」

 

 トリニティの知り合いというと、ブラックマーケットで少しだけ会話をしたあの紙袋ちゃん……ヒフミちゃんぐらいだろうか。

 お嬢様……お嬢様か? ザ・可愛い物好きな可愛い女の子って感じはしたけど。

 

「こちらにお願いします」

「はーい……さて、ここからは、ちょっと警戒強めでやろう」

 

 談笑をしていれば、移動なんてすぐである。

 黒さんが指差したのは、大きめの『シャーレ』だった。皮肉が効き過ぎてはいませんか、なんて思ったのはここだけの話。

 神秘については何を引き起こすのか、私もまったく理解できていない。

 先ほどよりも慎重に、意識的に神秘を翼へと集めて一枚、羽を抜く。

 『シャーレ』へと置かれた羽は数秒ほど、青白く光り続けていたが、やがてその輝きは宙へと霧散していった。

 

「……もう光ってないけど、大丈夫?」

「問題ありません。十二分に残滓は確認できる目算です。ご協力いただきありがとうございました。本日のところはこのぐらいで。報酬の方は――ふむ、全て前払いとしましょうか。数日後までに、匿名でアビドスへ振り込みを行いますのでお待ちください」

 

 今すぐにでも解析の方へと移りたい。

 そんなウズウズを抑えつつ、彼は手短に別れの挨拶をぶつけてき――待て。今なんて言った、この人ッ!?

 

「ちょ、黒さん??? 全部前払いって――」

「夢語アリカ――これは、私から貴方へ送る最低限の敬意です。なるほど、確かに悪くはない。先を見たいという期待……ソレを見届けるという視点を、久々に思い出したような気がします」

 

 ゾワっと、鳥肌が立った。

 ああ、ほんっと――この人、ろくな大人じゃないわ。

 

「精々愉しませて貰いましょう。その間は、貴方の誘いに乗り続けてあげますので」

 

 画して契約は結ばれた。

 相手は悪魔か、それともただの悪人か。

 天のみぞ知る、なんて未来へ丸投げするのは簡単だが、一先ず、この油断のならない奇妙な関係性はしばらく続くらしい。

 

「はい。用は済んだし、帰るよーホシノちゃん。良かったね、黒さんが借金八割方返してくれるって」

 

 ぱん、と手拍子。

 意識を切り替え、メンタルを帰宅モードに。

 これ以上の進退はないと判断しての私の言葉に、ホシノちゃんはパチパチと瞬きを繰り返す。

 

「おじさん、もうさっきから話に着いてけなくてさー……もう歳かな?」

「まぁ、今時の若い子には通じない言語で話してたからね。仕方ないのだよ」

「おっと、まさかの逆パターンだった」

 

 一応のお礼、と小さく礼をしたホシノちゃんに、黒服は不思議そうな顔で(例の如くニュアンスだが)礼を返した。多分、あの悪人、最近悪いことばっかりし過ぎて、人情ってやつを忘れかけてるに違いない。

 もう、本人の知らない内にホシノちゃんに情とか芽生えて困惑しといてくれないかな?

 

 

 ✳︎

 

 

 迷宮のような地下施設を脱出し、砂漠の空へと飛び出してから数十分。

 アビドス高校にホシノちゃんを届けにきた私は、一人先生ちゃんに呼び出されていた。

 

「で、何してきたの?」

「も く ひ ♡」

「うぐっ、可愛い……!? じゃなくて! どこ行ってたの?」

 

 ちっ、ダメか。

 渾身の美少女顔を決めてやったというのに。アコならコレで一発何だけど。

 

「んー、ちょっと込み入った感じになってるから、シャーレに帰ってから話そ」

「……はぁ、わかった。今日、出勤扱いにしとくからね」

「え、いや、それは……」

「じゃなきゃ、君の保護者三人に『アリカが危ないことしようとしてる』って報告します」

「それでいいです。お許しください」

 

 告げ口はズルでしょ。

 クリティカルヒットだよ、その脅し文句。

 

「……で、先生ちゃんの方の進捗は変わらずって感じ?」

「そうだね。明日、現地に向かって状況を確かめる方針かな」

「……多分、法的に権利を主張されたら、不利なのこっちだよね」

「うん。まずは様子見が本命になると思う。きっと、強制介入は不可能じゃないけど……」

 

 私は先生だからね、と付け足した彼女の表情が微かに強張っているように見えたので、ぐいとその頰を摘んだ。

 

「……にゃにふるの」

「りらっくす、りらーっくす。人間一人に出来ることなんて、たかが知れてるんだし……カッコつけるのも大概にね?」

 

 一つ、気づいたことがある。

 薄々勘づいてはいたけれど、この人間の悪い癖についてだった。

 

 こんなどうしようもない呪いのかかった私でも生きていられるのだ。

 世界なんて無闇に期待するようなものではないが、存外に捨てるほどのものじゃなかった。

 だって、ここには皆がいる。

 それを、貴方も知っている。

 

 だから、

 

「自惚れるなよ、先生ちゃん。どうせ秒で潰れるのがオチなんだから、そう背負い込むのはやめときなさい」

 

 この生きづらそうな、善き人間を否定する。

 

「所詮、先生ちゃんなんて私と同じ『おまけ』なんだから。精々、流れ弾に当たらないようにだけ気をつけてなさいな」

 

 黒服は言った。

 私は、先生の価値を否定するイキモノだと。

 ホシノちゃんは怒ったけれど、私自身はそれならそれで構わないとも思うのだ。

 

 危なっかしいのはお互い様。

 ちょっと目を離せば、すぐに大(・)し(・)た(・)者(・)に(・)な(・)ろ(・)う(・)と(・)す(・)る(・)この人を、見過ごしてなどいられない。

 私の言葉で呆気に取られたような顔をした、ただの可愛い女の人へと向き直り、

 

「私、一つやりたいことを思いついたかも」

 

 口にする。

 それは、彼に問われた時には一つとして見つからなかった願い事。

 キラキラした目で、私の望みを聞き出そうとする先生ちゃんへと、満面の笑みを放り投げ、

 

「将来的に、先生ちゃんを無職にさせてやろうかなーって思ってます」

「何その悪魔的発言」

 

 ちょっとした目標を宣言してやった。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 その日、カイザーPMC理事に届いた一通の無機質なメールには、彼には看過できない事項が羅列されていた。

 協力者――あの異形の男が、突如として業務提携の打ち切りを申し出たのである。

 

 彼らの立場は対等――ではなく、アビドス砂漠に存在するという『宝物』の存在を知らされた時点で、明言せずとも真の上下関係の格付けは終わっていた。

 つまりは、理事にはその申し出を拒絶するための手札がなかった。

 

「…………いいや、構わん。所詮は外部の人間に過ぎん。我々のような巨大な規模の組織とは、総力が違うのだ。寧ろ、あの面妖な男を何の犠牲もなく、切り離さすことが出来たのは『宝物』を独占する上で、好機とも言えよう」

 

 自身に言い聞かせるように、言葉を繰り返す。

 頼りになる男ではあった。

 しかし、信用をおける相手であったかを問われれば間違いなくそれは否であった。

 ふと、理事は異形の男が望んでいたものが、何であったのかを脳裏に浮かべる。

 

 

「……小鳥遊ホシノ」

 

 

 アレの価値を、彼は知らない。

 あの黒服という男が欲するほどの何かである、という事実以外を彼は知らない。

 

 薄らと、けれど確かに男の心の中で、その欲が頭を擡げたのがわかる。

 

 男は強欲だった。

 そして、愚かしいほどに

 

「……もはや提携がないのなら、アレを私が先に手にしてしまえば――」

 

 ぶら下げられた人参への我慢が効かない男だった。

 無機質なその瞳は濁りきっている。

 

 カイザーPMC理事は気づかない。

 その確保に目処がたったからこそ、既に提携は打ち切られたのだ、という至極当然の論理に。

 

 後日、男の元に連絡が入る。

 それは、アビドス高等学校の生徒が、カイザーの私有地へと不法侵入したという一報。

 

 小鳥遊ホシノさえ手に入れれば、あの異形の上に立つことができるだろう。

 その上、あの高校に『生徒会』は存在しないことになる。

 いよいよツキが向いてきたと、男は歪んだ笑みを深めた。

 金利を引き上げ、兵力を結集させ、無防備に晒された利益を啜らんと、指示を出す。

 

 ああ、これは極めて簡単なお話だ。

 男はその日、望んで獅子の尾を踏みつけた。

 

 確かに、兵力は十分だった。

 後少し、ほんの少しだけ、作戦を実行に移すのが早ければ、彼の思惑は何一つ乱されることなく進んだのかもしれない。

 

 けれど、そんな「もしも」に大した意味はなく。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「ククッ、読み違えました。これ、少々困った事態になりますね」

「へー、黒さんでも間違えることあるんだね?」

「困った事態って、何?」

 

「ええ、この場所めがけて、鯨がやってきます」

「「なんで???」」

 

 

 用意した兵力の大半が、砂漠の主である白鯨に引き潰されることを、男はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 







 感想評価 誤字脱字報告
 いつもありがとうございます。
 
 ACT.10最終話です。
 ようやくアビドス編クライマックスです。
 温かい目で応援してください。



 以下、駄文。(メタあり)




 アリカの立ち位置を、先生ちゃんを支えながら否定する者に。
 油断してると賢くなり過ぎるので、いい感じにブレーキかけながら頑張ります。



 アリカ:先生ちゃんニート化計画始動。

 先生ちゃん:唐突な失業の危機。
 
 黒服:可能な限りキャラ崩壊なくギャグ落ちさせるから覚悟しとけ。


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