拝啓、 。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。 作:桜ナメコ
評価、感想ありがとうございます。
非常にモチベが上がります(単純)
話のキリを考えて、文字数は少なめです。
直ぐ近くで鳴り止まぬ銃撃の音。
振動の伝わる地面。
四方八方から怒号やら何やらが飛び交う世紀末から切り取られたかのような空間。
「何でこんなことに! 何でこんなことに!? 治安終わってるでしょ!?」
「あははは、これぐらいフツー、フツー。おたく、今まで正規のバイト以外したことなかった口? まぁ、落ち着きなよ」
その中心地に存在する廃れた倉庫の中にて、私は半泣きで喚き散らしていた。
まだ、正規のバイトもしたことないんですけれど!?
当然、そのような文句を言う余裕すらない。
きっと間違えたのは最初の一手目。
幾ら私が年齢不詳の正体不明なハイパー美少女だからといって、治安最悪であるこのキヴォトスの単発バイトなんてものに手を出したのが悲劇の始まりだったのだ。
「うぅ……物品検査って書いてあったじゃん。倉庫整理って話だったじゃん……!? な、なんで、こんなことにぃ……」
「バカだねぇ……まさかそんな話を真に受けて来るおマヌケさんが、まだゲヘナに居たとは……いや、見た目からして元トリニティの嬢ちゃんってとこ? なら、覚えときな。正直者が馬鹿を見る、それが罷り通ってるのがこの世界だよ」
隣でヘラヘラと笑っているのはやけに派手なヘルメットを被ったアルバイターの女性。
やけに手慣れた動作で銃の点検をしている彼女は私に疑問の目を向けた。
「で、おたくの得物は? 戦う準備は出来てんのかい?」
「得物って……え? もしかして、あれらとやり合う気?」
「それが今回のバイトの内容だよ。戦闘が苦手なら、あんたは運搬の方に回ってくれ」
「運搬って……これ……だよねぇ……」
今はもう使われていない廃墟じみた倉庫。
そこに置かれていた如何にもといった風のアタッシュケースを回収し、別地点までの運搬を行うのが真のバイト内容らしい。
手渡されたアタッシュケースは中身がずっしりと入っていて……中身については考えるのをやめた。
「…………うぅぅ」
初のアルバイト。
ハルナちゃんがひどく不安そうな顔で私をアルバイトへ送り出していた理由がわかってしまった気がする。キヴォトスのこと舐めてたよ。
銃撃の音。
迫るバイトのタイムリミット。
怖いから、思考を回す。
努めて冷静に、目一杯に情報を把握する。
そして、情報が集まれば集まるほど、目の前に広がる現実から逃げられないことを悟るのだ。
怖い。怖い。怖い。
恐怖一色で思考が埋め尽くされていく。
「嬢ちゃん? ……はぁ、こりゃ、ダメか」
周囲の音が遠くなる。
体の温度が抜け落ちる。
呼吸は浅く、視界の色が薄くなっていく。
ふと、漠然と脳裏を過ぎた。
こんなことになるのなら――
「――待てよ。お前、いま何を考えようとした?」
声は震えていた。
恐ろしかった。悍ましかった。
そのような思考に至った自分が、浅ましくて汚らわしくて、吐き気すら覚えた。
「何が、怖いの?」
問いを投げつける。
既に答えは自分の中に見つけ出していた。
銃撃の音、憤りをぶつけるありふれた暴力、不安も痛みも、緊張も。
それら全部を引っくるめた何もかもより、恐ろしいものが一つある。
「おい、嬢ちゃん! いい加減に――」
「…………ヘルメットのお姉さん、これ何処まで運べば良いですか?」
「……あ? ははっ、上々だ」
こんなことになるのなら、アルバイトをしようなんて思わなかったのに?
「ふざ、けんなよ…………誇りも意地も、全部投げ捨てて、あの子の温情に甘えて生き続けるのか?」
アタッシュケースを抱え上げる。
それなりの重量はあるのだろうがキヴォトス人パワーにかかれば、何の苦でもない。
「――死んだ方がマシでしょ」
「今だ、飛び出せ!」と、先輩アルバイターの指示に従い走り出す。
意識を切り替え、常識を捨てる。
これがキヴォトスでの生き方なのだ。
全速力で知識を経験へと落とし込む。
覚悟を固め、恐怖を押し殺し、私は銃弾が降り止まぬ戦場へと飛び出した。
✳︎
少女が走る。
ゲヘナ自治区郊外に存在する今はもう使われていない倉庫の密集地帯。
ヘルメット団を筆頭に数多くの不良生徒が集まったその場所で、戦闘に不慣れな彼女は格好の的であった。
狙撃を警戒して遮蔽物を利用することもなく、安置を事前に確保することもなく、仲間との連携をとることも、追手を撹乱するために道を違うことすらなく、その少女は一直線に目的地へと駆けていく。
弾丸の雨が降る。
アタッシュケースを奪わんとする狙撃手たちは皆、我先にと彼女を高所から一方的に撃ち続けた。
「……っ、いったぁ!? ちょ、痛い痛い痛い!? 本気で痛いんだけどぉ!?」
情けない悲鳴があがる。
それを聞いて後詰めのため控えていた一人の不良生徒は首を傾げていた。
「ひ、僻みか!? 僻みでしょ!? わ、私が可愛いからって、集中攻撃とかよくないと思うよ! 好きな子に悪戯をするのが許されるのって、幼稚園までだと思うんだよね、私!」
――ズダダダダッ
「待っ、急に勢い強っ!? ごめん、ごめんなさい、ごめんなさいってば! ――んぎゅ、ちょっと!? ほっぺはやめてよ!」
硬い。それも、アホみたいに。
明らかに、この少女は普通じゃない。
筋金入りの不良生徒であるその生徒は、自身の本能が警鐘を鳴らしていることに気がついていた。
攻撃のほぼ全てが高所からの狙撃、または設置型の罠、地雷などによる爆発。
決して威力の低いものではないはずだが、少女はそれらを正面から受け止め続け――半泣きになるだけで済ませてしまっている。
致命傷となり得る攻撃がない……というわけではないだろう。
時折、彼女の頭が大きく揺れるのが見て取れる。当然、突然ヘッドバンキングを始めたわけではない。原因は側頭部へと直撃する銃弾、その衝撃によるものだ。
幾ら『ヘイロー』に守られている人間でも、側頭部に何度も銃弾を叩き込まれて無事なのは少なくとも普通ではない。
どこぞの風紀委員長じゃないのだから、いい加減にしてほしいものだ。
そんなボヤキを思考の中に浮かべつつ、その生徒はニヤリと笑う。
「けど、上手く追い込んだ」
仲間に連絡を入れる。
アタッシュケースに何が入っているのかは知らないが、不良生徒たちが引き受けた依頼内容はアタッシュケースの強奪、最悪の場合はケースの破壊許可まで下りている。
『碌な後方支援もない。大した策もない。遠距離狙撃で片がつかないのなら、直接弾丸を叩き込むのみ――総員、発砲用意!』
トップスピードのまま細道から飛び出してきた少女は、眼前に広がる光景に目を見開いていた。
急に開けた視界。
待ち受けていた数多の銃口が、一斉に彼女を捉える。
同時に大量の手榴弾が逃げ場などないことを知らせるように降り注ぐ。
「やっば、これ、終わったかも……!」
直後、けたたましい発砲音が倉庫街の片隅に響き、半拍遅れで生じた爆発は世界を白に染め上げた。
「あ、あああアル様! 今の爆発は……!?」
「おー、派手にやってるね〜! くふふっ」
「……社長、本当にアレ助けなくていいの?」
「ふふっ、今回、私たちが受けた依頼は取引現場に当たる周囲一帯の防衛よ。こちらから打って出る必要はないわ。運搬は別働隊の仕事だもの…………けれど、そうね。あと少しだけ、防衛範囲を広げましょうか」