拝啓、  。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。   作:桜ナメコ

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 描写不足でしたが現在投稿中の序章編についての時間軸は、原作開始の少し手前を想定しております。
 他キャラクターとの邂逅などを通して、夢語アリカというキャラクターの背景や個性を詰め込んでいくパートがある程度続いていくと思いますが、気長に読んでいただければ幸いです。

 感想や評価、誤字報告など、ありがとうございました。
 非常に助かっております。




ACT.3「美食研究会 ♯悩みごと ♯探求者 ♯その理由」

 

 

 

 

 

 

 嫌な汗が背中を伝う。

 心臓が不規則に鼓動を鳴らし始める。

 杞憂に終わることはなく、懸念は現実に、疑惑は確信へと変わった。

 

 取り返しのつかないことになった。

 

 そのとき、ハルナはらしくもなく焦りによって聡明な思考を停止しかけていた。

 それは彼女を受け入れたことによる最大の弊害であり、いつかそうなるだろうと予感していた不可避の未来が訪れた瞬間でもあった。

 

 あの少女を拾わなければよかった? そんなバカな考えが頭に浮かぶことはない。

 

 このキヴォトス内において、黒舘ハルナは『後悔』の二文字とは最も縁遠い存在の一人だと想像されることの多い人間である。

 本能の赴くまま理性的に暴れ回るという矛盾を孕んだテロリストなのだから、周囲からの評判がそのようなものに落ち着くのも納得だ。

 

 後悔などはない。

 だがしかし、問題が生じたのも事実。

 

「……な…………るな、ちょっとハルナ!? 私の話、聞いてる?」

 

 さて、どうしたものかと考え込んでいると、意識の外から大きな声が聞こえた。

 

「はーるーなー! 急にどうしたのよ! 何か変じゃない? 全然、食事進んでないじゃない!」

「ほんとだ! お腹減ってないなら、私がそのカニクリームコロッケ食べてあげようか? 丁度、ピーナッツバター持ってるし!」

 

 言われて、現在の自分が食事中であったことを思い出す。

 後輩がキラキラとした瞳で差し出してきたピーナッツバターを丁重にお断りし、ハルナは少し遅めの昼食へと手をつけた。

 

 彼女を少しでも知るものならば、迷いなく有り得ないと断じるはずだ。

 あの黒舘ハルナが食事中に他の何かに気を取られるなんて熱でもあるのではないか、と。

 

「うぇ〜、絶対美味しいのにー」

「…………」

 

 向かいの席に座っていた赤髪の少女――赤司ジュンコは明らかに不審な様子のハルナの表情を伺っていた。

 隣に座るゲテモノ喰らいは放っておくとして、一応はお世話になっている先輩に異変が生じているのは間違いない。

 それもこれも、ハルナが食事中に考え事に耽ってしまうことは、これで一度や二度のことではなかったからだ。約一ヶ月ほど前から見られるようになったその様子は、最近になるに連れて段々と酷くなってきている。

 

 何かを隠している。

 そんな確信はあるのだが、態々ハルナのプライベートにまで踏み込んで問い詰めるほどの問題なのか、と考えればそうでもないように思えた。

 美食を探求する。

 ただその一念のみを共通の意志として、彼女ら美食研究会は活動を続けてきた。

 勿論、活動を共にした理由には同好の趣味を持っているから、以外の理由もあったはずだ。

 

 気が合う仲間だった。

 居心地がよかった。

 自然と集まる機会に恵まれた。

 

 これまでの活動を思い返す。

 美食研究会の仲間……ジュンコからすれば、その全員が先輩に当たる。

 見捨て、見捨てられの逃亡劇には何度も覚えがあるのだが、それでも彼女らは常にジュンコのことを一人の後輩としても扱ってくれていたのであった。

 

 ならば、と。

 ほんのちょっとの勇気を出して、ジュンコが口を開いた直後のことだった。

 

「ね、ねぇ、ハルナ? その……何か困っ――」

「…………りませんわ」 

 

「「…………え?」」

 

 ゴゴゴゴゴッ、とそんな音が聞こえてきそうな震えと共に、ハルナが何かをつぶやいた。

 俯き気味の目元には影が落ちていて、その表情を読み取ることはできそうにない。

 

 だが、それでも。

 何度も何度も、この先輩の理性ある暴走を見てきた後輩たちは、続く言葉がどのようなものであるか予想がついていた。

 

「これは……これは! 断じて! カニではありませんわ!!!」

 

 魂の絶叫の直後、ハルナは何処からともなく一つのボタンを取り出して、躊躇いなくその中心に手を叩きつける。

 

「――論外です」

 

 すんと澄ました顔でハルナがそう言い捨てる。

 

 やがて、発生したそれはそれは大層立派な大爆発により、店内は阿鼻叫喚の嵐に包まれた。

 その日、爆発に巻き込まれたジュンコはあっさりとハルナの悩みを聞くことを諦めた。

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「ハルナちゃん、ハルナちゃん」

「はい何ですか、アリカさん?」

「アリカさん、やっぱり店ごと爆破はちょっとコスパが悪いと思います」

「ふむ、なるほど……?」

「ね、ねぇ、アリカ? コスパとかの話じゃないでしょ? まず爆破って思考に至っちゃダメだよね? 今日、私のこと庇ってくれたのアリカだよね!?」

 

 悲報 ハルナちゃん、テロリストだった。

 

 そんな衝撃の事実が明らかになったお昼時から少しばかり経った現在、シェアハウスへと帰ってきた私とハルナちゃん、そしてフウカちゃんはお鍋を囲みながら、改めて情報の整理を行っている所だった。

 

「……つみれ鍋、美味しい」

「季節感とか何も考えてないけどね……でも、リクエストをくれると作り甲斐があって助かるわ」

「うへへ〜、いいよねお鍋。お鍋は皆の顔が見れるから好き! 一緒にごはん食べてる感じがして、二人ともやっぱり大好きだなぁ……って気持ちに浸れるから幸せになれるよね……ん? もっとよそってくれるの? ありがとう!」

「いっぱい食べて大きくなってね……じゃなくて! ハルナの話でしょ! 何でのんびり食事してるの!?」

「流石はフウカさんです。シンプルながらも上品な味わい。どの料理も甲乙つけ難い出来栄えですが、やはり和食は頭一つ抜けているような気がしますわね」

「えっ、あ、ありがとう……ってだから違う!」

 

 フウカちゃんがワタワタしているのを眺めながら、熱々のつみれを頂く。

 うん、美味しい。いつも通りに、いつも以上に。

 さいっこうに美味しい夕ご飯を家族のような二人と楽しめるのは、幸せ以外の何物でもなかった。先の言葉は全てが嘘偽りのない真実なのである。

 

 さて、当然この先も全身全霊で味わいながら食事を続けていく所存であるのだが、そろそろフウカちゃんの言葉も聞き入れるべき頃合いだろう。

 

「で、どうして爆破しちゃったの?」

「カニクリームコロッケの名を騙った何かを食べさせられたから、ですわ!」

「わーお、自信満々。可愛いらしい理由だねぇ」

「か、可愛らしい……かなぁ?」

「可愛いもんでしょ。『むしゃくしゃしたからやった』とかだったら、流石の私もハルナちゃんを一週間強制抱き枕の刑に処してたとこだけど」

「…………それ、罰ゲームなの?」

「わかんない。私がやりたいだけかも?」

「私欲が凄い」

 

 アリカさん的には、フウカちゃんでもウェルカムだよ。誰かに引っ付いて眠ると一人じゃないのがわかるから心地良いんだよね。

 

 ふふんと誇らしげな顔をしているハルナちゃんだが、似非カニクリームコロッケさんは私にとってはご馳走だ。残念ながら、彼女の意見に完全に共感してあげることは難しそうである。

 

「フウカちゃん的にはどうなの? カニクリームコロッケ詐欺って」

「えっと、私がお店をやるならやらないとは思うけど…………あっ、だからって爆破は絶対にナシ!」

「フウカちゃんが少しでもギルティ判定下すなら、情状酌量の余地はある気がするんだよね……ハルナちゃんが頭キヴォトス勢だったのは、本当にびっくりだったけど」

 

 はっちゃけてるハルナちゃんも可愛いから、それはそれでいいと思う。

 爆破はやり過ぎな感じあるけど。

 芸術は爆発だぁー! とか聞くし、多分そんな感じなんでしょ(適当)

 

 ……え、ハルナちゃん今の恥ずかしそうな顔、何ですか? めちゃんこに可愛いかったんだけど、もう一回見せて? ダメ?

 

 頭キヴォトスと言われて顔を赤くしたハルナちゃんだったが、直ぐにコホンと咳払いをして表情を戻してしまった。

 キリッとした顔も可愛いよ、綺麗だよー! なんて一々、褒め称えていると永遠に終わらないのでここは一旦控えておく。

 

 それから、鍋を摘みながら色々な話をした。

 

 ハルナちゃんが例の美食研究会とやらの会長役だったとか、アカちゃんもその一員だったとか、実は定期的にフウカちゃんを誘拐する犯人はハルナちゃんだったとか(コレに関しては普通に安心したよね。ハルナちゃんがフウカちゃんを傷つけるわけないもの)そんなふうに、本当に色々な話をした。

 面白い話で言えば、ハルナちゃんの『蛇口理論』とかが印象深かった。何故か、誰にも理解されたことがない理論らしいが、私は割と納得できるものだった。

 それは決して、爆破を肯定する理由にはならないけれど。

 

「……だって、コスパ悪いもん。せめて即爆破よりは、対話を挟んだ後に爆破の方がハルナちゃんの理解者は増えると思うよ?」

「平和的なのか物騒なのかわからない助言ね……まぁ、でも、確かに会話は大事だよ。私だって態々誘拐なんてしなくても、時間の予定を合わせてくれたら料理くらい普通に付き合うのに」

 

 私とフウカちゃんの視線を受けて、ハルナちゃんは少々バツの悪そうな顔をしていた。

 

「…………そう、なのでしょうか?」

「うん、絶対にそう。だって、皆に本当の美食を味わって欲しいっていう優しさが、ハルナちゃんの根底には確かにあるんだもの。そりゃ確かに、ときには暴力に頼る必要もあるかもしれないよ? ここキヴォトスだし。でも、そうじゃないときだってきっとある」

 

 ハルナちゃんたち美食研究会のことを、キヴォトス最悪のテロリストだなんて呼ぶ人は少なくないらしい。

 その話を聞いたとき、私は純粋に疑問に思ってしまったのだ。

 

 勿体無いな、と。

 

「ハルナちゃんが食事のことを大好きなのはすごく伝わってくるし、素敵な趣味だと心の底から思ってる。キヴォトスの学生らしく自由気ままに不良店を爆破して回るっていうのも……まぁ、ハルナちゃんがやりたいことなら頭ごなしに否定はしないけど……でもさ、私は思うの。ハルナちゃんが『料理がとっても好きな女の子』じゃなくて『意味のわからないテロリスト』だなんて皆から思われちゃうのは、すごく勿体無いことで……それは、ちょっと悲しいなぁって」

 

 テロリストだろうが何だろうが、それでも私にとってハルナちゃんは、私の世界を救ってくれた救世主のような人だから。

 それが周りに全く理解されないというのは、少しばかり気に食わない。

 

「だからさ……せめて爆破は説得に失敗してからにしない? あ、セクハラとかは速攻でぶちのめしていいと思うけど」

 

 鍋をつつきながら、そんな提案をする。

 ハルナちゃんは静かに視線を落として、深く何かを考え込んでいるようだった。

 

 日常に存在する爆発に対して特に疑問を抱かなくなってきた辺り、私も中々キヴォトスに染まってきたような気がするが、多分気のせいということにして私は彼女の返答をゆっくりと待った。

 

 秒針が刻む一定のリズム。

 かつりと机の上に食器を置いた際の控えめな音が、いつもよりも耳に残った。

 

「…………困りましたわ」

 

 顔を上げたハルナちゃんの表情に浮かんでいたのは、参ったとでも言いたげなほんの少しばかり不満を滲ませながらの柔らかい笑顔だった。

 

「こんなにも真っ直ぐな想いを向けられては、逃げることもできないですわね……ええ、約束しましょう、アリカさん」

「……約束?」

「はい。これから先、私は可能な限り、直接的な解決手段を避けた上で美食の探求を続けるとしましょう……あまり良い印象は持たれない言い方かもしれませんが、一言で表せば『善処する』ということです」

 

 そう話すハルナちゃんを、フウカちゃんはあり得ないものを見るかのような目で見ていた。わーお、すっっごい顔してる。

 

「――ですが、約束を守る条件……とまで言うつもりはありませんが、一つアリカさんにお願い事がございます」

「…………? 私にできることなら何でもやるけど、何かある?」

「ふふっ、そう言って貰えるのは嬉しいことですが、あまり簡単に自分を安売りするものではありませんよ」

「まー、ハルナちゃん相手だからね。むしろ押し売りまで考えちゃうレベルかも?」

「…………ええ、ならお言葉に甘えて遠慮なく――」

 

 どこかかしこまった雰囲気で、ハルナちゃんは私の目を見て口にした。

 

「美食の探求、その道に貴女が必要です。どうか、私に力を貸して頂けませんか?」

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

「意外でしたか? 私の提案は」

「…………そうだね。正直、びっくりした」

 

 アリカがお風呂に入っている間、ハルナとフウカはリビングにて簡素なお茶会を開いていた。

 

「ハルナは自分の信じる道を自分のやりたいように進み続けるようにして、これまでの美食の探求を行ってきたわけでしょ? それが、急に他人に頭を下げてお願いをするなんて……少し前の私じゃ、そんな姿は想像もつかなかったわよ」

「…………私、フウカさんにはそのように見られていたのですね」

「茶化すなら、ただの誘拐犯扱いしてもいいんだけど?」

「冗談ですわ。もう同居までしている仲じゃないですか」

「……それこそ、半分強制的だったけどね」

 

 料理の関わらない状況でハルナとフウカが二人きりで話をする――被害者と加害者の親睦会ともいえる奇怪なシチュエーションにも、そろそろ慣れてきた頃合いである。

 

「――アリカさんには伝えていませんが、彼女を美食の探求の道へと引き込んだことには明確な理由があるのです」

 

 それは、ここ最近ハルナが一人で抱えていたある悩みにも関係することだった。

 

「フウカさんの目に映る私が、アリカさんへの申し訳なさを感じているように見えたのであれば――それは、彼女に本当の理由を話すことができないという罪悪感からくるものでしょうね」

 

 よくわからないといった風に首を小さく傾げたフウカにハルナは頰をほんのり色づかせて口にした。

 

「全くの想定外でした。まさか、ここまで絆されるとは……私にも思いも寄らなかったことなのです――貴女が隣にいないと食事を美味しく食べられなくなってしまいました、なんて言葉は告白とそう変わらないものでしょう?」

 

 フウカは目を丸くしてから、珍しく揶揄うような笑みを見せる。

 

「なるほどね。しおらしく見えたのは、単に恥ずかしがっているのを隠していただけってこと? ハルナって意外と乙女なところあるんだね」

「……フウカさんの良妻力には負けますわ」

「どういう意味よ……」

 

 そして彼女らはもう一人の同居人が戻ってくるまで、これまででは考えられないような穏やかな時間を少しぬるくなったお茶をお供にのんびりと続けていくのであった。

 

 

 

 







 イズミの思考エミュがどうにも上手くいかないため、描写を逃げてしまっている節があるのは否定できない。
 キャラストを更に読み込むぐらいしか手はありませんが、精進しますね。
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