拝啓、  。今日も元気にキヴォトスでニートやってます。   作:桜ナメコ

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 忙しくて目が回る一ヶ月でした。
 何とか10月中に更新できて、良かったです。
 誤字脱字 感想評価 ここすき 全てをモチベに書いています。
 いつもありがとうございます。
 



Ex-01 Step under the Moonlight

 

 

 

 

 

 深夜のゲヘナ市街地上空にて『流れ星』が見られることがある、なんて噂が流れ始めたのは一体いつのことだっただろう。

 いや、別にいつ頃だろうと関係はない。

 

『キキキッ、どうやらイブキがその『流れ星』とやらに興味を持ったらしい! となればだ。空崎ヒナよ、次に私がお前にする命令は一つしかないだろう!』

 

 大切なのはそのようなどうでもいい与太話を信じた万魔殿のトップが、その噂に興味を持ったこと。

 更に言えば、ただでさえ膨大な彼女の仕事が一つ増えたことであった。

 

「……面倒ね」

 

 思い出すだけでもストレスが溜まるあのアホ面を脳裏に浮かべながら、その少女――空崎ヒナは単身で、その噂が広がり始めた市街地へと足を運んでいた。

 

 イオリたちに任せるほどの案件ではない。

 さして重要性が高いわけでもないため、本当は足を運ぶ必要すらなかったのだろうが……

 

「気分転換、ということにしておこう」

 

 仕事を名目にした夜休憩。

 思考を休めるための散歩ぐらいの感覚で、彼女はその市街地をのんびりと歩く。

 

 幸い、そこはゲヘナ地区の中では比較的治安の良いとされている住宅地でもあった。

 彼女の散歩を邪魔するものは居ない。

 ゲヘナ自治区にて彼女に喧嘩を売る相手が端から極小数であるという前提はあるにせよ、だ。

 

「…………」

 

 しばらくすると、広場に出た。

 無言のまま、自販機で缶コーヒーを調達し、最寄りのベンチに腰掛ける。

 アコが淹れてくれるコーヒーと製品であるソレの味を比べてしまうのは、流石に酷というものだろう。

 

 街灯を横目に空を見上げる。

 何も考えることのない時間、というのは存外に貴重なものだった。

 最近はロクな休憩を取ることができず、自分が寝ているのか起きているのかすらもが怪しくなるような、そんな状態が続いていた。

 

 活動と休息の境目が曖昧になっていた。

 そう言い換えてもいいだろう。

 コーヒーを口に含む。

 心地の良い苦味と香りがスッキリと抜けていく。

 

「……限界、だったのかな」

 

 全身を襲う疲労感に気がつくと、そんな珍しい弱音が口からこぼれ落ちた。

 

 ……まさか、気を遣われた?

 有り得ない想像を一瞬だけして、直ぐに気のせいだと頭を振った。

 

 缶コーヒーを飲み終えたら、この場所を後にしよう。

 それまではゆっくりと夜空を見上げて、ただ只管に安息へと浸ろう――そう考えた数秒後。

 

 

「まっ、ちょっ――やっばい、これ、止まらないんだけど!? 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、マジで死ぬっ! 誰か、助けて!? これ、止めてぇぇぇええ!!!」

 

 

 この静かな夜とは似合わない賑やかな声と共にその『流れ星』は落ちてきた。

 

 

 

 

 ✳︎

 

 

 

 

 

 ――あ、これ死んだかも。

 

 キヴォトスにやってきてから幾度となく脳裏を過ぎたそんな思考に「なら、今回もどうにかなるでしょ?」なんて楽観的な返答ができたのなら、その人はきっと大物になるだろう。

 残念ながら、最強に可愛い美少女なだけの私には無理な話である。

 

 普通に瞑目して、神様に祈りかけたよね。

 まぁ、私、神様とかいう超次元的な存在は信頼してないんだけど。

 など、と考えている間にも、私の視界はどんどんと硬そうな地面を拡大していった。

 

 光の消えた白翼を動かそうにも、何やら上手く力が入らないような感覚に邪魔される。

 

 これはそう、アレだ。

 

 ガス欠。

 或いは体力切れ。

 

 そんな言葉が恐ろしいほどピッタリ来るような感覚を味わいながら、現在、私はゲヘナ上空から真っ逆さまに墜落している。

 

 一体どうしてこんなことになったのだろう。

 ふむ、と思い返してみるも、特に回想するほどの出来事は経由していない。

 

 いつも通り、ハルナちゃんとフウカちゃんの二人と一緒に同じ食卓を囲み、和やかに夕食を食べていた際に一つの話題が生じたのだ。

 

「ハルナちゃんってとっても綺麗な片翼を持ってるけど、空を飛ぶときとか大変じゃないの?」

 

 ああ、そうだ。

 私が空を飛ぶことができるという話をすると、なんだか二人ともひどく驚いた顔をしていたっけ。

 翼を持っている理由なんて、空を飛ぶこと以外にないはずなのにね?

 

 となると、私が実際に空を飛ぶところを見てみたい、なんて話になるのも必然なわけでありまして。

 二人の前で、ふわりふわりと自由自在に飛んで見せたのでありました。

 裏バイトの逃走時のように空を叩くような乱暴な飛び方ではなく、優しく丁寧に空を掴むような柔らかい飛び方を見せてみると、フウカちゃんなんて大袈裟なくらいに感動してくれた。

 時々、夜中に部屋を抜け出して空を飛ぶ練習をしていた甲斐があったというものだ。

 

 そんな姿にテンションを爆上げしつつ、上機嫌に調子になった阿呆がどうやら居たらしく。

 後先何も考えず、遊びに夢中になった子供のように月で飾られたこの夜空を飛び回ってしまったようである。

 

 

 うーん、流石に私が悪いかな? 

 いやでも、あんなに可愛く喜ぶフウカちゃんにも責任はあると思うんだよねぇ。

 

 それで、なのだけど。

 いい加減、着地について考えないとまずいよね?

 

 翼が使い物にならない以上、高度の上昇は見込めない。かなりの速度で落下しているため、仮に翼の角度を変えられたとしても効果的な軌道修正はできないだろう。

 ぶっちゃけ、既に状況は詰んでいた。

 悪足掻きとして思いついたのは、この前アカちゃんからお守り代わりに渡された手榴弾の爆風で勢いを殺せたりしないかなぁ? なんてフィクションが過ぎる抵抗くらいだった。

 

 ならば、仕方がない。

 このキヴォトスパワー満載の美少女ボディにて、真正面から落下の衝撃に耐え切る外にないだろう。

 覚悟は決めた。

 ならば、みっともない姿は見せない。

 堂々とその苦痛に立ち向かってやろう。

 

 そんな決心を固めた結果――

 

「やっばい、これ、止まらないんだけど!? 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ、マジで死ぬっ! 誰か、助けて!? これ、止めてぇぇぇええ!!!」

 

 口から飛び出てきたのは、余りにも情けない泣き声混じりの絶叫だった。

 

 

 ――衝撃。

 

 驚くほど痛みのない着地。

 そんな事実の理解を脳が拒み、思考に空白が生じていた。

 

「…………あの、大丈夫?」

「いった――く、ない? あれ?」

 

 耳元で少し低めの透き通った声が聞こえた。

 顔を上げる。

 その人と目が合った。

 

 その日、どこぞの天彗龍よろしく天空から地面への急降下を果たした超絶美少女こと私を抱き止めたのは、もっふもふの白髪と立派なツノを持った小さな女の子だった。

 

 お日様の匂い。

 陽だまりの中で微睡んでいるような心地の良さを覚える。

 

 現在、少女の華奢な腕は私の背に回されており、絶対的なまでの安心感を与えてくるそのハグは小柄な体躯からは想像も尽かないものだった。場違いなのは承知の上の感想だが、感動しそうになるくらいの安心感である。いつでも眠れそう。警戒心皆無かよ、おい。

 

「…………あり、がとう?」

「……別に。自分の身を守っただけだから」

 

 長い時間をかけて、頭の中の整理を終えた。

 目の前の少女が私の墜落を阻止してくれたことを理解する。

 呆然としながらも口から溢れた感謝の言葉に、少女はそっぽを向いて答える。

 

 回されていた腕がほどける。

 至近距離で見つめあっていた私たちは程なくして一歩分ずつ後退し、互いにその姿の全容を視界の中へと収めた。

 

 ゲヘナ学園内で何度か見かけたことのある制服――確か、風紀委員会だっただろうか――に似た軍服を思わせる服装に身を包んでいる白髪の少女。

 そんな彼女は、おそらくこのキヴォトスにおいては数少ない私よりも身長が低い生徒でもあるようだった。お胸もちんまりとしていて可愛らしい。

 

 寝不足なのだろうか。目元には酷い隈を落とし、どことなく寂しさを感じさせる立ち姿を前にして、何かが私の中の琴線に触れたのがわかった。

 

「あ、あの! 名前、聞いてもいい?」

 

 落ち着こう。

 ガッついて怯えさせるのは本意ではない。

 努めて冷静に、目一杯に声音を優しく。

 心の中で深呼吸を何度も繰り返しながら、声が上擦らないように話しかける。

 

「…………空崎ヒナ。あなたは?」

「あ、ごめん。こういうのは、自分からするのが礼儀だよね……私は夢語アリカ。通りすがりの……と、通り、すがりの――」

 

 口が止まる。

 

 さてはて。

 私はこの子に何と自己紹介をするのが正解なのだろう。まさか、何の捻りもなく『クソ雑魚ニートだよ!』なんて事実を宣うわけにはいくまい。人間、誠実さだけで生きていければ苦労はないのである。

 かと言って基本に忠実に『◯面ライダーだ!』なんて脳死発言を続ければ、この子からの信頼度は早々にして地の底へと落ちるだろう。というか『仮◯ライダー』って何ですか?

 

 この間、コンマ2秒。

 悲しいほどにどうでもいい思考を爆速でぶん回す。

 そろそろ不審げな表情を浮かべ始めそうな少女に何か無難な自己紹介を続けようとして、その参考のために私が信頼している皆の顔を思い出した。

 

 ハルナちゃん、フウカちゃんにアカちゃん。

 頼り甲斐のある皆に共通していること。

 いつだって私を安心させてくれるその理由。

 

「と、通りすがりの――お、お姉ちゃんだよ?」

「……………………はい?」

 

 口にした直後、自身が致命的な間違いを犯したことに気がついて、卒倒しそうになる。

 

 ……ち、違うのですよ、違うんです。

 無差別な相手に「私があなたの姉です」なんて宣言をする当たり屋みたいになりたいわけじゃないんです。

 ……その、ちょっと皆みたいに少しお姉さんっぽくって思っただけでありまして。

 

 うん。

 そうです。

 ちょっと先輩風を吹かせてみたかっただけと言いますか、頼られてみたいなぁと感じただけといいますか。

 

「や、違っ――今のは、その……」

「…………」

「無言で後ずさらないで!?」

 

 ……い、いいでしょ、別に! 

 ちょっとぐらい年上ぶったってさ! 

 キヴォトスの中で初めて自分より明らかに年下っぽい子見つけたんだから! 

 私だって甘やかされるだけじゃなくて、誰かを甘やかしてあげたいんだもん!

 

 そんな誰に向けたものかもわからない言い訳を内心で叫びつつ、警戒心マックスの表情を浮かべている空崎ヒナさんに全力で訂正を入れる。

 

「え、えっと『お姉ちゃん』っていうのは別に生き別れの姉妹だとか、前世で姉妹でしたとか、魂で結ばれた姉妹だぜとか、盃を交わし合った仲だとか、そういう訳ではなくてですね? その……と、歳上! そう! 私、ヒナちゃんより歳上のはずだから! さっきは助けられたけど、お姉ちゃんみたいに頼ってくれていいよ! みたいな?」

 

 段々、自分が何を喋っているのか、わからなくなってきている自覚はある。

 が、引くに引けない事態でもあるので、そのまま勢いで口を動かし続けた。

 大丈夫。この子、押しに押して、押し続ければ割と何とかなりそうな雰囲気してる! 

 

「だ、だって、ほら! こんなに夜も遅いのに一人で出歩くなんて危ないでしょ? 折角可愛い顔してるのに、こーんなにひどい隈までつくって! 夜更かしも良くないよ! 子供はいっぱい食べて、いっぱい眠るのが成長に良いんだよ?」

「…………色々と言いたいことはあるけれど、成長についてあなたに説かれても説得力が――」

「む、胸もおっきくなるよ?」

「…………!?」

 

 記憶がないので知らんけど。

 多分きっとおそらくメイビー、この身体もよく食べて、よく寝た結果の産物であるはずだ。

 ヒナちゃんと私は背丈こそ、少し私が高いだけでほとんど変わらないようなものであるのだが、胸のサイズだけは明らかに私の方が大きい。

 体感の話だがおそらく現在の姿が完成系であろう私と違って、ヒナちゃんはまだまだ成長過程にあるはずだ。

 きっと直ぐに身長も追い抜かれてしまうのだろうが、たくさん眠る習慣を身につけておくに越したことはない。

 

 何はともあれ、胸のサイズについての話とかいう酷い話題だが、ヒナちゃんの意識が私の不審者的発言から逸れたので、一気に次の話題へと畳みかけてしまうことにした。

 

 彼女が私を助けてくれたと知ってから、ずっと頭の中で考えていた『本題』である。

 

「い、今は一旦私のことは置いておくとしてですね……こんな遅い時間に、広場に一人だなんて、ヒナちゃんこそ何をしていたんです?」

「……それを説明する義理はないと思うけど」

「余りにも冷たい反応でお姉ちゃん泣きそう」

「勝手に姉にならないで」

「ムスッとしてても可愛いねぇ、お人形さんみたい……じゃなくて。実は私、ヒナちゃんが今何をしているところなのか見当がついてるんだよね」

「…………何の話?」

「隠さなくてもいいんだよ? そのぐらいの年齢なら誰だって一度は考えることだから!」

「……いや、だから私は――」

 

 多分、中学生……のはず。

 小学生にしては大人びているといった印象を受けるちょいダウナーな感じの女の子。

 そんな少しやつれた姿の少女が、ポツンとひとりぼっちで人気のない広場のベンチに座っていたというのだ。

 

 深く考えるまでもない。彼女が今ここに居る理由なんて、一つしかないだろう。

 

「家出ってやつでしょ? ここで野宿するぐらいなら、私がお世話になっている所においでよ! 二人ともすごく優しい人だから、事情を話せばヒナちゃんも泊めてくれるはずだよ!」

「全然違うけど」

「照れなくてもいいんだよ。誰だってそういう時期を過ごして大人になるんだから。ほら、よく聞かない? 反抗期がない子供って逆に健全な状態だとは言えない、みたいな話」

「…………」

 

 何やら複雑そうな顔のヒナちゃん。

 野宿は嫌だが、家出バレするのも恥ずかしいといった具合だろうか。可愛い悩みである。

 どこかフウカちゃんが『何言ってもダメだ』みたいな時にしていた顔にも似ているが、きっと関係ない。

 

「じゃあ、誘い方を変えようかな。家出少女に救いの手を、じゃなくて……コホン、空崎ヒナさん、私の命を救ってくれたお礼をさせてくれませんか? 具体的には、宿とかあったかい料理とかで」

「…………温かい料理」

 

 くぅ、という小さな音が聞こえた。

 彼女はほんのりと頰を赤らめる。

 

「それとも、ヒナちゃんはアレかな? 命を救ってもらったお礼すらさせたくないってぐらい、私のことが嫌いなのかな?」

「……………………はぁ」

 

 見るからに善良が服着て歩いている、みたいな雰囲気を感じさせる陽だまりのような少女を相手にこんな言い方をするのは狡い気もしたが……効果は覿面だった模様。

 諦めたようなため息を最後に、彼女は小さくつぶやくのだった。

 

「それで、どこに向かえばいいの?」

 

 

 ✳︎

 

 

「ただいま戻りましたー!」

 

「アリカ!? 良かった! 丁度、今からハルナと一緒に探しに行こうと思ってた所だったのよ! よく無事だったわね?」

「アリカさん! ぶ、無事でしたか!? 流石に心配しましたわ。怪我は……なさそうですわね? 本当に、本当によかっ――あら? アリカさん、そちらの方は?」

 

「……………………ハルナ、それに給食部の」

 

「私のことを助けてくれた可愛い女の子こと、妹予定の空崎ヒナちゃんです! 恥ずかしがってるけど、多分家出中っぽいから強引に連れてきちゃいました……た、確か、部屋、空いてたよね? 使わせてあげちゃ、ダメかな?」

 

「……ふふっ、ええ、勿論大丈夫です。では、お礼も兼ねて部屋の方を案内させて頂きますわね、『ヒナちゃん』さん?」

「…………うるさい」

「…………はぁ……程々にね、ハルナ。アリカはこっち来て。今からお説教をします」

「えぇ!? 何で!?」

「もう二度とあんな危ないことをしないようにしてもらわないとこっちが保たないからよ」

「正論過ぎるし、フウカちゃん優し過ぎて好き」

「私も好きだから正座して」

「はーい」

 

 

 

 

 

 






 EX-◯◯系は、イベスト感覚。
 本編で関わる予定を厳密に決めていないキャラとの邂逅などの予定。
 
 わっぴー可愛いよ、わっぴー。
 
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