栗東寮118号室 ホラー映画研究会   作:月兎耳のべる

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ウマ娘にホラー映画見せた時の反応が知りたくて……つい……。
内容的にダメだったら消します。
実際に映画を見ながら読むと楽しさが倍増するかも…かも…。

【あらすじ】
 ある日、ニューヨーク湾内で奇妙な事件が発生した。漂流中のクルーザー内に踏み込んだ警備船の警官2名が、全身が腐乱した男に襲われたのである。男に噛まれた警官1人が犠牲となり、男は全身に銃弾を打ち込まれて海中に姿を消した。クルーザーの持ち主の娘であるアン・ボールズと新聞記者ピーター・ウェストは、アメリカ人夫婦ブライアンとスーザンのクルーザーに同乗し、アンの父親がいるはずのカリブ海に浮かぶマトゥール島へ向かう。
 だがそこは、死んだ者が蘇って生者を貪り喰い、噛まれた被害者もゾンビになる恐るべき魔境と化していた……。


第一回『サンゲリア』(伊 1979)

「……何? この箱」

 

 栗東寮118号室。

 

 その部屋にこぼれた呟きは、お馴染(なじみ)3着、商店街のアイドル『ナイスネイチャ』のものだ。

 

 日毎に厳しさを増すトレーニング。その疲れをたっぷりとお風呂で癒し、ドライヤーで髪を乾かしていた折、それは見つかった。

 

 ベッドとベッドの間に無造作に置かれた段ボール箱。そこに何十本ものケースが入っている。見立てが正しければ……これはDVDのケース? しかしそのどれもが白無地で、怪しさしか感じとれないときた。

 

「ねえねえマベっさん、これって何?」

 

 気付けばネイチャは同室の少女に話しかけていた。

 

 同じく風呂上りだが、既に髪を乾かし終えた彼女は118号の同居人である『マーベラスサンデー』。天真爛漫だが、気付けば人を固有結界(マーベラス空間)に飛ばしてしまう力に長けている彼女は、ベッドの上でうつぶせになって本を読んでいた。

 

「えー? ……あ! ネイチャ、目の付け所がマーベラスっ☆」

 

「はいはいどーもね。……じゃなくて、これが何なのか教えて欲しいんだけど? もしかしてレース動画?」

 

「うんっ! トレーナーがアタシに貸してくれたのっ! きっとマーベラスな物だと思うよ~~!」

 

「へぇ~……マーベラスな、ねぇ」

 

 ケースを開くと、これまた無地のラベルに『サンゲリア』とだけ書いてあった。きっとウマ娘の名前だろう。それにしては聞いたことのない名前だが……マーベラスと同じ、差しウマの映像なのだろうか?

 

「ねえねえネイチャ、一緒に見ようよ! すっごくマーベラスだと思うよっ☆」

 

「あの~……マーベラス? これって本当にレースのDVDなの──」

 

「あははははっ☆ じゃあ再生するねっ☆」

 

「ちょ、ちょいちょいもう寝る前ですよー? ってああもうこの子ったら……まあいいけど、少しだけだからね?」

 

「はーいっ☆」

 

 備え付けのDVDプレイヤーにディスクを読み込ませたマーベラス。ワクワクを隠せないのかベッド上で胸の前両手を握りしめて尻尾を揺らしている。やれやれと思いつつ、ネイチャも姿勢を崩してそれを見ようとするのだが……。

 

「……ん? まって。なんで拳銃? え、ん? 何この袋みたいな──ぎゃああぁああああぁあぁぁ!?!?!?!?!?」

 

 再生して早々。ひとりでに起き上がった死体袋が拳銃で撃たれ、肉を飛び散らせるシーンが流れた。ネイチャは飛び上がり、即座にテレビの電源を切った。

 

 

 

 

ー 第一回『サンゲリア』(伊 1979) ー

監督:フルチ・ルチオ

 

 

 

 

「マーべラースっ☆」

 

「じゃないでしょ!? これ絶対レースじゃないじゃん!」

 

 飛び出そうになった心臓を抑えながら憤る。 

 

 ホラー映画!? 何てもの渡すんだマーベラスのトレーナーはっ! この子の価値観が(ゆが)んだらどうするんだ!? ネイチャが抗議の電凸をしようとした所でふと考える。あの熱血クソ真面目トレーナーがこんなイタズラめいた事を彼女にするのか? ……いや、常識的に考えてしないだろう。

 

「……あのー、マーベラスさんや。これって本当にトレーナーさんに渡されたモノ?」

 

「ううん。トレーナー室にあったから持ってきたの!」

 

「……勝手に?」

 

「何だかマーベラスな気がしたからっ☆」

 

 どうや不思議センサーが(おもむ)くままに拝借してしまったらしい。つまるところ、これはトレーナーの私物。要らぬ誤解をするところであった……振りかざしかけた拳を戻すネイチャ。いや私物とはいえそもそも職場にホラー映画を持ってくるのってどうなんだろう? それはそれでダメでは?

 

「そーいやマーベラスのトレーナーさんって映画が趣味って言ってたっけ。こういうの見るんだね……」

 

「ゾンビ映画が好きなんだって☆」

 

「ゾンビ。なんで?」

 

「マーベラスだからじゃない?」

 

「さいですか……いや、人の趣味にケチはつけないですけど」

 

 何であれ、レース動画でなければ視聴する理由はない。これはトレーナーさんに返すとして、今日は寝ますかー、とDVDをしまおうとするネイチャ。それに待ったをかけるはマーベラスである。ケースを持つ手をはっしと掴んでニンマリ笑顔! ネイチャは顔をひきつらせた。

 

「ねえねえネイチャ一緒に見ようよっ☆ これは絶対マーベラスだよっ☆」

 

「いやいやいや!? 開幕頭が吹き飛ぶ映画のどこにマーベラスがあるのさ!? アタシは嫌ですけど!? 夜寝れなくなるって!」

 

「ネイチャ~! 見ようよ~っ! ねぇ~っ!」

 

「い~~~~や~~~~~! 夜にホラー映画なんてい~や~~~!」

 

 見ようよ! 見ない! 見よう!? 見ないってば! 見ないとこうだっ! やめ、あは、あはははは! ……みたいなやりとりがあったか無かったかは知らないが、結局マーベラスサンデーの根気に負けたネイチャ、渋々と枕を抱えて視聴の体勢を整えた

 

「言っとくけど無理だったらすぐ布団被るからね!?」

 

「えぇ~~!」

 

「えぇ~じゃないって!」

 

「ぶぅ~!」

 

「ぶぅ~でもない! ……って待って! まだ心の準備が!?」

 

 

 

 

 ──ぶち、とマーベラスサンデーが再生ボタンを押し。映画が再開された。

 

 

 

 

 まず印象を覚えたのは古さだった。

 

 粗削りな映像技術。感じ取れる手ブレ。(かすみ)がかったような音声。そして髪型。喋り方。一世代、いや二世代前の衣装。映画歴の短いネイチャでさえ「かなり前だな……」と思えるくらいには、発展途上に思えた。

 

 そしてタイトルである。

 

「……『ZOMBIE』だって。まんまじゃん」

 

 どーん、と。スクリーン全体に広がったタイトルに思わず突っ込んでしまう。

 

 実のところ、これが初めてのゾンビ映画という訳ではない。「なんたらかんたらオブザデッド」的なモノを見た記憶がある(友達がふざけて借りてきたのを見させられたともいうが)。その時に感じたのはゾンビ物は、一目見てゾンビ物だと分かるように大げさな名前がつくものなんですな、という事。

 

 しかし、これはどうだ。何の(ひね)りもない直球の「ZOMBIE」には、何だか凄みを感じて仕方がない。もしかしてこれがゾンビ映画の原型なのだろうか?*1

 

「ふわ~……音楽が面白いね~、どっ☆ どっ☆ どっ☆、どっ☆ どっ☆ どっ☆ どっ☆ あははははっ☆」

 

「心臓の音みたい……おどろおどろしいなぁ」

 

 メインテーマなのだろう、これまたノイズと共に流れる古めかしい曲は、まるで鼓動を思わせる一定のリズムを刻んでおり、強く耳に残る。確か心臓が刻むリズムは赤ちゃんの頃からずっと聞かされているから、それだけで印象に残ってしまうと何かの本で読んだっけか。

 

 ──ストーリーはテンポよく進んでいく。

 

 簡潔に言えばこうだ。NYで警官がゾンビらしき謎の男に襲われる事件を新聞記者が調査。発生源はどうやら南米の島マトゥール。事件の鍵となる美女と共にその島を調査するのだが、島は既に死者が生き返る謎の病気が蔓延(まんえん)していた……という感じ。

 

(うーん、ありきたり……)

 

 ゾンビ映画に詳しくない自分でも、これがテンプレであると断じれるくらいには目新しさがない。しかしその一方で突出した部分もあった。それは──、

 

 

(……グロテスク過ぎるよ!?)

 

 残酷描写がとにかくえげつないのだ。

 

 

 CGに頼らない、当時の技術を忌憚(きたん)なく発揮したとにかくリアルな人体欠損の数々……! 食い千切られる首筋。飛び出す鮮血。吹き飛ぶ頭部。抉られる腕。貪られる内臓、目に突き刺さる木片……! グロテスクの博覧会なのだろうか? 度々訪れるサービス満載シーンの数々に、ネイチャは何度も枕で顔を(おお)った。

 

 願わくば今すぐに布団にくるまりたい……!

 しかし同居人は厳しかった。

 

「ま、マーベラス様マーベラス様……も、もう目を閉じてもいい?」

 

「まだ終わってないよ? ここからがマーベラスなんだからっ☆」

 

「ぅぅううぅ……!」

 

 そんなシーンのたびに「マーベラースっ☆」と喜ぶ同居人を見て、「悪魔か何かに取り憑かれてるのか」と思わずにはいられなかった。

 

 

 そしてこの映画の突出した点がもうひとつあるとすれば……それは主役のゾンビだろう。

 

 何がすごいって、ゾンビがめちゃくちゃ()()のだ。

 怖いじゃなくて()()

 

 ゾンビは知っての通り死体だ。体はすべてが腐りかけ、動きは緩慢で、人の血肉を求めてうろつきさまよう。そんなゾンビの要素をしっかり守りますよ! と言わんばかりに今作のゾンビは肌が青黒く、皮膚はボロボロで、まるでなめくじのように遅い。ここまではいい。

 

 しかし何を考えたか「グロさが足りないよなぁ!?」とゾンビの目に新鮮な()()()をこれでもかとぶち込んでいる。しかも作り物じゃなくて生きている()()()をだ! 狂ってるとしか言いようがない。ゾンビに対する製作者の強いこだわりをひしひしと感じ取る一方で、そんな所に力を()めないで欲しいと切に思ってしまう。

 

 隣ではしゃぎ続けるマーベラスサンデーと対照的に、まさしく死人のように虚ろに眺めるネイチャ。しかし見続けていくうちに「ゾンビ映画を見る人って、こういうのを喜ぶ人ばかりなのかなぁ」と思えてきた。だとしたらマーケティング的には成功なのかもしれない。ただし、今見てる自分を除いてだけども。

 

「あはははははっ、マーベラースっ☆」

「ギャアアアアァァァァァッ!?」

 

「おぉぉ~っ☆ お墓からゾンビたくさん……☆」

「ひいぃぃぃぃぃいぃっ!?」

 

「ねえねえネイチャすごいすごいっ、サメとゾンビが戦ってる☆」

「……なんで?」

 

「どっ☆ どっ☆ どっ☆ どっ☆ どっ☆ どっ☆ どっ☆ どっ☆」

「その声真似やめて……」

 

「ゾンビに囲まれちゃった~っ! いけいけーっ、みんな火炎瓶投げろーっ☆」

「もうダメだって無理だっておしまいだってぇ……!」

 

 ──118号室は悲鳴、怒号、銃撃音、生々しい音、そしてマーベラスがまぜこぜになったカオス空間となっていた。

 

 それは先行していたらゴール間近で不意に差しウマが現れて仕掛けてくるようなスリリングなひと時。進めば進むほど悪くなっていく展開に、叫んで、驚いて、目を()らして……そんなこんなの長くも短い1時間半。ネイチャはなんとか乗り切った。(ほとんど薄目での視聴ではあるが)

 

「ネイチャネイチャ! 街にゾンビが!」

 

「え……ぁ、なるほどそう来ましたかぁ……!」

 

 オチはこれまたホラーお約束のBADENDである。命からがら島から脱出した主人公達だが、NYに向かう途中、船のラジオから聞こえてきたのは安全なはずのNYでもゾンビが大量発生しているという報道だった。

 

 そして陸橋の上をゾンビ達がゆっくりと都心部を目指す光景でエンディングを迎える……のだが、ネイチャは首をかしげた。なぜか陸橋の下を走る車たちは特に混乱もなく進んでいたのだ……予算が足りなかったのだろうか?*2

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「し、死ぬかと思った……」

 

「マーベラースっ☆☆☆」

 

 エンドクレジットを見て、ネイチャはようやく一息つく事が出来た。まるでG1レース直後のような強い疲労感だけが残っていた。

 

 とにもかくにも心臓に悪い映画だった。

 

 ホラー映画慣れ……いや、()()()()()映画慣れしてないせいか、怖いもの見たさ特有の爽快感は全く無く。胸の深くにへばりつくような嫌悪感が残り。何故こんな映画を見てしまったのかという徒労感も強かった。しかし熱量ある作品を見たという充足感は確かにネイチャの中であったので、駄作と切り捨てるのは(はばか)られた。

 

『名作と呼ばれるものはすべからく制作者のメッセージが強く感じられるもんだぜ。それが美術品であれ小説であれ映画であれな』とはゴールドシップの談である。芸術に(うと)いネイチャは本作からメッセージを読み取ることはできなかったが、少なくとも客を驚かせたい、真新しい物を見せたい、という監督の強い意志を感じ取ることは出来たと考えている。

 

(まあ好きか嫌いかで言えば、嫌いなんですけどね……もう二度と見たくない……)

 

 しかしこの映画を絶対にオススメしないかと言えば、そうではないと思った。マーベラスサンデーのようなホラーな好きな子にはたまらない作品なのかもしれないから。

 

「マーベラスな映画だったねっ☆」

 

「……ネイチャさんは何て言ったらいいかワカリマセン。ちなみにマーベラスはどこが良かった?」

 

「えーっと、ゾンビさんの造形がリアルなのと、ゾンビが本能というより無表情無感動で無機質に襲い掛かってくるってのがマーベラスポイントが高かったっ☆ 村を一人ゾンビがとぼとぼ歩くシーンがホントにマーベラスっ☆ 容赦ない残虐シーンもサービス満点で、アタシはと~ってもハッピーだったよっ☆ やっぱり木片が突き刺さるシーンが最高にいやらしいよねっ☆」

 

「さ、さいですか……」

 

 何だかマニアックな寸評だが、大満足だったようだ。あぁ名も知らぬフルチ・ルチオさんどうもありがとう。お陰でウチの娘は上機嫌です。

 

「BGMが特にマーベラスっ☆ すーごく盛り上がったよーっ☆」

 

「確かに耳に残ったね……ネイチャさんはできるならすぐに忘れたいですよ……」

 

「どっ☆ どっ☆ どっ☆ どっ☆」

 

「ヤメテクダサイ」

 

 

 

 きゅうきょ始まったホラー映画観賞会は、こうして終わりを迎えた。

 

 

 

 ──その夜。マーベラスサンデーはとっても素敵な物を見れたと言わんばかりに穏やかな寝息を立てていたが、一方のナイスネイチャはなかなか眠りにつくことが出来ず、挙句の果てに悪夢を見て「夜更かし気味」になってしまうのだった。

 

 

*1
違います。

*2
ホントに足りなかったので、ゲリラ撮影のようです。




「なんでゾンビをサメと戦わせたんだろ……?」
「英断だよねっ☆」
「えぇ……?」


『サンゲリア』:(原題:ZOMBIE2)
 制作年:1979年(イタリア)
 監督:ルチオ・フルチ
 上映時間:91分
 配給:伊:Variety Film 日:東宝東和


 ナイスネイチャ評:★☆☆☆☆
 感想:グロい。汚い。(生きてる虫を使うな)トラウマになる。二度と見たくない。

 マーベラスサンデー評:★★★★★
 感想:BGMがマーベラスっ☆ サメとゾンビが戦うのもマーベラスっ☆ ゾンビがリアルでとーってもマーベラスっ☆ アタシの中でのゾンビといったらこの映画がベストオブベストっ☆ 今見ても色あせない名作中の名作っ☆ 全世界のゾンビ好きに見てほしい~っ☆
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