栗東寮118号室 ホラー映画研究会   作:月兎耳のべる

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【あらすじ】
 アメリカの田舎町、アーバーヴィルにおいてチアリーダーのメグとアメフト部のポールが初めてデートに向かう途中で、飛び出してきたホームレスの老人はねてしまう。その老人は、墜落した隕石から飛び出してきたブヨブヨした物体を手につけていた。老人を追いかけていた不良のブライアンとともに病院に向かった二人だったが、老人が殺され、メグの目の前で最初に見た時より大きくなった物体にポールが飲み込まれてしまう。メグはブライアンに一緒に調査をしてほしいと依頼するのだが…。


第十回『ブロブ/宇宙からの不明物体』(米 1988)

 

 その日、メジロマックイーンは絶対の危機に(おちい)っていた。

 

 

(……なんで、こんなことに……!?)

 

 

 来る日も来る日も行われる、尋常ではないトレーニングの数々。スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さ。それら全てを満遍(まんべん)なく行い、周りからの叱咤激励(しったげきれい)を受け、時に発狂寸前まで自らを追い込んできたマックイーン。そうした連日のハードスケジュールは例え適切な休みを挟んでも、その疲労感を完全に(ぬぐ)いきるには至らない。

 

 全身はほんのりと熱を帯び、足取りはふらふら。いかなるときも優雅たれと言われ続けたマックイーンといえど、蓄積した疲労を隠せないほどだった。しかし、そんな重い疲労は待ち望んでいた()()()によって吹き飛ぶ──……はずだった。

 

 本日はスポーツ医学に(のっと)った、念願の休息日。

 

 ()()うの体で向かった先は行きつけのケーキ屋さん。しかし……あぁなんということか! 無情にも臨時休業の看板がかけられているではないか! マックイーンは肩にかけていたバックを思わず落としかけた。

 

 ならば次の店だと、オキニの店を次々と当たっていく。

 しかしそのどれもが空振りに終わってしまう。

 

 ある店は定休日。ある店はそもそもが売り切れ。ある店は潰れ。ある店なんか散々並んだあげく目の前で最後の一品が買われ、さしものマックイーンもこの時ばかりは地団太を踏んだ。

 

(甘味……! うぅ、甘味がないなんて……! これじゃリフレッシュできませんわ……!)

 

 マックイーンにとって甘味は、この楽しくも過酷な学園生活を過ごす上でなくてはならぬ必須成分だ。

 

 月~金はトレーニング三昧。そして週末は甘味でリフレッシュというルーティーンを作り上げた彼女にとって、そのルーティーンが崩れてしまうことは死活問題だった。

 

「……スーパーか、コンビニ? いえ……そんな量産品でごまかすなんて真似はしたくないですわ……! でもこの辺りに代わりになりうるものがあるかどうか……」

 

 甘味なら何でもいい? そんなわけがない! 好きだからこそ好きな物には妥協したくないという強い意志がマックイーンにはあった。特に今日は『ウマ2モンプチ堂』の新作『淡雪苺のラブレターショートケーキ』と『バニラとナッツのキャラメリゼ風贅沢エクレア』、『ザッハートルテの濃厚ダークチョコレート仕立て』の3本立てで考えていたのだ、生半可なものでは代替品になりえないだろう。

 

「爺やに……いえ、今からじゃ明日になってしまいますわ。何かいい案はあるものかしら……」

 

 くるくるくる……。ひっきりなしに訴えてくる小腹をさすりながらマックイーンは考える。遠出せずとも贅沢スイーツが食べられそうな場所……そんな所があるだろうか? 陰り始めた街中で、うんうんと考えていると、マックイーンは見知ったウマ影を見つけた。

 

「あら。テイオーさんに、マーベラスさん?」

 

「……んー? あ! マックイーンじゃん! こんなとこで何してんのー?」

 

「やっほー、マックイーン☆ こんなところで出会えるなんて運命っ☆ マーベラースっ☆」

 

 トウカイテイオーとマーベラスサンデーの二人である。二人とも制服姿で、その手にカバンとは別に買い物袋を提げていた。どうやらショッピングを楽しんでいたらしい。

 

「お二人の組み合わせは珍しいですわね。何を買っていらして?」

 

「ネイチャが京都に遠征中ってことでマーベラスが暇しててねー。声かけられたから一緒にさ。あ、ボクは蹄鉄の替えと服」

 

「アタシは映画DVD~、いろいろ掘り出しものがあってマーベラスな時間が過ごせたよっ☆」

 

「いくら何でもホラー映画買いすぎだって……本気であの部屋を研究会にするつもり?」

 

「割と真剣に考えてるっ☆」

 

「ネイチャのためにもやめてあげようよ……」

 

 噂になった『ホラー映画研究会』は、ナイスネイチャが否定した今でもまことしやかに話されている。

 

 それもこれも同室のマーベラスサンデーが否定しないのと、いやだいやだと口では否定するネイチャが、なんだかんだでほとんど毎日ホラー映画を見ているせいだろう。マックイーンからしてみればもう諦めて研究会を作っちゃえばいいのに、と思わなくはないが……閑話休題(それはともかく)

 

「んで、そういうマックイーンも今から買い物?」

 

「えぇ。とは言っても途方に暮れてるんですが……スイーツが売り切れ続きですの」

 

「へぇ~……」

 

「へぇーっ……て貴方ねえ。これがどれだけ重要なことか分かっていなくて? 甘い物がなかったら我々は生きていけませんのよ!?」

 

「大げさだなぁ……スイーツならコンビニとかスーパーとかで売ってるじゃん。それかはちみーでも飲んだら?」

 

「それで満足するのはテイオーさんだけですの!」

 

 ハチミーヲバカニスルナー!!と怒るテイオーはさておき、マックイーンは事態の解決を求め二人を頼る。近くで買えて、大量生産品ではない、かつ自分のお眼鏡にかないそうなスイーツ。それはないのだろうか?

 

「マックイーンってばお嬢様だもんね~、ス●パラとかじゃダメってことでしょ?☆」

 

「量は満たせますが味は物足りないですわね……」

 

「うーん、クッキーとかマカロンはダメ?」

 

「出来るなら柔らかいシュー生地系の、もっとデザートデザートしてるのが嬉しいですわ」

 

「3●アイスクリームとか、不●家とか……あとコージー●ーナー?」

 

「センスから外れているのでナシでお願いしますわ」

 

「注文が多いなぁもう!?」

 

「いっそヒシアケボノにお願いしちゃう~?☆」

 

 強いこだわりに二人が頭を悩ませていると、マーベラスがぽんと手を叩いた。

 

「そういえばさっきのデパートでゼリーがあったよねっ☆」

 

「あぁ~なんか特産品コーナーでやってたような……」

 

「ゼリー……ですか」

 

 マックイーンは考える。そういえば生地のあるケーキや、シュー菓子、そしてタルト寄りの物ばかり考えていたので、ゼリー系は全く考慮していなかった。確かにゼリーも悪くはない。……ないが、今一つ琴線(きんせん)に触れないのも事実である。少し考えて、やっぱりナシでと答えようとしたその矢先。

 

「え~っと、なになに? 銀座ダービー・シェルヴォン臨時出店……生クリーム乗せ清水白桃ゼリー、丸ごとシャインマスカットのジュレ、シナモン乗せコーヒージェリーパフェ……」

 

「すぐに行きますわよお二人とも。買い占めますわ」

 

「マックイーン?!」

 

 思ったよりも魅力的なラインナップの数々を前にしてマックイーンの足は勝手に動き出しており、その有無を言わさぬ行動にテイオーとマーベラスも、仕方なく行くのだった。

 

 

 

 

 

ー 第十回『ブロブ/宇宙からの不明物体』(米 1988) ー

監督: チャック・ラッセル

 

 

 

 

 

「──ん~~~~~っ! 美味しいですわ~~~っ!!」

 

 ところ変わって寮である。

 

 買い物を終えた三人は、ネイチャ不在の118号室に集まって戦利品の確認兼プチスイーツパーティを楽しんでいた。

 

「マーベラースっ☆ この桃のゼリーもシャリシャリしていい~」

 

「ふーん、このシャインマスカットのゼリーも結構美味しいじゃん。……ところでマックイーン。キミさぁもう少し……」

 

「(モグモグモグモグモグ……!)」

 

「……いや、なんでもないや」

 

 あの後、最短ルートで店に出向いたマックイーンは、着くや否や「ここにあるの全部下さいまし」と大人のカードを切って店員にドン引きされていた。(その暴挙は流石にテイオーが止めて、せめて30個くらいで我慢してと懇願した)

 

 そして今も、ものすごい勢いでなくなっていく高級ゼリーを見て、テイオーは「どんだけスイーツに固執するんだこのメジロ家のダメ令嬢は」とからかおうと思っていたのだが……その鬼気迫る雰囲気と表情を見て、茶化すのは危険だと判断した。今のマックイーンはスイーツに囚われた猛獣。触らぬ神になんとやらである。

 

「ふぅ……少し落ち着きましたわ」

 

 紅茶を優雅に口をつけて一息いれた頃、ようやくマックイーンは正気を取り戻した。そのころにはすでに20個はあったゼリーが空になっていた。

 

「これで少しなの……? キミこの前もトレーナーに叱られてなかったー? スイーツ食べすぎだってさー」

 

「きっちりカロリー計算してますわよ! それにゼリーは他のスイーツと違ってカロリー量も少ないですし、生果物を多用してるのも相まって低カロリー! 私の計算によるとあと15個くらいなら平気ですわ。えぇ!」

 

「えぇー……」

 

「それより……テイオーさんの服は見ましたが、マーベラスさんは何を買いまして? かなり興味がありますわ」

 

「いいよ~見せてあげる~☆」

 

 マーベラスは嬉しそうに袋を(あさ)り、テイオーが露骨に嫌な顔を見せる。次々と現れるDVDの数々は、マックイーンが想像した通りどれもこれもがホラー映画だった。

 

「なるほど……『ミザリー』。『羊たちの沈黙』。『呪怨』。『シャイニング』。有名どころばかり揃えたのですわね? あぁ『ゾンビランド』。名作ゾンビですわね~……あら! 『テリファー』に『ジェーンドゥの解剖』。『武器人間』! どれも大好きですわ。流石マーベラスさん、良い物を選びますわね?」

 

「えへへ~、いいでしょいいでしょ~っ☆」

 

「一緒にDVDショップ行ったのが運のつきだったよ……マーベラスったらずーっと棚にかじりついて離れないんだからさ~……これホントに全部見るの? 1本ぐらいにしとけばいいのにさぁ……」

 

「なんならもう全部目は通してるっ☆ それでねそれでね、今回の掘り出し物は……こちらですっ☆」

 

「──まあ! まあまあまあ『ブロブ/宇宙からの不明物体』じゃないですの! よく見つけましたわね!」

 

「マーベラスでしょ~っ☆」

 

 とある一作を見て急に二人のテンションが振り切ったので、何事かとテイオーも顔を覗かせる。それはまるでブドウゼリーみたいな粘性の物体に、人間らしきものが囚われている謎のパッケージであった。

 

「……なに? この作品」

 

「宇宙から来た謎のアメーバが人をどんどん食って大きくなって田舎町を襲撃する話っ☆」

 

 あ、そう。とすぐに興味をなくしたテイオーを尻目に、二人はキャーキャーとアイドルを前にした生娘のような反応をその()()()()()()作品に向けていた。

 

 正直1ミリも共感できないのでテイオーは口を挟まずにいたのだが、二人の熱があまりにも上がりすぎている。おや? なんだか雲行きが怪しいぞ? 何かを察知したのか、そそくさと帰り支度を済ませ始めると、思った通りそれは来た。

 

「どうせならみんなで見ようよっ☆」

 

「えぇえぇ! それがいいですわ! 丁度ゼリーを食べてる所ですし!」

 

 聞くや否や無言で部屋から脱出しようとしたテイオー。しかし瞬時に尻尾をマックイーンに掴まれて、脱出に失敗。G1ウマ娘の反射神経は伊達ではなかった。

 

「や、やだよおおお!! どうせまた血がぶしゃー!って出てきてドロドローってなるんだろー!?」

 

「まあまあまあまあテイオーさん落ち着いてくださいまし。案外中身はそうでもないかもしれないではありませんか」

 

「そうだよテイオーっ☆ ブドウゼリー食べる?」

 

「今そのゼリー(すす)めてくるの悪意あるよね!?」

 

『サンゲリア』を観て夜にトイレに行けなくなり、『リング』を観てしばらく電話の音が怖くなったテイオーである。本作を見たらゼリーが食べられなくなるに違いない! と、それはそれは慌てた。しかしマックイーンは諦めなかった。

 

「テイオーさん。これも何かの縁ですが……こういった縁が一生続くとは限りませんわ。短い学園生活ですもの。できることなら何でも思い出を作りたい……と私は考えていますの。それが親友であるテイオーさんとの思い出なら、特に」

 

「うぅ……」

 

「ですが……無理強いはしません。誰にしろ苦手な物はあります。しかしせっかく私の好きなジャンルですもの、テイオーさんにも好きになってもらいたいと思いますわ?」

 

「うぅぅぅうぅ~……!」

 

 ……はたしてその説得は胸に届いてしまったようで、哀れテイオーは涙目になりながらも大人しく座りこんでしまった。マックイーンは満足そうにうなずいた。

 

「大丈夫ですわ、この映画はホラーというよりモンスターパニック映画みたいなものですから」

 

「アタシ達もついてるからね~、一緒に観れば怖くないっ☆」

 

「子供扱いしなくていいってば! あーもう分かったよ、腹くくったからさ!」

 

 半ばヤケクソでモニターに向かうテイオー、その後ろでマックイーンとマーベラスがニヤリと微笑みあったのを、彼女は知る(よし)もなかった。

 

 

 

 

 ──ぶち、とメジロマックイーンが再生ボタンを押し。映画が始まった。

 

 

 

 

 子供ならば誰しも手に取って遊んだ玩具がある。

 それは『スライム』である。

 

 主にPVA(ポリビニルアルコール)とホウ砂で作られる粘性の高い不定形物体は、どんな形にもできる自由度と、その独特の触り心地で1980年代の頭に絶大な人気を誇り、今でも定期的にブームが来るくらいの大ヒット商品となっている。

 

 本作は、そんなスライムブームの真っただ中に現れた『人喰いアメーバの恐怖』という映画のリメイクにあたる作品となっている(なお、旧作の主演はスティーブ・マックィーン)。スライム状のモンスターが次々と人を襲う、センセーショナルな内容はそこそこに世間の注目を集め、そこそこな集客に成功している。

 

 とはいえゾンビやサメ映画に比べて撮影に手間がかかるのか、同題材を扱った作品は意外なほどに少なく、本作はそんな数少ないスライム物の中で特に(あぶら)が乗っているともっぱらの作品である。

 

 

(……アメリカ、だよね? ちょっと古い街並……しかも(さび)れてるなぁ)

 

 舞台はアメリカの架空の町アーバーヴィル。せいぜい誇れるのは私立高校くらいな田舎の光景。それがテイオーの前に広がっていた。

 

 アメリカンフットボールの大会で盛り上がる街の人々。生徒たちは誰それとデートするとかしないとかで盛り上がり、辺境ではバイクにまたがった不良が壊れた橋でのジャンプに挑戦。ダイナー*1では警官がウェイトレスといい雰囲気になったりと、平和かつ平凡な日常が描かれている。

 

「……かなり古いよねー。服とか見てもさ」

 

「1980年代だからね~、かれこれ40年前?」

 

「スカジャンとか久々に見ましたわ」

 

 さて、そんな平和な街に早速異変が訪れる──それは、隕石である。

 

「え……? 何、空からなんか……わァ!?」

 

 夜、近隣の山奥にいた浮浪者が、遠い空から降ってきた謎の物体に気付く。それは赤い炎を(まと)っており、やがて近くの森に落ちてしまう。墜落先に向かった浮浪者が落下点で見つけたのは、謎の殻の中で(うごめ)くピンク色の液状物体である。そう、こいつこそがアーバーヴィルを襲うモンスター『ブロブ』であった。

 

「お、おじさん怪しいのは分かったよね? なら早く通報して逃げようって……ねぇ~もぉ! 何で! 不用心に! 触ろうとするのさぁ!」

 

 よせばいいのに『ブロブ』を木の棒で突っつくおじさんに、テイオーは(いきどお)った。ホラー映画経験が浅いテイオーとて、不用意な真似をした人から真っ先に死ぬという不文律があることは知っていたのだ。

 

 突っつけば木に絡みつく、意思を持つスライム。それを不思議そうに眺めるおじさん。しかし一転して素早い動きを見せてブロブは、彼の腕にぶにゅり!と絡みつき、悲痛な叫びが森にこだました!

 

「──ほらあぁああぁあ~~~~ッ!!」

 

「うーん、掴みはばっちしっ☆」

 

 一方で冒頭で描かれていた不良ブライアン。彼が森の近くで壊してしまったバイクを直していると、そこに襲われた浮浪者が唐突に現れる。浮浪者は斧を構えたと思えば、何故か彼の目の前で自分の腕に叩きつけ(!?)、スライムのついた部分を切り離そうとする。しかしスライムはさせじと断面ごと腕にまとわりついて離さない。

 

 浮浪者は混乱のあまり逃げ出し、放っておけなくなったブライアンが追いかけていくと、夜デートをしていた高校生の男女メグとポールの車に浮浪者が軽く()かれてしまう。一行は浮浪者のただごとではない様子にすぐさま病院に連れていくのだが……。

 

「もうおうちかえるぅ……」

 

「……テイオーさん。まだ序盤ですわよ? 早く枕を下げなさいな」

 

「うぅ……」

 

 腕の切断面をまざまざと見せられて、すでにテイオーのMPは切れかけだった。まだ時間にして30分も経っていないことが信じられなかったし、この先も不安で不安で仕方がなかった。

 

 さて、病院に担ぎ込まれた浮浪者。保険がないことから診療は後回しにされ、メグとポールの二人が付き添い人として病院に残ることになる。メグとポールの二人は出番の数といい映され方といい、そして見ず知らずの浮浪者にも常識的に対応する仕草から、一見してヒロインと主人公のように見えた。

 

 テイオーも当初そうなんだろうなと疑わなかったが、その想像はすぐさま(くつがえ)されることになる。

 

 ポールがベッドに寝かされた浮浪者の不審な動きに気付き、かかっていた毛布をはがすと、なんと浮浪者は腕どころか、その下半身までグズグズのドロドロに溶解していたのだ!

 

「ぴぎゅぅっ!?」

 

「まぁ!」

 

「マーーベラーースっ☆☆」

 

 あまりにも惨すぎる状態にテイオーが意識を飛ばしかけている中、ポールが慌てて保安官に電話をかける。しかしその背後に隠れて迫るのは例のブロブである。事情を説明しようとした矢先、天井から落ちて来るブロブに、ポールは全身を絡めとられてしまった!

 

「■×◎▼%&$@”+*〇△~~~~~~ッ!?!?!?」

 

 ポールは全身を、その半透明の紫色のゼリーのようなもので覆われ、メグに助けを求めて必死に手を伸ばす。悲痛な叫びをあげるポールを助けようとその手を引っ張るメグだが、凶悪な溶解成分を持つ体液によって引っ張った腕は千切れ、ポールは彼女の目の前で全身を溶かされて、見るも無残な姿となって死に絶えたのだった。

 

「す、素晴らしい……! 素晴らしい演出ですわ!」

 

「これは怖いね~、っていうかよく出来てるっ☆ 顔が溶けるシーンってどうやったんだろ?」

 

「腕がちゃんと千切れるのも好感持てますわね……ふふ、これはこの先も楽しめそうですわ! ……あら。テイオーさん? もしもし?」

 

「し、死んでる……☆」

 

 許容量を超えた展開に精神が持たなかったらしい。ピクリとも動かなくなってしまったテイオーを、マックイーンがゆさゆさと揺すっていた。

 

 

 さて、本作のあらすじは最初にマーベラスが言った通り『宇宙から来た謎のアメーバが人をどんどん食って大きくなって田舎町を襲撃する話』である。

 

 

 人を捕食する謎のスライム『ブロブ』は、その体を活かして周りに隠れ、時に下水道を移動してさまざまなところに侵入し、人々を捕食し続ける、非常に厄介なモンスターである。町の人々は知らぬ間に迫りくるブロブになすすべなく襲われ、犠牲者はどんどん増えていく。

 

 車内でイチャついていたカップルは、ガールフレンドが体内から溶かされて死に、ソレに気付かずに体を重ねようとした男がまんまと捕食され。

 

 ダイナーではキッチンの水詰まりを直そうとした男が、飛び出してきたブロブに頭を掴まれ、無理やり排水口に引きずり込まれてズタズタになって死亡し。

 

 ダイナーから逃げ出したウェイトレスは、警察に助けを求めようと電話ボックスにかけこみ、周りをブロブに囲まれ、逃げ出すことも出来ずに圧死。

 

 ナイトムービー上映中の映画館でも、撮影係がクーラーの不調を調べようと換気口をのぞき込んだ矢先に襲われ、天井でじっくりと捕食されて全身を溶かされる……などなど。

 

 CGを一切使わずSFX*2だけで描き上げたブロブの襲撃シーンは、そのどれもがハイクオリティ。子供騙しとリアリティがいい感じに混ざった、素晴らしい表現に成功しているとマックイーンもマーベラスも(うなず)いていた。

 

「素晴らしすぎますわ……! 目を背けたくなる溶解表現、容赦ない人体欠損……! そして外連味(けれんみ)*3の強い巨大スライムの動き……! そのどれもが手を抜かずに作られているからこそ、ここまでの魅力になっていますのね! これはゼリーを食べる手が止まりませんわ!」

 

「誰もが想像した最悪のシーンをこんなにも丁寧に作り出すなんて……マーベラスが止まらないっ☆ ホラー映画のお約束を外さない展開にも二重丸をあげちゃうしかないね~っ☆」

 

「あああー! ああああー! あああああああー!!!!!!」

 

「ほらしっかりなさいましテイオーさん! 盛り上がってきてますのよ!?」

 

「もうやだあああぁあぁあぁッ! やだよぉぉぉおおおお──!?」

 

 勿論そんな凄惨なシーンでテイオーが盛り上がれるかなんて、聞くまでもない事である。枕を顔に押し付けて何も聞こえないぞと大声をあげるテイオーに対し、マックイーンはびしっと叱りつけた。それはテイオーが引退しかけた時のアドバイスと同じくらい強い口調だった。

 

 ──さて、そんなブロブの暴走が続く中、映像の中で主にスポットが当てられるのはチアリーダーのメグと不良ブライアンである。

 

 目の前でボーイフレンド(候補)のポールを目の前で失ったメグは、ことの真相を明かそうとして、事情を知るブライアンと接触するのだが、途中ダイナーでブロブに襲われて逃げることに。不良だが責任感の強いブライアンは、メグを連れて店の冷凍室に逃げ込んでしまう。

 

 袋小路で絶体絶命の危機を迎える二人。しかし偶然にもブロブは氷点下に弱く、それ以上襲われないことに気付く。

 

 そうして危機から脱した二人は助けを求めて外へと向かえば、謎の集団に遭遇する。それはパニック映画お約束の軍隊である。自らを救助隊だと名乗る彼らは宇宙外来生物である『ブロブ』に詳しく、事態の収拾を図ろうとして、住民と共に二人を街の中央に避難させようとするのだが……。

 

「うーん怪しい……☆」

 

「黒幕……だよね?」

 

「登場タイミングが都合が良すぎますわね」

 

 満場一致で怪しい判定を受けた軍隊に、反骨精神旺盛(おうせい)なブライアンも思わず拒否するが、強制的にトラックに搭乗させられてしまう。ますます不信感を覚えたブライアンは一人逃げ出し。メグは彼らを信じて連れられるのだが……結果としてブライアンが正しかった。

 

 なんとこのブロブ。地球外生命体ではなく、軍隊によって生み出された生物兵器だったのだ。

 

 細菌戦争の実験のひとつとして衛星軌道上で秘密裏に生育されていたそれは、いまや自らの意思を持って保管カプセルを破壊して地上に降り立ち、そして異常な速さで成長をしている。町の人々の安全を鑑みて今すぐ殺処分すべきだと勧告する研究員が居る中で、リーダーらしき人物は市民の命よりもブロブの確保を優先すべきだと言い放ってしまう!

 

 草葉の陰でそんな彼らの秘密を知ってしまうブライアン。しかし案の定彼らに見つかって、消されそうになってしまう。容赦なく降り注ぐ銃弾の雨! 危うしブライアン! 逃げろブライアン!

 

「わあああやっぱりー!? 逃げて! 逃げてよブライアンー!」

 

「お逃げくださいましブライアン!」

 

「逃げて~シャドーロールの怪物~! 上がり3ハロン36.2秒~っ!」

 

「それ違うブライアン!?」

 

 勿論、ナリタブライアンではないのでぶっちぎって逃げることはできなかったが、バイクを使って壊れた橋をジャンプして飛び越え、何とか軍隊から逃げ出すことに成功する。彼はこの後、メグや町の人間に真実を伝えようとバイクで爆走することになる。

 

 一方で街の住民と共に集められたメグは、弟二人が町はずれの映画館に取り残されていることを知り、単独で行動。不運なことに、そこではブロブが大暴れしており、間一髪で弟たちと合流したのも束の間。やむにやまれず下水道に逃げる羽目になってしまう。

 

 下水道でも執拗に追いかけてくるブロブ!

 向かった先はまたも袋小路! 

 女性一人、子供二人で頼れる人は誰もいない! 

 

 まさしく絶対絶命のピンチ。

 テイオーはもう助からないと顔を手で覆っていた。

 

「ももも、もうだめだよぉ……! おしまいだよぉ……!」

 

「あぁもうテイオーさんったら……これはあまり言いたくなかったのですが、映画にはあるお約束がありますのよ。1:ヒロインは死なない。2:子供は死なない。だからなんだかんだで助かりますわ」

 

「……ほ、ほんと? マックイーンほんと?」

 

「えぇ。もうダメだって思った瞬間何かしらの助けが……」

 

「あっ。子供一人捕まった☆」

 

「マックイーン???」

 

「えっ。い、いやそんなことありませんわ。きっと何だかんだで生きて……!」

 

「あっ。子供溶けちゃった☆」

 

「ホンギャアアアアァァア──ッ!!? マックイーンの嘘つきいいいぃぃぃ!?」

 

「あ、あら? ……やりますわね、この映画」

 

 子供とて容赦なくグログロに溶かしてしまうブロブの手腕にテイオーは絶叫し、マックイーンとマーベラスが小さく拍手をする。そんな中、メグはもう一人の弟をどうにか助け、自身も合流したブライアンに間一髪で助けられる。が、一足先に下水道の封鎖作戦を進めていた軍によって、地下に閉じ込められてしまう!

 

 いまだ成長し続ける狡猾(こうかつ)なブロブ!

 暗躍する秘密の軍隊!

 困惑する市民たち!

 そして危機に(おちい)ったブライアンとメグ!

 

 とうとう迎えたクライマックス。マックイーン達が固唾を飲んで見守る中、この映画の行く末は、一体どうなってしまうのか……!?

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「うーん、見事なオチでしたわ……!」

 

「マーーーべラーースっ☆」

 

 お決まりの大団円を迎えた本作に、マーベラスとマックイーンは惜しみない拍手を送っていた。

 

 サスペンスあり、ラブロマンスあり、グロテスクあり、銃撃シーンあり、大爆発あり、ハッピーエンドありと、視聴者が求めた要素がこれでもかと詰められた、まさしくお手本のようなB級映画! 監督の手腕とその演出を手掛けた制作陣に、二人は感謝を覚えずにいられなかった。

 

「ストーリーはお決まりだからこそ安心できますし、いたる所に散りばめたフラグを余すことなく回収してくれたのが嬉しいですわね。伏線回収がキチンとされてると安心しますわ」

 

「オチも次回作を意識した不穏なENDになってるのもいいよねっ☆ 骨太の演出と確かなストーリーが混ざり合った一級品のB級映画だよ~☆」

 

「ええ! えぇ! やはり今作の肝はあの(うごめ)くスライムと、強烈な溶解描写ですわね……! CGでは出せない質感と、ほんの少し物足りないリアル感が、まさしく圧巻……!」

 

「マーベラス過ぎるよね……☆ 女性の顔がくしゃって内側に潰れる描写とか、中々考えられないよ~☆ うーん、花丸っ☆」

 

 エンドクレジットが流れ終わる頃には、購入したばかりのゼリーもすべて食べ終えてしまったマックイーン。彼女の顔は見違えたように満ち満ちており、すっかりリフレッシュしたのが見てとれた。

 

「それで……テイオーさん? もう終わりましてよ?」

 

「……嘘だ。絶対嘘。嘘に決まってる。また目開いたら絶対にすごいグロテスクなシーンが待ってるんだろ? ボク絶対信じてやんないんだからね……!」

 

「もう。今度こそ本当に終わりましたのに」

 

「ううううぅぅううぅぅう~~~~!」

 

 一方で、疑心暗鬼に陥ったテイオーは布団に潜り込んで出てこなくなっていた。特にマックイーンに裏切られたという気持ちが強いのか、彼女の言葉を聞くとチャウチャウのように威嚇する始末である。これにはマックイーンもマーベラスも肩をすくめるしかなかった。

 

「ん~テイオー、今日はここで寝てく~? 今日はネイチャもいないし。アタシも嬉しいしっ☆」

 

「……寝る」

 

「はぁ……ご迷惑をおかけしますわ、マーベラスさん」

 

「あ! いっそマックイーンも一緒に泊まっていったら~?」

 

「あら。いいんです──……」

 

「だめ! マックイーンはだめ! ダメだからね!?」

 

「……ダメみたいですわね」

 

「あはははっ☆」

 

 

 

 そうしてテイオーに多大なトラウマを残して終わった視聴会は、そのままお泊り会に変わり。翌日に朝帰りしたネイチャが、自分のベッドで寝ているテイオーを見て首を傾げるのだった。

 

 

 

*1
おもに米国・カナダ、その他の国でも見られる小規模で安価なレストラン。

*2
special effectsの略。映画などで、実際にはありえない映像や特殊な効果をつくりだす技術。高速度撮影、ミニチュアの利用、映像の合成など。特殊効果。

*3
はったりを利かせたりごまかしたりするようなところ。




「冷気に弱いって知ってたのに火器や爆発物で攻撃する軍隊さん……☆」
「無能軍隊はお約束ですわねよね」
「ボクとしては頼りになりそうな人がみんな序盤に死んじゃったのがショックだった……」


『ブロブ/宇宙からの不明物体』:(原題:The Blob)
 制作年:1988年(アメリカ)
 監督:チャック・ラッセル
 上映時間:95分
 配給:トライスター ピクチャーズ(米)
    コロムビア・トライスター映画(日)


 メジロマックイーン評:★★★★★
 感想:迫力ある巨大スライムの動きや、その芸術的なまでの人体溶解描写に脱帽! ともすれば陳腐になりがちなシーンをここまでおぞましく描けるのは素晴らしい限りですわ。ストーリーも観客を飽きさせない工夫に満ちていて、まさしくB級映画の手本になる作品ではないかしら。好きな溶解シーンは序盤のポールが溶けていくシーンですわね。圧倒的!

 マーベラスサンデー評:★★★★☆
 感想:スライムに囚われると人はどうなる? もちろん溶けるよね!ってのを、妥協せずにきっちり描いた傑作~☆ SFホラーと見せかけてモンスターパニック映画でもある今作だけど、そのどちらの必須要素も描いて、そしてエンタメ性をより高めた構成に拍手喝采! ママママーベラスっ☆ 唯一惜しいのは安っぽいBGMくらい? あまりにも記憶に残らない…☆ 好きな溶解シーンは車の中で餌食になる女の子☆ 顔がくしゃーってなるよっ☆

 トウカイテイオー評:★☆☆☆☆
 感想:ゼリーに苦手意識がついた。マックイーンゆるさない。
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