こちらもリクエストからです。四十九院暁美さんありがとうございました。
【※注意※】
本作は特に! 視聴をした上でお読みいただくことを推奨いたします。
■あらすじ
老朽化した広い浴室で目覚めた、青年アダムとゴードン医師。突然拉致された彼らは、それぞれ足首に鎖をはめられ、2人の間には自殺死体が転がっている。そしてポケットに入っていたテープを再生すると、6時間以内にどちらかを殺さないと、2人とも殺害するという犯人のメッセージが入っていた。この犯人は、命を粗末にしている人間にその大切さを教えることを目的に、残虐なゲームを次々行なっている人物で、”ジクソウ“と呼ばれていた……。
────ぴぴぴぴ。ぴぴぴぴ。ぴぴぴぴ。
────ぴ。
「……ネイチャー、どうー……?」
「……37度8分……」
「……えへへ、38度だからアタシの勝ち~……☆」
「……勝負じゃないんだからさぁ……」
栗東寮118号室。
もともと体の弱いマーベラスサンデーである。季節の代わり目は特に体調を崩しやすく、ネイチャも気にかけていたのだが、週半ばに「こんこん」とせき込んだと思えば週末には風邪を引いてしまい、自然とネイチャにもうつってしまった。トホホと言うしかない。
そうして布団の中で横になって早三日目。ネイチャは忌々しい程明るい窓の外を眺めて思った。退屈だなーと。飽きるほど行った寝返りを打つたびに、しっとりと汗を吸ったパジャマが肌に張り付いて気持ちが悪い。寝心地の悪さに今一度ころんと寝返ると、マーベラスと目があった。その顔は
「ネイチャ、喉乾かない? スポドリ飲む?」
「んー……まだ平気……」
「じゃあネイチャお腹空いてない……?」
「大丈夫ですよ~……、さっきゼリー飲んだしね……」
「えっと、じゃあ……じゃあ……熱くない? うちわあおごっか?」
「いや熱いけど……それはしなくていいって……」
「むー……ネイチャ~……」
「なんですか~……?」
「……うつしてごめんね……?」
まるで怒られてしゅんとなった子供のような態度のマーベラスに、苦笑を抑えられないネイチャ。本人なりに罪悪感を覚えて仕方ないのだろう。あぁもうこの子ったら。先日からずっとこの調子で、いっそこちらの調子まで狂ってしまうではないか。
「だーから、気にしなくていいって言ってるでしょ? このところ気温の変化が激しいし、誰だってこうなるものですよ~……」
「……でも」
「ちょうどネイチャさんのスケジュールは一区切りついた所だし、マーベラスだってレースはまだ3か月先。むしろ予定外のお休みが貰えてラッキーとでも思えばいいんだってば。ね?」
「……うん」
仕方なく納得したという感じのマーベラス。どうやらまだまだ吹っ切れないようだ。体温の割には元気そうに見えるが、これでは治る不調も治らないだろう。彼女が元気を取り戻すにはまず自分が元気な姿を見せるのがいいのだろうが……こればっかりは自分の身体を信じて、休みを取り続ける他ない。
(……しっかし暇なんですよね~……これが)
もう何日こうして寝転んでいることやら。べたついた髪先を指でこねくり回しながら。そう思う。まだ熱こそあるものの、そこまでだるさは感じない現状。むしろ体を動かしたくて仕方がない。
もちろん外に出歩くのは迷惑だし、ウマホは飽きる程イジった。手持ちの本は全部読み終えてしまったし、テレビは目を引くものがやっていない。それでいて眠気は全然おきないときた。やることがなさすぎて死にそうだった。
暇を持て余したネイチャがベッドの上で往復運動をしていると、ふと何かに気付く。それは視界の隅に山のように積まれたお見舞いの品たち。そこに見慣れぬ人形が置いてあったのだ。
「……あれ。こんなの貰ってたっけ……?」
アストンマーチャンの人形である。
ディフォルメされた、かなり大きめの人形が山積みのお見舞いの上にちょこんと鎮座している。寮の皆や地元商店街からやたらと送られたのは覚えてるが、これは貰った記憶がない。どさくさに紛れて渡されていたのだろうか?
マーちゃん人形は偶然にも自分の視線と同じ高さに座り込んでいるため、否が応でも見つめ合ってしまう。どこか気まずく思っていると、ネイチャはまたも違和感を覚えた。この人形、何かを抱えている。一体なんだろう?
「……テープレコーダー?」
「ネイチャ……?」
気になって手に取ったそれを、何の気なしに再生する。すると少しの雑音とともに音声が流れ始めた。
『……マイク……テステス。良い感じですね。こほん……おはようございます。こんにちわ。こんばんわ。アストンマーチャンです。お二人が風邪を引いたとお聞きして、きゅうきょ録音しています。体調は大丈夫でしょうか? マーちゃんは心配しています。恐らくは急激な気温変化で、体が弱ってしまっただけと見ていますので……これを聞く頃には治りかけだと信じています』
「ご明察だね」
「あははは……マーベラスっ☆」
『さてさて。マーちゃんは悩みました。寝込んだお二人にどんなお見舞いの品を送ろうかと。みんな大好きニンジンさんですか? 消化に良くて栄養満点なゼリーさんですか? ヒエヒエするのが気持ちのいい保冷剤さんですか? それとも……お二人が大好きな
「「アレ?」」
『──ということでして。マーちゃんはそこまで詳しくはないですが、個人的に面白かったものをお送りします。それではお大事にです。アストンマーチャンでした。ぶいぶい』
ぷつ。と音は途切れて、それっきり何も流れなくなる。
二人は思わず顔を見合わせた。
見たところ、ここにあるのは人形くらいで怪しげなブツはどこにも見当たらなそうだが、お見舞いの品に紛れ込んでいるのだろうか? 気になったネイチャがごそごそと中を漁ると、生ニンジン、生ネギ、ゼリー飲料や栄養ドリンク、カップケーキ、ロイヤルビタージュースといった食材から、メガホン、アンクルウェイト、蹄鉄ハンマーといった、トレーニング器具が出てくるだけでマーチャンが言うモノには該当しそうにない。
一体全体、『アレ』とはなんだろうか?
うーんとネイチャが悩んでいると、人形を興味深そうに触っていたマーベラスが唐突に「そうだ!」と叫びだすから、「うにゃぁ?!」とネイチャまで叫んでしまう。
「……え、なな何? なんかあったの?」
「
「……いやいや、そう言われても何のことやら……」
全く事情を飲み込めないネイチャに痺れを切らしたのか、マーベラスはマーちゃん人形の背中に手を入れだす。そしてしまわれていた何かを取り出し見せてきた。
それはDVDだった。
白い部屋に三人の男が写った背景。
その右上にでかでかとタイトル書かれた特徴的なパッケージ。
マーベラスは満面の笑みでタイトルを指さしていた。
「
その瞬間、ネイチャは頬を引きつらせていた。
「ソウだったか~」
「ソウだね~☆」
「ってまた映画かい! ……あーいや、うん。今更か」
「……あれ? 思ったよりも抵抗感ない?」
「いや、あるよ? あるんだけどもう今更どうすることもできないっていうか……ネイチャさんも来るところまで来ちゃったんだな~って……」
腕を組んでしみじみとうなずくネイチャ。何もしなくても勝手にホラー映画が集まってくる現状は、もう慣れたもんである。それもこれも心境の変化が大きいだろう。直近の会長のアドバイスや、良質なホラー映画の接種がネイチャの抵抗感をごっそりと削っていた。
パッケージをジロジロと眺めたネイチャは、何も言わずにプレイヤーにセットし始める。
「……ホラー映画だけど、見てもいいの?」
「ちょうど暇だったし……実はアタシ、ホラーそんなに苦手じゃなくなってきたんですよね~。それに、マーベラスも見たかったでしょ?」
「……うんっ!」
「それじゃ見ちゃいましょうよ。ま、体調の許す限りだけどね」
嘘ではない。暇だったのは事実だし、『エイリアン』があれだけ面白かったのだ。もしかしてこれも……と、若干期待してる節もある。それに何より、あんだけしょんぼりしていたマーベラスの機嫌が回復しているのだ、なら見ざるを得ないだろう。
「ねえねえネイチャ、もしかしてホラー映画研究会作る気になったっ!?」
「いや、それとこれとは話別ですー」
「なーんだ~……」
今日はふたりとも風邪引きなので、お互いのベッドで視聴。皆から貰ったジュースをお供に準備万端だ。ネイチャは何回か両手を叩いたあと、息を整えてリモコンに手を伸ばした。
「ネイチャ、今の何?」
「……良作祈願」
「あはははっ☆」
──ぶち、とナイスネイチャが再生ボタンを押し。映画が始まった。
予算。
それは映画を構成する大事なファクター。
予算は潤沢であればあるほど良いのは間違いないだろう。予算があれば表現の幅は増えるし、ロケ地や演出、BGMに俳優、広告と、あらゆる全てのクオリティを上げることが出来る。しかし現実問題、予算は有限である。
大きな映画製作会社であれば様々なスポンサーを抱えているので、その映画規模も必然的に大きくなるが、一方で無名な監督、無名な映画会社が手掛ける場合、知名度もあいまってスポンサーはなかなか付かず、予算は少なくならざるを得ない。
じゃあ低予算なら名作になり得ないのか?
予算がかかっていれば必ず名作になるのか?
そう問われれば、答えは勿論『NO』である。
『12人の怒れる男(米 1957)』という作品をご存知だろうか。本作は陪審員制度により集まった12人の男達が織りなす密室ドラマ劇だが、なんと約33万ドルという低予算で全世界で絶賛される名作として知られている。
一方で『バトルシップ(米 2002)』という作品をご存知だろうか。本作は突如地球を襲撃してきた宇宙人をアメリカ軍人達が撃退するというド派手なアクションムービーなのだが、その制作費は脅威の2億ドル。日本では比較的好意的にとられているものの、世界的には不評を買っており、興行収入的には記録的な爆死となっている。
ようするに映画の良し悪しは、必ずしも予算が決まり手にはならないのである。
今作は120万ドルという低予算でありながらも全世界で1億ドルという興行収入を記録した、最も収益性の高いホラー映画の一つと言える不条理サスペンス・ホラーである。
「……え、なに? なになにどうなってんの……?」
──冒頭。男が水の張られた浴槽の中で目覚める。目覚めと同時に抜けた風呂の栓、そして排水口に流れ込む何か。そこから物語は始まる。アダムと呼ばれるこの男は自身が酷く老朽化した広いバスルームにいることに気づく。しかも、その片足は鎖で繋がれているではないか!
それだけではない。部屋の対角線には同じように鎖で繋がれた男、ゴードン。そして部屋の中央には拳銃を握りしめて死んだ自殺死体が倒れているという異様な状況。鎖はとても外れそうになく、出入り口は硬く閉ざされている。一体全体、何がどうなっているのだろう?
「……えぇ~どういう状況……?」
「……密室……☆」
二人もネイチャもまったく状況を飲み込めなかったが、アダムは自身のポケットに『カセットテープ』が入っているのに気づく。そしてゴードンのポケットにも同じ『カセットテープ』と『未使用の銃弾一つ』、さらに『鍵』があった。
『鍵』はそれぞれの鎖に付いている錠のものではないようで、ヒントが欲しいふたりは仕方なく自殺死体が握るテープレコーダーでテープを再生する。内容は、それぞれへ宛てたメッセージだった。
『おはようアダム。ここがどこかわからないだろう。教えてやる。この地下室でお前は死ぬ──』
『ゴードン先生。目が冷めたようだな。あんたの目的はアダムの殺害。時間は6時まで──6時までにアダムを殺さないとアリソンとダイアナが死ぬ。ゴードン先生。そしてあんたもここで朽ち果てる……ではゲーム開始だ』
メッセージにはそれだけではなく、「Xに宝が隠されている」「ハートに従え」というヒントらしきモノが入っており、ヒントに従って部屋を捜索すると、アダムのそばのトイレにハートのマークがあることが分かった。
アダムはゴードンに言われるがままトイレを探ってみると、タンクの中に『糸ノコ』が2つ入っていることに気付く。これは脱出に使える! 2人は早速足の鎖を切断しようと試みるが、びくともせず。結果として使い物にはならなかった。
悪態をつくアダム。
しかしゴードンはあることに気付いてしまう。
この糸ノコは、鎖を切るための道具じゃない。
一方的に不条理なゲームを突きつけられた二人は、
「ひぇぇぇ……なんてこと考えつくのさぁ……! ってか、これって復讐犯の仕業なのかね? 二人のことを知ってたみたいだし……えーっとアダムは覗き屋で、ゴードンって人は……お医者さんだっけ?」
「これだけ手の込んだことして復讐したいかなぁ。復讐ならその場で殺しちゃえばよくない?」
「まあそうなんだけどね……でも裏を返せば、犯人はわざわざ手の込んだことをするほど酷いことをされたのかも……」
……この常軌を
5か月前、ゴードンは自身の所持品がジグソウの犯行現場に残されていたために容疑をかけられていた。この経験から、ゴードンは今回の事件もジグソウの仕業であると推測した。実際、2人の様子は、ガラスの反対側に設置されたビデオカメラで常に監視されており、二人はジグソウへの怒りを燃やすのだった。
「……復讐犯じゃなくてただの異常者だった」
「どっちかっていうと、愉快犯?」
──本作のあらすじは、お分かりだろうが、そんな異常者『ジグソウ』が監視する中で行われる人の死をも
ジグソウは『肉体的な苦痛を与えるゲームで犠牲者の生きる力を試し、生命の大切さを考えさせる』という趣旨のもと、選定した人物の更生を促すことを目的としているようで、過去には自殺未遂を行った裕福な男性*1や精神鑑定で無罪になった放火魔*2、また薬物中毒者*3をバリエーション豊かかつ、エグい仕掛けで追い詰めていた経緯があった。
(ははーなるほど、そういう世直し系殺人鬼ですか。いわゆるダークヒーロー? 掲げている名目は高尚っぽいけど、やっていることはシンプルに殺人って、あんまり共感出来ないんですよね~……)
どうせやるなら某コウモリ男みたいに不殺を貫けばいいのに。ネイチャが音を立てながらジュースをすすっていると、あることを思いつく。
「……ただ、ジグソウが
「お医者さんの方は毎日患者に死を宣告する、って言ってたよね~……でものぞき魔って言われた方は……なんだろ?」
二人の疑問はさておいて、映画は進んでいく。
本作は基本的に密室となったバスルームで物語が進むが、道中で登場人物の過去のストーリーが断片的に挟まることでだんだんとその謎が解き明かされる、という構造を取っている。
そのよく練られたゲームと複雑怪奇な登場人物たちの関係性は、ネイチャとマーベラスを夢中にさせるには十分だった。
「おぉ……! なるほどぉ……!」
「ワクワク……ドキドキ……☆」
魅力的な要素の1つとして、まず小道具があげられる。
まさしくゲームだと言わんばかりに部屋中に仕掛けられた様々なアイテムは、脱出に使うアイテムであると同時に、アダムとゴードンの二人を精神的に追い詰めるアイテムにもなっている。
先程の糸ノコもそうだが、メッセージに言及されていた「X」のありかが、妻子が
なんとよくできていて、なんと露悪的なのだろう!
ネイチャは知らず知らず顔をしかめていた。
(けどさー……なーんかモヤモヤするんだよねー)
だが同時に納得のいかない点も出てくる。ジグソウの目的は命の大切さを教えるのが大前提だったはず。ならば、相手を殺させるようなゲーム内容はそもそもが趣旨から外れているのではないだろうか? と。
「あ。でもゴードンも逆らってる……そうだそうだー! 思い通りになんてさせてやるなよー!」
「あはははは、死んだフリ下手くそだなぁ☆」
「まあまあ、でもビデオカメラ越しだとわからないかも……えっ!? 何!? 電流!? うわー用意周到~……ジグソウって人絶対性格悪いよ!?」
「それはそうだろうね~☆」
ネイチャと同じ気持ちだったかはさておき、ゴードンはアダムへとジグソウを騙す策を持ちかける。アダムには血を付けていない別の煙草を吸わせ、毒で死んだかのように演技させた。提案通りに演じるアダムだが、突如鎖から電流が走り、死の偽装を暴かれてしまう。抜け目がないとはこのことである。
そしてもう一点の魅力的要素は、ジグソウを取り巻く人間関係である。
本作に登場する人物は少ないながらも、その全員が物語に密接に関わっている。
医者であるゴードン。
覗き屋といわれたアダム。
ゴードンの妻子、アリソンとダイアナ。
ジグソウに復讐を誓う元刑事のタップ。
病院に勤める雑役係ゼップ。
タップはかつてジグソウを追う刑事であり、当初は犯行現場に所持品を残していた医者のゴードンを犯人だと怪しんでいたのだが、相棒のシン刑事と共にジグソウを捕らえる寸前にまで至って逮捕に失敗。相棒のシンもジグソウの罠で絶命してしまう。タップは辞職してからも独自にジクソウの捜査を続け、ゴードンの自宅を勝手に監視するほどの復讐に燃えた男である。
ゼップはゴードンと同じ病院に勤める雑役係であり、ゴードンの妻アリソンと、娘のダイアナをゴードンの自宅で監禁。リビングではモニターを通してアダムとゴードンの様子を監視しているという、紛うことなき実行犯である。
「刑事さんがジグソウじゃなかったか~……! なんか思わせぶりなセリフ出してるからてっきり……ゼップは……こんな人いた? ホントだ居たわ……」
「まさか刑事さんが厄介ストーカー化してるなんて……さっさと部屋に突入すればいいのに~、今家族が人質になってるよ~?」
「ホントそれ……っていうかジグソウさん? 命の大切さを教えるのは当事者だけで良くない? なんで無関係な家族まで巻き込んじゃうのかなぁ!!」
トリックはともかく、だんだんとジグソウに怒れてきたネイチャ。しかし話は「X」から見つかった「着信専用の携帯電話」、それにかかった電話で一気に進展しはじめる。
電話は人質に取られた子ダイアナと妻アリソンからだった。アリソンは「アダムは以前からゴードンのことを知っていた。彼を信じてはいけない」と告げて切れてしまう。ゴードンは全く面識のないアダムに、お前は何を知っていると問い詰めると、アダムは白状した。
彼はゴードンを付け回していたパパラッチだったのだ。
そうしてアダムは、ゴードンが
「あぁー……なんか怪しい家族劇が挟まれてたと思ってたけど……やっぱりゴードンは浮気ですか~……なるほど、これはギルティ」
「万死に値するヤツ……☆」
そうしてお互いの関係性がなんとなく見えてきたところで、とうとう迎えてしまう6時。それはゲームのリミットであり、家族の命のリミットであった。物語はとうとう終盤を迎え、ネイチャ達の膝を握る手に力が入った。予想を裏切る展開の数々が、否応なく二人の期待を高めていた。
「……あれ?! ゴードンの盗撮を依頼したのはタップ?! ジグソウではなく?!」
「実行犯はまさかのゼップ……ゴードン気付いたっ☆」
「頑張ってダイアナ、アリソン……逃げて、逃げてぇ!」
「いけータップ刑事! ジグソウをぶっ殺せー☆」
「ってあんまり強くない!? いや、二人を逃がせただけで大健闘か~」
あれだけあった大量の謎が畳み掛けるように解決していく。それだけでどうしてこんなに気持ちいいのだろう? そうして坂道を転がるように展開が早まっていく中、恐れていた自体が起き始めていた。
「いやゴードン大丈夫だって、奥さんたちは逃げ出したって……!」
電話越しに妻子の最後を伝えようとしたゼップだが、途中で取っ組みあいが始まってしまったため妻子の無事が確認できず、ゴードンが半狂乱になり始めたのだ。そんな中で再びかかり始めた携帯電話。しかし、携帯を手の届かないところに飛ばしてしまったゴードンは、それに出ることができない。
アダムが落ち着くように投げかけても、ゴードンは泣き喚くばかりで落ち着かず、ただ家族の安否を知りたい一心で道具を使ってまで取ろうとする。が、やはり取れない。更に落ち着きを失っていくゴードン。家族が助けを求めているのに、手も足も出せない現状に強く強く絶望を覚え、聞くに
ここまで家族を思う気持ちがあるなら、なぜ浮気したのか? ネイチャの中で未だにゴードンを許せない気持ちはあったが、そのあまりにも迫真の発狂ぶりを見ると、もう許してやってよ……と思わざるを得ず、ゴードンに強い
そして──、
「いや……待って、駄目。それは駄目。駄目だって。ね? 家族は大丈夫だから、だ、大丈夫だから……あ、だめ、あ、あ、あ~~~~~~ッ!!!?」
「マーベラっ!?☆」
ゴードンは自分のシャツを鎖のついた足首に巻いたかと思えば、アダムの見てる前で自らの足首を糸ノコで切断し始めたので、ネイチャもアダムも絶叫した。嫌な予感はしていたが自らの手で、自らの足を麻酔無しで切り落とすおぞましさに、過去イチで背筋がぞわついていた。
とうとう鎖から解き放たれたゴードンは死相の浮かんだ顔で携帯……ではなく、最初に渡された1発の拳銃の弾を手にして死体に向かう。目的は自殺死体が握っている拳銃──ここに来て、ゴードンはルール通りにアダムを殺すつもりだった!
「何で!? ご、ゴードン! 駄目だってゴードン!?」
必死にアダムが制止するも、狂ったゴードンは止まらない。「イヤだ、生きたい」と懇願するアダムに対し、その銃口は向けられてしまい……そして、銃声が地下に鳴り響いた。
「……」
「……マーベラス……☆」
部屋にはゴードンの泣き声だけが残され。
あまりにもむごい展開に、ネイチャは言葉が出なかった。
浮気は確かに許されないことである。しかし浮気1つでここまで酷い目に合わせる必要は、本当にあったのだろうか? 家族に会いたいと泣きわめく傷だらけの男を前に、ネイチャはそんな気持ちでいっぱいになっていた。
そして追い打ちをかけるようにゴードンの前に現れるのはザップである。タップ元刑事はザップの阻止に失敗。返り討ちになって死亡しており、そしてザップは時間内にアダムを殺せなかったゴードンを「ルール通りに」殺しにきたのだった。危うしゴードン!
「うぅ……流石に可哀想すぎ……うぇっ!?」
しかし、ここに来て急展開が起きる。
なんと撃たれたアダムが急に飛び起きてザップに襲いかかったのだ! もみ合いになる二人! そして辛くも勝利をもぎとったのはアダム! 彼はトイレの蓋で顔面を何度も殴打し、ザップを撲殺してしまった。ひどく暴力的な絵面ではあったが、ある意味救いとも言える展開に、ネイチャはほっと肩を撫でおろしてしまう。
「よ、よかった~……! 死んでなかったんだ……!」
「マーベラースっ☆」
そうして子どものように泣きわめくアダムを、ゴードンは体を寄せて優しく説き伏せる。「大丈夫だ、肩を撃っただけだから」「助けを呼びに行く」。そこには、あれだけいがみ合った二人とは思えない、確かな信頼関係が生まれていた。
片足を無くし、這いずりながらも必死に助けを呼ぼうとするゴードンに、置いていくなと泣くアダム。ゴードンは彼をなだめてとうとう部屋を去っていってしまう。
「助かるよな?」
「ウソなんかつくもんか」
最後に交わした二人のやり取りは、ネイチャの心を強く打っていた。
………………
…………
……
「そ、壮絶な映画だった……あぁもうゴードンもアダムも無事であってほしい……!」
「うんうんっ☆ あれだけ酷い目にあったしね……何とか生き残って欲しいよねっ☆」
ネイチャの中で
映画の中では一人になったアダムが、ゼップ……いや、ジグソウの死体から鍵を探そうとしている様子が見て取れた。よしよし。あとはそのまま脱出してくださいな……と見守っていたネイチャ。しかしアダムが探し出すことが出来たのは──鍵ではなくまさかの『テープレコーダー』だった。
『やあヒンドル君。いや、病院のようにゼップと呼ぼうか? 選択権をやる──』
「え?」
「あ☆」
テープレコーダーが語るのは、ゼップすらもこのゲームの参加者であるということ。彼もまたジグソウにより命を握られ、ゴードン母娘を殺すように命令されていたのだった。
「つまり……ゼップは、ジグソウじゃなかった……☆」
「え。う。うそ? じ、じゃあジグソウは……? ジグソウは……あ!」
ネイチャが驚き
それは密室に放置されていた
そう。彼こそがジグソウ。ゴードンの病院で末期ガン患者として治療を受けていた『ジョン』と呼ばれる老人。彼は、最初から二人の死闘を
「あ。あぁああぁあ~~~~~ッ!!?」
「マーーーーベラーーーースっ☆☆☆」
見つからなかった最後のピースが、パチリとハマった感覚。最後まで彼に踊らされていたという事実にネイチャの全身が総毛立った。
ジグソウは「鎖の鍵はバスタブの中だ」とアダムに伝えるが、アダムは目覚めた時点で鍵が水とともに流れてしまい、脱出の可能性がほぼ絶たれていたことに気づく。とっさにゼップの銃でジグソウを撃とうとするが、リモコン操作によって鎖へ電流を流され身動きが取れなくなってしまう。
そしてジグソウは部屋の照明を落とすと……アダムに向き直りこう告げた。
「ゲームオーバー」
出入口は重い金属音とともに永久に閉ざされ。
ひとり暗闇に残されたアダムの叫び声だけが、いつまでも
「……うわ。うわうわうわうわ……! す、すっごい鳥肌たったぁ……これは確かに面白い……!」
「マーベラス過ぎる……名作だね~……☆」
「こんなに予想を裏切られたのはホント初めてだったかも……うわーホント騙された……! 騙されたなぁ!? ゾクゾクゾクってなったよ……!」
まさかのラストにネイチャの興奮は抑えられなかった。最初こそ好きになれない映画だなぁと思っていたが、誰がこんな展開を予想出来る?! 感想を共有しないと気がすまないとネイチャはベッド越しに声高に語りはじめた。
「そうだよ、そうなんですよ! 2回目の電流が変だなぁと思ってたんだよ! ゼップは逃走中なのに勝手に流れたしさ! そっか、最前列でジグソウは見ていたから流せたんだ!?」
「タイトルも秀逸だよね~、『
「あっ! な・る・ほ・ど~~!?」
出るわ出るわ。最後に繋がる伏線の数々! そのすべてがゴールに向かっており、ここまでキレイにハマる物語を考えられるなんて、とネイチャは監督に拍手したくなった。
ただ、その一方で不満も残った。
「けどさー……やっぱりジグソウの行動理念は、何だか納得いかないよね」
「少し納得に欠ける部分はあるのは確かに……☆ あとアダムが可哀想な気がするっ☆」
「そうなんだよねー……」
『多くの人間は生に感謝をしない。だが君は違う。今日からはな』。これはゲームクリアした人物へ送ったジグソウのセリフだが、そんなお題目の元に今回行われたゲームは、どこか場当たり的で謎が多い。
例えば対象の選定基準。ゴードンはギリギリ分かるが、アダムは単なるパパラッチでしかなく、深いバックグラウンドもなさそうだった。確かに褒められた職業ではないが、生を
またゲームの内容もそうである。元刑事タップが乱入したからこそ妻子は死なず、ゴードンも改心の方向に向かったのだが、もしそうでなければ妻子は死に。ゴードンも失意のまま殺されていた可能性が非常に高い。なんだったらアダムなんかはほぼ死ぬことが確定していると言っても過言ではなかった。(救いとなる鎖の鍵が、高確率で排水溝に流される位置にある辺り間違いないだろう)もしかして、そんな勝ち目のない賭けに打ち勝つことをジグソウは求めていたのだろうか? それであればジグソウは大した夢想家である。
そういった点もあって、ネイチャはどうしてもジグソウを好きになれなかった。もちろん殺人鬼を好きになる要素なんて皆無なのだが、言ってることはダークヒーロー気取りのくせして、やってることは愉快犯にもほどがある点は不愉快といってもよく。(最前列で人が死に至る過程を眺めるあたりは、特に)あれだけ映画を絶賛していたネイチャも、少し冷静になってみるとジグソウに対して怒りを覚えて仕方がなかった。
「刑事さんの相棒を殺すのもそうだしさー……立派な夢持つんなら、もうちょっ考えてよって思っちゃうなぁ。いやまあ映画のキャラに何言ってんだって感じですけどー……」
「おじいちゃんだから、ボロが出ちゃったんじゃないかな?」
「それはなおさら駄目でしょ……」
二人は風邪であることも忘れてこんこんと内容について語り合い。その夜にはすっかりと風邪を治してしまうのだった。
「一番おえってなったシーンは、実を言うと汚水まみれのトイレに手を突っ込むところ……」
「分かる☆ しかもあれが徒労で終わったのホント悲しい……☆」
『ソウ』:(原題:Saw)
制作年:2004年(アメリカ)
監督:ジェームズ・ワン
上映時間:111分
配給:ライオンズゲート(米)
アスミック・エース(日)
ナイスネイチャ評:★★★☆☆
感想:予想を何度も裏切られたと思ったら、最後の最後でまた裏切られる! 過去こんなに裏切られたことがあったか!? ってくらいにストーリーは驚きの連続で、思わず夢中になっちゃった。面白い! ただジグソウの行動理念は納得いかないことが多いから、そこだけはマイナスかな……。
マーベラスサンデー評:★★★★★
感想:珠玉のストーリー展開はまさしくマママママーベラース! 驚きの数々をもたらしてくれたソリッドシチュエーションホラーの傑作中の傑作! 低予算ながらも演出、ストーリーで視聴者を楽しませてくれるので、知らない人には絶対見てほしいと思っちゃうっ☆ 何回見てもジグソウの正体があかされるときのBGMの盛り上がりでゾクゾクゾクっ~☆ってなるよ☆ ゴードンを励ましてくれたりと、案外いいヤツだったアダムが死ぬしかないのは本当可哀想でカワイイッ☆