以前に若い男女が惨殺されて以来、呪われたキャンプ場として封印されていたクリスタル湖キャンプ場が十数年ぶりにオープンされることになった。6月13日の金曜日、スティーブをリーダーとする数名の若者たちが準備のために集まり、荒れ果てていたキャンプ場の修繕や掃除に取り組んでいた。だが、ヒッチハイクで現地入りしようとした料理担当のアニーがドライバーに襲われ殺されたのを皮切りに、彼らは何者かに惨殺されていく…。
時は金曜日である。
金曜日と言えば学生達は迫る休みに目を輝かせるのが常だが、ここトレセン学園のウマ娘達にとっては必ずしもそうではない。レースを目標とする彼女たちには彼女たちなりのスケジュールがあり、土日に練習することも珍しくはないからだ。
とはいえウマ娘達のうち大半は
「ねえねえネイチャネイチャ、
そんなネイチャの背後から声をかけるのは天下無双なお転婆G1ウマ娘、トーカイテイオーだった。にしししと悪戯っぽく微笑み、いかにもしてやったりという顔だ。
ネイチャはわざとらしくため息をこぼした。映画というのは先日視聴した「仄暗い水の底から」で間違いないだろう。
「……んー、まあちょっとウルっと来ちゃった。悲しい作品だったかな?」
「へっへへーん、そんな強がっちゃってさ~、ホントは怖かったんで……え? 悲しい?」
「うん。悲しい作品」
狙った反応を得られず、ぽかんと口を開けてしまうテイオー。その顔が面白くて思わず吹き出してしまい、それを見た彼女はカッとなった。
「ナニワラッテンノー!!!」
「いやだって……ねぇ?」
確かにあの作品は「怖い」のは間違いないだろう。ただあれを最後まで見た人なら、あの物悲しさを忘れない訳がないのだ。
すると消去法で導き出されるのは……このちんまい鹿毛娘は、これを視聴せずに渡してきたという事。
「テイオーさぁ……あの映画、見てないでしょ?」
「えっ!? ななな、なんの事ー?!」
図星のようである。目はそわそわ、耳はぱたぱた、尻尾はぴーんと挙動不審の見本市。ここぞとばかりにネイチャは畳みかける。
「いやいや、そんなまさかね~? テイオーがオススメしてくれた作品だから、そりゃ目を通してない訳ないですよねー。わざわざネイチャさんの為に渡してくれるくらいだしさ~」
「そそそそそうだよ! ボクはね、ネイチャが喜んでくれるかなーって思って貸しただけだもんに!」
「ですよね~。それで無敵のテイオー様、あの映画のオチは憶えてる?」
「え……あ。それはー……えっとー………ゆ、幽霊を、成仏させたよね?」
悩みに悩んで絞り出した答えは勿論見当違い。そのちんまい頬がぐに~っと伸ばされた。
「いひゃいいひゃいいひゃい~~~!!!」
「こんにゃろめ、アタシ観る前はホント生きた心地がしなかったんだからね!?」
ぐにぐに、ぐにぃとパンをこねるように伸ばし、満足したら離す。すると真っ赤なほっぺのテイオーさんの出来上がりだ。
「……まあマーベラスと一緒に見て何とかなったけどさ。苦手な分野だけど面白かったのもあるし、これで許してあげる」
「ヒャイ……」
「あ。でもやっぱり気が済まないから、今度はアタシがオススメを貸してあげるね?」
「ええー!? じゃあボクのほっぺはつねられ損じゃん!?」
「それは利子です~」
順番が来たので食堂のおばちゃんにメニューを伝える。今日は金曜日。週末。週末はメニューが少しだけ豪華になる。そして13日の今日は一汁三菜にちなんで和食強化デーのようだ。どちらかというと和食派のネイチャは、勿論スペシャルな和風定食を頼んだ。
(13日……金曜日……。あーそういや映画でそういうのあったっけ)
ふと頭の中をよぎる、ホッケーマスクの殺人鬼。確かチェーンソーを持って襲い掛かってくるんだっけか。そう考えそうになったところで頭から追い出す。最近立て続けにホラー映画を見たかせいか、思考がどうもそっち寄りだ。
(たまには別ので中和しないとだねぇ、それこそコメディとか?)
彩り豊かな昼食に
「ね、ねえネイチャ……ちなみに何貸してくれるのさ」
「サンゲリア」
「何それ?」
その日の夜、どばぁっと雨が降り出した。
今度は大雨である。
台風が接近してるとは聞いていたが、いざTVをつけると「線状降水帯が~」と説明していた。台風じゃないらしい。しかしそれにしては風も強いし雷まで出張ってきている。ホントに台風じゃないのか?
ニュースキャスターは一時的な物だと言っていた。翌日には晴れるそうだ。けどこの荒れ模様だと明日のトレーニングは泥んこ間違いなしですな~と、重バ場になっていくグラウンドを見守る。
「マーべラースっ☆」
稲光が部屋を照らすたび、同室のマーベラスサンデーがきゃっきゃと喜んでいる。ウマ娘は基本大きな音は嫌うものだが、彼女はそうではないらしい。かくいう自分もそこまで怖がった覚えはない。ないけど、不意に母に言われたお小言を伝えたくなった。
「マーベラスー? あんまり窓に近づくとおへそ取られちゃうよ~?」
「え~? アタシのおへそ? 取ってどうするの?」
「どうするって……いや、どうするんだろうね?」
雷の時はへそを隠すという逸話は、言われてみれば不思議だ。雷神様はへそなんて集めてどうしようっていうんだ。ヘソフェチなのだろうか? 何となくタマモクロス先輩なら詳しそうだなと思った。今度聞いてみようか。*1
それはともかく。雷とマーベラスのデュエットはこちらの集中力を否応なく削ってくる。勉強は手がつかない。……まあ、もともと手慰みで始めたもので、やる気は最初からなかった。
このまま寝てしまおうかしら。そう考え始めたところでマーベラス、何を察知したのかパタパタと飛んできてこちらのベッドの縁にかぶりついた。そしてじ~っとこちら見つめてきたではないか。
「じ~~~っ☆」
「……な、なんですかなマーベラスさん」
何か言いたげだ。とてもとても言いたげだ。一体全体何を言われるのだろうか。身構えているとベッドの縁から徐々に何かがせり出してきた。黒く四角い何かだった。時が経つにつれ全貌があらわになると、次第に猟奇的なイラストが見えつつあり、
「ふん……っ!」
「えぇ~~……?」
勿論ネイチャは押し返そうとした。まず間違いなくホラー映画だったからだ。なぜそんなにホラーを見せたいのだマーベラスさんや!? 拮抗状態を作り出していると自ずと答えてくれた。
「だって前、あれ以外の映画だったら付き合うって」
「あれ以外の
「だからゾンビでも幽霊でもないスラッシャームービー*2持ってきたよっ☆」
「全部ホラーじゃん! あとスラッシャームービーって何!?」
あらわになったパッケージは「Friday the 13th」というおどろおどろしい赤字のタイトルに、黒塗りされた人物が血塗られたナイフを下げていた。「13日の金曜日」。まぁなんとおあつらえ向きなのでしょう。そういえば今日は13日の金曜日だもんね~、気が利いてるじゃん~……とは決してならないが???
「でもネイチャ、勉強終わったよね? することないよね?」
「あ、あ~いやネイチャさんそう言えば課題あるの思い出しちゃったな~。いや~ごめんねマーベラス~、また今度ということで~?」
「え~……ネイチャ指切りしたよね?」
「う」
「前、指切りして一緒に見るって……」
「ううう……!」
いやあれはホラー以外の時の約束なので……。ホラーじゃないかもしれないよ? いやいや人が沢山死ぬからホラーでしょ?! ゴジラの方が沢山死んでるよ? それ比較対象になる? じゃあネイチャはゴジラと殺人鬼どっちがいいの。どっちもイヤだけど!? ……みたいなやりとりがあったか無かったかは知らないが。ジャンケンに負けたネイチャは、結局マーベラスを膝に乗せて視聴する羽目になった。
「なんでアタシはパーを出しちゃったのさぁ……!」
「じゃあ再生するね~☆」
「はい……お手柔らかに……」
──ぶち、とマーベラスサンデーが再生ボタンを押し。映画が始まった。
話は変わるが、ホラー映画と聞いて真っ先にイメージするのは何だろうか。幽霊? ゾンビ? サメ? いや恐らくは殺人鬼だろう。大衆のイメージではホラー=殺人鬼が出るという図式が出来上がっている。そして殺人鬼と言えば仮面を被った謎の大男「ジェイソン」と相場が決まっているのではないだろうか。
ナイスネイチャもそんな大衆の一人である。殺人鬼と言えばホッケーマスクに
冒頭、夜のキャンプ場で過ごすカップルに迫る影。その殺人鬼視点を見てネイチャは身構えた。コイツは「ジェイソン」だ。間違いない。無残に殺される若者たちを見て、思わず「うっ」と声が出そうになる。とは言え描写はあっさりだったからか耐えられた。『サンゲリア』のお陰だろうか? 嬉しくないものである。
この映画はそんな冒頭の殺人事件の数十年後の話のようだ。クリスタルレイクと言うキャンプ場を再開にするに辺り、協力員である若者達が集められる。しかし集められた若者達に殺人鬼が忍び寄り……という感じ。
これまた月並みな物語だ。
目新しさの欠片もないと言っていい。
しかしゾンビ物にはゾンビ物の、殺人鬼物には殺人鬼物の定番があるのだろう。そしてこの作品はもしかしたらそんな定番ができる前、いわゆる先駆け的な存在かもしれないとネイチャは考えていた。だってこんなにも古い映画だし。
「キャンプ楽しそう!」
「だね~。アタシもキャンプなんて何年もしてないかも」
映画の中では、これまたセンスが何世代も前の「古き良きアメリカ!」的な若者達がキャピキャピとキャンプ場を設営している。楽し気だ。だがあまりにも古い。衣装、服装、言葉遣い。ロッジは薄暗く、決して清潔とは言えない原始的な作りだ。WiFiなんてまかり間違っても通ってないだろう。そして、そんな若者たちに殺人鬼は迫ってくる。
「第一犠牲者……☆」
「南無……」
最初、主人公だと思ったアニーという少女が死んだ。キャンプ場までヒッチハイクし、その途中で車の持ち主に殺られたのだ。この時点でネイチャは違和感を覚えた。
(あれ……確かジェイソンってマスク被ってたよね? なんで殺人鬼の乗る車にこの
普通、怪しい殺人鬼を前にしたら真っ先に逃げるもんである。なのに彼女は逃げなかった。むしろ親し気に話しかけ、そして犯人が豹変した途端に逃げ出した。そんな事あるのか? もしかして、これって13日の金曜日の番外編だったりするのか?
不思議がっている間にも物語は進んでいく。
「……ねえネイチャー? 見えないよー?」
「あ、あーごめんごめん、もうちょっとだけ待ってねー?」
……ちなみに、こういう映画のお約束と言えば所構わずイチャつくカップルであり。
そんな青春あるいはラブロマンスを過ごす若者達。それをこっそり覗くのは謎の人物である。
「うわ」
「わ☆」
やってきたのは13日の金曜日。ハリケーンのせいで若者たちはロッジの中で思い思いの夜を過ごしていた。しかしそれをチャンスとみたのか殺人鬼は活動を開始する。
畳みかけるように犠牲者が増えていく。一人目はお調子者の男だ。不審人物を見かけて声をかけた後、喉を裂かれてお陀仏。二人目は筋肉質なイケメンっぽい男。ベッドで一人になった所を下から矢で貫かれ昇天。三人目はイケメン男とイチャついていた女。トイレの中で斧で頭を勝ち割られてご臨終。この時点で若者は残るところ3人になっていた。
(……あれ。まだ半分時間残ってるけど?)
すでに45分が経過している。そして残り時間もまた45分だった。ホラー映画の殺人ペースは後半になるにつれ増えていくものだと思っていたが、この映画はそうじゃないようだ。
残りの3人はじっくり調理していくのかしら? 時間配分を気にしていると、ようやく若者達が異変に気が付き始める。遅いとは思わない。映画的にはちょうどいいタイミングだと思った。しかしネイチャも異変に気が付き始めた。それは全然「ジェイソン」が出てこない事だった。
「えぇ……主役はジェイソンじゃないの……?」
「出てこないねー☆」
「ねぇ……」
もうここまで殺してるんだったらソロソロ出てきてもいいだろうに、ジェイソンったら影も形も出てこないのだ。こちとらいつチェンソー片手に襲い掛かってくるのか待ち構えてるっていうのに。心配している間に、とうとう若者は女性一人だけになってしまった。おいホント大丈夫かこの映画。ジェイソンは!? そう思っていた矢先、新キャラが登場する。
「誰このおばさん」
「誰このおばさん☆」
ホントに知らないおばさんだった。
元はここのキャンプの従業員らしい。残されて半狂乱になった女性をなだめた彼女は、現状を把握するとなんて事だと嘆く。しかしわざとらしい。女性がいくら逃げようと叫んでも、おばさんは決して首を振らない。それどころか、聞いてもいないのに過去を語り出した。
あっ。とネイチャもマーベラスも声に出していた。そう。このおばさんこそが犯人。「ジェイソン」は過去にこのキャンプ場で協力員の不注意で亡くなった、彼女の息子だったのだ。どうりで犠牲者達の最初の態度が柔和だと思った。
つまるところ今回の殺戮劇は復讐劇。
いや、
……若者とばっちり過ぎないか?*3
「わー……」
「わー☆」
どうやら6月13日の金曜日である今日が「ジェイソン」の命日なので、わざわざこの日を狙って計画してたらしい。おばさんはナイフ片手に迫ってくる。精神が錯乱しているのか「殺して……ママ、あいつらを殺して……」と自ら息子を演じながら迫る姿は、かなり怖い。
しかし殺人鬼とは言えただのおばさんなので戦闘力は低い。二回、三回と襲撃してはその度に若者に殴られ、叩かれと返り討ち。迫力は……申し訳ないけど皆無だ。しまいにはボートで逃げ出そうとする若者と、湖畔でキャットファイトである。ネイチャ達はどう反応していいのか迷ってしまった。
そして。
「「あっ」」
キャットファイトの末、ナタを手にした若者が示現流の如く絶叫して向かってゆき。おばさんの首がすぽーんと吹っ飛んで事件は終結した。
「……」
「マーベラス……☆」
………………
…………
……
スタッフロールが流れ出す前から、ネイチャもマーベラスも
肩透かしだった理由の大きな要因は、例のホッケーマスクの怪人「ジェイソン」が出てこなかったことなのかもしれない。身構えていたネイチャにとって、犯人がおばさんだったのは少なからずガクっと来た。確かにおばさんの狂気は怖いが、かなり弱い。それはネイチャにとって不満だった。(だからこそ一人ずつ、しかも強そうな男から殺したんだろうけれども)
「うん……何か久しぶりに殺人鬼もの見たなーって感じ。マーベラスどうだった?」
「マーベラス」
「それホントマーベラス?」
殺人鬼を撃退し、一人だけになった女性がボートの上でぐったりしている。穏やかなBGMと共に惨劇の夜は明け、警察が集まって女性を助けようとする。これまたよくあるエピローグだ。まあ80年代だとこういう映画も多かったのかしら? まだ過渡期だろうし、次回作ぐらいからもっと演出を頑張るのかな。そう思った矢先、
──湖から謎の奇形児が飛び出し、ボートが沈んだ。
「うぇえぇええっ!?!?」
「~~~っ、マーベラースッ☆☆」
二人して思わず飛び上がってしまった。
ネイチャはホラー映画というのを見誤っていた。
「う、うぅ~~~っ、してやられた~!」
「あはははははっ☆ びっくりした~☆」
その日、ネイチャは悪夢を見なかった。見なかったが寝付けが悪かった。ホラー映画をこんなものかと侮った結果、最後に驚いてしまったことを悔やんでいた。そして二度とホラー映画で油断しないぞ、という教訓を心に刻むのだった。
「あの予言おじさんいる?」
「いる☆」
『13日の金曜日』:(Friday the 13th)
制作年:1980年(アメリカ)
監督:ショーン・S・カニンガム
上映時間:95分
配給:パラマウント・ピクチャーズ(米)
ワーナー・ブラザース(日)
ナイスネイチャ評:★★☆☆☆
感想:ホッケーマスクのジェイソンが出てくるものと思ってたから拍子抜けした。演出はちょっと古めなのかな……? 最後にびっくりしちゃったのが悔しい。
マーベラスサンデー評:★★★☆☆
感想:ずーっと犯人が分からないからドキドキするのがマーベラスっ☆ でも犯人が分かるとちょっとがっかりするのがノットマーベラスっ。おばさんが息子の声真似して襲ってくるのはすごくマーベラスな演技だったよっ☆