栗東寮118号室 ホラー映画研究会   作:月兎耳のべる

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リクエストを頂きましたので。
そして誤字報告いつもありがとうございます。

【あらすじ】
 テレビディレクターの浅川玲子は、「見ると一週間後に死ぬ」と巷で噂されるビデオテープの存在を知る。親戚の娘も犠牲になったことを知り調査を開始するが、玲子自身もそのビデオを見てしまう。玲子は元夫である大学講師・高山竜司に相談し、ビデオの映像を分析。三原山の噴火に関係があることを突き止めた彼らは大島へ向かい、その呪いを止めようとするのだが……?


第五回『リング』(日 1998)

 

 雲一つない青空広がる昼下がり。

 ナイスネイチャはひとり頬をかいていた。

 どうすればいいか、よく分からなかったからだ。

 

 

 

 校内に時折出没するゲリラ占い屋。偶然見つけたのをいいことに立ち入ってみたのだか、その結果が(かんば)しくなかった。

 

「……まさか末吉ですらないとは」

 

 シラオキ様のお告げによると、本日の運勢は「凶」らしい。おみくじは小吉、末吉が安定していたネイチャにとってはかなり珍しい結果であり、少し凹むものだった。

 

 具体的にどう凶なのか。水晶玉に両手をかざし、(うな)りに唸ったマチカネフクキタルが告げた内容は、全く要領を得ないものだった。

 

(『王を失うべからず』……ねぇ)

 

 曰く、凶報は東から訪れるとのこと。

 周りを見渡してみるネイチャ。東とおぼしき方向に特におかしなものは見当たらない。優美な花壇と誰ぞやの違法家庭菜園*1が広がるばかりだった。

 

「まず王って誰の事……?」

 

 キングヘイローのことだろうか? それともオルフェーヴル先輩? 首を傾げてしまう。

 

 年の割に大人びているネイチャは、本気で占いを信じている訳ではないが、その結果で一喜一憂するくらいにはまだ幼い。それが信ぴょう性の高いフクキタル先輩によるもので、なおかつ「凶」であればそれはもう考えこんでしまう。

 

 あの時。当たり前のように同席し、その結果を我が事のように悲しんでいたメイショウドトウが『す、救いはないのですか~!?』と叫ぶとフクキタル先輩が伝えてくれたっけか。『ラッキーアイテムはファンタジー映画です!』と。

 

「ファンタジー映画……また映画ぁ?」

 

 映画、映画、映画……最近はとことん映画尽くしである。なんでこんなに映画に縁があるのだろう? とは言え、ホラー映画を指定されなかったことに少しホっとした。ファンタジー映画なら忌避感はぜんぜんなかった。

 

 ならホラーな流れを断ち切るためにも、今日はファンタジーで(みそぎ)ますか~。そんな軽い気持ちで部屋に向かおうとした……その矢先のことだった。

 

「ん……?」

 

 視界の端に捕らえた人影。校舎の隅から現れたソレは、急にネイチャめがけて全速力で走ってくる。え。まさかそんな? もう来るの? これが凶報? 一体誰が来るのかと身構えて──そして、すぐに誰だか判明する。

 

 

「────ねぇぇぇぇええぇぇぇいいぃぃぃいいぃぃいぃちゃああああぁあぁあぁぁぁああぁぁ~~~~~~!!!!!」

 

 

 天上天下唯我独尊。傲岸不遜(ごうがんふそん)完全無敵。その名を世間に(とどろ)かすG1ウマ娘。トウカイテイオーであった。あらん限りの感情を顔に刻んだ彼女は瞬く間にネイチャを捕まえると、その怒りの丈をぶつけ始めた。

 

「なんッッッッッッてもの見せるんだよ!!! なんッてもの見せるんだよォォ──!!!!」

 

「え? え? ……えっ!?」

 

「あんなひッッッどい物見せて! ボクへの嫌がらせのつもり!? そんなにボクとのレースに勝ちたかったの!? 勝つつもりならもっと正々堂々と勝負しろよ卑怯者ぉ──ッ!!」

 

「いや、ちょっ、ぶっ。まっ。て、テイオー落ち着いて、落ち着いてって揺さぶらないでよ!?」

 

 首根っこを掴まれ。あらん限り揺さぶられ。猛々しく怒鳴りたてる。そんな尋常ではない振る舞いに、どうしたどうしたとウマ娘達が群がり始める。しかしそれでもテイオーの暴走は止まらない。

 

「何!? 何か恰好いい名前だから油断してたけど何でゾンビなのさ! よりによってゾンビ!? 首から血はびゅわー!って出るし、サメも出てくるし!!!!! 人は食べられちゃうし……しししし、しかもなな、なんで虫があんなについてるのさぁ!? 目がぐちゃーってなるシーンとか一緒に見てたマヤノもドン引きしてたんだからね!? ネイチャのバカ! アンポンタン! ボクもマヤノもお陰で寝不足だよ!!!! トイレにだっていけないし、それにお、おね──むぐぅっ!? ムー! ムウゥゥゥゥ~~ッッ!!!!??」

 

 たまらず口を(ふさ)いだネイチャは、そのままテイオーを物陰に引きずり込んだ。

 

「わかったわかった『サンゲリア』の事ね!? まさかホントに見ちゃうとは……」

 

「見たよ! 見たさ! ヒトとの約束を破るほど僕は恥知らずじゃないもんに! それにどーせ見なかったらここぞとばかりにボクの事を馬鹿にするんだろ!?」

 

「そ、そんなつもりは……少しくらいあったかも……?」

 

 ネイチャの一コ下であるテイオー。彼女は悪戯っぽく生意気盛りだが、その一方で律儀で真面目だ。前に渡された映画のお返しで映画を貸し与えのだが、まさか本当に見たとは思わなかった。ネイチャは少しだけテイオーを見直した。

 

「いやぁ、最後まで見たのはすごいよ。アタシも最初見た時失神するかと思ったもん。うん。えらいえらい」

 

「そ、そう? ……じゃ、なくて! ボクはネイチャのこと見損なったよ! キミ、こんな揺さぶりをかけてまでレースで勝ちたいの!?」

 

「え!? いやいやそれはホントに誤解! 別にテイオーを動揺させてとかそういうつもり全くないし! 偶然手元にあったホラー映画があれだっただけ!」

 

「あんな趣味の悪い映画を偶然手元に? キミそんな趣味じゃなかっただろ! 絶対嫌がらせのつもりで借りて来たんだ、そうに違いないね!」

 

「なっ、そんな事する訳ないじゃん!」

 

「どーだか! 大体がずっと3着なのが嫌で嫌で揺さぶりかけたくなったんだろー!? ネイチャのバカ! バカバカバーカ!」

 

「ッ、こ、っの……ッ!」

 

 売り言葉に買い言葉の応酬(おうしゅう)。徐々にヒートアップしていく二人。そしてとうとう超えてはいけないラインを超えたテイオーにネイチャは「かぁっ」となってしまう。

 

 が、その瞬間。

 脳裏をある言葉が(かす)めた。

 

(『王を失うべからず』)

 

 ……あ。と思った。

 王ってこのテイオー(帝王)の事なのでは? 

 

 占いが(ほの)めかしたのは、テイオーとの関係性が崩れてしまうことだったのではないだろうか? 危うく手をあげそうになっていたネイチャは努めてその手を下げ、いったん深呼吸をすると……静かに頭を下げた。

 

「ごめんテイオー」

 

「え?」

 

「ホントにそういう意図はなかったの。悪ふざけのつもりではあったけど、まさかここまでびっくりさせるとは思ってなくて。あのDVDも偶然マーベラスサンデーが持ち合わせてたもので、わざわざ用意したものじゃないんだ」

 

「え……ぅ。……そうなの?」

 

「うん。だからびっくりさせてごめんなさい。アタシが悪かった」

 

 非を認め、深々と謝ったネイチャを見て、あれだけ(ゆだ)っていたテイオーの頭も急速に冷えていく。そしてそれと同時に恥ずかしくなった。勝手に決めつけ、暴走して、あんなに酷い言葉を投げかけた自分に比べて、ネイチャの態度は何と大人なんだろうか。癇癪(かんしゃく)を起こしていた自分が子供にしか思えなかった。

 

 少しバツが悪そうに視線を彷徨わせたテイオーは、時間を置いて頭を下げ返した。

 

「…………こっちもごめんネイチャ。誤解してた……それに、酷い事言っちゃった……許してくれる?」

 

「いいよ、三着続きなのは事実だしさ。……はーぁ、でも傷ついたなー」

 

「うぅ……ごめんって……」

 

「うそうそ。気にしてないって。それよりホントすごいよテイオー。あんな汚い映画を最後まで見たのはマジで尊敬する」

 

「でしょ!? いや、ボクもうホント何回見るのやめようかと思って! マヤノなんか『マヤもうわかんない!』って言って布団被って出てこなくなっちゃったしさぁ! ボクも意地だったね、ホントに!!」

 

「マヤノちゃんとばっちりじゃん……」

 

 今日ばかりは占いに感謝した。ホラー映画で友情が崩壊するなんてお笑い草がすぎる。回避できてよかったと心の底から思った。いつもの調子に戻ってきたテイオーを見て一安心すると、自然とその頭に手を置いてしまった。(直後に「子供扱いするなー!」とのけられてしまったが)

 

「そうだテイオー。今日のアタシのラッキーアイテムは『ファンタジー映画』なんだってさ。暇があったら一緒に見ない?」

 

「ファンタジー映画? ふーん……別にいいよ? 今日は夜練もないし」

 

「おっ。じゃあ決まりだね。そんじゃ夜にアタシの部屋に集合ってことで。テイオーの好きな()()()()用意しといたげる」

 

「おぉー分かってるじゃんネイチャ! じゃあ夜にね! また連絡するよ!」

 

 はちみーと聞いてたちまち上機嫌になったテイオーは、ぴゅーんとどこかへ行ってしまった。まったくもって嵐のような子である。

 

「さってと……ファンタジー映画ね。アテはないけど誰か持ってるかな……」

 

 ファンタジー映画。何があるかしら。自分もそこまで詳しくはないが……例えば『ハリーポッター』とか? 『アリスインワンダーランド』? 『チャーリーとチョコレート工場』もありかもしれない。そういえば『アナと雪の女王』もそうかも。なんだったら『ナイトミュージアム』もありじゃないかしら。しかしそれでテイオーが好きそうなので言うと……あぁ!

 

「『ロード・オブ・ザ・リング』! 王道なのがありましたね~こりゃ」

 

 皆さんご存知超有名ファンタジー。指輪を捨てるための物語である。かなりの超大作だが、その重厚かつリアルなファンタジーはきっとテイオーの心を掴んで離さないだろう。

 

 占いでも『王を失うな』って言ってたし、ぴったりじゃないかしら。直訳すると『指輪の王』だしね。それなら善は急げとグループチャットにぽちぽちと投げかける。急募。()()()()()()()()()()()()()()()。誰か持ってない? すると時を待たずしてイクノディクタスから返事があった。

 

『ありますよ。貸しましょうか?』

 

『マジ? 今日の夜に貸りれると嬉しい!』

 

『大丈夫です。ちょうど寮で暇をしていたのでマーベラスちゃんに渡しておきます』

 

『ホント助かる! ありがと!』

 

 これでヨシである。あとは夜を待つばかり。

 呑気気ままにその場を後にしたネイチャ。

 

 そうしてあっという間に夜を迎え、118号室に集合したネイチャとテイオー。

 そこで二人が見たのは、

 

 

 

 ニコニコ顔のマーベラスサンデー。

 そしてその手に持つ、赤い指輪と女性の顔がデカデカと描かれた、不吉なDVDだった。

 

 

 

 

 

ー 第五回『リング』(日 1998) ー

監督: 中田秀夫

 

 

 

 

 

 

「よくもぼくを……よくもボクをォ!!!! だましたなぁぁぁぁァァァ───────────ッ!!!!!」

 

 

 まずテイオーが叫んだ。

 廊下に聞こえるくらい叫んだ。

 その怒りはすさまじく、その髪が逆立つほどだった。

 

 

「よくもよくもボクをォ!!! よくもだましたアアアアアアア!!!!! だましてくれたなアアアアアア──ッ!!!!!!!」

 

「待って、待って待ってテイオー落ち着いて!? 違うの! これホント誤解だから!?」

 

 次にネイチャが慌ててイクノに電話した。どこをどうしたらファンタジーがホラーに変わるというのか。意味が分からなかった。ほどなくして出たイクノはこう語ってくれた。

 

『? 要望通りファンタジーでリング(指輪)の映画ですが』

 

「ホラーじゃん!? これホラーの方の指輪(リング)じゃん! ファンタジーじゃないよ!?」

 

『内容は荒唐無稽なファンタジーですよ。ですが評判だけあって面白いです。食わず嫌いはせずに見ることをオススメします』

 

 それでは、と電話は一方的に切れ。ネイチャはその場でへたりこんでしまった。

 

 節子、これロード・オブ・ザ・リングじゃない。リングや。一番大事な『ロード・オブ・ザ』の部分が抜けてるやないか。そこまで来てネイチャ、またもピンときた。あぁ『王を失うべからず』ってそういう意味……。

 

「なんで……なんでホラー映画になってるの……よくもォォォォォォ──!!!!」

 

「マーベラス!」

 

「マッ☆」

 

「むぐっ!?」

 

 ネイチャのひと声でマーベラスサンデーが半狂乱のテイオーに飛びついた。マーベラス得意の()()()()である。窒息の危険のある技だが今はなりふり構ってられなかった。そしてテイオーを大人しくさせると、何者かがすぐに部屋に足を運んできた。

 

「……ポニーちゃん達、一体何してるんだい?」

 

「あ。あはははフジ先輩こんばんはー、ごめんなさい。ちょっとはしゃぎすぎちゃって」

 

 騒ぎを聞きつけて飛んできたのは、寮長フジキセキである。ネイチャは慌てて弁明をし、はしゃぎすぎたことを謝罪。するとあっさりと下がってくれた。フジキセキは生徒のお茶目には寛容だった。

 

「喧嘩にならないようにね。あと……そこのテイオーはそろそろ離してやったら?」

 

「あっ」

 

 圧迫固めで黙らせ続けていたテイオーが天に召されそうになったりならなかったりしていたが、それを何とか復活させる。そしてネイチャは完全にへそを曲げてしまったテイオーに弁解した。

 

「いいよもう……ネイチャはボクのこと嫌いないんでしょ……」

 

「だから誤解なんだってばテイオー。ほんとはロード・オブ・ザ・リングを見ようと思ったらリングに変わっちゃったんだって!」

 

「普通そんな間違え方する!?」

 

「したんだよ……」

 

 なんだってこんなにホラー映画に好かれてしまうのか。自分でも分からない。呪われてるんじゃないかしら。とりあえずテイオーには平謝りをし、今日は一旦お開きにしようか……そう言おうとしたところでマーベラスサンデーが「はいはいはいっ☆」と手をあげた。ネイチャは嫌な予感がした。

 

「テイオーも一緒にリングを見るのはどうかなっ☆」

 

「なんで!?」

 

「だってリングだよ? 邦画ホラーの決定版っ、三人で見るとぜ~~~ったいマーベラスだよっ☆」

 

 テイオーとネイチャの顔がくしゃっと歪んでいた。今日はせっかくファンタジーな気分だったのにどうしてホラーを見なきゃいけないのだ! 示し合わすことなく断りを入れようとした二人だが、マーベラスは返事を聞く前にDVDをセットし始めた。もちろん全力で阻止した。

 

「えー見ようよネイチャ、テイオ~」

 

「やだけど!?」「イヤだよ!?」

 

「む~…………テイオー、怖いの?」

 

「こわっ!? ……こ、怖いわけないじゃん、このボクが、無敵のテイオー様が怖がるなんてことないもんに!」

 

「マーベラスっ☆ じゃあ見るのは平気だよね?」

 

「えっ……いや、それは」

 

「無敵のテイオーじゃないの……?」

 

「ゥゥ……う、うぅぅ……うぅ~~~!! や、やってやる! やってるやるよ!」

 

「マーーーーベラーーーースっ☆」

 

「テイオー!? ちょっと!」

 

 うまいことマーベラスの口車に乗せられてしまったテイオー。ヤケクソになってどかっとネイチャのベッドに座り込むと、マーベラスはしてやったりと隣に陣取った。どうやらもう逃げられないようだった。ネイチャは肩を大きく落として、テイオーの隣に座ったのだった。

 

 

 

 

 ──ぶち、とトウカイテイオーが再生ボタンを押し。映画が始まった。

 

 

 

 

 ジャパニーズホラーといえば? 

 

 その問いで真っ先に挙がるのは間違いなく本作『リング』であろう。

 

 見た人は何日か後に死ぬ呪いのビデオ。

 そしてビデオに映るのは古井戸。

 さらに、そこから出てくる黒髪の女性『貞子』!

 

 特に『貞子』の知名度は凄まじく、日本では2000年代くらいから映画館で引っ張りだこになったアベンジャーズよりも有名だと言える。

 

 ネイチャも勿論そんな(ちまた)の情報だけは聞き及んでいた。リングは見たことがなかったが『テレビから貞子がぬぅーっと飛び出してきて、呪い殺すんでしょ』というイメージだけがあった。体育座りで体を小さくみせかけている隣のテイオーも、多分同じなのではないだろうか?

 

「呪いのビデオ……見終わったら電話がかかってくる……見たら一週間後に死ぬんだって」

 

「……ネイチャ、ビデオって?」

 

「え? あ、あー……黒くて四角いテープみたいな……」

 

「ふーん……アタシ見たことないなぁ……☆」

 

「ボクも……」

 

 冒頭、二人の少女が呪いのビデオの噂話で盛り上がるのを聞いてマーベラスが早速疑問を(てい)した。DVD、BD、スマホが普及した現在において『ビデオ』と聞いてもピンとこなかったようだ。ネイチャも子供の頃に実家にあった覚えはあるが、触れる機会はほとんどないほどだった。

 

「……う、ぅえっ!? 電話! 電話電話!?」

 

 それはともかく、映像の中の少女のうちの一人は、実際に呪いのビデオを見てしまってたそうだ。そして丁度今日が一週間後だとか。当初はそんなの嘘っぱちだと笑う二人だが、実際に家に電話がかかってきて凍り付く。

 

「……な、なーんだ家族からの電話かぁ……よかったぁ……ってあれ? なんかおかしくな……ぎゃ、ギャアアアアアァ?!?!?!」

 

 最初は肩透かしをくらうが、やはりホラー映画。見事な緩急で絶叫シーンを演出し、少女は噂通りの末路を迎えた。まんまと驚かされたテイオー。一方でネイチャは演出よりもテイオーの声に驚いていた。

 

 さてさて、そんな掴みたっぷりの冒頭を超えると主人公である女性「浅川玲子(れいこ)」が現れる。玲子はテレビディレクターで、まことしやかに世間に語られる呪いのビデオのことを調査していた。

 

 ビデオを知っているという女子学生にインタビューをし、断片的に情報を収集していく玲子。

 

 深夜番組で唐突に流れる。

 怖い女の人が出てくる。

 見ると一週間後に死ぬ。

 伊豆の方で見かける。

 見た高校の先輩が車の中で死んだ。

 

 当初は馬鹿げた噂だと考えていた玲子だが、車内でのカップルの不審死は確かに新聞に載っており、噂が本当ではないのか、と言う思いを募らせていく。

 

「伊豆でしか見ないんだって☆」

 

「府中*2は平気? 府中は平気だよね?」

 

「さぁ……」

 

 その一方で玲子は、子供と一緒にそそくさと葬式に出かける。親戚の娘が亡くなったそうだ。それは冒頭で呪い殺された子のようで、死因は原因不明の心臓発作。死後、酷く顔が歪んでいたため棺すら開けられない状態だとか。

 

 玲子は、そんな少女の通っていた高校と車内で死亡した少女が同じ高校であることに気付き、葬式に来ていた彼女の友達に事情を聴取する。すると、案の定死んだ少年少女たちは全員呪いのビデオを見ており、全員同じ日に死んだことが判明する。

 

 そして調査を進めるうちに、死んだ少年少女達が一同で伊豆に遊びに行ったことが判明する。その行先は、とあるコテージだった。写真を頼りにコテージへ向かう玲子。当初は何の手がかりもなく、空振りだと思っていたが……その途中。ラベルのない謎のビデオを発見してしまう。

 

「だ、ダメダメダメダメそれ絶対呪いのやつじゃん! それを手に取ったら……いやいやいやなんで今見るの!? 見なくていいじゃん見んなよぉぉ──!」

 

(うるさい……)

 

 ネイチャが耳を塞ぎながら画面を見ると、そのビデオの全貌が分かった。その内容は短く、不鮮明で、繋がりがなく、そして何よりも不安を煽った。

 

 雲がかった満月、そこに男が映っている。

 鏡の中で髪を梳く着物の女性。

 髪の長い白い着物の少女。

 文字が蠢く新聞紙。

 のたうち回る人々。

 何かを指さす、布を被せられた男。

 大きく映し出される黒目。

 そしてぽつんと置かれた古い井戸。

 

 何を目的としたものか理解もできず、玲子もネイチャ達も黙り込んでしまう。そして……。

 

「ひぃっ!?」

 

 視聴直後、噂通りに電話がかかり。

 不吉な音声を聞かされた玲子は、自分の命があと一週間しかないことを本能的に悟るのだった……。

 

 

 今更ながらあらすじを伝えると、本作は呪いのビデオを見てしまった玲子が呪いを解くためにビデオの謎に迫るという物語である。呪いの期限である一週間、その限られた時間で東奔西走(とうほんせいそう)し、謎を解き明かすシーンが大半であるため、『仄暗い水の底から』のようなびっくりホラー要素はかなり少なめだ。

 

(……あれ? リングって実は……ホラーじゃなくてミステリー映画?)

 

 ネイチャも最初はドキドキしながら見ていたが、着実に謎が解けていく展開は恐ろしいというよりワクワクするものだった。特に元旦那で大学教授である竜司が仲間に加わってからは、その冷静な判断と調査力でグイグイと物語が展開していき、ある意味目が離せなくなっていた。

 

 そしてネイチャが淡々とこの映画を眺められる理由がもう1点あるとすれば……それは間違いなくテイオーにあるだろう。

 

「ひぇっ!? 写真が! 写真がぁ!」

 

「ぴぃっ! 何何何!? この女の人誰!?」

 

「うわぁぁあ! ななな何で子供がビデオ見ちゃったんだよぉ!?」

 

「ぎゃああぁぁあ! 記者が、記者が急に死んじゃったよぉ!」

 

 まぁすさまじいリアクションの数々。

 何度文句を言おうとしたか!

 

 監督が狙った場所も、そうでない場所も等しく、そして最大限に驚いてくれるので、自分が驚く暇が全くない。むしろテイオーには悪いが、全力で怖がる様が面白くて、映画よりもテイオーの反応の方を楽しんでいた。

 

(マーベラスがアタシと一緒にホラーを見たがった理由が分かる気がするかも……)

 

 無意識に体を寄せ、震え、それでも画面から目を離さないテイオーを微笑ましく思っていると、マーベラスとも目があった。ばちこんっとウインクした。同じ気持ちのようだった。

 

 

 さて、映画では何の因果か玲子の息子までビデオを見てしまい、ますます呪いを解決しなければならなくなった二人。本人たちの呪いのリミットも近づく中、謎の全貌が見えてきていた。

 

 ビデオに出てきた着物の女性は「山村静子」という戦時中に実在した千里眼の持ち主のようだ。彼女は、伊豆の離島、大島で噴火を予知したことがあり、そんな静子の力を研究していた「伊熊」という大学教授との間に子を儲けていた。そして、その子供こそがかの有名な「貞子」だった。

 

 貞子はかなり強い超能力を持っており、それは念じるだけで人を殺せるものだとか。その昔、静子の千里眼の公開実験を出鱈目(でたらめ)だと糾弾(きゅうだん)した記者の一人を突然死させてしまったらしい。

 

 その事実を知っているのは静子の父親である島の老人だったのだが……ここでネイチャは首を傾げた。

 

「……え? テレパシー……? え? ええー……?」

 

 過去を話したがらない老人に対し、元旦那である竜司が不意に告白したのは『自分には心を読む能力』がある、ということ。ははーん、教授らしく状況推理とひっかけだな? そう思っていたのだが、実際に竜司は男性を掴むと、その記憶を()()()()()()()()のだ。超能力みたいな感じで。

 

 ネイチャは訳が分からなくなった。そんな事一言もいってなかったよね? どこからその設定生えてきたの? と疑問符で頭が埋め着くされてしまった。

 

 ……まあそんなご都合主義もあって、謎のピースは大体揃えることができた。

 

 公開実験の後、山村静子は山の火口に身を投げて自殺。

 娘を引き取った伊熊は島を後にして消息不明。

 そして古井戸は、例のコテージにあること。

 

 死のリミットが残り1日と差し迫る中、離島からコテージに急ぐ二人。彼らはコテージ地下に無断で侵入し(!?)、実際に古井戸を確認すると、例の竜司のテレパシー能力で、貞子が実の父親である伊熊に背後から殴られて、この井戸に突き落とされたという幻覚を見る。

 

 ビデオにうつった満月に浮かぶ男の顔は、井戸の中を覗く伊熊だったのだ。

 

 確信を得た二人は急いで井戸を捜索する。

 井戸は水が溜まり、ぱっと見では死体は確認できない。

 

 そのため竜司が井戸の中に入ってバケツに井戸水を入れ、外にいる玲子ともう一人がその水を捨てるというバケツリレー方式で水を汲みだす作戦に出た。ちょっと無理がないだろうか、とネイチャは思った。(あと力量的に汲みだすのは男性の方がいいのではないだろうか?)

 

 幸い、顔がギリギリ出る程度の水深だったので行けるとふんだようだ。必死のバケツリレーが始まる。しかし既にリミットまで残り数時間である。はたして間に合うのか?

 

「ううぅぅぅぅ、早く早く早く早くぅ~~~! 死んじゃうってばぁ……! ボクがいって手伝ってあげたいよぉ……!」

 

「……死体が沈んでる井戸水、すくいたい?」

 

「絶対やだ! ヤダヤダヤダ!」

 

 ウマ娘が一人でも手伝えばすぐに終わったかもだろうが、閑話休題。日が暮れて、残り時間は僅かだというのに、まだ腰に浸かる程度の水が残っている状態。休みないバケツリレーでついに体力の限界を迎えた玲子がぶっ倒れてしまい、竜司が必死に彼女を奮い立たせる。死にたくないのか、息子はどうするんだ! と。

 

 それなら俺が引っ張る役をするとようやく立場を交代させた玲子。しかし玲子が入って早々、不意に何かに気付き、水の中を探ると……その手に大量の黒い髪の毛がごっそりと絡みついていた。

 

「ぴっ!」

 

 かと思えば、謎の手が玲子の手を掴んだ。

 

「ひゃうぅぅうっ!?」

 

 直後、玲子は白骨化した貞子と対面した。

 

「ひゅいいぃぃい~~~~~~っ!?!?!?!?」

 

 テイオーが文字通り飛び上がってベッドから転げ落ちそうになっていると、画面の中の竜司が言った。「リミットを過ぎた! 助かったんだ!」そう、玲子は間一髪で呪いを解くことが出来たのだった。

 

 玲子は貞子を労うかのように、その死体を優しく抱きとめるのだった。

 

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「い、いい……一件落着……?」

 

「そだね……呪いは解けたみたい」

 

 気付けば布団を被っていたテイオー。ネイチャが答えると、ほーっと、それはもう大げさなくらい大きくため息をついた。

 

「……なな、なーんだ! なーんだなーんだなーんだ驚かせてさー! へへーん、こんなものだと思ってたよーだ。噂の『リング』も大したことないね!」

 

「マーベラスっ☆」

 

 一転して元気を取り戻しだしたテイオー。調子のいいことである。確かにここまで見ていたネイチャも同じ感想だった。時代が時代なのか演出はかなり抑えめだし、前述の通りミステリー要素が強すぎて身構えていたほどではない。ないが……この映画がこれで終わりな訳がないとネイチャは知っていた。

 

(だって古井戸から貞子が出るシーン、まだ出てないじゃん)

 

 リングと言えばソレである。なのにまだ出てない。

 だからネイチャは身構えた。

 とても身構えた。

 身構えていたからテイオーに伝える暇はなかった。

 ホントである。

 

「それにしても何で教授は娘さんを殺しちゃったんだろうねー、その謎、分かるのかなぁ? ……え? あれ?」

 

 饒舌(じょうぜつ)になったテイオーが得意気に語る中、家で過ごしていた竜司に異変が迫る。ひとりでにテレビがついたと思えば、例の古井戸が映ったのだ。

 

「え。なんで。……なな、なんで? 呪い、解いたよね?」

 

 古井戸から女性の手が這い出る。そしてその姿を現すのは、白いワンピースに身を包み、長い黒髪で顔を隠した貞子。それが、ゆっくり、ゆっくりと画面に向かって歩いてくる。

 

「待って……待ってよ話違うじゃん! そんなのおかしいって! なんで……ね、ねえネイチャなんで?」

 

「……」

 

「ま、マーベラスなんで? なんでだよぉっ!!」

 

「……☆」

 

 後ずさる竜司がテレビから離れると、貞子はとうとうテレビ画面から身を乗り出して現実の存在になり。じわりじわりと竜司に近づいてくる。呪いを解いた筈なのにどうして……! 錯乱する竜司が何かに気付き、慌てて玲子に電話で伝えようとするが……既に、手遅れだった。

 

 

「────☆■△×&%◎@#¥▼ッッッッ!?!?!?!?!?」

 

 

「げぶぅしッ!?」

 

 その長い髪から覗いた狂気の眼差し。それが画面いっぱいに広がって暗転すると、テイオーは声なき声をあげてネイチャのお腹に突進をし。ネイチャはその不意打ちタックルで悶絶した。とても痛かった。

 

 結局のところ玲子は呪いを免れて、竜司は呪いを免れなかったのだ。貞子の遺体を見つけたのにどうしてなのか? 何が足りなかったのか? その真相は、一つだけだった。

 

「……ビデオを見た竜司さんが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、ってこと?」

 

 呪いのビデオのルールにはもう一つ隠されたものがあった。それは呪いのビデオを見た人は『一週間以内に誰かにダビング*3して渡さないと』死ぬというものであった。

 

 言われてみれば序盤、玲子は調査のために竜司にビデオをダビングして渡していた。しかし竜司はそのビデオをさらにダビングして誰かに渡していなかった。つまり、玲子の呪いは最初から解けており、貞子の死体を見つけることは呪いの解決に関係なかったのだ。

 

 死体を見つけたぐらいでは貞子の怒りは途切れず、無差別な呪いとなって世間に広がり続けるしかないと悟った玲子。そして一人息子の呪いもまだ解けていないことを知ると……彼女は父の家に向かった。

 

 全ては息子のために。

 その手に、ビデオデッキとテープを持って……。

 

 

 

 

「……っ! ……~~っ、っ! っ……~~~っ」

 

「おーい、テイオー終わったよ~」

 

 エンディングが流れてもなお顔をお腹に埋めて動かないテイオー。そんな彼女の背中をポンポンしながら、ネイチャは考えていた。

 

 なるほど名作と言われるだけある。ぐいぐいと引きこまれるストーリーといい、小気味よく挟まれるホラーといい、実に見ていて面白い。そして最後の最後のドンデン返し。とても見応えのあるものだったと言える。

 

 ただし怖さで言えば……期待してたほどではなかった。それは事前情報をあまりにも知りすぎていたからかもしれないし、映画館で見てないからかもしれない。もし井戸から出てくることを知らなかったら? 映画館であの大きく写される貞子の顔を見たら? そしたらネイチャも、今のテイオーと同じ反応をしてたかもしれない。

 

 さらに幾分か冷静になって観ると、アラも見えてくる。

 

「……ダビングしないと死ぬって、最初言ってなかったよね?」

 

「うんっ、なかったね~☆」

 

「だよねー……最後の最後に大事な情報に触れるのはさ……ちょっと卑怯じゃない?」

 

 後出しジャンケンの如く出てきたダビングのルールといい、急に生えてきた竜司の超能力設定といい、いい作品だからこそ惜しい! と思ってしまう。また、玲子さん役の演技も慣れてないのか、常に舞台の上で演じているように見えて鼻についた。

 

「今だからこそびっくりしないかもしれないけど、それでもマーベラスっ☆ こんなに素敵な物語を昔にやってたことは感動だよ~っ☆ あとはやっぱり出てくる人の演技だよねっ、ホラー演出がこんなに少ないのに面白いのは、役者の皆さんの力が大きいなーって☆ マーベラーーーースっ☆」

 

「まあそれはそうかも? 竜司さん役の人はすごいいい演技してたよね。っていうかテイオー……てーいーおー、終わったってば。おーいー」

 

 二人で語り合いながら背中を優しく揺すったが、いつまでも経ってもテイオーは離れず。ネイチャはどうしたものかと肩をすくめるのだった。

 

 

 

 

*1
ワタシが作りました byゴルシ

*2
トレセン学園の所在地

*3
ビデオを複製すること




「くーるー、きっとくるーって歌なかったっけ? エンディングで流れるものかと」
「あれは続編の『らせん』の曲だよっ☆ あと『ウーウー、きっと来るー』だからね?」
 

『リング』:
 制作年:1998年(日本)
 監督:中田秀夫
 上映時間:95分
 配給:東宝
 

 ナイスネイチャ評:★★★☆☆
 感想:ホラーの名作と言われたら、確かにそうかも。でも思ったほど怖くなかった。事前知識なしで、頭空っぽで見たら違ったんだろうなぁ。


 マーベラスサンデー評:★★★★☆
 感想:最小限の演出で最大限の恐怖を! やっぱり謎解きホラーの傑作っ! あとから謎が判明していく過程と、それにより判明する真実、そしてミスリード! マママママーベラースっ☆ 貞子役の人が特にお気に入りっ☆


 トウカイテイオー評:★☆☆☆☆
 感想:ぜんぜんこわくなかった。でももう二度とみない。
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