栗東寮118号室 ホラー映画研究会   作:月兎耳のべる

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 色々なリクエストありがとうございます。今後リクエスト関連は感想欄ではなく活動報告でお願いしたいと思います。(またリクエスト頂いたものを全て小説にはできませんので悪しからずです。)
 あ、こちらの作品もリクエストになります。

【あらすじ】
 人気ラジオ番組のパーソナリティを務める「GENERATIONS」の一人は、ラジオ局の倉庫で「ミンナのウタ」と書かれた古いカセットテープを発見する。その後、収録中に不気味なノイズと少女の声を聞き、行方不明となってしまう。事態の解決を急ぐマネージャーは、元刑事の探偵・権田に捜査を依頼。メンバーたちに話を聞くと、彼らもリハーサル中に少女の霊を見たという。やがて霊の正体は「さな」という女子中学生であることが判明するが、彼女が奏でる呪いのメロディによって恐怖の連鎖が引き起こされていく……。


第六回『ミンナのウタ』(日 2023)

 

 ダンスの練習は、下手するとレースのよりキツイ。

 そう思うのは私だけだろうか?

 

「たかたった全力走りたいっ、芝と、砂と、キミの追い切りメニュー♬」

 

 そりゃあダンスは巨大タイヤを引いたり寺の長い階段を往復ダッシュすることはない。ないけど、その代わり多種多様な振り付けと歌詞を覚えなければならず、またその1曲だけでもセンター、サイド、そしてバックのパターンでそれぞれ違い、しかもそれを何曲も覚えなければならないのだ。

 

 そして何よりキツいのは。

 

(──折角っ、覚えた振り付けをっ、使わないことがあるってことだよっ!)

 

「はいっ、はいっ、はいっ、そこターン! ほらっ、ネイチャさん手をもっと上げて!」

 

「はいっ!」

 

 華やかなBGMとは打って変わって手厳しい先生の指導。めまぐるしく変わるテンポにあわせて振り付けは変幻自在に変わり、ネイチャは体に染み込ませた動きを必死に修正してゆく。

 

 レースは覚えたことを全て費やせるからまだいい。絶対にその努力が無駄になることはない。しかしダンスはレースの結果によって披露するものが変わる都合上、せっかく頑張って覚えた振り付けも使われることがないのがザラだ。その事実がどうしても徒労感を蓄積させてしまう。

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ……! あーつっかれたぁ……!」

 

 ようやく小休止がもらえると、トレーニングルームの壁にどかっともたれかかったネイチャ。汗でぐっしょりと重くなったジャージ、その襟元をばたばたと仰げば籠もった熱がぶわっと発散された。

 

 今のはセンターのダンスだ。その振り付けは主役だけあって他パートに比べて複雑で、覚えることが多い。しかし「万年3着の自分がこれを使う機会、あるんですかね~」とついついネイチャは自嘲してしまう。もちろん出番があると信じるべきなのはそうであるが。

 

「よーし、じゃあ次はマヤノトップガンさん!」

 

「はーい!」

 

(お……)

 

 スポーツドリンクを飲んでいると、順番待ちしていたマヤノトップガンが元気よく中央に進んでいく。踊るのは専用曲『ときめきスクランブル』である。自然とネイチャの姿勢が整ったものになった。

 

「走ってもっと! キラめいて☆ 憧れにテイクオフ~☆」

 

(うーん……相変わらずウマいなぁ、マヤちゃん)

 

 いつも思うのだが……彼女のダンスには()き付けられる何かがあると思う。歌声は言わずもがなだが、その愛嬌たっぷりの動きには感心させられる。そこには自分のダンスには無い「何か」があるのは間違いなかった。

 

 故にネイチャは、マヤノのダンスを見る時はいつも集中していた。背筋を伸ばし、前のめりになり、足りない何かを探ろうとリズムに相槌を打ちながら注視する。

 

(先生もアタシに言うよね。「足りない」って。でもその足りないのって、何だろう? 歌唱力……? いや、やっぱり技術力なのかなぁ)

 

「──うん。マヤノさんいい感じね。そのまま継続して練習を!」

 

「ありがとうございました~っ!」

 

 出番が終わり、いい汗かいたと陽気に休憩を始めたマヤノに、ネイチャは自然と近寄っていた。

 

「お疲れさまマヤノ。いいダンスだったよ。ほいスポドリ」

 

「あ。ネイチャちゃ……ん……」

 

「……え。何その間……ど、どしたん?」

 

 すると近寄った距離だけマヤノが下がった。

 何だろう、アタシ何かしたっけか?

 

「……ネイチャちゃん。マヤね、ああいう映画見るの良くないと思う……」

 

「え!? あ。あー! あれはね違うの!」

 

 しまった、この子テイオーの巻き添えを食らったんだった! 慌てて弁解をすると、不審者を見るような態度はすぐになりをひそめ、元の可愛らしさを取り戻してくれた。

 

「もー! ネイチャちゃんひどいよ!」

 

「いやホント反省してますハイ……まさかテイオーと一緒に見るとは思ってなくて」

 

「だってテイオーちゃんがDVDプレイヤーの前でず~っとうろうろしてるから何かなーって思って! でもあんなにスゴイ映画だと思ってなかったよ~……マヤすぐにギブアップしちゃったもん! テイオーちゃんは最後まで見てたけど、3回くらいベッドから転げ落ちてたよ?」

 

「ぶふっ」

 

 口に含んだスポドリを思わず吹き出しそうになる。もう想像するだけで面白くて、一緒に見ればよかったと後悔した。

 

「まあとにかくごめんねマヤノ。今度お詫びに何かスイーツ奢るよ」

 

「ホント!?」

 

「勿論ですとも。……で、奢るついでにちょーっとネイチャさんから質問してもいい?」

 

「? うん、いいよー。なになにネイチャちゃん!」

 

 自分より小さな子に相談するのは、正直少し気は引けた。しかし聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥と言うではないか。ネイチャは勇気を振り絞って悩みを打ち明けることにした。アタシのダンスに足りないもの。それって一体なんだろうって。

 

「……ネイチャちゃんのダンス? うーん、マヤはカッコ良かったと思うけどなぁ。……あ。でもひとつあるかも! ねえねえネイチャちゃんって何か悩みがあったりする?」

 

「え?」

 

「何だかダンスが、きゅ~って時々小さくなっちゃうから、そうなのかなーって」

 

「き、きゅ〜って……? あー……まあ確かに悩んでると言えば悩んでるかな……?」

 

 主にレースとか、ダンスとか。あとマーベラスがホラー映画を見せまくってくることとか……。まさかアタシ、そこまで顔や態度に出やすいんですかね? 思わず顔をペタペタと触ってしまうネイチャに、マヤノは続けた。

 

「多分だけど、ネイチャちゃんって考えすぎちゃってるのかも?」

 

「考えすぎ……」

 

「そう! あれをやらなきゃ、これをこうしなきゃ、それをどうするんだろーって考えるのってすごく大事だけど……ダンスはさ、考えることよりもまず楽しくないとってマヤ思うんだっ。ネイチャちゃんはダンスしてて楽しい? マヤはダンスがとっても楽しいよっ☆」

 

「おぉぉぉ……!」

 

 何という純な回答。マヤノが何だかまぶしく見えて、思わずのけ反ってしまう。しかしながら()に落ちたような気がした。ここ最近、自分がダンスに向ける熱意は義務感を伴うものだったからだ。やっても意味がないと思い込んで、自分を矮小化させていた……それこそが原因なのでは。確信はもてないが、多分そうなのだろう。

 

「いやはや……これが若さというものなんでしょうかね。アタシも見習わないといけませんなー」

 

「あはははっ、ネイチャちゃんおばちゃんみたいっ☆」

 

「ぴちぴちの中学3年生ですー。……でもありがとマヤノ。すごい参考になった」

 

「どういたしましてっ☆ ……あ。それとネイチャちゃんって実はスライド*1系苦手? 結構左右で動き違って見えるから、もしそれやるんだったらこの動画とか参考になるかもっ。あとね、裏拍のビートの時ズレがち? って思ったから、それだったら──」

 

「アッハイ」

 

 ……まあ技術が足りていないのは間違いなさそうだが。今度からマヤノのことは師匠と呼ぼう、そう心に決めたネイチャは、マヤのレクチャーに真剣に耳を傾けていくのだった。

 

 

 

 ──そして、その夜のことである。

 

 

 

「ネイチャ〜、これどうしたのっ?」

 

「あー……これね。マヤノちゃんが貸してくれたんだよ。ダンスの参考になるって」

 

 ネイチャのベッドを大きな段ボールが占領していた。そこにはDVD、CD、ポスター、ペンライトと言ったファングッズの数々が詰められていた。どうやらそれら全ては「GENERATIONS」というアイドルグループのもののようだった。ネイチャは全然知らなかったが、彼らはかの有名なEXILEの派生グループのひとつで、とても人気らしい。

 

「……マヤノちゃんってアイドル物好きだったんだねぇ」

 

「アタシも全然知らなかったっ☆ でもみんなすごいカッコいいねーっ☆」

 

「確かに」

 

 男性7人組メンバーのユニットで全員が美男子、それも色んなジャンル揃い踏みだ。可愛い系、格好いい系、クール系とより取り見取りで、ネイチャも思わずほほーと声を挙げてしまうほど。これは女性が追っかけてしまうのも無理はないかも。

 

「えーっと、それでどれを見ればいいのかな?」

 

 折角渡されたのだから見なければと、ぱんぱんになっている段ボールを探っていくネイチャ。CDは除外するとして、ライブDVDがやっぱり一番いいのだろうか。隣で興味津々に見守っていたマーベラスも、一緒になって中を探っていく。

 

 うーん、どれもこれも(きら)びやかだなぁ。美男子達がそろい踏みするパッケージを眺めて、あれかな? これかな? と選別していると……不意に「マーーーーベラーーースっ☆」と高らかな叫び声が部屋に響き渡った。

 

 すわ、何事かとネイチャは振り返ると、そこには宝物を見つけたと、嬉しそうに両手でDVDを掲げるマーベラスがおり。

 

 その手にはアイドルにまるで相応しくない、おどろおどろしいパッケージがあった。

 

 

 

 

 

ー 第六回『ミンナのウタ』(日 2023) ー

監督: 清水崇

 

 

 

 

 

 何でこうもホラーに縁があるんだアタシは! 留まることを知らないホラー旋風に、ネイチャは頭を抱えたくなっていた。

 

「……マ~ベラス~~~? どこからそんなホラー映画を持ってきたの! ぺっしなさいぺっ!」

 

「えー? この段ボールの箱に入ってたよ?」

 

「は!? そんな訳ないでしょ! マヤノがそんな薄気味悪いDVDを持ってる訳が……んん?!」

 

 ちらりと目に入ったパッケージ、そこにネイチャは違和感を覚えた。マーベラスから恐る恐るそれを受け取って観察してみる。黒く陰になった少女がカセットテープを突き出している様をアップに撮った表紙。その下に何だか見たことがある人物が描かれている。これって……もしかしなくても……GENERETIONSのメンバー?

 

「……メンバー全員でホラー映画に出てんのぉ?」

 

 ……なるほど。推しが出る映画となればファンなら集めて必然か。ネイチャはげんなりしてしまった。それにしても、カセットテープ題材のホラー? リングの時も思ったが、DVDやBD、ウマホ全盛期の時代にカセットテープは、少し時代錯誤なのではないだろうか。

 

 しかし『リング』と違ってこちらは制作年は2023年とかなり最新の映画である。一体どういう映画なのだろうか? ネイチャは興味を惹かれつつあった。なにより一番興味を持っているのは……。

 

(ホラー映画だから絶対人死に出るよね? 推しが死ぬ作品って……いいの?)

 

 裏面のあらすじを見る限り、架空のアイドルユニットではなく実際の「GENERETIONS」メンバーとして出演するらしい。映画とは言えアイドルが死ぬのはまずいんじゃ……と他人事ながら心配になってしまう。

 

(……って、ホラー映画はいいんだって! アタシが見たいのはダンス! ダンス動画が見たいの! もうホラーは散々見たんだからさ!)

 

 このままだと毎日ホラー映画を見る女としてのイメージが固定されてしまうぞ! そう危惧したネイチャは首を左右に振り、すぐさまDVDをしまおうとして……その手に何も持っていないことに気付く。

 

「うおぉい! マーベラスー!?」

 

 モノは当然のようにマーベラスが再生しようとしていたので、慌ててその手を掴んだ。

 

「アタシ、ダンスのDVD見たいんだけど!?」

 

「えーせっかくマヤちゃんが貸してくれたんだよ? 見なくちゃっ☆」

 

「い、いやホラそれはさ! また今度見るってことでどう? 別に今見る必要はないでしょ?」

 

「でもネイチャ……この映画のこと気になってたよね?」

 

「ぇう゛。い、いや……そんな事は……」

 

「アイドルがホラー映画に出たらどうなるんだろって。どうオチつけるんだろーって。アタシも気になるんだよねっ☆ だから……一緒に見よ?」

 

「…………う」

 

 悩みに悩んだネイチャだが、答えは出ていたようなものだった。ホラー映画は好きではないが、知的好奇心には抗えないのである。明日こそ……明日こそはホラー映画を見ないぞと心に決めたネイチャは、観念したようにマーベラスの隣に座るのだった。

 

 

 

 

 ──ぶち、とマーベラスサンデーが再生ボタンを押し。映画が始まった。

 

 

 

 

 映画について回るもの、それは「大人の都合」である。

 

 それは予算だったり、お偉いさんの意向だったり、世相だったり、事務所同士のしがらみだったりと多岐に及ぶ。映画はそうした様々な事情、思想、納期に振り回されて出来上がる。そういった「都合」は舵取りが非常に難しく、そのどこかが崩れると途端に方向性が変わり、時に名作が駄作になってしまうこともある。

 

 ナイスネイチャも、そういった「大人の都合」があることはある程度理解していた。理解して視聴に挑んでいるからこそ今作に関しては少し、いや、かなり嫌な予感がしていた。

 

(アイドルの起用……ってことは、()()()()()()だよねー……)

 

 事務所の意向なのかは知らないが、コレ系の映画は下手すれば誰それのPVとなりがちで、()()()()がかなり入るとネイチャは見ていた。そういった映画は駄作の烙印を押されるのが常である。

 

 もちろん頑張って演技をするアイドル達に罪はないが、正直なところネイチャはこういった映画に期待を寄せられなかった。唯一期待してることがあるとすれば……後ろ向きであるが、どんな結末を迎えるか。それに尽きた。

 

「あ。カセットだっ☆」

 

 今作は、ラジオスタジオの倉庫で埃をかぶっていた古いカセットテープにまつわる物語である。テープに収められていた呪いの歌はGENERETIONSメンバーに次々に襲い掛かるそうで、ライブを控えた彼らを助けるために、探偵(+メンバー)が頑張って呪いの謎を探る内容となっている。

 

「……マーベラスってカセットテープって知ってる?」

 

「もー、それぐらい知ってるよ!」

 

「そっかぁ……」

 

 ……ちなみにビデオテープと違い、カセットテープはまだまだ知名度含めて現役のようだ。この差はなんなのだろうか?

 

 それはさておいて冒頭。公開収録中のラジオで、リスナーから謎のメッセージが届いたことを切っ掛けに物語は始まってゆく。その中心になるのは、やはりそのカセットテープだ。

 

「30年前のラジオリスナーからのカセット……」

 

「『ミンナのウタ』って書いてあるね……☆」

 

 まずGENERETIONSの一人が異変に巻き込まれた。彼はラジオ収録後の翌日、別のメンバーに電話を残して失踪したそうだ。

 

 事務所としてはライブも三日後に控えてる、何とかして見つけたいと探偵に依頼をしたようだ。その探偵はいかにもしょぼくれていて、ケチで、だらしがなく、ろくにアイドルの名前と顔も一致させようとしない、いかにもやる気がなさそうな人物だった。

 

「でもこういう人に限ってやる時はやるのが定番だよねっ☆」

 

「ホントそれ」

 

 探偵はホテルに泊まっていたメンバーを順に呼び出し、事情聴取をしていく。すると次々と不思議な証言が出てくる。

 

 レッスン中に失踪した子が「その歌じゃない!」と叫んだとか。

 レッスン中に居るはずのない女の子の足が見えたとか。

 収録中に聞こえた鼻歌が頭から離れなくなったとか。

 失踪直前、通話越しに女の子の声が聞こえたとか。

 

 そして証言中にも関わらず、他メンバーにも次々と異変が起きる。

 

 しゃっくりが止まらなくなる者。

 謎の鼻歌を無意識に口ずさんでしまう者。

 誰か他の子の気配がすると急に席を立つ者。

 探偵ですら、家族との通話中に「お父さんの背後で謎の鼻歌が聞こえてくる」と言われる始末!

 

「うへぇ……丁寧にお膳立てされちゃってるぅ……」

 

「マーベラス……☆」

 

 不穏な演出は、随所随所に分かりやすく散りばめられており、ネイチャは思わず顔をひきつらせた。こういう細かく刻んでくるタイプはかなり怖い、それは身をもって知っていた。まだまだジャブ程度の内容ではあるが、この先どんな感じになっていくことやら……とにかく不安でしかなかった。

 

 ──探偵は例のカセットを調査し始める。

 

 最初にソレを見つけたADも数日前から失踪したという、曰くつきのテープ。幸いにもそのテープを手に入れた一行は、関係者の前で再生する。すると、やはり例の鼻歌が入っていたではないか。

 

「ひゃえっ!?」

 

 ……もちろん、再生すると当然のように異常現象が起きる。部屋が異様な雰囲気で満たされたと思えば、謎の女性の姿を全員が目撃したのだ! 勿論ネイチャも目撃して寿命が縮んだ。ジャンプスケア*2はホントにやめろと言いたかった。

 

「『さな』……お前が犯人かー!」

 

「あははは、お前かーっ☆」

 

 そこから彼らの調査はトントン拍子で進んでいく。

 

 テープの送り主は『高谷さな』という名前だとか。

 『さな』は探偵の元同級生だったとか。

 テープが入った封筒、その住所には廃墟があったとか。

 当時の先生によると『さな』は変わった子だったとか。

 『さな』がいた当時、学校で飛び降り事件が起きていたとか。

 その自殺は『さな』の歌が関係しているとか。

 

 『さな』は歌に並々ならぬ思いがあったらしい。『私の夢は、自分の歌を皆に届けて、みんなを私の世界に引き込むことです。魂のこもった自分の歌を作るためには、みんなの魂の声を聴き、集めたいと思っています』と卒業文集に書いてあった。

 

「……虐められてたとかかなぁ」

 

 それで人生が嫌になって飛び降りたんだろうか? とネイチャは推理した。OPクレジットにも一瞬、一面を文字で埋め尽くされたノートが出てきたし、ノートを隠されているシーンもあったし、多分間違いないのではないか。

 

 まあ定番っちゃ定番よね。自殺者の恨みが現世によみがえった系のアレ。ネイチャさんもそれくらい知ってますよ~と少し得意げになった。

 

「あれ? 飛び降りたのは『さな』じゃないみたいだね」

 

「……」

 

 しかし、その学校で飛び降りたのは、『さな』ではなくその子の同級生だとすぐに明かされ、ネイチャは出鼻をくじかれた。『さな』自身は自宅で死んでいたらしい。いじめが原因じゃないんかい。

 

 

 ──真相が明らかになるにつれ、異変は加速度的に進行していく。

 

 

「うわ……うわわわわわ!? ここ、このお母さんヤバい!? 怖すぎだよこの人!!!」

 

「しゃ、しゃっくりの演出嫌すぎない!?」

 

「その子供はあかんって……逃げなって……ほらああああぁぁぁーー!」

 

「マーベラースっ☆☆」

 

 『さな』の魔の手は、アイドル達を物理的に襲い始めたのだ。

 

 例の鼻歌でノイローゼになっていた彼らは、一人、また一人と連鎖的に失踪していく。その演出の数々は「ただのアイドル映画だろう」と色眼鏡をかけていたネイチャを、少なからず驚かせるものだった。

 

 緩急の付け方がとにかく抜群にうまく、特に『さな』の母親役による演技、演出は夢に見そうなくらい恐ろしい! 聞けばこの監督、かの有名ホラー映画『呪怨』を手掛けていたとか。そりゃ怖いわけだよ! とネイチャは叫びたくなった。

 

 更に、終盤では驚愕の事実が判明する。

 

「……え。この子、最初からヤバい子だったって事?」

 

「マー……☆」

 

 後ほど、『さな』の担任が探偵に伝えたのは、『さな』のことを皆が怖がっていたということ。彼女は怪我をしても平然としていたり、他の生徒ををじっと監視していたりと、率先的に周りから孤立している節があった。そしてそれらの振る舞いは、全ては自分の夢のためのようだった。

 

『さな』の夢。

 

 それは『魂のこもった自分の歌を作ること』であり。

 そのためには『みんなの魂の声を聴いて集める』必要があった。

 

『さな』はここでいう『みんなの魂の声」を。

()()()()()だと解釈していたのだ。

 

 探偵がテープをB面にして流すと、次のボイスが流れた。

 

『1991年1月30日 猫』

『1992年6月23日 糸井茂美』

『1992年9月2日 弟。敏夫』

 

 読み上げの後に流される悲鳴、断末魔──それらが『さな』が求めた魂の声として録音されていたのは想像に(かた)くない。猫は言わずもがな。糸井茂美は、屋上から飛び降りた女子生徒。弟は、母親のお腹にいた赤ん坊である。

 

「……邪悪すぎでしょ」

 

 ネイチャはそのあまりの所業にドン引きした。生き残っていたマネージャーが、誰かがこの子に寄り添ってあげられないのかしらと言ってたが、絶対に無理だと思った。()()()が違い過ぎて、もう更生とかそういうレベルじゃない。寺生まれのTさんか、いっそシュワちゃんでも呼んだ方がよさそうだ。

 

「この子、考え方がすごいロックだよね!」

 

「歌ってる曲はバラードっぽいのにね……」

 

 そして、依頼期限である3日目。

 生き残ったメンバーである、リーダーとマネージャー、そして探偵の3人は『さな』のいた廃墟に突入し、呪いの解除を試みるのだが……!

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

「……えええぇぇぇ~~~……! なんで!? どうして!?」

 

「あははははっ、マーベラーっ☆」

 

 広く豪華なライブ会場。そこで歌い踊るGENERATIONSメンバーを映したエピローグ画面で、ネイチャは強い不満の声をあげていた。結局ライブメンバーに一切の欠員はなく、『さな』による呪いの歌騒動は無事に幕を下ろしてしまったのだ。

 

『さな』の最後の謎。自宅での不審死については「なんだってそんな事思いつけるのさぁ!?」と頭を抱えるくらいにおぞましく、また襲い掛かってくる『さな』自身も恐ろしさ満点であった。だからこそネイチャは納得がいかなかった。さな、お前の「歌」への執着はその程度だったのかと逆に叱り飛ばしたくなったくらいだ。

 

「んぐおおぉぉぉ……やっぱりアタシの思った通りだったじゃんー! あーもうもやもやするー!!」

 

「まあまあ~、実名を出して参加してるんだから、そりゃぁねっ☆」

 

「マーベラスは納得できるの?!?!」

 

「理解はできるかなっ☆」

 

 ハッピーエンドは大好きだ。ハッピーエンドのためにはある程度のご都合主義は許すべきである。ナイスネイチャは常々そう考えていた。しかし、ことホラー映画に関していえば、そうではないのかもしれない。

 

 エンドクレジットで流れ出したアイドルの書下ろし新曲を聞きながら、ネイチャは強く強く思うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「……ライブ中なのに例の鼻歌が……?」

 

「サービス満点……☆」

 

*1
スライドステップのこと。床を這うように足を動かすダンス。

*2
観客を驚かせ恐がらせることを意図して主に大きな恐ろしい音と共に画像や出来事を突然変化させるテクニック。




「……そういえばメンバー7人だけど6人しか出てこなかったよね?」
「出てこなかった一人は主題歌の提供だけだったみたいだよっ☆」
「へぇー…」
「あとこの作品、続編も出てるよっ☆」
「へぇー!?」


『ミンナのウタ』:
 制作年:2023年(日本)
 監督:清水崇
 上映時間:102分
 配給:松竹
 

 ナイスネイチャ評:★★☆☆☆
 感想:途中までまっとうに怖かったからこそ……ちょっとだけ残念で仕方がない。いやいやいや、なんで!?って感じ。ホラー演出に関してはめちゃくちゃ怖いと思う。お母さん最恐。演技はそこまで違和感なかったかも。

 マーベラスサンデー評:★★★☆☆
 感想:アイドルがメインだから、こうなるのは仕方のない所があるよね~☆ でもでも演出については流石の一言! 基本を押さえてグイグイとくる演出にはマーベラスポイント100点! ラストシーンも最高だけど、やっぱりお母さんの演出だけがママママママーベラースっ☆☆してるので、お母さんにだけは★5つあげちゃいたいっ☆
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