栗東寮118号室 ホラー映画研究会   作:月兎耳のべる

7 / 12
 映画リクエストから。天竜改さんありがとうございました。

【あらすじ】
 新しいクラスになじむことができず、毎日を憂鬱に過ごしていた転校生のシュン。そんなシュンを杏奈は気にかけていた。2人は化け物が現われると噂される<ジェイルハウス>の前で同級生らと出会い、運命に引きずられるがまま不気味な洋館へと足を踏み入れてしまう。無人であるはずの屋敷内に響き渡る怪しげな物音。窓の向こう側からこちらを覗き込む血走った目玉。恐怖に駆られた高校生6人は、建物から逃げ出そうと玄関に向かうが、なぜか扉はびくとも動かない。脱出ルートを見つけようと躍起になる彼らに、この世のものとは思えぬ巨大な青い影が忍び寄る……。


第七回『青鬼』(日 2014)

「……あれ? アタシ……何でこんなところに?」

 

 気付けば、ナイスネイチャはグラウンドにいた。

 

 夕焼け空が照らし、不気味なくらい真っ赤になったその場所に、ネイチャは一人(たたず)んでいた。周りには誰もいない。トレセン学園なら年中無休でウマ達がいるはずなのに、一体どうして? それに、なぜ勝負服を着てるんだろう?

 

「いやいや~大変なことになりましたね~」

 

「っ!? ってタンホイザ。アンタいつのまに……」

 

「ネイチャさん大丈夫ですか? そろそろ始まりますよ?」

 

「ターボもいるぞ! ターボもいるぞ~!」

 

「イクノ! ターボまで!」

 

 さっきまで誰もいなかったはずなのに、気付けばカノープスの面々が揃っている。彼女らもまた勝負服をまとっており、さらにやる気満々と言った感じで準備運動をしている。

 

 それだけじゃない。

 

 トウカイテイオー、マヤノトップガン、メイショウドトウ、ソレにテイエムオペラオーまでもが知らぬ間に(つど)っていたのだ! しかも全員が全員真剣な表情とくれば……これから何が起こるのかなんて、察せない訳がない。

 

「は~……仕方ない。いっちょ見せてやりますか」

 

 理由は分からない。

 分からないがレースとなれば話は別だ。

 

 当初の疑問はどこ吹く風。並みいる強豪たちの中で、集中し始めたネイチャ。スタートラインに並ぶと審判役なのだろう、遠くで旗を持ったマーベラスサンデーが声をあげた。

 

「それじゃいちについて~、よ~~~~~いっ───………マーベラースっ☆☆☆」

 

 気の抜ける声とともに、大地が揺れた。

 

 G1ウマ娘が揃い踏み。しかも勝負服をまとっていたら、それはもう()()である。ビリビリとくる気迫を肌で感じ取りながら、ネイチャは全力でコースをひた走る。

 

 ツインターボは当然のように大逃げ。

 テイオー、マヤノ、オペラオーは先行をキープし。

 イクノ、タンホイザ、ドトウが差し位置で先頭集団を見守っている。

 

 縦一列に並んだバ群の中で、ちょうど中間を走っていたネイチャはちらりとコースを見て作戦を立てる。距離は2200。体力は余裕あり。足の調子は絶好調。今日はイケそうな感じだ。そう判断するや否や、前に前にと仕掛けていく。しかし気付いたテイオーがすぐにブロック。こんにゃろと舌を巻いてしまう。

 

「テイオー、ちょっとどいてくんないかなっ!」

 

「いいよー抜けるもんならね? にししし!」

 

「上等ッ。後でほえ面かかかないでよねっ!」

 

 目と。口と。足。その全てで競い合うネイチャとテイオー。すでにゴールまでは半分を切っている。ラストスパートにさしかかるべきだろう。コースにいる全員がそれを理解しており、周りから発せられるプレッシャーは当初の比ではなくなっていた。

 

 いよいよだ。気を引き締めようとしたネイチャ。

 

 

 その時、唐突にソレは起こった。

 

 

(ッ!? ──おっも!? な、にこれ!?)

 

 がくんッ。唐突に足が重くなり、スピードが急激に落ち込んだ。何の前触れもない異変にネイチャが周りを見渡すと、それは他のメンツにも起こっているのが理解できた。

 

 一体何があった? 

 

 その理由は時を経たずして判明する。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なんでダートに……!?」

 

 混乱を隠しきれないネイチャ。

 そんな彼女に更なる異変が迫っていた。

 

 不意に背後から浴びせられる、感じたことのないプレッシャー! タンホイザ? イクノ? そんな訳がない。ドトウだってこんな圧力が出せないだろう! 一体誰が来てる? 何が迫っているんだ? 気になったネイチャがおそるおそる背後を(うかが)えば──……それはいた。

 

 

──しゃいっ☆ しゃいっ☆

 

 

 バ群からはるか離れた先。

 土煙を挙げて猛追する何か。

 

 

──しゃいっ☆ しゃいっ☆ しゃいっ☆

 

 

 それは今までのリード差を屁でもないと距離を縮め、

 それでいて余裕を崩さない。 

 

 

「──しゃいっ☆ しゃいっ☆ しゃいっ☆ しゃいっ☆」

 

 

 アイドルのようなフリフリの勝負服。

 それが暴走機関車のような迫力で迫ってくる。

 

 

──しゃいっ☆

 

 

 砂の隼。スマートファルコン。

 あのダートの覇者が、ネイチャ達を狙っていた。

 

「ひぃぃぃっ!?」

 

「なななな、なんで? なんでぇぇぇ!?!?!?」

 

 訳の分からぬ展開にネイチャもテイオーも、そしてこの場の全員が凍りついた。

 

 すでに最後尾に10バ身と詰めつつあった距離も、9、8、7バ身とものすごい勢いで縮んでいく。そのあまりの猛追に、全員が死に物狂いで逃げた。逃げまくった。しかし間隔は伸びるどころか縮むばかり……! ゴールはまだまだ遠く、意図せぬスパートに全員の体力が急速になくなっていく。

 

 そしてとうとう──、

 

「はへっ、はひっ、はひぃっ、ね、ネイチャぁ……! ネイちゃああぁぁああああぁぁ~~~っ!!!!」

 

「ターボぉ!!!」

 

 真っ先に体力切れを起こしたターボが逆噴射。

 それは瞬く間にファルコンに()()()()

 

「はッ、はッ、こ、こ、こんなことは計算にッ……ありませんでし、……あっ?!」

 

「ご、ごめんねネイチャ~、もう限界~……!!!」

 

「イクノ!? タンホイザぁー!?」

 

 次々と喰われていくチームメイト達。その毒牙は彼女達だけに収まらず、他の娘も次々と犠牲になっていく。

 

「マヤこんなのわかんないよぉ──っ!!!!!」

 

「救いは……ないのですか~~~ッ!?」

 

「ハーッハッハッハッハーッ! ダートは聞いてなかったッ!!!!」

 

 終わらぬレース。消えていく戦友たち。

 生き残りは最早ネイチャとテイオーのみ。

 あまりに理不尽なバトルに思わず、ネイチャは叫んでいた。

 

「どうして……どうして!! ファルコン先輩なんで!?」

 

しゃいっ☆

 

「ひぃぃっ!?」

 

 気付けばほんのすぐ後ろで並走していた(ファルコン)に悲鳴をあげてしまう。強い。強すぎる! もうゴールは近いと言うのに、勝てる気がしない……! 一歩一歩を踏み締めるその衝撃が、その力強さが、その圧力が、自分らなど容易く狩れる獲物でしかないと伝えてくる。もう体力は限界。肺が痛みを必死に訴え、足はボロボロだ……!

 

「テイオー、先に……っ! 先に行って……!」

 

「ネイチャ!? なに言ってるのさっ! 逃げ切るよっ!」

 

「アタシじゃ、アタシじゃだめッ……! もう、持たない! こらえ切れない……ッ、でもテイオーだけなら……テイオーは先に行ってよ! アンタならアタシは納得できる! だから……!」

 

 せめてテイオーだけでも助けたい……! そう考えて共倒れ覚悟のブロックを決行しようとするネイチャ。しかし最後の力を振り絞ろうとしたその時、並走していたテイオーが、同じくスマートファルコンの進行方向を封じた。

 

「ネイチャ、キミだけにカッコいい真似なんてさせてやらないよ……っ!」

 

「テイオー!」

 

「二人で、二人で勝つんだ! ボク達でファルコン先輩を倒すんだよッ!」

 

 テイオーの声に頷くと、決死の反撃にうつるネイチャ! 早く悪夢よ終わってくれと全身のエネルギーを足に送り込み、踏ん張る。体力はとっくに限界を超えている。足なんてバラバラになりそうだ! それでも。それでも隣にテイオーがいるなら……! 

 

「いける、いけるよテイオー! もうゴールはあと少し……がんば……れ?」

 

 ──しかし、現実は非情だった。

 

 声をかけたネイチャが隣に見たのはテイオーではなく。

 満面の笑みで見つめてくるスマートファルコンだった。

 

 

応援っ☆ ありがとーっ☆

 

 

 隼は颯爽(さっそう)と自分を追い抜いてゆき。

 ネイチャは、ゴールラインを越えてゆくその背を、ただ唖然(あぜん)と見守るしかなかった………。

 

 

 

 

「……っていう夢を見た。怖かった」

 

「あははははっ☆ 何それー?」

 

 

 

 

 

ー 第七回『青鬼』(日 2014) ー

監督: 小林大介

 

 

 

 

 

 いつもと変わらぬ夜のことだった。

 寮のベッドの上でくつろいでいたナイスネイチャとマーベラスサンデー。さぁ後はもう寝るだけというところで、二人は何気ない会話を楽しんでいた。

 

「いやぁ夢の中とは言えあんなに絶望したのは久々だったよ……ファルコン先輩には失礼すぎるけどさ」

 

「でも面白いね~何かホラー映画みたいな展開っ☆」

 

「ホントそれ! 多分、というか間違いなくホラー映画ばっかり見てたせいだと思うんだけどな~……」

 

「マーベラスっ☆」

 

「いや、マーベラスじゃないけどっ」

 

 この子ときたら事あるごとにホラー映画を勧めてきて! 今日こそはとっちめてやろうかしら? そう思ったが、何だか流れでホラー映画を見させられそうな気がしてならず、留まった。別の話をするのが賢明だろう。

 

「まぁ……あれよね、鬼ごっこを思い出したわ」

 

「鬼ごっこ!」

 

「そ。鬼ごっこ。マーベラスは最近やったことある?」

 

「したよ~☆ 昨日マヤノとリッキーとで一緒に! 楽しかったなぁ☆ グラウンドでずーっと追いかけっこ! リッキーが鬼ばっかりやってたよ~☆」

 

「ほうほう。って3人? 割と少なめだね……あ。もしかしてトレーニングの一環で?」

 

「マーベラースっ☆ ネイチャ冴えてるっ! 瞬発力とスタミナ?にいいんだって! 2時間くらいずーっとやってたよ~☆」

 

「に、2時間……!? すご……」

 

 笑顔のマーベラス達が無邪気に駆け回る姿が容易に思い浮かぶ。しかし全力の、それもウマ娘の鬼ごっことなれば、それは見た目以上に激しい運動だろう。

 

 以前、カノープスの面々でも鬼ごっこトレーニングをやったことがあったが、全力で逃げ、全力で追う縦横無尽の鬼ごっこは、これでもかと体力を消耗する。結局1時間で自分もギブアップしていたっけか(なおターボは20分でギブアップした)。

 

「一人で走るよりやっぱり誰かに追われてるって思うと集中力出るよね!」

 

「あ~それはそうかも…………うーん」

 

 涼しい顔で2時間近く鬼ごっこを楽しんだというマーベラスに、ネイチャは焦りを覚えて仕方がない。スタミナは課題でもあり、特に伸び悩んでいる部分である。これ以上の成績を望むなら、せめて年下のマーベラスと同じかそれ以上のスタミナは必須だろう。

 

 鬼ごっこトレーニング。

 明日にでも提案してみようかしら? 

 

「その時はファルコンに鬼役をお願いしてみるー?」

 

「あぁ赤鬼だものね~……ってやめい! あと人の心勝手に読むな!」

 

 適任かもしれないけどさ! と無邪気な顔でのぞき込んできたマーベラスに突っ込むと、急にその目を輝かせだした。……え、そんなにうまいこと言った覚えないんだけど? どしたどした? と動向を見守っていると、急ぎ自分の机から何かを取り出し始めたではないか。

 

 それはDVDだった。

 嫌な予感がした。

 

「ネイチャネイチャ! 赤鬼はないけど青鬼! 青鬼!」

 

「も~~~~~やだよ~~~~~~~!!!!!」

 

 ネイチャは布団に突っ伏した。

 とてもではないが見たくなかった。

 やたらとリアルで、気持ち悪い鬼がドアップで映っているものは特にお断りだった。

 

「もしかしてアタシがこのDVD借りて来たの知ってたの? 偶然? それとも……運命!? マーベラスマーベラスマーベラーーーースッ☆☆☆ それじゃあ見よ()()よ~!」

 

「いや全然意図してなかったけどね!? コラ! ナチュラルにDVDセットするな!」

 

 話題を変えても結局いつもの流れになってしまうあたり、やっぱり自分は呪われているのではないだろうか! あぁシラオキ様、三女神様、アタシはどうすればいいのでしょう? どうかお導きください──とマーベラスとモニタの前で格闘を繰り広げたが、最終的にマーベラス論法を前にしてネイチャは敗れた。自分は無力だった。

 

「──うぅ。結局見ることになっちゃった……」

 

「ネイチャーほら隣座って座って!」

 

「はい……」

 

 

 

 

 ──ぶち、とマーベラスサンデーが再生ボタンを押し。映画が始まった。

 

 

 

 

 映画のパッケージ。

 それは映画の「顔」といっていい。

 

 いかに良い映画であろうと見て貰わなければ意味がなく。視聴者は、何千何万もの映画の良し悪しをパッケージからある程度判断する。「あ。この映画ワクワクしそう」「お。この映画そこそこよさそうじゃない?」「うーん、この映画はつまらなそう」……といった感じで。

 

 配給会社も、少しでも多くの人に見てもらえるようにあの手この手でパッケージに工夫を凝らす。時にその内容が下品でも、グロテスクでも、極論嘘にまみれていたとしても、最終的に手に取って貰えれば、何でもいいのだ。

 

 そこで本作である。

 

 右下に小さな洋館。そしてヒロインとなる少女と、少年。そしてそんな彼らを邪魔だと言わんばかりに画面の7割くらいを占領する、ブルーベリー色の肌をした気色の悪い生物。青鬼! 『逃げろ。逃げまくれ』という煽り文句から、洋館に閉じ込められた少女達が、この『青鬼』たるものから逃げ回る作品というのが一目でよくわかる。

 

(うん。内容は良くわかる。よく分かるけどー……まあ、文句なしのB級映画だわねぇ……)

 

 もう雰囲気がB級のそれなのだ。何だったらC級映画なのかもしれないとため息をついた。お世辞にも手に取りたくなるような作品ではなかった。ネイチャは映画には疎い素人だが、それでも感じ取れるものがある。そしてこういった映画で面白かった例はなかった。

 

 今作も例に及ばず酷い映画だろう。

 ネイチャは早々に高をくくってしまった。

 

 なにせ掴みとなる冒頭のシーンですら「低予算です!」と伝えてくるのだから。廃洋館と思しき場所を少女が駆け回るそのシーンは、酷い手ブレ、わざとらしい演技、そして安っぽい演出の三段苦。ネイチャの肩がみるみるうちに落ちていくのも、仕方がないというものだろう。

 

「ワクワク……☆ ドキドキ……☆」

 

(この子にとっては手に取りたくなる作品なのかねぇ……)

 

 膝上でただただ楽しそうなマーベラスが、この時ばかりは(うらや)ましく思えて仕方がなかった。

 

 

 さて。今作の映画は前述したとおり、『いかにも怪しげな廃洋館に訪れた少年少女達が閉じ込められ、謎の生物『青鬼』に追いかけられながら脱出する』という物語になっている。話だけ聞けばありふれたストーリーだが、特色があるとすればこの作品、原作が実在のPCゲーム『青鬼』を元にしていることが挙げられる。

 

 元ネタの『青鬼』ももちろん同じストーリーとなっており、どんな形で映画に落とし込んだのか。それが気になる! とマーベラスは熱く語ってくれた。

 

「特に同じ登場人物が出てくるかは気になるよねっ!」

 

「原作再現してくれたらファンは嬉しいしねぇ。ところで、この路上演奏聞いてたら唐突に道路に飛び出して死んじゃった『直樹』って子……原作に出てくるの?」

 

「……」

 

「えぇ……*1

 

 先行きが不安になってきたところで、ネイチャ達は視聴を続けていく。

 

 まずアンナ*2というヒロインが、シュンという如何にもなよなよしい少年*3と、ノートパソコンでゲームをして遊んでいた。何故か川辺で。

 

 しかも遊んでいるのはシュンが作った自作ゲーム。シュンはアンナに感想を求めたり、褒められて浮かれたり、求めてもないのにゲームのアドバイスをしたりと終始挙動不審だった。ここだけは妙にリアルだな……とネイチャは思ってしまった。

 

 しかしながらアンナは好意を向けてるからシュンに付き合ってるのではなく、その感じが弟に似ているから見守ってあげてるようだった。弟というのは冒頭で自殺してしまった子である。どうやら弟もシュンも、どちらも虐めの対象のようだ。

 

「そして早速イジメっ子登場ー☆」

 

「キミほんと高校生?」

 

 アンナと別れるとシュンの下に現れるイジメっ子、拓郎。彼は服装、態度、顔つき。どれをとっても大人びており、しかもやたらとシュンとの距離感が近い。ねっとりとしたボイスは蠱惑的で、何だかこの先、ホントにホラー展開してくれるのかが少しだけ不安になるキャラだった。

 

 勿論いじめっ子だからノートパソコンを没収して、作ってるゲームの中身を見ようとするが、シュン必死の抵抗。しかしその態度にカチンと来た拓郎。彼の胸倉を掴むと──、

 

 

「……え? ここでタイトルコールになるんだ?」

 

 

 ──唐突にタイトルが挟まれてしまう。そしてそのおどろおどろしいコールが終われば、次の場面では拓郎とシュンは二人で山道を歩いていたではないか。

 

 拓郎は謎の大きな荷物を運んでおり、シュンはその後ろをぴったりとついていってる。二人の間に()()()()()

 

 ネイチャは首を二度(かし)げた。

 その不思議なカットの仕方もそうだが、二人の関係性がよく分からなくなったからだ。

 

「普通いじめっ子なら、荷物運びとかやらせるもんじゃなくて……?」

 

「シュンは力なさそうだし、代わりに自分がやるかーって思ったんじゃない? 優しいイジメっ子なのかも!」

 

「優しいイジメっ子って何さ……」

 

 人気のない山沿いの住宅街。そこで拓郎が合流したのは同級生たちだ。どうやら彼らは目的も知らされずに拓郎に連れてこられたらしい。彼の目的は運んできた大きな箱を、この『ジェイルハウス』と呼ばれる廃洋館に保管するつもりのようだ。

 

 

 ここで館に突入する登場人物を紹介していこう。

 

 

【アンナ】:謎めいた女子高生。昔直樹という弟がいたが、彼はいじめを苦にして自殺。弟と似ていることからシュンを気にかける。

 

【シュン】:オタクな男子高校生。気弱で拓郎達に目をつけられ虐められてる。ノートパソコンで自作ゲームを作っているとか。アンナに好意を向けている。

 

【拓郎】:いじめっ子。雰囲気がやたらと大人びたチャラ男。たけし達とつるんでシュンをいじめている。ドラッグをヤっていたりとちょっと危ない雰囲気。

 

【たけし】:拓郎のツレでかなりビビリ。ただし悪友というよりかは拓郎が怖くて従ってるような感じ。少しマザコン気味。

 

【ミカ】:拓郎の恋人。強気な性格で、態度がキツメなイマドキの少女。直樹の自殺について何かを知っている様子。

 

【ヒロシ】:ジェイルハウス周辺で偶然昆虫採集をしていたマスクとニット帽姿の少年。虫の生態を初対面の人に興奮気味に語るぐらい虫が好き。「完全変態って知ってます?」というセリフがあまりにも耳に残る。一方で人間の生態には全く興味がない。冷静沈着。

 

「何か一人だけ毛色が違くない!?」

 

「ちなみに原作だとヒロシが主人公だよ☆」

 

「なんで!?」

 

 そんな個性的なメンバー6人は、よせばいいのに館に立ち入ってしまう。そうして彼らが思い思いに内部で行動を開始すれば、待ってましたといたるところで不思議な現象が起こりだす!

 

 館の中はおあつらえ向きに圏外。

 なのに登場人物達に一斉にかかる謎の非通知電話。

 さっきまで開いていた扉は当然のように鍵がかかり。

 謎の触手のようなものが部屋を横切る。

 

 ……とうとう始まっちまったかー。と体を固くするネイチャ。しかしすぐに緊張を解いた。だってこのパッケージだぜ? しかも低予算ならそこまで覚悟を決めなくてもよいのでは? そういう思いをどうしても払拭(ふっしょく)できなかった。

 

 だからネイチャは軽い気持ちで挑んだ。

 挑んでしまった。

 

「──うわわっ!? わ、わわぁっ!?」

「──マーベラースっ☆☆」

 

 結果として、少しだけ後悔した。

 ちゃんと怖いシーンも用意されていたからだ。

 

 見せ方、脅かし方は古典的で、目新しさは全くなく、青鬼に追われる登場人物達もどこか緊張感に欠けており、正直イマイチではある(特にたけし。彼の演技にネイチャは二度吹き出した)。

 

 しかし肝心かなめの青鬼は……中々に怖いものだった。

 

 フルCGで登場する青鬼のビジュアル──顔だけが異常にでかく、二頭身。だが全身は太い筋肉でおおわれており、ギョロ目で、体毛がなく、鼻が大きく、血の滴る乱杭歯(らんぐいば)の顔を持つ姿──はとても丁寧に作られており、不気味で、気色悪く、その冒涜(ぼうとく)的な雰囲気にはどうにもゾワゾワしてしまう。それが屋敷の中を狭そうに、それでいて予測できない動きで走ってくる姿は、まさしく悪夢を見ているかのようだった。

 

 そして青鬼は、いやらしいことに他人の声真似をして(あざむ)こうとしてくるのだ。途中、扉越しに仲間の声でノックをしてくるが、応答しないとそれがどんどん激しく、狂気的になっていくシーン、そこはネイチャも平常ではいられなかった。ふ、ふーんやるじゃんっ? と意味もなくマーベラスを抱きしめてしまったくらいには。

 

「うぇぇぇ……」

「マー……☆」

 

 さらに言えば、青鬼に捕まった末路である。

 

 最初に「たけし」、次に「ミカ」が犠牲になるのだが、どちらも食われて原形を留めないほどグチャグチャにされてしまう。惨殺するシーンこそ写らないが、その見るも無残な死体だけはがっつりと写してくるので引いた。サンゲリアほどひどくはないとはいえ、視聴に耐えうるものではない! 

 

 しかし、そう思いつつもネイチャは腰をどっしりと落として視聴していた。

 

 何故か。

 

 それは、ストーリーがまっとうに面白いからだ。

 

 

(まっさかそういう路線で来るとは──!)

 

 

 原作を踏襲(とうしゅう)したストーリー。しかし映画を丸きりトレースするのではなく「シュンが作ったゲームと全く同じ展開が起きている!」ということにしたのだ。原作にいないキャラだからこそできる展開に、なるほどと頷かざるを得なかった。

 

 そこから始まるアンナとシュンの大立ち回り! 青鬼から逃げまどいながらも知識を頼りに洋館の謎を解いてゆき、着々と屋敷からの脱出を図っていく。そのギリギリ感に、ネイチャはハマった。ハマってしまった。

 

「……! ……!」

 

「ネイチャ、くすぐったい~っ☆」

 

 散りばめられた様々な謎もネイチャの興味を強く()いた。何故アンナが屋敷にあらわれたのか? 拓郎が運んでいた箱の中身とは? 拓郎が隠す秘密の話とは? 明かされそうで明かされない焦らしプレイの前に、気付けば前のめりになりになっていた。マーベラスの耳をマッサージする手が、止まらなかった。

 

 

 ──物語は佳境にさしかかる。

 

 

 ゲームの進行通りに地下室に進んだヒロシ、アンナ、シュン。立ち入った瞬間、拓郎が襲い掛かってヒロシは木の棒で頭を殴られて昏倒。アンナとシュンが拓郎と対峙する形になる。

 

 拓郎は青鬼の騒ぎに気付いておらず、アンナの必死の訴えも「お前馬鹿じゃねーの?」「これがゲームの世界なわけないだろ?」などと全く相手にしない。そればかりか、シュンのことをしきりに話すアンナに激怒する。まるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ネイチャ達が固唾(かたず)を飲んで見守る中、とうとう運んできた箱の中身が明かされる。それは、

 

「…………ま、まじ!?」

 

「マーーーーベラースっ☆☆☆」

 

 シュンの死体だった。

 

 つまるところシュンはこの屋敷に入る前から……いや、なんだったらタイトルコールの前に死んでいたのだ。

 

 抱えていた違和感、それがぴったりとハマる感覚! その快感に思わずネイチャは思わず膝を打っていた。

 

「なるほど! 道理で拓郎が一人で箱を運んでたのか!」

 

「たけしがあれだけ怯えたのも、シュンの姿が見えなかったからか~☆」

 

「わー! ってなるとシュンと会話してるのってアンナちゃんだけだったってこと!? うわー! そっかー! そっかー!? 正直舐めててゴメンナサイ!?」

 

 アンナはその幽霊のシュンを追って屋敷に来たと……なるほど見事なドンデン返し! 使い古されたネタではあるが、気付かなったからこそハッとした。見た目だけで判断するのはよくないことだとネイチャは深く反省した。

 

 ちなみに、シュンが死んだ理由は自作ゲームの中で勝手に名前を使われていたことに激怒したからであり(!?)、怒りのまま木片でパンチしたら当たり所が悪くて一発死(!?)してしまい、それで拓郎は慌てて廃墟に隠しにきたとか。

 

 実質アンナと拓郎の二人きりの地下室で、いままでと打って変わって懺悔する拓郎(涙目)だが、態度を急に変え目撃者を消そうとナイフを取り出す。しかし追いかけてきた青鬼がやたらとカッコいいCGシーンで拓郎を襲撃。その隙にアンナとヒロシが二人で逃げていく。

 

「えっ、ヒロシこけた!? ヒロシ主人公だろしっかりしろ! ヒロシ! ヒロシーーーっ!」

 

「マママママママーーーっ☆☆」

 

 最後の逃避行! ゲーム主人公であるヒロシが早々にアンナを(かば)って死ぬと、とうとう生き残りは一人だけになってしまう。そして冒頭の逃走シーンと繋がり、部屋に逃げ込んで青鬼に追い詰められてしまうアンナ! はたして彼女の運命は如何に……!?

 

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

 

 エンドクレジットが流れ出すと、ネイチャは靴下をモニタに投げつけていた。

 

 ただただ結末に納得いかなかった。

 

「ゆ、夢オチ……まさかの夢オチ……!?」

 

「えぇー……」

 

 気付けばアンナとシュンは最初と同じく川辺でゲームをしていた。すべてはアンナが見た夢で、あの惨劇も、青鬼も、何一つなかったことになっていた。唯一確かなことがあるとすれば、アンナがシュンにより親身になっていった。ただそれだけだった。

 

 信じられないことをしてくれるな! 

 ネイチャはカチ切れた。

 

「あのさぁ……今までのこと全部全部夢だったよーはダメだって、某漫画の神様だって言ってたじゃん!? なんでその過程の努力や選択、結果を否定しちゃうのさ!? そんなことしたら何でもありじゃんかよぉー! 途中までめっちゃ面白いかもってドキドキしていたアタシの気持ちを返せよもぉおおぉぉぉぉ────!!!!!??」

 

 現実は地続きである.

 やり直しが効くものではない。

 そのことを何よりも知っていたネイチャだからこそ、この結末を許せなかった。

 

 靴下を投げ。ぬいぐるみを投げ。枕を投げ。

 投げるものがないと知ると布団に潜り込んだ。

 とにかく、もやもやがおさまらなかった。

 

「ネイチャ? ネイチャ……大丈夫?」

 

「……だいじょばない……」

 

「あははは……確かに今回のはかなりひどかったねー☆ アレさえなければって感じはアタシも思ったよっ☆」

 

「……マーベラスはどうだった?」

 

「オチを除けばかなり面白かった、かなー? CGの出来はスゴくいいし、ちゃんと原作要素を抑える演出とかは思わずニヤりとするし! マーベラスポイントいっぱいありの良作だよっ☆ 50点あげちゃう!」

 

「……MAX何点?」

 

「200点!」

 

「……」

 

 どっと力の抜けたネイチャはそのまま目を(つむ)ることにした。マーベラスのベッドだけど、知るもんかと思った。しばらくするとマーベラスも布団に中に潜り込んできたので、ネイチャは抱き枕として有効活用した。

 

 

 その夜、ネイチャはまたスマートファルコンに追いかけられた。

 その時のファルコンは青い衣装を身に包んでいたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
一応ノベライズ版や、青鬼Ver3.0には出ているが、本作の設定とは全く別物である。

*2
これまた映画より後のノベライズ版に登場するキャラ。つまり今作においてはオリジナルキャラ

*3
アンナと同じオリキャラ。




「ヒロシの虫好き変態設定いる?」
「いらなかったかも……☆」


『青鬼』:
 制作年:2014年(日本)
 監督:小林大介
 上映時間:70分
 配給:AMGエンタテインメント

 ナイスネイチャ評:★☆☆☆☆
 感想:オチが全てを台無しにしてる。ストーリーがなまじ途中まで良かっただけに、その落差は図りしれないって感じ……演出とかはちゃんと怖くてまっとうなホラーではあったかも。青鬼のキモ怖さはかなり来た。ただ他人に薦められる作品じゃないかなー……。70分で時間が短いのがせめてもの救い?

 マーベラスサンデー評:★★★☆☆
 感想:オチがねー……。でもオチ以外はマーベラスポイント多めっ☆ 青鬼のCGはすっごく頑張ってて、うまいこと映画に溶け込んでる! 怖いよ怖いよっ☆ あとは原作再現が結構いい感じなところも素敵っ☆ 登場人物もそうだけど、謎解きシーンやら、挿入されるBGMがちゃーんと原作を拾っていて、原作やってた人はニヤニヤすると思うっ☆ 個人的には拓郎の演技がすごく好きっ☆☆ マーベラスっ☆☆
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