栗東寮118号室 ホラー映画研究会   作:月兎耳のべる

8 / 12
夕飯がタコのから揚げだったので。
※今回の映画は「厳密にはホラーじゃない」とおっしゃる方も(ry

【あらすじ】
 多くのビキニ美女たちが戯れるサンタモニカ・ビーチに、突如として巨大なホオジロザメが出現。そこへ半分タコ、半分サメの奇妙な巨大生物が現われ、瞬く間にホオジロザメを飲み込んでしまう。謎の生物は何故か人間には襲いかからず、そのまま海中深くへ消えていく。それは人工的に生み出されたミュータントサメだった。数マイル離れた水生生物研究所において、アメリカ海軍の制服姿の男コックスと研究所の責任者ネイサンがコントロールをしていたのだが、テスト中にコントロールセンサーが壊れてしまい、暴走。ミュータントサメはサンタモニカの人々に牙を剥きはじめ……。


第八回『シャークトパス』(米 2010)

「あ、ネイチャさん! 今度『ヘレディタリー/継承』って映画をダイヤちゃんと見ようと思ってるんですけど、どうでしたか!?」

 

「……知らない」

 

「ネイチャ~、この『キラーナマケモノ』と『コカインベアー』だとどっちがいいと思う?」

 

「……分かんない」

 

「あ……ネイチャさん……『パラノーマル・アクティビティ』は見ましたか? あれはいいものですよ……」

 

「あ、あははは……ありがとうございます……?」

 

「よーネイチャ! 最近ホラー映画漁ってるって聞いたぞ!? それだったらこのゴルシちゃん肝入りを貸してやるよ! ほら『ブレインデッド』と『バッドテイスト』だ! どっちも最高だぞ!」

 

「いや結構だって!?」

 

 

 

 ──まばらにウマ影残る夜の食堂。

 

 そこでネイチャは一人、肩を落としていた。

 

 夜練が長引き、夕飯が遅くなってしまったというのもある。お腹は先ほどからくぅくぅと抗議の声をあげ、頭は全く回らない。しかしながらネイチャの表情に影を落とすのは、そんな些細(ささい)な理由が原因ではない。

 

 『()()()()()()()()()()()()()()()』。

 それこそが一番の原因であった。

 

 東に散歩すればキタサンブラックに声をかけられ、

 西で運動すればマチカネタンホイザが肩を揺すり、

 南で休憩すればマンハッタンカフェがふらりと接近し、

 北でスイーツを楽しめばゴールドシップに捕まる。

 

 右を見ても左を見てもホラー。ホラー! ホラー? ホラー♪ ホラー!!? とホラー映画の波が一向に収まらないのである。それもこれも、(ちまた)で『ナイスネイチャはホラー映画大好き』という根も葉もない噂が広まったせいだった。

 

 何度も否定したはずなのに、どうしてこうなってしまったのか……! いや原因は明白か。毎夜毎夜、自分の部屋からあれだけ悲鳴が聞こえてくれば、誰だって把握してしまうものなのだろう。

 

「でも、それにしたって……ねぇ?」

 

 否定を繰り返してるのに結局見てるというのも悪かったのだろう、少なくとも自分がイヤなのは事実なのに、イクノら友人達と来たら会うたび会うたび生暖かい目を向けてくるくらいには(くつがえ)りそうにない。畜生。

 

 見たくないのに、運命がそれを許さぬと言わんばかりに逃げ道が消えていくのは、怒りを通り越していっそ笑えてくる。あぁ三女神様、私は前世で何をやらかしたのでしょうか! やるせなさで胸をいっぱいにしたネイチャは、注文したばかりの夕飯に向けてよろよろと両手を合せた。

 

 今日はタコ唐揚げ定食だ。

 

 お味噌汁に口をつけて、さっそくタコの唐揚げを口に運ぶ。すると熱々タコ足のコリコリ感と共に、じゅわっとクド過ぎない油が染み出す。絶妙な塩気を(ともな)ったそれは口の中にほどよい磯の風味を生み出し、ふた噛み、み噛みと堪能すると、あれだけ荒れていた心がほんの少し()いでいた。うん。とても美味しい。

 

「タコ君はいいよねぇ……ホラー映画なんて見なくてもいいんだから」

 

 ま、代わりに食べられちゃうんですけども。

 つまんだタコ足に投げかけて、またぱくり。

 心がどんどん元気を取り戻していく。

 

 油が口の中を十分に満たしたら、炊き立てご飯をイン。お米がタコの油分を中和してくれるだけでなく、噛めば噛むほど染み出す甘さが更に食欲を刺激してくれる。そうしてある程度お口がまったりしたら追加のタコを投入。さらにご飯。またもタコ。またご飯。油で口内がクドくなる前に、シャキシャキレタスですかさずリセット。そしたら今度はレモンで味変タイムだ。

 

 ご飯。タコ。ご飯。レタス。

 

 タコ。ご飯。レタス。タコ。

 

 間にお味噌汁をずず~~っと挟んで……ネイチャはようやく息をついた。

 

「あ~~~~美味し~~……幸せ……♪」

 

 やはり食事はいい。

 この瞬間だけは全てを忘れられる。

 

 お腹が空いていたのもあって体も心も喜びっぱなし。無意識に尻尾をたゆたわせながら夢中で箸を進めていたネイチャ。こんな時間だけど今日ぐらいはお代わりしちゃおうかしら。と、順調にお椀をかっこんでいくと……ふと、誰かの気配を感じた。

 

「──ここ。よろしいですか?」

 

「はえ? ……マックイーン?」

 

 メジロマックイーンである。両手に持ったお盆の上に、夜には不適切な巨大なフルーツパフェを載せた彼女。了承を得ると行儀よくネイチャの前に座り込んだ。

 珍しいこともあるものだ。メジロ家のご令嬢が自分なんかに何用だろうか?

 

「どったの? テイオーは今いないけど……」

 

「別にテイオーさんを探しに来たわけではないんです。偶然ネイチャさんを見かけたので、少し用事を思い出しまして」

 

「アタシに……」

 

 自分への用事。テイオー絡みでないとなるとますます思いつかない。お悩み相談? 併走のお誘い? それとも……レースの宣戦布告? 知らず知らずのうちに身を固くしていると、察したマックイーンが苦笑した。

 

「ホントに他愛もないお話ですわ。気を張らないでくださいまし」

 

「あはは……ちょっぴり身構えちゃった」

 

「うふふ。勿論レースで競い合うことも楽しみにしていますわよ。……それよりもネイチャさん。聞きましたわよ。『ホラー映画研究会』を設立なさったんですって?」

 

「……え゛」

 

 ……ホラー映画、研究会。

 それを、アタシが設立した?

 

 聞いたことのない話に目をぱちくりさせていると、マックイーンはパフェを口に運びながら楽し気に語ってくれた。

 

「聞くところによるとA級B級問わず、様々なジャンルのホラー映画を毎夜視聴しては忌憚(きたん)なくレビューして誰かに(すす)める会だとか……素晴らしい活動だと思いましたわ。残念なことに(わたくし)はホラー映画には明るくないのですが、ことB級以下の映画という視点では少しだけ(たしな)んでいまして……実家にも少なからずコレクションを持っていましてよ。それで単刀直入に申し上げますと、よろしければその会に参加させていただければと思いまして。ちなみに私の得意ジャンルは──」

 

 べらべらと嬉しそうに語ってくれるその会話の、9割ぐらいが頭に入ってこない。研究? してませんけど。推薦? したくないですけど! というか自分の部屋がそんな不名誉な会の本拠地になったって話はどこから来たんだ!? 心底やめていただきたい!

 

「──特にサメ。えぇサメですわネイチャさん。勿論『ジョーズ』や『ディープブルー』は言うまでもありませんが、是非『シャークネード』にも目を向けて欲しいところですわ。サメというジャンルの可能性を味わえる素晴らしい作品ですから。それを見たら次は『ファイブヘッドジョーズ』。『シャーク・ド・フランス』。そして『メガ・シャークVSグレート・タイタン』! あぁ忘れてはいけないですが『ビーチシャーク』も是非。いかに我々が固定観念に囚われているかがよく分かる逸品です。もちろん正統派路線がいいのなら『レッド・ウォーター/サメ地獄』や『オープンウォーター』もオススメしますが。そうそう、最近でオススメですと『ウィジャ・シャーク/霊界サメ大戦』が……」

 

「す、ストップ! ストップストップストップ!?」

 

 ネイチャはたまらず声をあげた。ただでさえ混乱してるのに、まるで呪文のようにサメ情報が流し込まれるのだから頭がパンクしそうだった。そもそもサメを題材にする映画がそこまであるのも信じられなかったし、信じたくなかった。

 

「マックイーンがサメ愛に(あふ)れてるのはよーく分かったよ……それより、アタシそんな研究会を開いた覚えないんだけど?! 誰がそんなこと言ったのさ!?」

 

「あ、あら? おかしいですわね……イクノさんがそうおっしゃってたんですが」

 

「イクノぉ!!!!」

 

 クイ、と眼鏡を上げた澄まし顔のイクノが思い浮かぶ。恐らくは面白そうだからという理由で適当言ったのだろう。許さない。……イクノへのお仕置きはあとで考えるとして、今は誤解をどうにかするのが先決。ネイチャは慌てて弁明を始めた。

 

「いやホント誤解なんですハイ。アタシはどっちかというとホラー映画は苦手な方でして……同室のマーベラスが見たがるもんだから仕方なくね?」

 

「……それは、失礼しました。毎晩お二人の部屋から楽し気な声が聞こえるものですから。他の方々もこの話で盛り上がってましたし、てっきり……」

 

「あ、あはははは…………はぁ」

 

 がっくりと肩を落とす。もはや『ホラー好き』という評判は(くつがえ)らないのか、そう思うだけで力が抜けた。とはいえ、ネイチャは現状にそこまで絶望していなかった。立て続けにホラー映画を見たせいで、以前ほどの忌避感が無くなっているのは事実だった。

 

「…………ま、まあもういいけどさ……とりあえず言えるのは、研究会らしきものは本当にやってないってことかな……ガッカリさせてホントごめん」

 

「い、いえ。ネイチャさんが謝るものでは……むしろ巻き込まれてご愁傷様と言うべきなのでしょうか?」

 

「まーねー……だけどさ、見てみると面白い物も中にはあったから、そんなに最悪ってわけでもないんだよね。ちょっと食わず嫌いだったかなーってそこは反省してる。けどね? 正直な話ホラーはお腹いっぱい! ネイチャさん、たまには別のジャンルを楽しみたいってもんですよ~ゾンビとか、幽霊とかそういうの以外のね。マックイーンが提案してくれたサメは、そういう意味ではアリなのかも?」

 

「へぇ……それはそれは」

 

 油断したネイチャが口を滑らせた。

 

 もちろんネイチャとしては10割冗談のつもりだった。いかにホラー慣れしたとはいえ、サメ映画なんてどうせグロテスクだらけ。見たいわけがない。しかし慰められるとついつい自虐したくなる難儀な性格の彼女は、つい調子に乗ってしまう。その結果。マックイーンが目の色を変えたことも知らず……。

 

「……ってサメも血がドバドバ出るよねー、あはははっ。じゃあやっぱナシで──」

 

「ネイチャさん。これからお時間はありまして?」

 

「へ? や。ま、まぁあるけど……」

 

「良かったですわ♪ では後ほどお部屋に(うかがわ)わせていただければと思います」

 

「あ。うん。……え? 部屋? えっ?」

 

 自分が食べ終わるより先に、ぺろりとパフェを食べつくしていたマックイーンは音もたてずに席を立つと、そのまま去っていった。

 

 そして唖然(あぜん)とするネイチャだけが、その場に取り残されるのだった。

 

 

 

 

 

ー 第八回『シャークトパス』(米 2010) ー

監督: デクラン・オブライエン

 

 

 

 

 

 その後。宣言通りマックイーンがやってきた。

 ネイチャは一目見て閉め出そうかと迷ってしまった。

 何せ彼女ときたら謎のDVDを持参してきたのだから。

 

 

「夜更けにお邪魔いたしますわネイチャさん、マーベラスさん」

 

「マックイーンだ。どうしたの~? ……って何それ!? 映画!?」

 

「えぇ。サメ映画ですわ」

 

「マーーーーベラーーースっ☆」

 

 玄関先で硬直するネイチャを通り過ぎて、マックイーンはマーベラスと楽し気に話しだした。マーベラスは渡された不吉なDVDを掲げてぴょんぴょんと喜びの舞を踊っていた。

 

「お二人がホラー映画を(たしな)んでいるのは存じ上げてますが、時には違うジャンルも必要ではないかと思いまして。幸いにもネイチャさんが興味はあるようでしたし、布教も兼ねて足を運ばせていただきましたわ」

 

「マックイーンありがと~~っ☆ ちょーどサメの気分だったんだよねっ☆☆ これってアルバトロス?*1

 

「残念ながら。しかし、かの低予算映画の王者*2が制作に関わってます。ですので間違いない作品ですわ」

 

「いいねいいね~っ☆」

 

「──かッ、かかッ、かかかッッ……!」

 

 

 ストレートに「帰れ」と言いそうになったのを(つと)めて自制したネイチャ。ひきつった笑みのままマックイーンに向き直ると、静かに語りかけた。

 

「……き、来てくれてありがとうマックイーン。それでその映画は何かな~?」

 

「サメですわ。サメ。シャークですわ」

 

「……なんで?」

 

「なんでも何も……先ほどサメ映画はアリだと聞きましたので。それなら是非に、と思いまして……」

 

「……」

 

 このいかにも胡散(うさん)臭くて、安っぽくて、見目が悪くて、出来が悪そうで、興味の()きようがないこれを、どうして見なくてはいけないのか? 思わずそんな目で(すが)ると、マックイーンは安心してくださいと言わんばかりに微笑んだ。

 

「こちら私が自信を持ってオススメする一作です。大船に乗ったつもりで見てほしいですわ」

 

「……」

 

 反論する気も起きなくなっていたネイチャ。トボトボとベッドに座りこめば、いつものようにマーベラスが膝上に乗ってきた。さらにマックイーンもそばに座り、突発サメ映画視聴会が始まるのだった。

 

 

 

 

 ──ぶち、とメジロマックイーンが再生ボタンを押し。映画が始まった。

 

 

 

 

 みんな大好き、サメ映画である。

 

『ジョーズ(1975)』が火付け役となって始まった一連のジャンルは、同時期のゾンビ映画に比べて盛り上がりに欠けてはいたものの「海」「サメ」「水着美女」「捕食シーン」を揃えれば成立する単純な構造と、そのエンタメ性から一定数の人気を獲得するに至り、マイナージャンルとしての地位を確立していた。

 

 しかし。その超絶低い参入障壁が災いして様々な会社が粗製乱造を繰り返した結果、『サメと言えばB級で、チープである』と言われるほど世間のイメージは低くなってしまい。ごく少数のマニアしか好まぬニッチなジャンルという評価も同時に得ていた。

 

 その風潮に逆風が起きたのは2000年代初頭だ。

 

 SNSが台頭してくると、そんな低予算・低クオリティで作られ続けるサメ映画が面白おかしく拡散され、粗雑な感じが逆にウケるとファン層が一気に拡大。大々的に売れることはないが、堅実に売れるジャンルとしてファンを拡大させ、『サメと言えばB級で、チープ。()()()()()()()()()()』という謎の再評価を受けるようになっていた。

 

 

(……サンタモニカ・ビーチ? ってどこだろ)

 

 

 さて、そんなサメ映画を無気力に視聴し始めたネイチャ。彼女がまず見たのは、アメリカは西海岸の一大リゾート「サンタモニカ・ビーチ」の光景であった。

 

 巨大ビーチあり。遊園地あり。クルージングを楽しむ家族連れあり。ビキニ美女ありと、誰もが想像するTHE・ビーチといった景色に、いいなぁ。アタシも海外行きたいなぁと思わず考えてしまう。

 

 しかし、そんなのどかな映像を眺めていたネイチャは早速違和感を覚えてしまう。この映像、映画に乗せるモノとしては手ブレがすごい。まるでホームビデオのようだ。これは意図した演出なのだろうか?

 

「フフフ……たまりませんわね……別撮りされた資料映像。この手ブレの感じもゾクゾクしますわ」

 

「いいね~、期待大だね~☆」

 

 単に低予算なだけらしい。

 ネイチャはずっこけそうになった。

 初手から大きな不安要素に、頭がくらくらした。

 

 ──そんな資料映像が終われば、いよいよ本編が始まる。

 

 一人ビーチで遊ぶビキニ美女が、いかにも怪しげなBGMをバックに海へと泳ぎにいった。もしかしてこの子が第一犠牲者? そんなの聞くまでもなかろうよ! と登場するのはどこか低クオリティなCGサメ。あなや! 美女の命は風前の灯! ……というところで、今作の主役である『シャークトパス』が登場する。

 

「きたっ、きましたわネイチャさん、マーベラスさん! 観てくださいまし! シャークトパスですわ!」

 

「マーベラーーースっ☆☆ かーーーっこいいー!」

 

(うわぁ……)

 

 それは確かにサメだった。

 

 しかしサメなのは上半身だけで、エラと思しき部分からはトゲが生え、下半身には長い触手が何本も伸びている大胆なデザイン、それらを美麗とは言い難いCG技術で再現されて、ネイチャのテンションは急転直下していく。マックイーンらは黄色い悲鳴をあげてるが、自分はどうやって盛り上がればいいのか、見当がつかなかった。

 

 そんなシャークトパス、実は軍の命令で秘密研究所(どう見ても秘密に見えない安っぽいオフィス)で作られたもので、背中に取り付けられたセンサーでコントロールされており、今まさに女性を襲おうとしていた別のサメを食い殺して颯爽(さっそう)と去っていった。

 

 おぉやるじゃん。そう思えたのは助け出してから1分ぐらいで、案の定アクシデントによって制御不能に。そうして大海原に凶悪なミュータントサメが放たれてしまう。危うし! サンタモニカ・ビーチ! 

 

 しかしそこに立ちあがるのは、かつて研究所で働いていた海に最も詳しい男、アンディ・フリン。彼は大金のためにシャークトパス退治を決意するのだった。

 

 次々と人に襲い掛かるシャークトパス!

 

 それを止めようとするアンディ達!

 

 研究所長である父親とヒロインとの確執!

 

 そしてとうとう明かされるサメの謎!

 

 そんな魅力あるストーリーを水着美女! バイオレンス! そしてド派手なアクション! この3本柱がガッチリと支えて視聴者をトリコにする超大作。それが本作『シャークトパス』なのである!

 

(……その3本柱がどれもボロボロなんですけど)

 

 自分をさし置いてきゃいのきゃいのと盛り上がるのを尻目に、ネイチャは昼下がりの囲碁番組を見ているような気分で映画に(いど)んでいた。作品のすべての要素が低クオリティでまとまっており、盛り上がろうにも盛り上がりきれないというのが正直な意見だった。

 

 

 まず水着美女である。

 多かった。

 とても多いが、全員が()()にしか見えなかった。

 

『お色気要素はあればあるほど良い』。そんな監督の狙いなのかは知らないが、やたらと水着姿の女性が出てくる。しかしてその演技は狙ったようにひどい。棒読みが過ぎるセリフや、違和感しかない演技を見ると、何だか小学校の学芸会を思い出して仕方がなかった。

 

「しっかりとド素人を起用してくる辺り、やはり監督は分かってますわね」

 

「ビキニ美女を最初の犠牲者にすると見せかけてそうしない、定石外しにはニヤリとしちゃうよね~☆」

 

 しかし、二人に言わせれば良い手腕のようだ。

 ネイチャは自分の認識が誤っていると考えたくなかった

 

 

 次にバイオレンスである。

 弱かった。

 全くグロくもないし、なんだったら雑すぎた。

 

『犠牲者は多ければ多い程良い』。そんな監督の狙いなのかは知らないが、本作ではなんと14回に渡ってシャークトパスが襲ってくる。圧倒的な襲撃数である。しかしその全ての演出がもうちょっと頑張ってよ、と応援したくなるくらいに幼いCG技術で、内容と来たらグロテスクが苦手なネイチャですら「わー」と死んだ目で見られるような内容ばかりだった。

 

「無抵抗で(たお)れていくジョック*3達……ふふっ、サービス精神が旺盛ですこと」

 

「伝統の噛みつきからの海に引きずり込む攻撃だけでなく、タコ足がついたことで襲撃のパターンが増えたのは好印象~、マーベラスっ☆」

 

「触手攻撃が出来るから遠隔襲撃も可能だし、触手を使うことで違和感なく地上の人間も襲えるのがいいですわね」

 

「うんうん、CGの出来も良いし*4これは当たりだね~っ☆」

 

 しかし、二人に言わせれば良い演出のようだ。

 ネイチャは自分の常識が通じないことにただただ恐怖した。

 

 

 最後にアクションである。

 薄かった。

 というよりほとんどアクションしてなかった。

 

『アクションよりサメを出した方がいい』。そんな監督の狙いなのかは知らないが、サメに尺を割きすぎた結果、アクション要素は煎餅のように薄くなっていた。もちろんシャークトパス相手に銃や鈍器で抵抗するシーンは存在するのだが、いざ戦っても、攻撃を避けるつもりはないと言わんばかりに全員が棒立ち。また銃をあらぬ方向に撃つし、当たっても銃弾はサメ肌に弾かれるし、むしろ木の棒の方が銃より効いてるし、と突っ込みが追い付かないほどで、ハラハラやドキドキといった感情の発露を、ネイチャは覚えていなかった。

 

「やっぱりサメ映画での鈍器は最強ですわよね……」

 

「銃なんて捨ててかかっていくべきなんだよね~☆」

 

 しかし、二人に言わせればかなり楽しめるようだ。

 ネイチャはこの部屋で二人と同じ空気を吸うのが苦しくなった。

 

 

 そんな三本柱が支える骨太なストーリーは、見た感じ思ったほど悪いものではなかった。『軍が秘密裏に作り出したミュータントの暴走』というありがちな設定ではあるものの、内容に破綻はなく。思わせぶりな謎はきちんと答えを用意していたり、タコとサメを掛け合わせた設定をちゃんと活かしたりと、好感を持てるところはあった。

 

(まあ……面白くはないんだけどね……)

 

 破綻してないだけで退屈なのに変わりようはないし、むしろ集中する気が非常に失せるのがこの作品だった。というのも、ネイチャが一番イヤだと思ったのは、その画質の悪さでも、演技の下手さでも、安っぽいCGでもつまらないストーリーでもない。

 

 場面転換だった。

 

(──何でこんなに場面変わるのさぁ!?)

 

 複数の登場人物が同時に動くことを意識させたいのか、まあ場面が変わる変わる! 東で主人公達が会話したら、次の瞬間別の場所でサメが人を襲い。次は新聞記者の会話が始まったと思えば、別の地でサメの襲撃が始まり。軍と研究所の悪だくみシーンが始まったと思えば、またまた別の地でサメの襲撃が始まり。……と、人→サメ→人→サメ→のシーン切り替えが頻繁(ひんぱん)に挟まって、内容が全然頭に入ってこないのだ。

 

 せめてストーリーだけでも追っておこうと考えたネイチャも、合間合間でサメ襲撃が繰り替えされた結果、気力が削がれてしまっていた。現実にまで影響を与えるとは、サメの力恐るべしだった。

 

「監督の苦悩が見て取れますわね……視聴者を喜ばせるか、スムーズな展開を取るか」

 

「一瞬24*5っぽい演出もあったけど、あんまり使わなかったね~☆」

 

「そして監督はテンポを犠牲にしてまでサメを登場させる道を取った……ふふ、英断ですわ」

 

 しかし、二人に言わせれば妙案だったようだ。

 ネイチャは一刻も早くこの映画が終わることを、強く願わずにはいられなかった。

 

 

 そうして、こうして。

 ネイチャの常識がいい感じに壊れかけた所で本作はクライマックスを迎える。

 

 シャークトパスは軍事利用を念頭に作られていたことから、実は自爆装置が中に仕組まれているとのこと。しかし通信装置の故障から、自爆装置を起動するためには特殊なセンサーを体に撃ちこみ、電波が届く距離でサメを拘束しないといけない!

 

 アンディはヒロインである研究所長の娘にそう言われ、やってみるとサメに一人向かっていく。銃はすでに玉切れ。頼れるものは己の体一つだけ。絶望的な状況を前に、アンディははたしてシャークトパスを倒すことが出来るのか……!?

 

 

 ………………

 …………

 ……

 

 

 ネイチャは思い知った。

 自分の知る世界が、どれだけ狭かったかということを。

 そして今まで見てきた映画がどれほど上澄みだったのかを、これでもかと分からされた。

 

 

「マーーーベラーーースっ☆」

 

 

 ──サメが大爆発を起こしたところで、マーベラスは諸手をあげて喜び、マックイーンは惜しみのない拍手を送った。ネイチャは微動だにすることが出来なかった。

 

「やはりサメは爆発してこそですわね。美しい……」

 

「うんうん☆ これはもうジョーズからの伝統だよね~、ノルマ達成☆」

 

 サメの返り血で真っ赤になりながらもヒロインと抱き合うアンディ。最後は「また襲ってこないことを祈るだけさ」「まさか。映画じゃないのよ」と会話を交わし、映画は終わりを迎えた。映画だよ! それもとんでもないクソな方の! とネイチャは叫びたくて仕方がなかった。

 

 ひどいカメラ、ひどい演技、安っぽいCG、緊張感のないBGM、退屈なストーリー、それらが全部用意された映画があるなんて、思ってもみなかったのだ。

 

 マックイーンは最初「大船に乗ったつもりで~」とのたまっていたが、とんでもない。まごうことなき泥船だ。これってもしかしてドッキリの類? それともただマックイーンの感性がおかしいだけ???? 

 

「あぁ面白かった……ネイチャさんはどうでしたか?」

 

「つま……スゥーーッ……オモシロカッタデス……」

 

「まあそうでしたか! それは良かったですわ!」

 

 しかし顔を見て、後者であることを確信したネイチャは鋼の意思を発動させ、どうにか口をつぐんだ。こんなにもウキウキしてるマックイーンに面と向かって正直に伝えるなんて、出来ようがなかった。

 

「であれば今度、また別の作品をオススメさせていただきますわね! これは私のコレクションの中でもかなりの名作の部類ですし、もっとコアな奴も興味があれば是非……」

 

「……あの、確認だけどこの作品って名作なの?」

 

「えぇ。文句なしの名作ですわよ?」

 

「……」

 

 そして、この『シャークトパス』以下の映画がまだごまんとあるという事実にネイチャは天井を仰ぎ見て。そんなネイチャに、マックイーンは首を(かし)げるのだった。

 

 

*1
サメに関わらず様々なジャンルの映画をB級からZ級まで何でも取り揃えた配給会社。別名クソ映画配給会社。最近はいい映画も多い気がする。

*2
別名、B級映画の帝王。2024年にお亡くなりになりました。ご冥福をお祈りします

*3
いわゆる学校内で上位カーストに位置する体育会系のマッチョや軽薄な少女を指す

*4
他のサメ映画に比べてである。

*5
2000年代初頭の大人気ドラマ。別地点にいる人物を同じ画面に表示する手法を多用する




「ケガしたら消毒もせずにそのまま包帯を巻くのはどうかと思う」
「それはそう☆」
「しかし足のケガの設定を最後まで忘れずに演技していた辺り、丁寧な作品でしたわね」
「(普通忘れないんだよなぁ……)」


『シャークトパス』:(原題:SHARKTOPUS)
 制作年:2010年(アメリカ)
 監督:デクラン・オブライエン
 上映時間:89分
 配給:インターフィルム
   
 メジロマックイーン評:★★★★★
 感想:サメ映画としてのテンプレを忘れることなく、更にオリジナリティを加えて形にした素晴らしい一本。客を楽しませようとする監督の心意気が随所に見られて、サメ映画ファンならクスリとしてしまう名作。CGの出来も良いので安心して見られますわね。好きな襲撃シーンは護衛軍団VSサメのシーン。両手をばたばたして逃げようとする姿が可愛らしいですわ!

 マーベラスサンデー評:★★★★☆
 感想:サメ好きが見たいものをぜーんぶ用意してくれる一級品! 低予算ながらもしっかりと作りこんだストーリーやサメの出来には拍手っ☆ 出てる人みんなが楽しそうなのがいいよねっ☆ 好きな襲撃シーンはラストバトル☆ 主人公が溺れっぱなしのシーンに笑っちゃった☆

 ナイスネイチャ評:★☆☆☆☆
 感想:濃密なサメ映画。ちゃんとサメらしく人は襲うし、タコの要素もちゃんと使ってるし、ストーリーも普通なのに、その全てが低クオリティだからどうしたもんやらって感じだった。多分マックイーンみたいに笑って見るのが正解なんだろうなぁ……。好きな襲撃シーン? ひとつもないです……。
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