墓地々々でんな~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~   作:葛屋伍美

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開幕!

「いよいよだなっ。」

「チケット忘れてないだろうな。」

「なんでも、未区で大量失踪事件があったらしいぜ。」

「こんな祭りの日にそんな話するなよ。」

「楽しみすぎて、一睡も出来なかったぜっ。」

「私達幽霊なんだから寝ないでしょ。」

「俺はもちろん単勝辰区一択っ!」

「単勝辰区なんて、1・1倍じゃねぇ~かっ。」

 

 ここは寅区の一画にある巨大なコロシアムの出入り口。ネオ大江戸12区から観覧チケットを手に入れることの出来た多くの幸運な幽霊達が辰区の戦いを見ようと大勢詰め掛けていた。思い思いの話をしながら、コロシアムの自分の指定席を探すべく、コロシアムの大きな口の中へと飲み込まれていく。

 

「佐乃さん、見てくださいよぉーーっ!お店がまだまだいっぱいありますよっ!」

 両手一杯にたこやき、フランクフルト、アメリカンドック、わたがし、りんご飴と持っている伊予が目をキラキラさせながら、コロシアムに続く道に立ち並ぶ露天を見ている。

 

「・・・・・・あんた、まだ何か買うのかい?」

 伊予と一緒に歩いている佐乃が伊予の姿を見て、呆れている。

 

 佐乃と伊予はそれぞれ辰区の特別招待枠により、観覧に訪れていた。その周りにも、それぞれの関係者達が続いている。

 

「あっあの~~・・・伊予さん・・・そろそろお腹は?」

「大丈夫っ!まだまだいけますよっ!!」

 伊予は今日の伊予専用の財布タロさんと心あらずな会話を交わして、また露天の方へ走っていく。

 

 佐乃道場の関係者、区役所の関係者ともちろん菊の助一族も一緒に来ていた。が、その中に菊の助の姿はない。

 

 

 

 

 

「・・・・・・。」

 善朗は控え室の長椅子にちょこんと座って、相変わらず床をジッと見ている。

 

「・・・・・・。」

 遠巻きに善朗の様子を見ている賢太達はそんな善朗に気遣って、気にしない振りをして思い思いに時間を潰していた。

 

 

「善朗君・・・今日ぐらいがんばってもらなわないと私としては困るんですよね。」

「おまっ!?」

「待てっ、金太。」

 ふと、善朗に近付いて声を掛けたのはササツキ。そのササツキの無神経な行動に金太が襲い掛かろうとするのを秦右衛門が制止する。

 

 もちろん、ササツキが無意味にそんな行動をとる人物ではない事を誰もが知っている。ササツキは確かに腕が立つが、縄張り争いの事件以来、その強さは不明だ。あの事件の黒幕とされているササツキは査定により、大幅に霊力がそがれている可能性が高いと思っている秦右衛門達。そんな秦右衛門達を嘲笑う(あざわら)かのように事ある事に挑発してくるササツキ。余計な心労がメンバー発表からこれまで続いていた。

 

「・・・すいません・・・出来る限り、がんばりますので・・・。」

 善朗は一切ササツキを見る事無く、床に言葉を捨てる。

 

 ササツキはそんな素っ気ない善朗の対応に嫌気が差したのか控え室のドアへと足を向けた。

「・・・わざと負けるなんてことはしないでくださいね・・・。」

 去り際に秦右衛門達をイチベツして、ササツキは善朗にそう言葉を残して、居場所のない控え室から出て行く。

 

 

「・・・・・・。」

 賢太は今の今まで、黙って腕組みをして目を閉じている。それはもちろん、何か一言でも口に出せば、その勢いでササツキを殴り飛ばしてしまうと確信しているからだった。

 

(感心感心。)

 賢太の足元で、必死に堪えている賢太を微笑ましく思っている太郎。

 

「・・・・・・善朗君、ごめんよ・・・君は特別枠だからメンバーから外すことが出来なかった・・・曹兵衛殿も頑張って掛け合ってくれたんだが・・・更に上の方の方針らしくてね・・・ササツキはああ言っているが、君の行動を誰も責めたりはしないから・・・君の思うようにして構わないよ。」

 ササツキが去った後に秦右衛門がゆっくりと善朗に近付き、出来る限り優しい言葉で自分の本心を善朗に告げる。

 

「・・・・・・すいません。」

 善朗はそんな優しい対応をしてくれた秦右衛門ですら、その一言しか発することは出来なかった。

 

「・・・っ・・・。」

 賢太は黙って腕組みをして、必死にマブタを閉じている。それはもちろん、一言でも声を掛ければ、善朗の顔面を殴らずにはいられなかったからだ。

 

(・・・オヌシ、大概だな・・・。)

 太郎が賢太の心を見透かすように呆れる。

 

 太郎が賢太にあきれ果てているその時、ササツキが出て行った部屋のドアを誰かが開ける。

「みなさん、そろそろです・・・行きましょう。」

 扉から姿を現したのは乃華だった。その後ろにはササツキも控えている。どうやら、いよいよお祭りが始まるようで、乃華はそれを善朗達に告げに来たのだった。

 

 

 

 

 

 〔みなさん、お待たせしましたっ!いよいよ、年に一度のネオ大江戸恒例の武闘大会開催をここに宣言いたしますッ!〕

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 コロシアムの中央に用意された四角形の大きなリングの中央でマイクを持った女性がリングを囲むように広がるアリーナ席で今か今かと待っていた大観衆に向けて、お祭りの開催を発表する。待ちに待ったその言葉にアリーナ席の大観衆は大きな声で世界を揺るがすように唸りを上げる。

 

 

 〔みなさん、大変待ち望んだかと思いますっ・・・大会もそんな皆様のお気持ちを察しております・・・それでは第一試合をさっさと始めようではありませんかっ!そうです、もちろんこの区・・・・・・優勝候補、ダントツ筆頭辰区VS猪区を始めますっ!それぞれの区の方々は入場して下さいっ!!〕

「うわあああああああああああああああああああっ!!!!」

「きゃああああああああああああああああああっ!!」

 

 

 完全に見世物としての存在となった善朗達。その登場に今日一番の熱狂が沸きあがる。コロシアムの左右に分かれた登場口からそれぞれの区のメンバーがリングに向かって歩いていく。猪区は12人衆の副官ゴウチの区。その金太にも負けない巨体が善朗達の反対側から姿を現して、リングへと近付いていく。その肩には、ゴウチと同じぐらいでかい木槌が担がれており、その怪力を体現していた。

 

 コロシアムの最上階。特別に用意されている観覧席から善朗達の登場を眺めていたのは、曹兵衛だった。

「・・・ゴウチ。」

 曹兵衛は善朗よりも長年の友であるゴウチに視線を向けて、何か思う心を視線に乗せてゴウチを見ている。

 

 

 

 

 

「いよいよ始まるんですね・・・。」

 心配そうな顔で善朗の姿を目線で追うのは善朗のひいばあちゃんのノブエ。

 

「・・・そうだな・・・。」

 心配そうにしているノブエの肩を抱いて、善朗に視線を送るのは善朗のひいおじいちゃんの吾朗。

 

「吾朗さんっ・・・ササツキ組の連中は来てないのかい?」

 善朗の事を心配している吾朗に声を掛けたのは軍服を着た男性。

 

「ん?・・・そういえば、招待席に誰もいないみたいだね・・・もしかしたら、大人数で他のアリーナ席にいるんじゃないのかな?」

 吾朗は軍服の男性に尋ねられらたことを素直にそう応えた。

 

「あぁっ・・・そうか・・・あいつら、成金だからな・・・俺たちなんかと一緒には見れないか・・・。」

 軍服はよほどササツキ組の人間が嫌いなのだろう。包み隠さず悪態を口にする。

 

 

 

(・・・善朗・・・あんたなら乗り越えられるはずだよ・・・。)

 関係者の観覧席でノブエ達と一緒に善朗達の入場を見ていた佐乃は真剣な顔で善朗の一挙手一投足をつぶさに見ていた。

 

 

 

「乃華ちゃああああああああんっ!がんばれえええええええええええええっ!」

 佐乃の隣で、露天の食べ物を食べながら伊予が善朗達と一緒に入場してきていた乃華に向かって大きな大きな声で叫ぶ。

 

 リング上は囲まれたアリーナから降り注ぐ大歓声しか聞こえないはずだったが、何処までも響き渡る伊予の声はちゃんと乃華に届いていた。

「ちょっ・・・あの子ったら・・・恥ずかしい・・・。」

 乃華はその伊予の大歓声にも負けない無駄に通る大声に恥ずかしくなって塞ぎ込む。

 

「すごい声だね・・・この中でもしっかり聞こえるなんて・・・。」

 秦右衛門が少しほっとしたように微笑む。

 

「恥ずかしいだけですよ・・・・・・でも、確かに少し和みました。」

 乃華は顔を赤らめながら秦右衛門に抗議するが、最後には友の大きく手を振る姿に視線を送って微笑む。

 

 

 

 〔さあっ、両陣営が揃いましたっ!それでは、両陣営、先鋒・・・前へ!〕

 マイクを持った女性はそのままリングの中央で声を掛けて、両陣営から先鋒として戦う者を呼び込む。

 

 

 

 もちろん辰区からはササツキがその傾《かぶ》いた姿で颯爽とリングにあがる。

 

 〔それでは、先鋒戦・・・・・・はじめっ!!!!!!〕

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 先鋒戦の開始の合図がマイクを持った女性から発せられるとコロシアムを越え、ネオ大江戸全体を揺るがす大歓声が沸きあがった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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