墓地々々でんな~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~ 作:葛屋伍美
「お待たせしましたっ、ギキョウ様っ!」
「おぉっ、冥さんっ・・・待ってましたよ。」
冥が巫女の服装に身を包み、颯爽とその場に現れる。その姿を孫を見るような目で温かく迎えるギキョウ。
そこは日本有数の霊の総本山『恐山』。
十数名の巫女姿の老若の女性が円を形成し、しきりに何かを唱えている。その女性達の声に応えるように円の中心には異界へと続くであろう大きな赤門が宙に浮いており、その存在感を重苦しく示している。
「・・・裏霊界か・・・復帰戦がとんでもねぇところとはなぁ・・・。」
冥の横に控えている菊の助がアゴを触りながらニヤリと笑う。言葉とは裏腹に、余裕がうかがい知れる。
「お前に限っては大丈夫だろうが、足手まといになるようなら、俺が肉壁に使ってやる・・・感謝しろ。」
菊の助の隣で、そう悪態をつくのは流だった。流は今回の件で、遅れを取った事を非情に悔しく思っていて、終始機嫌が悪かった。
「もう、流さんっ。そんな言い方やめて下さい。」
いつものように流の横でそれをなだめるのはネヤの役割だった。
「菊の助殿・・・どうか、御武運をっ。」
ギキョウが菊の助に向けて、深々と頭を下げた。
ギキョウが菊の助に頭を下げる中、なぜか菊の助の隣にいた伊予がヌッと菊の助の前に踊り出して、ギキョウに向かって胸を張る。
「なんのなんのっ・・・この伊予ちゃんもついてるから、心配要りませんよっ!」
ギキョウに向けて、そう答えた伊予はウキウキをちっとも隠さない。まるで、これから遠足にでも行く子供のようだった。
「あはははっ・・・これはこれは頼もしい・・・お頼み申します。」
大人のギキョウは場違いな伊予も受け入れて、丁寧に伊予にも頭を下げる。
冥はそんな伊予の事など構うことなく準備を完了して、いよいよ胸を張る。
「さぁっ、皆さんっ!準備はいいですかっ?!裏霊界に行きますよっ!」
冥が自分達の少し離れた後方に控えている何百と言う人や霊に向かって振り返り、そう大きな声で呼びかける。
そこに控えていたのは、言うまでもなく、救霊会の選りすぐりの精鋭と霊界から報奨金の約束を取り付けてきた例の武闘会場に行けなかった霊界の猛者達だった。
裏霊界。
善良な霊達が住まう場所が霊界ならば、悪霊や怨霊達の住む世界があるのは必然。光と影のように裏表として、表現されたのがまさに裏霊界という世界だった。裏霊界は悪霊や怨霊が中心で、人などが迷い込めばタチマチその魂は弄ばれる。力がなければ生きていけない・・・死んだ後も苦しむのだから世紀末の世界よりも性質が悪い場所。生活水準は非常に低く、今でも物々交換が主流だった。もちろん、その対象は人の魂。そして、
〔ギギギギギッ・・・〕
その異質な世界への扉が今、まさに開こうとしていた。
「ギャギャギャッ!」
「食わせろおおおおおおおおオッ!」
「コロシテヤルウウウウウウウウウウウッ!」
扉の少し空いた隙間から重くこびり付く獣のような声が幾重にも重なって現世へと染み出してくる。悪霊達が、現世へと繋がるその扉の先で、現世で暴れようと今か今かと待ち受けていたのだ。
「ッ!?」
冥達の後方で待機している人と霊達はその光景に最初の難関と身を引き締める。
扉を開けば、一方通行というわけではない。こちらが入れるのであれば、向こうも出れる。もちろん、裏霊界には容易に入る事は出来ない。それは人や善良な霊達を守るための自衛手段として、裏霊界を現世から隔離しているからだ。ならば、その隔離された世界で鬱屈《うっくつ》としている悪霊達は発散の場を求めて、光に集まるのは必然。
「開いたっ・・・ぞっ?!」
「滅消っ!!!」
〔ドゴオオオオオオオオオオオオオンッ!!〕
「ッ?!」
その場に居た表裏の全ての者が驚愕する。
たったの一撃だった。
巫女姿の少女の放つ一振りの拳。その一撃で、扉に群がっていた悪霊達は現世に姿を現すまもなく、一匹残らず駆逐された。『悪霊いろは』など、無用の長物と言わんばかりにその看板を叩き割る。
「・・・・・・。」
菊の助をはじめ、全ての表の人間達は扉の中へと消えた冥の姿に戸惑い固まる。
「何してるんですかっ!行きますよっ!!」
扉の向こうからヒョイと顔を出す冥が、一向について来ない一同に向けて、当然のように怒鳴る。
「うっ・・・うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
一同はしばし、状況を掴めず戸惑うも、冥の導きに従うように、セキを切った水のように裏霊界へと雪崩れ込んでいく。
一同の殆どの者が始めて踏み入れる裏霊界と言う世界。
そこは異様に薄暗く、ジメジメしており、ネットリとした空気が髪に肌にこびり付く。だがしかし、
「どきなさいっ!どかないなら、消し飛ばすわよっ!!」
「ぎゃあああああああああああああああっ!!」
「にげろおおおおおおおおおっ!!」
「おたすけえええええええええええええっ!!」
一人の少女が神々しい光を放ちながら、裏霊界と言う雰囲気そのものを吹き飛ばしていた。その少女の恐ろしさに扉の近くで様子を見ていた悪霊や怨霊達は叫び声を上げながら、我先にと、その場から逃げていく。
「冥ちゃんっ、かっこいいっ!待って待ってエエエエエエ~~~っ!」
冥が暴れまわる姿を見て、伊予がスキップするように宙を飛び、冥を追いかけていく。
「なはははっ・・・俺達、いるのかね?」
菊の助が腕組みをして、冥を見ながら苦笑いをする。
「・・・もしかしたら、一人でも乗り込んだかもしれません。そして、なしとげれたのかもしれません・・・ですが、それ以上に大事なモノをあの子は知っているのでしょうな。」
菊の助とは対照的に落ち着いた面持ちで、冥をにこやかに見るギキョウ。
「霊になったことで、忘れていた・・・時代は変わっていくと言う事を・・・。」
菊の助は苦笑いからにこやかに微笑み、そう言葉を発する。
「子の成長と言うものは、尊いものですな・・・しかし、菊の助殿は羨ましい・・・死んで尚、そう感じられるのですから。」
ギキョウはそう菊の助に笑顔を向ける。
「・・・そうだな・・・贅沢者だ・・・ひっぱたかれるのも無理もない・・・さぁっ、ゆくぞっ!年端も行かぬ少女に、大人が遅れを取って、どうするっ!」
菊の助はギキョウに笑顔を残し、刀を抜いて先陣を切る。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
その後ろには、裏霊界で暴れ回る冥に目を奪われていた大人達が、冥に負けまいと活気を入れる。
(善朗君っ、今迎えにいくからねっ!)
冥は迫り来る悪霊や怨霊を蹴散らしながら、初めて来たはずの裏霊界を一寸の迷いもなく、突き進んでいく。その視線の先には、確かに善朗の姿を捉えていた。