墓地々々でんな~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~   作:葛屋伍美

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鬼が来たりて

 

 スカイツリーで一般人が入ることの出来る最上のフロアである『天望回廊』。

 その場所に突如として現れたのはどす黒い大きな仰々しい門だった。

 皮肉にも阿吽(あうん)が左右に分けられ彫られたその門は俗に言う。

 

 

 鬼門

 

 

 その門がゆっくりと内側に開く。

 

〔テケテンテンテンッ、ドンドンッ、チチチンチンッ、テケテンテンテンッ、ドドンドンッ、プップクプープッ、テケテンテンッ、チチチンチンッ、トンットンットトトンドンッ〕

 

 門が開いていくと、その隙間から人側が感じる緊張感とは真逆の明るくおどけた音調の曲が木霊してくる。

 

 最初に鬼門から姿を現したのは10匹の楽器を打ち鳴らす鬼共。

 太鼓を鳴らす者、笛を吹く者、思い思いの楽器を手にこれから祭りが始まるかのように陽気にその鬼共は演奏していく。

 

 次に鬼門を抜けたのは三明連。

 顕明を筆頭に大通、小通が脇を固める。

 顕明が手を上げると、ちんどん屋は演奏をピタリとやめて、思い思いに天望回廊を疾走して行く。

 

 それに続くのは85匹の鬼共。

 

 鬼共は初めて来た場所を鼻をひくつかせながら、何かを探すように駆け回っていく。

 そして、しばらくすると一匹の鬼が顕明の傍に近付き、

「顕明様・・・どうも結界が張ってあるようです・・・不思議な透明の膜は我々では突破する事は出来ません・・・が、獲物の匂いは下層から漂ってきております。」

 顕明に事態を取りまとめた鬼が耳打ちして、顕明の判断を仰ぐ。

 

 顕明は鬼門の前にスッと立ったまま、少し辺りに目をやった後に左手を上げた。

 すると、85匹の鬼共が一斉に顕明の前に集まり、ヒザマツいた。

「まずはゴミの施した結界を潰す・・・下層にはそこの不可思議な扉を叩き壊して進め・・・我々が来るまでに路傍の石は処分しろ・・・出来なければ、私達がお前たちを処分する・・・やれっ!」

「御意ッ!!」

 顕明は静かに淡々と鬼共を見下しながら話し、最後には眼光を鋭く突き刺して、命令した。命令された鬼共は深々と皆一同に頭を下げて、脱兎の如く行動に移す。

 

〔ドガンッ、バカンッ〕

 顕明の目の前にあったエレベーターの扉が力尽くでメキメキと壊されて、下層に通じている空洞がその姿を露わにした。

 

 鬼の鼻には十分な獲物の匂いが下層からその空洞を通って、刺してくる。

〔キャキャキャッ!〕

〔ギャギャギャギャッ!〕

 鬼共はその魅力的な甘美な匂いに興奮を抑えられずに、我先にその匂いに導かれるように見知らぬはずの暗黒の空洞に我先にと群がって下りていく。

 

 

 

〔ドゴンッ、ガギギギッ、バカンッ〕

〔ギャハハハッ!〕

〔ドガギャッ、メキョキョッ!〕

 

 

 

 天望デッキフロア350。

 獲物の匂いにつられて、天望回廊から舞い降りてきた最初の犠牲者が賢太の拳によって、顔面をグチャグチャに破壊されて絶命する。

 

〔ギャギャギャッ!〕

 鬼はそんなことなどには関心も示さない。

 

 百鬼夜行を共に歩んだ鬼だろうとも、目の前のご馳走の誘惑には勝てはしない。

 次から次へと天望回廊から鬼共が湧き出して、フロア350へと飛び出していく。ここで都合がいいことに鬼共はエレベーターの通路を下に降りて、フロア345には行かずに、光惹かれる虫のように全員がフロア350に向かった。

 

 そこには、賢太を始めとする主力がヤマを張って待ち構えていた絶好のポジション。95匹の鬼共はここを狩場と定めて、賢太達に襲い掛かる。

 

 鬼の餌場か、鬼を狩る場。

 

「かかってこいやっ!!!!」

 賢太の鬼を迎え撃つ怒声が鳴り響いた。

 

「うおおおおおおおおおおおおっ!!」

 賢太の怒声に呼応するかのように霊界の猛者達が叫びを上げた。

 

 黒と白が混ざりきるのにそれほどの時間はかからなかった。

 鬼に統率などない。

 

 鬼共は思うままに欲へと駆られて目の前の獲物だけを見る。

 人は猛る中も、各々を思い、陣形を乱さずに定めた敵を迎え撃つ。

 戦場において、前者は無謀で無能極まりない愚か者。

 戦場で直ちに姿を消して行く者・・・のはずだった。

 

「うわああああああああああっ!」

「くそおおおおおおおおおおおっ!!」

「ぐわあああああああああああっ!!」

 

 戦場には確かに鬼を討つ者もいたが、それ以上にその魂を消して行く者が多かった。

 

 圧倒的蹂躙。

 

 鬼はただ枝を折るように猛者達を滅消していく。

 それでも、人は鬼に挑み、人の世に捧げる咆哮を叫ぶ。

 仲間が目の前で消えていく中でも、人は心を奮い立たせて、鬼に我先に向かう。

 その次の仲間を信じて、人は一歩も引く事はない。

 

「左翼は少し下がって体勢を立て直してくださいっ!下から援軍を左に厚くっ!」

 ゴウチの背後で必死に声を荒げるのは曹兵衛。

 

 自分に出来る精一杯の仕事をこなす為に、戦場をコントロールしようと頭をフル回転させていく。

 

 それは犠牲の天秤を左と右で調節する感覚。

 

 圧倒的強者にいくら挑んだ所で、蟻は象には勝てない。

 それでも、曹兵衛達は挑まずにはいられない。

 その背後にある子孫達の明日の朝日のために。

 霊界の猛者達は、いわば捨て駒。

 賢太達が目の前の鬼を仕留めて、数を減らすのを待つための要員でしかなかった。

 この場にいる者全てがそれを理解し、そのためだけにこの場に立っていた。

 それでも、曹兵衛は最大限の命の使い方を指示する。

 

 

 

「鬼共っ!どうしたっ!!俺にかかってこんかいっ!」

 賢太が今日一番の怒声を上げて、鬼を挑発する。

 

 

 

 賢太は強い。

 ここで闘う者の中でも随一かもしれない。

 だが、賢太の拳は二つ。

 全ての守るにはあまりに数が足りなかった。

 

「ギャギャッ!」

 賢太を取り囲む数匹の鬼が賢太との距離を取りながら牽制する。

 

 百鬼夜行の鬼共は残忍非道で、狡猾。

 

 鬼共は賢太達を見定めて、弱い者から襲い食らっていく。

 

「惑わされるなっ!お前の拳はなんのためにあるっ!」

 距離を取られて、遊ばれている賢太に武城の叱責(しっせき)が飛ぶ。

 

〔ボゴンッ!〕

 武城のトンファーが今も尚、的確に一匹の鬼の頭蓋を砕いた。

 

〔ザシュンッ!〕

「グギャアーーーーッ!」

 武城の脇でガカクの一閃が、一匹の鬼の首と胴を切り離す。

 

 武城とガカクは相手の動きを的確に読んで、鬼共の数を減らしていく。

 武城達に比べて、賢太が力に振り回されていることの現われだった。

 

 賢太は武城達の戦いぶりを見て、両拳を握りこんだ。

「わかっとるわいっ!このド腐れ共がっ!!」

 賢太は鬼に鬼の形相を向けて、牽制する鬼の距離を一瞬で詰める。

 

〔ドグシャっ!〕

 賢太の一撃が鬼の顔面にめり込み、鬼は体をピクピクと動かせて、肉塊へと変わる。

 

「己等ッ、一人も逃さんからのぉーーーーっ、覚悟せいやっ!」

 どちらが鬼か分からなくなるほどの憤怒をマトッた賢太は息を荒げながら、待ちの体制から動く事を宣言する。

 

 

「オラああああああああああああああっ!!」

「ギャギャギャッ!!!」

 

 

 賢太が打って出ると、鬼共は狡猾(こうかつ)に周囲を囲み、集団で賢太を喰らわんと襲い掛かった。

 

 

 

 

 

「・・・どうだ・・・楽しんでるか?」

 鬼門の闇の中から姿を現した大嶽丸が顕明にそう声をかける。

 

 顕明はサッと大嶽丸の方を向き、跪いて頭を下げた。

「はっ、建物の構造を今探っております・・・結界をすぐにでも壊し、大嶽丸様を外へと滞りなくお連れいたします。」

 顕明は大嶽丸にそう事態を説明して、さらに会釈する。

 

 顕明に従うかのように、大通と小通も顕明の脇に跪いて、大嶽丸に頭を下げる。

 

 大嶽丸は三匹の鬼の事などには目もくれず、徳利に入っている酒を味わう。

「そうか・・・酒が切れる前に頼むぞ。」

 大嶽丸はそう言って、その場にアグラをかいた。

 

「へっへっへっへっ、その徳利の酒なんて大して入ってないだろっ・・・かわいそうなこった。」

 鬼門を大嶽丸の次に潜ってきたのは、もちろん酒呑童子。

 

〔ドカンッ〕

 酒呑童子は肩に担いでいた大樽を地面に乱暴に置いた。

「・・・さっさと終わらせてこいや・・・つまみが欲しくなる前にな・・・。」

 酒呑はそう言うと樽の横にアグラをかいて、自身が持っていた枡を乱暴に樽へと突っ込み、そのまま酒を飲みだした。

 

 酒呑の言葉に反応するように顕明がスッと立ち上がる。

「お前に言われるまでもない・・・大嶽丸様・・・行って参ります。」

 顕明は酒呑を怪訝(けげん)な目で睨むと、大嶽丸に丁寧に会釈して、背後の空洞へと姿を消した。

 

 大通連と小通連も酒呑を睨んだ後に、顕明連を追って、姿を消す。

 

 大嶽丸は消えた部下の事にイチベツするだけで、懐から自身も枡を取り出して、酒呑の酒樽に突っ込んで酒を飲み出した。

「・・・いい酒じゃねぇか・・・さすがだ。」

 大嶽丸はグイッと枡の酒を飲み干すと酒呑にそう褒める言葉を投げる。

 

 酒呑は自分の酒を勝手に飲む大嶽丸を顔をしかめるが、

「チッ・・・当たり前だろうが・・・。」

 酒呑はそう答えるだけだった。

 

 下層では、壮絶な闘いが行われているなど、この場にいる人間にはまず思いもよらない光景だった。二人の鬼はただ酒を楽しみ、飲み比べをしている。

 

 伏魔殿(ふまでん)とかしたスカイツリー。

 台風で家の中に篭る人々はまさか人の世を左右する地獄の釜の蓋を開けんとする鬼がそこに現れたなどとは夢にも思わなかっただろう。

 

 

 

 闇は人知れず、近付き、その想像もつかない膨らみを持って、いつでも飲み込まんとしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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