墓地々々でんな~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~ 作:葛屋伍美
おだやかな歩み
「着きましたよ、善朗君・・・。」
目を閉じていた善朗の耳に優しいナナシの声が届く。
善朗が目を開けると、そこは風がピタリと止んだ浅草寺雷門前。
そこには救霊会の面々が深々とお辞儀をして
『ツクヨミ様・・・その条件でお願いします。』
善朗が高天原でツクヨミの出した『現世に戻るための
今まで渋っていたツクヨミも態度をあっという間に変えて、ナナシを呼び出し、現世へと帰る手はずを素早く整えてくれた。そのかいもあって、
善朗はここに間に合う事が出来た。
「お待ちしておりました、善朗様・・・。」
救霊会長老にして代表であるギキョウが深々と頭を下げて、その名を口にしたのは死神のナナシではなく、善朗の名だった。
「えっ?」
自分よりも圧倒的に歳を取っているギキョウにカシコまられて、善朗は戸惑う。
「それでは善朗君・・・御武運を。」
ナナシは戸惑う善朗に笑みを浮かべながらも、そそくさと光の柱の中へと姿を消していった。
「ええっ?!」
ナナシの素っ気ない対応に更に戸惑う善朗。
ナナシから突然ハシゴを外されて戸惑う善朗だったが、
「善朗様ッ・・・・・・どうか、どうかお頼み申します・・・。」
「ッ?!」
ギキョウが悲痛な声で、丁寧に年端も行かない善朗にそう懇願する。その言葉に善朗が視線をギキョウに向けると、善朗は目を丸くした。
ギキョウは深々と頭を下げて、涙を流していた。
それは少年に頭を下げているからという無粋なものではない。
もはや、それは激流に流される中で掴んだ一本の太い流木のように、地獄の血の池に垂れた一本の蜘蛛の糸のように、一目見て分かる善朗の立ち姿に胸を安らかに包まれ、救いという光に身を震わせているサマだった。
善朗は善朗が思っている以上に、人智を逸脱し、そのカモし出す雰囲気だけで、人々を癒す存在になっていた。
それが神と言うモノなのか。
善朗には想像が及ばなかった。
しかし、ギキョウのその姿が善朗の心を定める。
「出来る限りの事はしますので・・・僕が言うのもなんですが・・・安心して下さい・・・。」
善朗の口から自然と優しく流れ出る言葉にその場の全員が身を揺さぶられる。
その場にいた人も霊も分け隔てなく、膝を崩して、今まで張りつめていた全てのモノからの開放に感謝した。
この方なら。
そう自然と口に出るほどの期待感が善朗に注がれる。
「行ってきます。」
善朗は全身に大きな期待を背負わされるも毛ほども揺さぶられる事なく、ただ純粋に困った人を助けようという一心だけで、その歩みを静かに進め始めた。
浅草寺雷門からスカイツリーまで距離はある。
だが、善朗は急ぐことは無い。
おだやかにゆっくりと現世の道をかみ締めていく。
台風は通り過ぎたのではなく、台風の目に丁度入って、そよ風となっていた。
その風に乗るように
〔・・・シャンッ・・・〕
どこからともなく鈴の音が辺りに響く。
ブドウの様に寄り添いあった鈴が一振りで各々震えて、鈴の音を重ねていく。
神前で打ち鳴らされる15の鈴。古来から鈴は魔よけの霊力があるとされ、神事に際して、巫女が神楽舞の奉納と共に鳴らし、神を招くとされている。
その神楽鈴が善朗が歩くと共に周囲に響き渡っていく。
まずは一つ、シャンとなり、
次に3つ、シャンとなる。
さらに5つ、シャンとなると、最後にシャンと8つなる。
善朗が歩みをゆっくりと進めば進むほど、その8つの音もゆっくりとその道を清めんと打ち鳴らされる。
神の道を清めんと、神の進む道を示せと。
風はいつしか春風となり、咲いているはずのない桜が満開に、善朗の先へ先へと花を散らしていく。その道を彩るように、その歩みを祝福するように。
「・・・善朗。」
雷門からスカイツリーのフモトまで歩いてきた善朗に、優しい佐乃の声が届く。
「師匠・・・遅くなってすみません・・・。」
善朗は佐乃と目が合うと、深々と礼を尽くした。
「・・・もう善朗なんて気安く呼べねぇな・・・。」
善朗の立派な姿に目を潤ませる菊ノ助。
「殿・・・そんなことないですよ・・・俺は俺です。」
善朗が偉ぶらずに菊ノ助に今まで以上に礼を尽くす。
佐乃と菊ノ助、それに秦右衛門達もそこに居た。
菊ノ助達は善朗の件で死神に直訴したものの、反対に高天原の命により、霊界の防衛に専念させられ、百鬼夜行へは手出しを禁じられていた。だが、情勢を垣間見て、居ても立っても居られずに現世に来ていたのだった。しかし、善朗の到着を聞いて、幸か不幸か、スカイツリーに乗り込むのを思い留まった形となった。
「善朗君・・・頼むよ・・・。」
秦右衛門が徳利も持たずに善朗に笑顔を送る。
「・・・任せてください。」
善朗が変わらず笑顔で秦右衛門に答える。
「善朗・・・様・・・いや、善坊ッ!・・・頼むぞっ!」
金太がぎこちない言葉で善朗に苦笑いを送る。
「行ってきます。」
善朗が笑顔で金太に答える。
善朗は一通り、菊ノ助達と言葉を交すと、今にも降りてきそうな妖幕に目をやり、静かにスカイツリーの中へと消えて行った。
「・・・天望デッキ、フロア340に到着します・・・足元にご注意下さい・・・。」
善朗の耳に聞き慣れた懐かしい機械音がエレベーターの到着を告げる。
善朗は神に近付く事で、より実体化がすすんでおり、そのせいもあって、飛ぶ事や透過していく事をせずにエレベーターに乗って、フロア340へと向かった。フロア350にも直通のエレベーターがあったが、まずは乃華達の顔を見ようと思ったからだった・・・のか、
それとも、鬼に呼ばれたのかは定かではない。
「・・・・・・。」
エレベーターの扉が静かに開き、乃華達を挟んで、善朗と酒呑童子との視線が交差する。
酒呑は余りにも場違いな人物の登場に今日一番の驚きを隠せない。善朗は酒呑の鬼気にも何も感じる事無く、歩みを進めて乃華達へと近付いていく。
「・・・待たせて、ごめん。」
「善朗さんっ!」
「善朗君っ!」
「お兄ちゃんっ!」
善朗の言葉に救われたように、乃華達は一目散に善朗へと走って近付き、その身を善朗に預けた。
善朗は3人の少女をシッカリと受け止めて、優しく包み込む。震えている少女達の恐れを穏やかに洗い流していった。
「名は名乗らなくていい・・・善湖善朗だな・・・。」
酒呑がギロリと善朗を見て、そう口にした。
「・・・俺はお前が何者なのかも知らないし、興味もない・・・だが、立ちはだかるなら斬るっ。」
善朗は乃華達から視線を酒呑に戻して、乃華達を脇に優しく導き、大前に左手を添えて、ゆっくりと酒呑との距離を縮めていく。そして、
〔ブオンッ!〕
「赤刀 活火激刀!」〔ゴゴゴゴゴゴゴゴッ、ズバアアアアアアアアアンッ!〕
酒呑の間合いに入るや否や、酒呑の豪腕が空を切る。それと同時に善朗の刀が酒呑の胴を掻っ斬った。
「ぬあああああっ、はははははーーーーーっ・・・いいぞいいぞ、善朗っ!それでこそ・・・これでこそっ、
酒呑は地獄の業火に飲まれながらも豪快に笑って、痛がる素振りもまったく無かった。
〔ブオンッ〕
酒呑は豪腕を空に振るうと、赤刀の業火を瞬く間に消し去った。
「さぁ、始めようぜっ・・・ここからが本当の百鬼夜行だっ!」
酒呑は善朗をギラギラと睨みつつ、止め処ない笑みを溢れさせた。