墓地々々でんな~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~   作:葛屋伍美

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ぬらりひょんの確信

 

〔ゴゴゴゴゴォォォーーーーーーーーッ〕

〔ビュオォォッォオオオオーーーーッ〕

 台風がその猛威を振るわんと近付いてこようとしている東京北部の奥多摩上空。

 

 

 二人の大妖怪がその後ろに自身の軍勢を率いて、今もにらみ合っていた。

「・・・・・・。」

 大天狗とぬらりひょん、ずっと雨風に打たれながらも黙ってお互いをにらみ合う。

 

 

 体勢としては、ぬらりひょん側には万の妖怪の軍勢が控えて、ぬらりひょんの命令をヤキモキしながら待っている。かたや、大天狗の方は千にも満たないか細い軍勢だった。明らかな両者の力関係だが、慎重なぬらりひょんは自分の中にウゴメく不安に戸惑い、今も尚、軍勢を動かせず、大嶽丸との約束通りの行動を100%は遂行出来ていなかった。その約束とは、

 

 

 地上を混沌に落として、現世で鬼が動きやすいようにする。

 

 

 という事で、悪霊や怨霊を焚き付けて目標は9割方達成している。なによりも、大天狗がその能力を使って、大型の台風を呼んだ事により、ぬらりひょんは動く必要すらなかったほどだった。今、この場にぬらりひょんが妖怪の大軍勢を控えさせているのは、百鬼夜行が達成した暁においしい甘い汁の御裾分けに(たか)りに来ている算段だった。そんな算段を大天狗は読んでいた。

 

 大天狗はぬらりひょんとの付き合いが長い。

 

 そのこともあって、ぬらりひょんが百鬼夜行を利用しない手はないと読み、今の状況に至っている。しかし、大天狗の予想を斜め上にぬらりひょんが圧倒的戦力を使わない事に大天狗自体も戸惑っていた。

 

(・・・ぬらりひょんめ、何を考えておるのだ・・・こちらとしては、助かってはいるが・・・・・・何を待っている?)

 大天狗は表情体勢を全く変えずに、ぬらりひょんに思考を読まれないように慎重に己の中で、そう考える。

 

 

 両者が睨み合いに入って、どれほど時間がたっただろうか?

 

 

「・・・・・・どうしたっていうですかっ?ぬらりひょん様ッ!」

 ぬらりひょん側の妖怪の一人が痺れを切らして、ぬらりひょんに語尾を強めて尋ねる。

 

「・・・・・・。」

「うっ?!」

 ぬらりひょんは静かにその妖怪の方へと顔を向けて、無言で答えた。その顔を見た妖怪は目を丸々として、静かに隊列へと戻っていく。

 

 

(・・・なぜだ・・・なぜ動けん・・・何をそんなに儂は恐れておるというのだ・・・。)

 ぬらりひょんも随分と苛立っていた。それも、掴みようのない闇の中から誰かに睨まれているようで、その正体すら、ぬらりひょん自身分からない。それでも、ぬらりひょんの深層心理がずっと待つことを主張している。だが、ぬらりひょん自身は今こそ、大嶽丸に大きな貸しを作る絶好の機会だと明確に思っている。その相反する思考がぬらりひょんを大いに悩ませていた。

 

 

 

 そんな妖怪共の軍勢がドギマギしていると、一筋の光の柱が天からある場所に降り注いだ。

「ッ?!」

 その光の柱に大妖怪を始め、多くの者が目を奪われた。

 

 

 

 その光の柱は如何にも不自然すぎる。

 台風で黒い厚い雲が視界全体に横たわるこの空で、晴れ間の切れ目すら見当たらない状況で起こりえない現象。間違いなく、死神や高天原の神々の誰かの仕業であると、分かるモノはそう判断した。

 

 

「・・・・・・これ・・・は・・・っ。」

 大天狗は次の事象に身震いを禁じえない。

 

 

 光の柱がある場所に降り注いだ後、この世界全体に穏やかな威圧感という摩訶不思議な力の波動が空気を振るわせたのだ。

 

 

「・・・・・・これだったのか・・・。」

 ぬらりひょんはその波動を感じて、今までの自身の中の違和感に決定的な答を導き出した。

 

 

 しばらくすると、光の柱は天上へと吸い込まれるように消えていく。すると、穏やかな波動の第二波がぬらりひょん達を突き抜けていく。

 

 

 

『見ているぞ』

 

 

 

 そう言葉がぬらりひょん達、その場にいた妖怪全員の頭に優しく囁きかけているのが分かった。

 

 

 それが何者なのか?

 

 

 そんなモノはその場にいる妖怪達には関係なかった。ただ、お天道様が常に見ているように邪な考えを見透かしているように、

 

 

 今からなのか・・・今までなのか?

 

 

 心に淀みがある者は自然と深層の奥底から震え上がった。

 

 

〔うわあああああああああああああああっ!!〕

 どこから始まったのか?定かではない。ただ、ぬらりひょんの軍勢の後方からその波は起こった。

 

 一人の妖怪が悲鳴を上げて、何処かへと消えて行った。

 その動きにつられる様にまた一人妖怪が悲鳴を上げて何処かへと飛んで行く。

 その波は十となり、百となり、千となる。

 

 皆が皆、悲痛に顔をゆがめて、逃げるように消えていく。

 

 

 

「ふふふふふふふっ・・・はははははははっ!・・・大天狗ッ!こういうことだったのか・・・貴様、儂をはめようとしておったのかっ!」

 ぬらりひょんは気でも触れたのか、突然大きく笑い出して、大天狗をにらみつけた。

 

 

 

「何を言っておるのだ?・・・。」

 大天狗はぬらりひょんの突拍子もない叱責に驚きを隠せない。

 

 大天狗のわざとらしく映るその態度にぬらりひょんはさらに苛立つ。

「頭脳明晰な儂には通用しなかったなっ!・・・お前がこうもずる賢い奴だったとは・・・ここは素直に褒めてやろうっ!・・・くっくっくっくっくっ、このぬらりひょん様を甘く見たな・・・いやはや、おしかった・・・儂でなければ、身を滅ぼしていただろう・・・。」

 ぬらりひょんは今までの静寂とは真逆の怒涛の口上で、大天狗をまくし立てる。

 

 それはこの凄まじい邪なモノを攻め立てる穏やかな威圧感のせいなのか?

 

 ぬらりひょんは額に大量の汗をかきながら、口早に何かを取り繕うとしていた。

 

 ぬらりひょんは今までまくし立てていた口を真一文字に閉じて、

「すぅーーーっ、ふぅーーーっ、すぅーーーっ、ふぅーーーっ・・・。」

 鼻で隠すこともなく、大きく息継ぎをする。

 

「ぬらりっ・・・。」

「みなまで言うなっ!・・・今回は痛みわけにしてやろう・・・だが、覚えておけっ・・・儂がその気になれば、お前なぞ、いつでもヤれたという事をな・・・。」

 大天狗が豹変する腐れ縁の友に声をかけようとした瞬間、ぬらりひょんが大天狗にしゃべらせまいと再びまくし立てる。そして、

 

 

 ぬらりひょんは大天狗をイチベツして、

「・・・・・・あの小僧を侮ったのが運の尽き・・・しかし、儂を甘く見たのが、お前達の負けじゃ・・・。」

 ぬらりひょんはそう捨て台詞を吐いて、嵐が吹き荒ぶ、荒れ狂う黒雲の中へと姿を消して行った。

 

 

 

「・・・なんじゃったんじゃ?・・・・・・。」

 大天狗は置いてけぼりを食ったように面喰い、ぬらりひょんが消えた彼方に目をやるしかなかった。

 

 

 

「・・・大天狗様・・・。」

 辺りの状況が落ち着いたのを見計らって、一羽の鴉天狗が大天狗に声をかける。

 

「・・・・・・うむ・・・。」

 大天狗はその鴉天狗を見ると、静かに頷いて何かを伝える。

 

 すると、今まで大天狗の後ろに控えていた妖怪の軍勢がある方向を見ながらも散り散りに姿を消して行った。それはこれまでの死を覚悟した死線が終わった事を告げるものだった。

 

 

(・・・オヌシがこれほどの者とは・・・ぬらりひょんが侮ったといっておったが・・・ワシも十分見誤っておった・・・なんという覇気・・・いや、人間の器では最早測れまい・・・。)

 大天狗は皆が惹かれるように見ていた方向に目をやって、張りつめていた肩をなでおろすように安らかな眼差しを向けていた。

 

 

 

〔ゴゴゴゴゴォォォーーーーーーーーッ〕

〔ビュオォォッォオオオオーーーーッ〕

 妖怪共の大集会が終わっても尚、関東全域は今も大型台風の暴風域には変わりない。

 

 

 

「・・・まさに魔除けの石像・・・お前という存在が、ぬらりひょんの中でどれほどの存在だったのか・・・善朗よ・・・お前が万の軍勢を止めたのだ・・・ワシではない・・・・・・感謝するぞ。」

 大天狗は雨風に打たれながらも穏やかな表情を善朗がいるであろう方向に向けた。

 

 

 

 東西に分かれた妖怪大戦争。

 それをとめたのは、善朗という存在と何よりも慎重だったぬらりひょんの思考だった。ぬらりひょんの軍勢が動いていれば、より多くの犠牲が地上に出ていたのは間違いなかった。善朗は百鬼夜行とは直接関係がないものの、その大きくなった存在が遠い場所で功を奏したとは夢にも思わなかっただろう。しかし、実際に万の軍勢を止めたのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

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