墓地々々でんな~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~   作:葛屋伍美

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動き出す悪意

 

「・・・善文、大丈夫?今日は学校休んだら?」

「・・・大丈夫だよ、母さん・・・いって・・・きます・・・。」

 玄関で善文の顔色の悪さに母親が学校を休むように促すが、善文は暗い笑顔で返答して、トボトボと歩き出した。

 

 

 

「・・・・・・。」

 道の少し離れた電柱の影で善文を見守っているとこさんは切なそうな顔でその様子を見ていた。

 

 善朗の葬式から丁度一ヶ月が経ったある日。

 善文の顔色はここ一週間でミルミルと曇り出し、活力と言うものが全くなくなっていた。着実に善朗を死なせた罪悪感を抉る縄破螺の邪念が善文を犯し、闇の底へと着実に導いていた。しかし、当の本人の縄破螺は少し苛立っている。

 

 

 

「・・・チッ・・・だいぶ予定より時間がかかったな・・・。」

 とある廃工場の暗いジメジメした部屋でボロボロのソファーに座っていた縄破螺が舌打ちをして愚痴を零した。

 

「学校にいる時は、あのメスガキが邪魔して殆ど手を出せなかったが・・・まぁ、いい・・・今日でいよいよ仲間入りだぜ・・・善文君・・・。」

 縄破螺はニチャリと笑いながら舌を出して、口の周りをヌルリとなめ回す。

 

 〔ウェ~~~~ンッ、ウゥゥゥゥゥッ、カエリタイヨォオオオ・・・。〕

 今日も心地よい子供達の慟哭が縄破螺の世界を彩り、闇をより深いモノにしていた。

 

 

 

「・・・・・・。」

 善文は生気のない顔でトボトボと亡者の如く歩く。

 

 

 

「・・・えっ?!」

 とこさんは言われた通り、一定の距離を保って善文を出来るだけ見守り守護していたが、善文が学校とは違う方向に歩いてる事に気付いて驚く。

 

(・・・あぁっ・・・ついに・・・。)

 とこさんは何かを察して、背中に冷や汗をかく。

 

「善文君っ!」

 とこさんはわが子のように思わずにはいられない善文の危機に母性の強さを見せて、意を決して、善文に飛びつく。

 

 

 〔ジュワアアアアアアッ〕

「キャアアアアアッ!」

 とこさんが学校から遠ざかろうとするのを止めようと善文に飛びつこうとしたが、善文を覆うネットリとした黒い影がとこさんの身体を焼いて、すごい力で押し戻そうと阻んだ。

 

 

「・・・だめよ・・・善文君・・・負けちゃ・・・だめっ・・・。」

 とこさんは黒い影に押されて、尚も身体を焼かれようとも善文を止めようと身体に手を伸ばす。

 

「・・・・・・。」

 善文はそんなとこさんの姿が見えるわけも無く、縄破螺に導かれるままに歩いていく。

 

 〔ジュワアアアアアアアアッ〕

「アアアアアアアアアアアッ!」

 とこさんが善文に手をかけるも、それをさせまいと黒い影がより一層とこさんを焼こうとする。

 

 そして、ついに善文から黒い影が完全に離れて、とこさんにまとわりついて、善文からさらに遠ざける。

 

「ウグウウウウウウウウウウッ・・・よし・・・ふみ・・・っ。」

 黒い影に完全に覆われたとこさんはそれでも必死に離れていく善文に手を伸ばす。

 しかし、最早、どんどんと離れていく善文にとこさんの手が届く事はなかった。

 

 

「・・・・・・よし・・・ふみ・・・・・・。」

 次第にとこさんの意識が暗い闇へと落ちていく。

 

 

 〔バチンッ!〕

 

 

「・・・あっ・・・。」

 とこさんがもう駄目かと思われたその時だった・・・薄れる意識の中で、冥が影を追い払ってくれたのが見えた。が、とこさんはそこまでで意識がなくなってしまう。

 

「・・・とこさん、良く頑張ってくれたわね・・・絶対消滅なんてさせないから・・・。」

 冥は気を失って、消えかかっているとこさんを抱きかかえる。

 

 

 

 〔ピロピロピロピロピロッ、ピロピロピロピロピロッ〕

 

 

 

「・・・んっ?・・・冥っ?!」

 タクシーの後部座席、突然鳴り出したスマホの着信先を確認した空柾が冥の文字に驚く。

 

「もしもし、冥っ、おまっ。」

「お兄ちゃんッ!急いでっ、急いで辰区の責任者と連絡を取ってっ!お兄ちゃんなら出来るでしょッ!!」

 電話口で冥を叱ろうとした空柾の出鼻をくじくように冥が怒涛に言葉でまくし立てる。

 

「ちょっ・・・ちょっと待てっ!お前は何を言っているんだっ!」

「いいから、連絡してよッ!とこさんが危ないのッ!菊の助って言う人にとこさんが危ないって伝えれば、伝わるはずだからッ!プッ、ツーーッ、ツーーッ・・・。」

「おっ・・・・・・あいつっ。」

 冥に落ち着くように諭そうとした空柾だったが、取り付くしまもなく、冥に用件だけ言われて通話を切られてしまう。

 

「・・・空柾・・・。」

 タクシーの運転手には見えないが、空柾の隣でヒヒロが心配そうな顔を向けている。

 

「・・・まったく・・・要領を得ない・・・霊界との連絡は早々容易くしていいものでもないというのに・・・しかも、一区役所なんて・・・。」

 冥の態度にグチグチと言葉を並べる空柾がスマホを操作する。

 

「・・・・・・あっ、もしもし辰区区役所ですか?そちらに菊の助という人物がいると思うのですが・・・至急お伝えしたい事が・・・。」

 空柾は渋々ではあるが、冥に言われた通りに霊界の辰区の区役所に電話を入れた。

 

 

 

「ハアアアアアアアアッ!」

「マテマテマテマテッ!」

 大前を中段に構えて善朗が金太に物凄い勢いで襲い掛かる。

 その苛烈な攻撃に金太が堪らず、両手を前に出して制止を試みるが、

 

 

 

「善朗ッ!」

「ッ?!」

 金太に斬撃が入る寸前のところで菊の助の大きな声に善朗の動きが止まった。

 

「・・・殿っ?」

 善朗が声に導かれるように視線を向けると、そこには青年姿の菊の助の慌てている姿と秦右衛門の真剣な顔をした仁王立ちの姿があった。

 

「善朗君ッ!時が来たっ・・・もう時間がないッ!」

 腕組みをして善朗に強い口調で秦右衛門が言葉を飛ばす。

 

「・・・ッ・・・。」

 善朗は秦右衛門の言葉に全てを理解して、飛んで菊の助の元に急いだ。

 

「善朗ッ、これをもっていけっ!バン桃だっ・・・とこが危険な状態らしい。無理にでもこれをとこに食わせろッ・・・そして、お前もこれを食っていけ・・・いいなっ。」

 鬼にも似た怒りの形相で菊の助が何かが入った袋を善朗に押し付けた。

 

「・・・えっ・・・あっ、はいっ!」

 善朗は菊の助から袋を受け取ると中に入っている物を一つ取り出す。

 

「・・・善朗君、そいつはねぇ・・・正真正銘の桃源郷の桃。バン桃って言うんだ・・・我々、霊が食べれば、タチマチ霊力が回復する優れもんだよっ。」

 善朗が袋の中から見慣れない平べったい桃を取り出すと、それについて秦右衛門が簡潔に説明してくれた。

 

「とこには時間がねぇ・・・善朗ッ、食いながら行けっ!」

 菊の助の鬼気迫る思いは収まらずに善朗を急かす。

 

「・・・えっ・・・でも・・・何処に行けばいいか?」

 善朗はとこさんのところに行けと言われるが、見当もつかないその場所に戸惑う。

 

「・・・善朗・・・あんたは式霊として、霊能力者と契約したんだろ?・・・気配を探ってみなっ・・・きっとわかるはずだ。」

 菊の助達の隣にスッと現れた佐乃が善朗にそう教える。

 

「・・・けっ・・・気配ッ・・・。」

 善朗は最初戸惑うも、佐乃に言われた通り、目を閉じて、冥の姿を頭の中にイメージしてみた。それが気配を探る事とは善朗には定かではなかったが、それが自然な形だと素直に感じた。

 きっと戦闘狂の主人公の漫画に影響されたに違いない。

 

「・・・・・・あっ?!・・・。」

 目を閉じて、冥の事だけを考え出すと、善朗の頭の中に冥が今、現世でとこさんの事を心配している姿が浮かび上がってきた。

 

「・・・気配を掴めたね・・・それじゃぁ・・・それを頼りに現世に行こうかっ。」

 善朗が気配を掴んだ事を察して、佐乃が次の行動を説明する。しかし、

 

 善朗はキョトンとした表情で尋ねる。

「・・・・・・どうやってですか?」

「アッ?!」

 善朗には乃華を介してしか現世に行かせてなかったと気付いた一同が顔を見合わせる。

 

 

 

「ちょっとっ!置いてかないでって、いってるじゃないですかっ!」

 不安に襲われた一同の耳に頼りになる女性の声が届く。

 

 

 

「・・・ひぃ~~~んっ・・・乃華ちゃん、早いよぉ~~~っ。」

「だから、なんであんたまで来てんのよッ!」

 声のする方向に一同が目をやると、そこには懸命に走ってくる乃華と伊予の姿があった。

 

 二人とも慣れないスーツ姿で菊の助達についてきていたようだった。

 

「ちょうどよかった嬢ちゃんッ!善朗を現世に連れて行ってくれっ!」

 乃華に飛びついて喜ぶ菊の助。

 

「ちょっ?!・・・連れて行くも何も、貴方達が私達を置いていったんじゃないですかッ!」

 力強く両腕を菊の助に掴まれて、乃華は一瞬焦るが、置いていかれた怒りで菊の助の手を振りほどく。

 

「・・・あぁっ・・・悪かったよ、乃華ちゃん・・・今、本当に急いでるからさ・・・。」

「分かってますよっ!だから、私達もこうやって急いできたんじゃないですかッ!」

 頭をかきかき秦右衛門が乃華に謝ると、乃華が怒りを撒き散らすように大声を張り上げる。

 

「・・・のっ・・・乃華さん・・・。」

 バン桃を持って、乃華達の様子を伺っていた善朗が声を掛ける。

 

「何してるんですか?!・・・話によれば、とこさんが危ない状況だそうじゃないですか!急ぎますよッ!!」

「えっ?!」

「あっ、乃華ちゃんっ、マッテエエエエエエエエエッ!」

 バン桃を持ったままの善朗の腕を取って、乃華が空中へと飛び出す。

 それを慌てて、伊予も後を追う。

 

 忙しなく飛んでいく3人を菊の助達は、少し気が抜けたように安心してみていた。

 

「・・・まったく・・・忙しないねぇ・・・。」

 肩を落として、佐乃がため息混じりに言葉を吐く。

 

「・・・佐乃・・・実際どうなんだ?」

 善朗達の小さくなる姿を見ながら、菊の助が善朗の成長を佐乃に尋ねた。

 

「・・・丁度半分ぐらいだったよ・・・もう少し時間があればね・・・。」

 佐乃のいっている言葉はシビアだが、表情はどこか安心しているのか柔らかかった。

 

「・・・待て待て・・・あれで半分かよ・・・。」

 寸での所を菊の助に救われた金太が、タオルで身体を拭きつつ言葉をこぼす。

 

「・・・実際どうなの?・・・勝てそう?」

 秦右衛門が金太の様子に胸を躍らせるも、佐乃にちゃんと聞いてみる。

 

「・・・やってみなくちゃ・・・わからんね・・・。」

 佐乃は一目、秦右衛門の方を見て、腕組みをして目を閉じながら鼻で笑う。

 

 

「・・・念には念をいれておくか・・・。」

 菊の助が仁王立ちして、善朗達の消えた空を眺めた。

 

 

 

 

 

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