墓地々々でんな~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~ 作:葛屋伍美
「・・・パパッ・・・アッ?!」
乃華は突然現れた光の柱に向かって、思わず出してしまった言葉を両手で口を塞いで、やり過ごそうとする。
「・・・乃華・・・仕事中だぞ・・・。」
光の柱から一人の男性が姿を現して、乃華に注意する。
光の柱から現れた男性は、ザ・紳士と言わんばかりに上から下まで綺麗にまとめられたタキシードを着こなし、両手に白い手袋をちゃんとして、左手にはスティックを、右手で頭に被っている立派なシルクハットのつばを掴んで抑えている。左の胸ポケットにはちゃんと白いハンカチが刺さっており、首元に映える黒い蝶ネクタイも艶やかだった。
「きゃあああああああああっ!」
「うわあああああああああっ!」
そのザ・紳士の姿を見て、善朗を囲んでいた子供たちが怯え出す。
「・・・あっ・・・ごめんごめん・・・こっちの方が分かりやすいかと思ってたんだけど・・・子供達がいるもんね・・・おじちゃんが悪かったよ・・・。」
紳士はそう言うと顔につけていたガイコツのマスクをパッと取って、その場に投げ捨てた。
マスクは床に落ちる前に、空中で光の粒となって消えさる。
そのマスクの下から現れた紳士の顔は透き通るように白く、髪は銀色にサラリと流されて、丁寧に長さを調節して、サイドは耳に掛からないように、前髪も眉毛に掛からないように整えられていた。
「・・・まっ・・・まさか・・・。」
ガイコツのマスクとその神々しい存在に空柾は紳士の正体を絞り込む。
「・・・断凱の次は、ナナシ様の登場かい?」
佐乃が次から次に現れる思ってもみない存在にウンザリしたように言葉を吐き捨てる。
「・・・佐乃ちゃん、そんな投げやりな言い方しないでよ・・・。」
ナナシは佐乃の対応に少し肩を落として残念がる。
「・・・死神殿が、わざわざ何のようだ?」
菊の助がナナシの存在に少し身を強張らせる。
「警戒しなくてもいいよ、菊ちゃん・・・私がここに来た理由は、君の所の坊やじゃないから・・・。」
警戒する菊の助に微笑み向ける死神ナナシ。
「・・・やっ・・・やはり・・・冥、お前も頭をっ・・・。」
「・・・えっ・・・ちょっ・・・。」
死神の存在に空柾は慌てて頭を深々と下げ、失礼の無いように冥の頭も抑えて下げさせた。
「・・・ハハハッ、死ぬ間際じゃない人間の前に姿を現したのは何百年ぶりかな?」
空柾達にも柔らかい微笑みを向けるナナシ。
「・・・ナッ・・・ナナシ様・・・今回はその・・・。」
善朗を抱きかかえたまま、乃華はナナシに釈明しようと言葉を考える。
「・・・この子が善朗君?・・・いい魂の色をしているね・・・君が入れ込むのも分かる。」
「えっ・・・ちがっ・・・私は別に・・・。」
ナナシが善朗の顔を見て、ヒザマズキ、乃華に視線を流して、悪戯にニヤケる。
乃華はナナシの言葉に頬を赤らめて、慌てて否定する。
「・・・・・・。」
ナナシの存在におびえている子供達がそれでも、善朗から離れずに黙ってみている。
「・・・いい子達だ・・・お兄ちゃんとちゃんとお別れしたいんだね・・・。」
子供達の顔を一人残らずゆっくりと見渡して、ナナシがソッと右手で善朗の身体に触れる。
すると、善朗の身体が柔らかな光に包まれていき、眉間を寄せていた善朗の顔が穏やかになる。
「・・・うぅっ・・・あっ・・・。」
すると、穏やかになった表情の善朗の意識が戻ってくる。
「善朗君ッ。」
乃華が善朗をジッと見て、少し強めの口調で名前を呼ぶ。
「・・・あぁっ・・・乃華・・・さん・・・。」
善朗はぼやける視界と頭を抱えながら上体を起こして、頭を軽く振った。
鮮明になる視界に飛び込んできたのは名も知らない紳士の柔らかな微笑と見覚えの無い子供達の笑顔だった。
「おにいちゃん、おはよう。」
「お兄ちゃん、おは~~。」
「おにいたん、おあよう。」
善朗は次から次に自分にしがみ付いてくる子供たちに驚くも、その暖かなぬくもりに身を震わせていた。
「・・・善朗君、頑張ったね・・・私からは立場的にお礼を言えないが・・・頭を下げさせてもらうよ。」
ナナシはそう言うとシルクハットを右手で取って、自分の胸の前に持っていき、軽く会釈をした。
「・・・あっ・・・あの・・・。」
突然、頭を下げられて困惑する善朗。
「・・・あぁ・・・自己紹介をしなくちゃね・・・。」
ナナシはそう言うとハットを被りなおして、立ち上がり、服装を直す。
「オホンッ・・・私は霊界の運営と管理を任されているナナシという者です・・・皆さんからは色々な名前を付けられているんですが、死神と言えば、大体の人が分かってくれます。」
ナナシは背筋をきちんと伸ばし、丁寧に善朗に向かって自己紹介をした。
「・・・こっ・・・これはどうも・・・。」
善朗は余りにも丁寧な挨拶に思わず正座をして、背筋をピンと伸ばして、自然と頭をたれた。
「・・・ナナシ様・・・やっぱり・・・。」
乃華が善朗の隣で同じく正座をして、ナナシを悲しい顔で見上げる。
「・・・・・・。」
ナナシはジッと乃華を見て、最後に静かに一度首を縦に振る。
「・・・えっ・・・どういうことですか、乃華さん・・・。」
善朗は子供達にしがみ付かれながらも、それを全身で受け入れつつ、悲しそうな顔になっている乃華にその理由を尋ねた。
「・・・さぁ、子供達・・・お礼も済んだなら、そろそろ逝こうね・・・。」
乃華が善朗の質問に答える前に、ナナシが両手を広げて、子供達を誘導する。
「・・・えっ・・・。」
ナナシの言葉に素直に従い、善朗に群がっていた子供たちがナナシの方に歩いていく。その光景に善朗は口を開けて驚き、キョロキョロと子供たちを見ていく。
「・・・死神のすることは、決まってる・・・。」
乃華が塞ぎこんで善朗と目を合わさない。
「・・・・・・。」
要領を得ない善朗がナナシの顔を見る。
「・・・この子達を・・・地獄に連れて行くんだよ・・・。」
ナナシは柔らかな、そして、優しい悲しみをにじませる微笑で、さも当然の事のように善朗にそう告げる。
「なっ?!」
ナナシの口から告げられた思いも寄らない言葉に善朗の全身に強い電撃が走り抜ける。
「・・・どんな理由があろうとも、自殺は自殺・・・天から与えられ、親の痛みからうまれた命を自ら絶つことは非常に重い罪なんだ・・・その罪はしっかりと地獄で洗い清めないとね・・・。」
シルクハットで視線を隠して、ナナシが善朗に説明する。
「・・・まっ・・・待ってくださいッ!」
善朗が思わず正座したままナナシに詰め寄り、大声をあげる。
「・・・この子達は縄破螺に苦しめられて、自殺したんですよっ・・・どこに罪があるって言うですかっ・・・責任があるなら、縄破螺が全部背負えばいいじゃないですかっ!」
善朗は理不尽な制裁にナナシにさらに詰め寄って声を荒げる。
「・・・悪霊に魅入られたからといって、自殺に例外はないんだよ・・・どんなに苦しい現実でも生きたいと願う者もいる世の中だ・・・そこは公平に厳しくしないとね・・・。」
ナナシはそう淡々と言うだけだった。
「・・・・・・わかりました・・・俺がその子達の変わりに地獄に行きますっ!・・・どんな責め苦にも耐えますッ!・・・だから・・・だから、その子達を助けて下さいっ!」
善朗はすごい勢いで床に頭を打ち付ける勢いで土下座をし、ナナシに頼み込む。
「何言ってんだっ、善朗っ!」
善朗の申し出に菊の助が声を荒げて、慌てて善朗に駆け寄る。
「・・・・・・。」
ナナシは黙っている。
「・・・おかしいよ・・・なんで、あれだけ苦しんだこの子達が地獄に行かないといけないんですかっ・・・自殺は絶対しちゃいけないけど・・・望んだんじゃないんだよっ!」
善朗は大粒の涙を流して、床を両手で握りこむ。
「・・・ごめんね、善朗君・・・君の言ってることは当然だ・・・だけど、魂のけがれは誰かが肩代わりする事は出来ないし、自殺と言う罪も、自分で認めて正さないといけないんだよ・・・それほど、重い罪なんだ・・・。」
ナナシは目線を善朗に合わせるようにヒザマズキ、優しい微笑を善朗に向ける。
「・・・なんでですかっ!・・・なんで・・・。」
善朗は世の不条理に納得できなかった。
「お兄ちゃん、ありがとう。」
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう。」
「おにいたん、あーがとね。」
悲しみに押しつぶされそうな善朗に子供たちが優しく声を掛ける。
そして、一人一人善朗に触れて、一人一人善朗に微笑んで、一人一人感謝の言葉を善朗に送り、ナナシの後ろにある光の柱の中へと笑って、消えて行った。
「・・・乃華・・・その時が来たら・・・よろしく頼むよ・・・。」
「・・・はい。」
ナナシはスッと立ち上がり、善朗に浅い会釈をして、子供たちが消えた光の柱に入っていく。
乃華はナナシが告げた言葉に一言、静かに答える。
「・・・善朗君、君の魂は実に綺麗だ・・・その魂をもっと磨きなさい・・・私も影ながら君を見ているよ・・・子供達も同じだ・・・。」
ナナシは光の柱の中で溶けながら善朗に最後の言葉を残していった。
光の柱がナナシを消すと、スゥッと細くなり、静かにその存在を天へと返した。
「・・・・・・。」
光の柱が消えた建物の天井を善朗は見ているしかなかった。
弟の善文は助ける事が出来たが、縄破螺によって、最後の最後まで苦しめられた子供たちを救う事が出来なかったのが、大きな傷を善朗の魂に刻み込んだ。
善朗含めて、口を開けるものはその場には誰一人いなかった。
「・・・・・・善朗・・・。」
重苦しい、後味の悪い雰囲気にそれでも声を開くべきだと覚悟を決めた佐乃が、善朗に近付いて、目線を合わせて、優しく名前を呼ぶ。
「・・・うぅぅぅっ・・・うわああああああああああっ!」
善朗は佐乃の胸の中で泣き喚いた。
佐乃はそんな善朗をわが子のように受け止めて、母親のように包み込む。