墓地々々でんな~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~ 作:葛屋伍美
善朗と虎丞が並び立つ。
「・・・・・・。」
二人は静かににらみ合っている。
本堂の中央で、誰も二人の邪魔をする者はいない。
これからいよいよ、縄張り争いの最後の闘いが始まろうとしていた。
本堂の中央で佐乃、菊の助、虎丞、善朗が円を作っている。
「・・・文句が後々でないように、しっかりと決めておこうじゃねぇか?」
菊の助が音頭を取って、口を開く。
「・・・勝っても負けても恨みっこなしだよ、虎丞っ。」
腕組みをしている佐乃が虎丞を睨んで言う。
「・・・・・・。」
虎丞は何か納得が行かずに誰とも目を合わせない。
(・・・どうなってんだ・・・。)
善朗はさっきまでの自分が嘘のようにオドオドしていた。
「・・・虎丞、この勝負は滅消は禁止だ・・・お互いが気を失うまでとする・・・滅消すれば、この菊の助が全力で潰す・・・。」
菊の助は虎丞だけを睨みながら、そう忠告した。
「・・・それで、いいんだな?」
虎丞が菊の助を睨み返して、尋ねる。
「・・・あぁっ、いいよ・・・この勝負に勝った方に負けた方が無条件でつく・・・縄張りも何もかも差し出すんだ・・・。」
菊の助が答える代わりに、佐乃がニヤリと笑って言う。
「・・・後悔するなよ・・・佐乃っ・・・。」
今度は佐乃を見て、虎丞が凄む。
「ふふふっ。」
虎丞の凄みに鼻で笑って返す佐乃。
(・・・なんで、こんなことに・・・。)
まったく話について来れない善朗の身体は、戸惑いと不安で震えていた。
(しっかりせぬか主殿っ・・・みんなの期待に応える時ぞっ。)
善朗の頭の中で大前の意気揚々とした声が響く。
(・・・その期待が重過ぎるんだよぉ~~~・・・。)
善朗は心の中で号泣する。
「・・・・・・。」
虎丞はさきほどとはまるで違う善朗の様子を黙って観察している。
(・・・どういうことだ・・・さきほどまでは野に放たれた野獣のような人間だったのに・・・同じ人間とは思えない・・・歳相応の少年ではないか・・・。)
余りにも歳相応の善朗に虎丞は困惑している。自分なら、とてもこんな少年に組織の命運を任せようとは思えなかった。
「すぅ~~~っ、ふっ。」
善朗は虎丞とにらみ合いながら、覚悟を決めて、息を身体に溜め込む。
(・・・前言撤回か?)
虎丞は善朗の気配が少し変わったことに考えを改めようとする。が、まだまだ先ほどまでのギラツキには程遠いと感じていた。
先にしかけたのは善朗だった。
〔ダッ、ガキンッ!〕
床を勢い良く蹴って、虎丞との距離を一気に詰め、上段から大前を振り下ろす。
(・・・なるほど、なかなかの一撃だ・・・だがしかし・・・。)
虎丞は挨拶代わりの一撃を意図も容易く左腕一本で受け止めて、善朗の顔を見る。
〔ブオンッ〕
虎丞は左腕で善朗の一撃を受け止めた状態で、宙に浮いたままの善朗に右の豪腕を振るう。
善朗は透かさず、宙を舞って、虎丞と距離を取り、大前を中段に構える。
善朗の口角が無意識に少し上がっていく。
「・・・・・・。」
菊の助は善朗の変化を逃さない。黙ったまま、その様子をしっかりと見ている。
「・・・・・・。」
佐乃も菊の助と同じようにいつもの場所に正座をして、ジッと善朗の成長と変化を見ている。
善朗はジッと自分を見る虎丞にお構い無しに突っ込んでいく。
〔ダッ、ガキンッ、ガキキンッ、ガキンッ・・・ドスッ!〕
今度は一撃を軽くして、連撃で虎丞を襲う。連撃に虎丞はガードを固めて、様子を伺う。と、動かない虎丞のボディの真ん中を善朗の蹴りが入る。
「ヌッ?!」
刀だけかと思った虎丞に思わぬ一撃が入った。虎丞は咄嗟にお腹に力を入れて、善朗の一撃に耐えるが・・・。
「・・・善朗、あんたは縄破螺の戦いの時に斬る事だけに、専念してたみたいだね・・・。」
「・・・はっ・・・はいっ。」
佐乃が腕組みをしながら善朗に縄破螺の戦いのことを尋ねる。
善朗は直立不動で素直に返事をする。
「・・・まったく・・・ちゃんと教えただろう?霊体っていうのは思いだ・・・飛ぼうと思えば空も飛べるし、人を吹っ飛ばそうと思えば、吹っ飛ばせる・・・全然、分かってないじゃないか・・・。」
佐乃は善朗から縄破螺との戦いを善朗なりに説明してもらった後にそういって呆れた。
「・・・・・・。」
要領を得ない善朗は困惑するしかなかった。
「・・・いいかい?斬るって思っただけなら、敵を斬れるが、敵はその場で斬られるだけだ・・・そうなると、あんたはあんたの攻撃に耐えた敵の次の攻撃を、目の前で警戒しなければならないだろ?だけど、斬って吹っ飛ばすっていう思いを乗せれば、敵は斬られると同時に斬撃に乗った衝撃を受ける・・・状況に応じて、そういうのを使い分ければ、敵と距離を自然と取る事も出来るし、吹っ飛ばさずにその場で連撃を叩き込めれる。そうすれば、縄破螺との闘いでもあんたは相打ちにならずにすんだ筈だよっ・・・いいかい?もう一度言うよっ、霊の戦いは、思いを乗せて闘う事を忘れるんじゃないよっ。」
「ハイッ!」
佐乃が未熟な善朗に淡々と丁寧に霊の闘いについて説く。
善朗は佐乃の親切丁寧な教えに心が躍り、自然と声も大きくなった。
虎丞が思わぬ攻撃で怯んだのを善朗は逃さない。
〔ギュルンッ・・・ドガンッ!!〕
「グォッ?!」
その一瞬を狙っていたかのように、空中で縦回転をして、大前を上段から虎丞の左鎖骨に勢いをつけて入れる。善朗の一刀は見事に虎丞の鎖骨に入り、そのままの勢いで、虎丞を斬るだけではなく、床に叩きつけた。本堂の中央から砂埃が吹き上がる。
倒れこんだ虎丞をぎらついた善朗の目が射抜く。
「・・・・・・。」
「グゥッ・・・。」
虎丞はその目に背筋に一瞬電気が走り、覚悟を決める。
虎丞は善朗の上段の構えを見て、透かさず懐に飛び込んでタックルを放つ。
「ヌオオオオオオオオオオオッ!」
「ッ?!」
善朗は虎丞の捨て身の攻撃に一瞬驚く。
虎丞のタックルが決まった。
〔ガッ・・・ドオオオンッ!〕
かのように見えたが、善朗は瞬時に攻撃態勢から防御態勢に変え、虎丞の身体を台に後方に勢い良く自ら飛んだ。しかし、余りにも強い虎丞の攻撃の衝撃に善朗は本堂の天井を突き抜ける。虎丞の攻撃に善朗の心は奮え、口角が更に少し上がる。
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
善朗と虎丞は最早、お互いしか目に入らないほど、集中しきっていた。善朗はゆっくりと空から降りて、虎丞とにらみ合う。虎丞も深く身体を落として、善朗だけを見て構える。
本堂の上座には、佐乃と菊の助、十郎汰の3人だけが残り、他の門下生は出入り口から見るように移動した。虎丞組の組員達もあまりにも常軌を逸した戦いに、自ずと身体が動いて出入り口の方に移動する。見たい思いを殺して、闘いに巻き込まれまいとする者達は自然と秦右衛門達の後方へと隠れてみている。
(・・・なんや・・・これが、ホンマもんの喧嘩っちゅうことかい・・・。)
賢太が秦右衛門の隣で身を震わせて、歯を食いしばり、拳を握りこむ。
「・・・・・・。」
秦右衛門は善朗達の戦いを見つつ、賢太の様子もチラリと見て、ニヤけていた。