墓地々々でんな~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~   作:葛屋伍美

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大前と闘々丸

 

 12人衆の会談が行われるよりも少し前、善朗達はヒヒロがちょうどすれ違いでいなくなった武家屋敷の一間で菊の助達と正座で向き合っていた。

 

 

「あやつは今、どこにおるっ?」

 大前が乃華から闘々丸の話を聞いてから、ずっと鬼気迫る表情を崩す事無く、菊の助に尋ねる。

 

 

「・・・・・・正直に言うぜ・・・わからねぇ・・・ただし、動き出した事は間違いねぇ・・・。」

 青年菊の助が腕組みをして、神妙な面持ちで大前と真正面から向き合い、答える。

 

「大前様、我々も全力で探しておりますので・・・どうか、早まらないようにお願い致します。」

 秦右衛門が丁寧に土下座をして、付喪神大前に頭を下げて、謹んで進言する。

 

「わかっておるっ・・・ワシは今は善朗の刀じゃ・・・ワシが考えておるのは、主の身よっ。」

 大前が横にいる善朗を真剣な目で見ながら秦右衛門に答える。

 

(大前は、闘々丸っていう悪霊の名前を聞いてから、本当におかしい・・・それに、殿達も、秦右衛門さん達もいつになく真剣だ・・・一体、闘々丸って言う悪霊はなんなんだろう?)

 善朗は大前の視線に目を泳がせて、菊の助や秦右衛門達の様子をキョロキョロ見て、落ち着きがない。

 

「善朗・・・闘々丸の事は何処まで聞いたんだ?」

 戸惑っている善朗の雰囲気を察した菊の助が善朗に闘々丸について尋ねる。

 

「えっ?!・・・いや・・・乃華さんが教えてくれたんですが、そこで大前の様子が変わって、ここに慌ててつれてこられたので、名前以外は・・・。」

 善朗は大前をチラリと見てから、部屋の後ろの方でチョコンと正座で控えている乃華に目を向けて菊の助に正直に答える。

 

 話を振られた乃華はいつもとは違い、身を縮こませている。

「・・・・・・。」

 乃華は完全に部屋の雰囲気に飲まれて、黙って善朗や菊の助に向かって、軽くお辞儀をするだけだった。

 

 目を閉じて、腕組みをして、菊の助が背筋を正す。

「・・・ちょうどいい・・・一族の事だ・・・他人様の口から説明するよりは俺の口から話せる機会がもらえた事に感謝しよう・・・。」

 菊の助は一息入れた後、ゆっくりと言葉を選んで話しだす。善朗はその菊の助の姿勢に息を呑んだ。

 

 

「単刀直入に言うぜっ・・・闘々丸って言うのは、大前の妹みたいなもんだっ。」

「っ?!」

 菊の助が善朗に伝えた闘々丸についての言葉に善朗と乃華に衝撃が走る。

 

 

「刀っていうのはな・・・戦で用いる物と、正装として携帯する物で別れるんだが、大前盛永は俺と一緒に戦場を駆け抜けた刀だっ・・・俗に言う打刀っていうやつでな・・・闘々丸っていうのは、大前と一緒に作られた脇差なんだよ・・・。」

 菊の助が善朗に対して、丁寧に大前と闘々丸の関係を話していく。

 

 

 菊の助曰く、大前は打刀として、戦場で共に闘い、生涯離れず共にいた戦友だったのに対し、闘々丸は脇差という事もあり、戦場に持っていくこともあるが、基本的に正装の時に大前と一緒に腰に差すことが多かったという。そして、菊の助が死亡した後、大前は大事に一族に受け継がれていたのだが、脇差の闘々丸は忽然と姿を消して、行方知れずとなってしまったという。

 

 

 菊の助が闘々丸について話した後、時代が移り変わるかのように秦右衛門が口を開く。

「殿がなくなってから、私と金太の時代に移った頃、血をすする妖刀として、闘々丸の名前がちらほら、出てきてね・・・。」

 秦右衛門がピンと背筋を伸ばして、善朗に向けて、丁寧な姿勢を崩さずに続いていく。

 

 秦右衛門曰く、自分達の時代に失われた家宝の脇差闘々丸の名を耳にして、秦右衛門達なりに探してはいたものの、結局、噂話の域を出なかったという。しかし、

 

 

 

「一度だけ・・・たった一度だけ、闘々丸が我々一族の前に姿を現した事があったんだよ・・・妖刀となった闘々丸は人を操り、人を殺し、一族の者にこう聞いたんだ・・・『大前は何処だ?あの裏切り者はどこだ?』と・・・、その時、一族の者は闘々丸に殺されそうになったんだが、その危機を救って下さったのが、他でもない。すでに付喪神となって、我々を守護して下さっていた大前様だったんだよ・・・なぁ・・・。」

「・・・・・・。」

 秦右衛門は最後に金太の方を見て、話を終える。話を振られた金太だったが、俯いたまま、小刻みに震えて黙っているだけだった。

 

 

 

「・・・あの時、ワシが取り逃がしたせいで・・・闘々丸はまた、多くの罪を重ねてしまった・・・。」

 大前が腕組みをして、目を閉じて、眉間にシワを寄せる。

 

 秦右衛門が話を終えると、菊の助が正座からアグラに変えて、両膝に手をついて、善朗に向かって前傾姿勢を取る。

「今まで、闘々丸は大前に返り討ちになってから、ひっそりと身を潜めて、機会を伺ってたみてぇだっ・・・もちろん、奴の狙いは大前だ・・・これだけ慎重だったあいつが、大手を振って、表に出てきた・・・それはつまり、その機会が来たってことだろうよぉ・・・。」

 菊の助は少し笑みを浮かべて、善朗を真っ直ぐ見る。

 

 

 

「・・・俺が闘々丸を止めるってことですか?」

 善朗が恐る恐る結論を口にする。

 

 

 

「最終的に行き着くのは、そこになるっ・・・残念ながら、付喪神の譲渡はそう簡単にホイホイ出来るもんじゃねぇ・・・今回の譲渡の件がワシの責任なのは責められてしかるべきだ・・・すまねぇなぁ善朗・・・。」

「そっ、そんなっ・・・殿が謝らないで下さいっ?!」

 菊の助が話し終えると、深々と善朗に対して頭を下げた。菊の助の謝罪に善朗は慌てて、菊の助に近付いて、顔を上げるように手振り素振りで慌てながら促す。

 

「いや、善朗・・・お前が縄破螺と戦う事になると決まって、大前を渡したのが、かえってお前に迷惑を押し付ける形になっちまって・・・本当に、すまねぇっ。」

「やめて下さいってっ!」

 善朗が頭を上げるように懇願するも、謝罪を続ける菊の助。その姿にさらに善朗があたふたする。

 

「こんな不甲斐無い当主で、本当にすまねぇなっ。」

 悔しさの余り、涙目を善朗に向ける菊の助。

 

「殿は何も気に病むことはないですよっ・・・俺が・・・俺がどこまで出来るか分かりませんが、闘々丸っていう妖刀を大前と一緒に止めますからっ。」

「そうかっ!よしっ!!」

 善朗が、半ば強引に闘々丸討伐を了承すると、待ってましたと言わんばかりに菊の助は途端に笑顔になって、立ち上がった。

 

 

 

「えっ?!」

 その菊の助の様子を見ていた善朗と乃華が目を点にして、唖然とする。

 

 

 

「よしっ、秦右衛門っ!後を頼むぞっ。」

「御意っ。」

 菊の助が呆けている善朗達を横目に素早く秦右衛門達に声を掛ける。菊の助の号令に従い、秦右衛門と金太が軽く会釈をして、部屋から足早に姿を消した。

 

「あの~・・・殿?」

 善朗が恐る恐るニコニコしている菊の助に声をかける。

 

「善朗っ、良くぞ言ってくれたっ!さすがは我らが一族の男児よっ!」

 菊の助が扇で顔を仰ぎながら胸を張っている。

 さっきまでの暗い空気が支配していた雰囲気は最早どこにもなかった。

 

「えっ、ええっ・・・あの・・・。」

 今までの雰囲気とは180度違う雰囲気に飲まれる善朗。

 

「主よ、ワシもついておるっ・・・闘々丸なんぞ、一捻りじゃっ!」

 善朗の横にいた大前も毒気が抜けたように、今はニコニコしている。

 

 

 

「・・・はめられた・・・。」

 乃華が善朗達の様子を見て、誰にも聞こえない小さな声でボソリと言葉を零し、うな垂れた。

 

 

 

「何っ、善朗よ、心配はいらんっ!・・・闘々丸と闘うに当たって、ワシが直々に稽古をつけてやるっ!!」

 菊の助が戸惑っている善朗を見て、善朗が望んでもいないあさっての方向の言葉をかける。なにやら、善朗の頭の上を越えて、話がトントン拍子に前に進んで行く。

 

「けっ・・・稽古?」

 善朗は千尋の谷に突き落とされながらも必死に落ちまいと崖に食らいついていく。

 

「主よっ、よかったなっ!菊の助は『虹色の刀士』と言われる霊界随一のツワモノぞっ!なかなか、稽古をつけてもらえる機会も無いっ。運がいいのぉ~・・・。」

 大前も立ち上がって、胸を張り、笑顔を善朗に向ける。

 

「えっ・・・虹色?」

 大前から聞き覚えのない言葉を聞いて、復唱する善朗。

 

「なっはっはっはっ、虹色の刀士かっ・・・弟子に稽古をつけるのは何十年ぶりじゃろうなっ。」

 大前と一緒に大笑いし始める菊の助。

 

「あははっ・・・稽古ですか・・・今からでも・・・間に合うんですかね?」

 善朗は完全に菊の助達の空気に飲まれて、苦笑いをするしかなかった。

 

「そうじゃっ、時間が惜しいっ・・・こうなれば、奥の手、桃源郷じゃなっ!」

 善朗の疑問にスッパリキッパリ菊の助が解答を出す。

 

 

 

「桃源郷っ?!」

 菊の助の思わぬ言葉に、善朗と乃華は度肝を抜かれて、目を見開いた。

 

 

 

 

 

 

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