墓地々々でんな~異世界転生がしたかったけど、うまく逝けませんでした~   作:葛屋伍美

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年長者としての導き方

 しっぺい太郎が姿を消した後、賢太が辺りを見回していると

 

 〔パァーーーーンッ〕

 静かな田舎の空に乾いた破裂音が響き渡る。

 

 〔ワオーーーーーンッ、ワンワンッ!〕

 破裂音に対して、威嚇するように何処かの犬が遠吠えをしている。

 

「・・・なんだ?」

 賢太は静かだった田舎の風景が一変するのに眉をひそめた。

 

 賢太が眉をゆがめていると、賢太の耳に荒れた心を癒すような柔らかな声が届く。

「安心して・・・ただの威嚇のための空砲よ・・・最近、お猿さんが山を降りて来て、民家の納屋とかを荒らしているから、人里から遠ざける為に仕方ないのよね・・・。」

 アヤメが屋敷から賢太を静かに追って出てきていて、騒がしい理由を丁寧に賢太にそう説明する。

 

「・・・茶畑ばっかなんやろ?猿が食うもんなんて、あらへんやろ・・・。」

 賢太が未だに周囲を警戒しながらアヤメに尋ねる。

 

「そうねぇ・・・畑が荒らされるって言うのはないけど、人が住んでいる場所には食べ物は必ずあるからね・・・お猿さんも賢いのよね。」

 アヤメが柔らかい表情で山々を見ながらそう答える。

 アヤメ自身は、山の猿と仲良く共存したいと望んでいるのが、言葉からヒシヒシと伝わってくる。

 

「山には食いもんはないんか?」

 賢太がアヤメのほうに顔を向けて、尋ねた。

 

「今年に限っては、そんなことはないのよ・・・何かあったのかしらね?」

 アヤメが賢太の方を優しい目で見て、困惑した顔で答える。

 

 〔ワンワンワンッ、ワンワンッ、ワオワォーーーンッ!〕

 先ほどの遠吠えに答えるかのように田舎の犬達が一斉に鳴き出した。

 

 〔バサバサバサッ・・・。〕

 犬達の遠吠えに驚いたのか、それとも猿達が動いた事に驚いたのか。少し離れた山間から鳥達が一斉に飛び立っていく。

 

 

 

「太郎ちゃんが誰かに怒ってる・・・。」

 賢太がアヤメと話していると、美々子が何かに呼ばれたかのように屋敷からフラリと出て来るなり、そう呟く。

 

 

 

「ばあさんや・・・美々子はお寺に行きたいようじゃから、連れてってやってくれんか?」

 美々子の後を追ってきたムネナリがアヤメにそう頼んだ。

 

「あらあら、分かりました。美々子ちゃん、行きましょうか?」

「うん。」

 アヤメはそうムネナリに答えると、美々子に近付いて、手を差し出す。美々子は遠くの空をボーっと見るような視線のまま、差し出されたアヤメの手を取り、歩き出す。

 

「・・・・・・。」

 賢太はその光景を見て、黙って美々子達の後ろをついて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アヤメが美々子と手を繋いで、屋敷から少し歩くとその寺はあった。

 

 ちょっとした階段を上り、門を潜った時、3人を出迎える声がする。

 

「おぉっ・・・これはこれは、アヤメさん・・・お久しぶりですね。」

 寺の庭を掃除していた住職らしき男性が、アヤメに声を掛けた。

 

「和尚様、お久しぶりですね・・・今日は孫がここに来たいと申したものですから。」

 アヤメはニコニコしながら、和尚に軽く会釈をして、来訪の理由を和尚に説明した。

 

「ホッホッホッ、それはそれは・・・こんな小さな子がこんな何にもないお寺に来てくれるのは、仏様もお喜びになります。」

 アヤメのニコニコした表情に微笑を返す和尚。

 

「・・・・・・。」

 美々子はそんな二人のやり取りをまるで気にする事無く、アヤメの手から離れて、導かれるようにその目的の場所に歩いていく。

 

 美々子が惹かれるように歩いた先に居たのは、

「・・・・・・。」

 静かに山を見つめるしっぺい太郎だった。

 

 美々子がジッとしっぺい太郎の姿を見ていると、和尚が不思議そうな顔でその光景を見ている。

 

「・・・お孫さんは、何か?」

 どうやら、和尚には太郎の姿が見えないらしい。何もないところに黙って歩き、何もないところを見つめている美々子の様子をイブカしげにみて、和尚は首をヒネッた。

 

「・・・なんなんでしょうね?小さい子は不思議ですからね・・・。」

 太郎の姿が見えているアヤメだが、見えない和尚に話を合わせるようにしながらも、ニコニコと美々子と太郎の様子を見ている。

 

 

 

「太郎ちゃん・・・どうしたの?」

 美々子が山をジッと見ている太郎に自然と言葉が湧き出るように話しかけた。

 

 

 

「美々子殿か・・・いえ、最近、山の猿の様子がおかしいので、少しきつく注意している次第・・・しかし、どうにも、聞き訳が無い様で・・・。」

 太郎は美々子の方に視線を移し、淡々と説明する。

 

「なんや・・・逃げた思うたら、こんなとこで鳴いとったんか?」

 美々子の後をトボトボと追ってきた賢太が、意地悪な口調でニヤニヤしながら、太郎に突っかかって行く。

 

「・・・オヌシも来ていたのか・・・皇峨輪はオヌシにはふさわしくない・・・付喪神も人を選ぶのでな・・・。」

 太郎は口調を変えず、淡々と賢太にも対応する。

 

「そりゃ、当然や・・・それこそ、望むところや・・・選ばれてこそ、カリスマやからなっ・・・。」

 太郎の辛らつな対応にも一切めげず、むしろ高揚感を高めて、ウキウキと答える賢太。

 

「・・・・・・。」

 そんな賢太を不思議そうに太郎は見ていた。

 

「ケンちゃん・・・私、お猿さんと話してみたい・・・。」

 美々子が賢太の方を見て、唐突にそう言い放つ。

 

(・・・何ゆうとんねん・・・野生の猿と話せるわけないや・・・いや、こいつなら平然と話せるかもしれへんな・・・。)

 美々子の突発的な不思議ちゃんに身を引く賢太だったが、それなりに付き合いを重ねてきた仲で美々子を理解しつつある賢太。

 

「美々子殿・・・山に入るのは危険でしょう・・・拙僧もついて行きましょう。山の猿共が何を考えているのか・・・この目と耳で確かめとうございます。」

 太郎が背筋をピンと伸ばして、自分もついていくと名乗り出る。

 

「せやかて・・・美々子もまだまだ小さいからな・・・霊体の俺と犬がついていったとしても、何があるか分からへん・・・猿が近付いてくるのを待つのが得策や。」

 賢太はしっかりと年長者としての責任感から美々子の身を案じる。

 

「・・・ほほ~~・・・貴方を少し見くびっておりました・・・。」

 賢太のしっかりとした気遣いに素直に感心する太郎。

 

「なんや、ワレッ・・・喧嘩売っとんのかッ?」

 賢太は犬にも容赦なく、ガンを飛ばしていく。

 

「拙僧・・・無駄な弱い者イジメはいたせぬ故・・・。」

 太郎も負けじと賢太に顔を近付けて、睨み合う。

 

「ケンちゃん・・・。」

 そんな二人を見ていた美々子が賢太の服の裾を引っ張って、上目遣いをした。

 

「・・・・・・うっ・・・わっ、分かったわ・・・。」

 賢太は美々子のこの目にからっきし弱く、素直にしょぼくれて引き下がった。

 

「申し訳ござらん・・・拙僧も少し大人気なかった・・・。」

 太郎も美々子の様子を見て、大人しく引き下がった。

 

「それで・・・今度、猿はいつ山を降りて来るんや?」

 賢太がふてぶてしく太郎に尋ねる。

 

「・・・前までは一日と日を置いていたのだが、最近はもう数時間すれば、また群れを成して降りてくるようになってきておる・・・寺の周辺の民家に入り込んで荒らして回るようにもなって、ホトホト迷惑している次第・・・。」

 太郎が賢太の態度には全く反応せず、淡々と答える。

 

(・・・寺の周辺?・・・猿どもはそんな賢いんか?)

 太郎の説明の中で、賢太は違和感を持った。

 

 寺の周辺だけに民家があるわけでもなく、田舎と言えど、そこかしこに民家はあった。むしろ、寺の周りは民家が少し密集しており、ねらい目ではあるが、猿がわざわざ人の多い場所を敢えて狙うのはどこか不思議な気がしたからだ。

 

「どうするのだ?」

 考え込んでいる賢太を見て、太郎が今後の事について尋ねた。

 

「数時間後やろ?・・・ちょうど、昼前やし・・・美々子は一旦家に返って飯食うてこい・・・俺らは飯はいらんし・・・ここでまっとるさかい、ばあちゃんにまた連れてきてもらえや・・・くれぐれも一人で来るんやないで?・・・ちゃんと、アヤメにゆうとくからなっ。」

 賢太はまずは人間である美々子のことを気にして、美々子にお腹が空いたであろう事を気遣った。そして、美々子が単独行動をしないようにしっかりと釘を刺す。

 

「うん、分かったッ!」

 美々子は賢太の言う事を何処まで理解しているか分からないが、しっかりと笑顔で返事をする。

 

 その後、賢太は和尚と世間話をしていたアヤメを手招きして、事情を説明し、美々子を一旦家に返すように指示した。

 

 

 

「それじゃぁ、お腹も空いたし、一旦帰りましょうね?」

 アヤメは賢太に言われたように再び美々子と手を繋いで家路へと向かう。

 

 

 

「また、来られるのですか?」

 和尚は一旦帰るという言葉に違和感を持って、アヤメにふと尋ねた。

 

「うんッ、また遊びに来ますっ。」

 アヤメが答えるかわりに、美々子が元気一杯の笑顔で返す。

 

「おぉっ・・・それはそれは・・・お待ちしております・・・。」

 和尚は美々子のとびっきりの笑顔に圧されて、それ以上は踏み込んでこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 美々子がアヤメと一緒に帰った後、賢太と太郎は寺の本堂の屋根の上から山々を眺めていた。

 

「・・・オヌシはなぜ、そこまでして面倒ごとに首を突っ込むのだ?」

 太郎が山々を眺めながら賢太に尋ねる。

 

「・・・首をつっこんどるのは俺やない、美々子や・・・俺は美々子の式霊やからな・・・まぁ、あいつを守るぅって、約束したんやから・・・漢としては命に代えても守らないかんやろっ・・・まぁ、もう死んどるんやけどな・・・。」

 賢太が太郎の方を一切見ることなく視線は山々を眺めながらも、ハッキリとそう太郎に断言する。

 

「・・・それなら、美々子殿が危ない事に関わらないようにすればよかろう?」

 太郎が賢太の方を見て、賢太の回答に対して、気になったことを聞き返した。

 

 賢太はしつこく絡んでくる太郎を横目でチラリと見て、また山の方に視線を送ると

 

「・・・美々子は間違った事をしとるわけやないやろ・・・困った人を助けるのに避けて通らして、どないすんねん・・・美々子一人ならともかく、今は一緒におるんやから・・・大人として向き合って、それこそ一緒に助けたらなあかんやろ・・・大人の見本っちゅうやっちゃ・・・。」

 賢太が素直にしっかりと言葉を並べるも、山々の方を相変わらずボ~ッと見ながら自然と話す。

 

「・・・・・・。」

 太郎はそれ以上何も言葉は出てこなかった。

 

 それから、二人は美々子達が戻ってくるまで、ジッと黙って、山々をただただ静かに眺めていた。

 

 

 

 

 

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