明け方に宿の窓から美しい空を見たフェルンが感動を共有したいと振り返ったものの…
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朝焼けに落ちる優しい記憶

燃えるような朝焼けが東の空にとても鮮やかに見え、容易にフェルンの瞳を奪った。

泊まっている宿の窓から望むそれはこの旅の景色を美しく彩り、圧倒されるような想いを抱いた。

共感を得たくて振り向いたものの、同室のフリーレンは相変わらず大胆な寝相で夢の中。時間的にもまだまだ起きそうにない。

別室のもう一人シュタルクを起こすのも少々気が引けてしまい、再び窓のほうへ戻ろうとした。

その時向かい側の建物屋上からパタパタと数羽の鳥が羽ばたいて赤く染まる空へ飛び去っていくのが見えた。

「そうか、そこがあった。」

そう呟くと部屋をそっと抜け出し、魔法で屋根の上へと降り立った。

先程は瞳だけで感じていた朝焼けの壮麗さを全身に浴びて、腕を広げて深呼吸をひとつ行なう。

先程よりも少し橙色が入った空を眺めて物思いに耽っていると、ふと後ろの階下より「よいせっっと。」と声と共に物音が聞こえてきた。

振り返ると今見ていた空と似た髪色の青年がよじ登ってくるところだった。無事に辿り着いたところでフェルンに「よぉ。」と片手を挙げた。

「おはようございます、シュタルク様。随分と早いお目覚めですね。お疲れなのでは?」

「おはよう、フェルン。そうなんだよ。疲れている筈なのに、なんか目が覚めちまってな。そっちも似たようなもん?フリーレンは?」

そう言いながらシュタルクはフェルンの隣にすとんと腰を下ろした。

「フリーレン様は相変わらず酷い寝相でして…。フリーレン様が寝返りした際に膝が直撃してその衝撃で目が覚めてしまいましたよ。」

脇腹をさすりながらスンとした表情そして遠い目になってしまったフェルンの様子に、その光景が容易に脳裏に浮かび「あー…」とシュタルクは苦笑いをしながら頬をかくしかなかった。

「そ、それにしてもさ、今のこの風景、とても綺麗だよなぁ。朝焼けなんて見る機会あまり無いからさ、ちゃんと見ておきたいなって思って。」

ムードを軌道修正したくて話題を変えると、依然として街並みへ目を向けつつもフェルンの顔は柔らかい表情となって頷いた。

「そうですね。ここまで鮮やかな色彩に染まる街並みはとても美しいです。私も窓越しではなくもっと上から全体的に見たいと思ったのでここまで来ましたが正解でした。まさに文字通り『怪我の功名』でしょうか。…あぁ、やっぱりフリーレン様も叩き起こしてきましょうか…。」

「うわぁ根に持ってらっしゃる……。ゴホン。と、とりあえず時間が勿体ないし今はしっかり目に焼き付けておこうぜ。またいつか見れたらその時に連れてくればいいさ。」

フェルンの静かな怒りを宥めつつ、シュタルクはフェルンと共に静閑な街並みをただ眺めていた。

 

完全に日が昇る頃にようやく目覚めたフリーレンと共に、朝市で買ってきた朝食を食べていると、遠くから黒にかなり近い灰色の雲が広がってきているのが見えた。

「これはかなり強い雨が降るね。今日は移動せずに宿で過ごそう。読みたい魔導書があるからちょうど良かった。」

「数時間前はあんなにキレイな景色だったのにな。まぁ仕方ないけど。」

手早く朝食を終え、慌ただしく宿へ戻ってきた頃には雷鳴も聞こえ始めた。

ひと通りトレーニングを済ませたシュタルクはフェルンに誘われてフリーレンたちの部屋を訪ね、つかの間の団欒を楽しむことにした。

「そういえば今朝ここの屋根の上でフェルンと一緒に朝焼けに染まった街を見たんだけどさ、スゲー綺麗だったぜ。なかなかチャンス無いけどいつかフリーレンも見ようぜ。」

「あぁ、さっき『綺麗な景色』って言ってたっけ。そうか、朝焼けだったのか。うーん、私はたいてい太陽が昇りきった後しか起きれないからね…。最後に見たのはヒンメルたちと旅をしている途中だったかな。」

窓に近いテーブルに紅茶を並べ、お茶会の話題としてフリーレンが覚えている朝焼けが出てきた。

「まぁ以前も話したようにヒンメルたちと旅をしているときも早起きは無理だったし寝坊もしょっちゅうでね。その当時はわざわざ日の出を見に行く事に興味も湧かなかった。だけどそれは夜に眠れた時の話。」

「フリーレン様はとても寝付きが良いですよね。眠れない、なんて日があるのですか?」

焼き菓子を頬張りながら首を傾げるフェルンに『さり気なくだけど寝坊グセ・寝相グセがあるフリーレンを非難してる…。』なんて思いつつシュタルクは相槌を打った。

「野宿でもわりと眠れるほうだけどさ。でも流石に魔族と夜通し戦った最中は「疲れたから寝させて」なんてことは当たり前だけど出来なかった。ようやく全て倒しつくした時にはうっすら濃いオレンジ色の太陽が出始めていて雲も同じような色に染まっててさ。ヒンメルたちも目をキラキラさせて「とてもキレイな朝焼けだ。こんな時間まで頑張って戦った甲斐があった」って笑っていたな。」

そう呟くフリーレンはとても懐かしそうに優しい目をしていて、勇者ヒンメルたちとの大切な記憶に触れられたのが嬉しそうだった。

 

窓の外は酷い雨だったが、ここだけは穏やかな優しい時間が流れている。

 


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