ここではそれが当たり前とはいえ、見目麗しい竜人の美女に囲まれての朝食……随分と、贅沢な毎日だとは自分でも思う。メニューにしても毎日毎食栄養バランスにも気を使われた様々なものが、それも明らかに私の好みに合わせて調整されており、安月給の中から毎月やりくりしつつ命を繋いでいた過去の自炊生活が何だかひどく遠いもののように思える。
という話を以前しみじみしていたら、その時会話していたパルラに「マスターの手料理、私食べたいっ!」とおねだりされたのがしばらく前のこと。いくら毎食自炊だったとはいえ所詮は独身男の手料理、ここの食事には到底及ばないのだから、と全力で断ったものの結局断り切れず、最終的には押し切られてしまい。その約束の日が、まさに今日の昼食だった。
ちなみにおねだりの決まり手はあからさまに(わざとだとしか考えられない、まだ見習いのラドリーはともかくとして彼女たちはなんのかんのメイドとしての所作はまさに完璧なのだから)胸元を緩め、この屋敷内で相対的に見れば下から数えた方が早いが冷静に考えれば大概な、そして確かな存在感を放つ真っ白な北半球と谷間を見せつけながら、普段鉄壁のスカートもほんの少しだけ、ギリギリ見えない程度に大きめにまくり上げたうえでしなだれかかってきて。極めつけにその吐息も感じられるほど耳元に甘い声で何度もお願いしての色仕掛け。
こんなことを本人に言うとちょっと頼みごとができるたびに(つまみ食いがバレたから激怒したティルルから庇ってor匿って欲しいなどといくら主人の私でも守り切れないような案件から、ご主人様とお茶するからって言ったらティルルがお菓子くれたし一緒食べよ?といった私なら何もせずとも喜んで受け入れるようなものまで)絶対に同じ手を濫用し始めるしその度に私は言いなりになるのは見えているのでここにこうして記すだけに留めておくが、はっきり言ってあれは最高だった。特に自分から仕掛けておいてかなり恥ずかしくなっているのが手に取るようにわかるぎこちなさ、など。
……彼女のように文字通り人外級な美少女からのハニートラップを断り切れなかったからといって、断じてそれが私の精神力の弱さとイコールの関係にはならないと信じたい。
という話は置いておいて。パルラは一体何を期待しているのか、ここの料理とのレベルの違いを痛感して恥を晒すだけだとは思えども、約束は約束。ここまできたら観念してあるもので何か作るかと、私も重い腰を上げた。
ちなみに、この時にはラドリーはもういない。一応ブラッシングを止めた時点で誘いはしたものの、行きたいと大きく書いてある半泣きの顔で断られた。さすがに、ここからは仕事の時間らしい。そこでちゃんと仕事を優先できるのは偉いと褒めちぎったら多少は気も晴れてくれたようだけれど、後で仕事の様子について誰かに聞いてみようと思う。
「マスター、改めましておっはようございまーす!」
部屋を出ると、どうやら扉の前で待ち構えていたらしいパルラの満面の笑顔がお出迎えしてくれた。若草色の髪をぴょこんと揺らし、その色や葉っぱのような先端の形状も相まって植物の蔦のようにも見える尻尾が揺れる。露出少なくがっちり着込んでいるハスキーさんやラドリーとはまた異なる黒を基調としたそのメイド服は、本人がその効果を意識してのものかは知る由もないがハイソックスとミニスカートの間に覗く太腿と露出した二の腕のはっとするような白さを強調していて、ついよく動くそれらに目が奪われてしまう。
「おっ?あれあれ、マスター?今、どこ見てました~?」
にやにやと笑いながら私の顔を覗き込んでくる、琥珀色の瞳に縦長の瞳孔。人間よりも爬虫類的なその形状はラドリーとも同一だが、彼女の方がやや瞳そのものが大きい。悪戯っぽく笑う整った顔立ちに、どこか柑橘系を思わせる爽やかな香り。最初のうちはこのフレンドリーな距離感に随分挙動不審にさせられたものだが、今にして思えばあれはかなり有効な荒療治だった。
というのも、ここに招かれるまでの私の人生は、右も左も男しかいないような職場と家を往復することがその大半を占めるようなものだったからだ。そこから最愛のカードであるハスキーさんの実物を拝み会話までし、ほんの数時間としないうちにはもうドラゴンメイドたちの住まうこの屋敷でのご主人様待遇。天と地ほども違う暮らしにどうしても気後れする中でも、早くからぐいぐい来てくれたこの顔面強者ムーブのおかげで、私がここの環境でどうにかやっていけるようになるまでの日数が大幅に短縮されたのは間違いない。
それに、結果的にとはいえひとつ面白いことも知ることができた。私がそれに気が付いたのはここの生活にもひと段落ついてすぐの頃、上記の理由から一度パルラに改めて礼を述べた時だ。
―――――ごめん、パルラに見惚れてたんだ
「ふーんなるほ……んんんっっ!?」
とにかくパルラは、自分が攻めているうちは強い。小悪魔的にこちらをからかい、私が顔を真っ赤にし、それを間近に見るのをそういうコミュニケーションとして心から楽しんでいる節がある。
「う~……!」
が、その反面、少し責められると途端に弱くなる。こんな歯の浮くようなセリフ、私もまさか現実で口に出す日がこようとは思わなかったのだが、これがまた格別に彼女には効くのだ。わかりやすく目が泳ぎ、あれだけはきはきとしていた言葉使いも急に詰まって、もにょもにょと口の中で何事か呟くきりになり。こちらも散々からかわれた時点で内心どぎまぎしながらそんな彼女を見たいがためにこの「お返し」をするのだから、それは精神力も鍛えられるというものだ。
―――――嘘じゃないよ。パルラ……その、美人さんだし可愛いし、明るくて楽しいうえよく気が付くし……
「わーわーわー!マスター、ストップストップ!」
どんどん赤くなる顔で廊下に響くほど大きく声を張り、こちらに飛び掛からんばかりの勢いでそれ以上の褒め殺しを止めにかかるパルラ。彼女の甘い言葉や態度には先に私の精神に限界がきて白旗を上げることも多々あるのだが、どうやら今日は私の勝ちのようだ。本人を前にここまで思う所を言い続けるというのはなかなかこちらとしても恥ずかしいのだが、それでもどうにかやりきれたのは、やはりこの言葉の……何なら言いそびれた分も含めて、すべてが私の嘘偽りのない本音だからだろう。さすがにカードとしても初動から終盤までよく戦ってくれるため、ずっと頼りにしているだけのことはある。
―――――ごめんごめん。でも本音なんだけど
「もう~……!よっぽど美味しいもの作ってくれないと許しませんからね!……ズルいですよ、そういうの」
頬を膨らませてぷいっとそっぽを向き、キッチンへと歩き出してしまう。パルラと喋るのが楽しくて忘れていたが、そういえばもとはと言えばそんな話だった。よほど美味しいもの、とさらりと上げられたハードルに内心頭を抱えながらも、その後を追いかける。
そして辿り着いた清潔で広い厨房では、どうやらすでに手回しは済ませていたらしい。包丁やまな板をはじめとした一般的な物から、恐ろしく限定的な用途でしか使いようがないことだけはわかるが具体的な使い方がまるでわからないマイナーな、というかこれまでの人生見たことすらないような物まで大小様々な調理器具。種類豊富でいかにも新鮮そうな、普段私が買っていた値引き品や格安シールの貼られたそれとは見ただけで質の違いが見て取れる野菜、肉、卵といった様々な食材。おおよそ厨房と聞いてイメージされるようなものがずらりと並んでいて。その向こう側では歩く間に機嫌を直してくれたらしいパルラが、どこからか用意した椅子に腰かけ後ろに垂らした尻尾を振りつつ頬杖をついて私の方を見ていた。
「はい、マスター。どーうぞっ」
その言葉とともに、一瞬だけ視界が何か柔らかいもので遮られる。魔法を使ったのだろうと気づいたときには、すでに服の上からエプロンを着せられていた。それもただの無地ではなく若草色を基調にした、風に流れる緑色の葉っぱ模様が編み込まれているかなり手の込んだものだ。
―――――これ……
「ふふーん、その通り私のお手製ですよ。ちゃんとオーダーメイドで夜なべして作ったからサイズもぴったり!うん、よく似合ってますね、マスター」
私の頭から足先まで視線を送り、心なしか満足げに頷くパルラ。おそらくこの様子からして、これを脱ぐなどと言おうものならまた機嫌は地の底、今度こそへそを曲げてしまうだろう。
もっとも、私としてもそんな勿体ないことをするつもりはない。どこかパルラの匂いがするような気がするそれを身に着けていると、まるで彼女に抱きしめられているような錯覚さえ感じて。正直、とてもとても悪くない。
―――――ありがとう、でもほんと期待しないでよ?
「わかってないですね、マスターは……あなたの料理だから、食べたいんですよ」
―――――プ、プレッシャーが……
「ふふっ、さっきのお返しですよーだ」
小悪魔めいた笑みを浮かべるパルラとは対照的に余計に重くなったプレッシャーを背負いながら、改めて食材をチェックする。なにせ久々だからあまり使い慣れないものを入れるのは止めておいて……ニンニク、人参、玉ねぎ、ネギ、エリンギ、小松菜、大根、木綿豆腐、あと卵。調味料に鰹節とめんつゆ、そして味噌。毎日和食から中華、エスニックにフレンチ、インドだドイツだアメリカだ、果てはもはや見たことも聞いたこともないような料理まで何でも出てくる屋敷だから食材に心配はしていなかったけれど、本当にここまで何でも出てくるとは思わなかった。
―――――パルラ?
「はーい?」
包丁を手にまな板を用意していると、何がそんなに面白いのかこちらの一挙手一投足をじっと楽しそうに見つめているパルラの視線を感じる。
―――――肉と魚、どっちがいい?
「んー、じゃあ今日はお魚で」
―――――了解
鶏肉とどっちにしようか迷ったけど、なら魚にしよう。これはヒラメとカンパチだろうか、なら問題はない。フライパンに水で薄めためんつゆを張り、刻んだニンニクと鰹節少々を全体にばらけるように。
……いや待った。今パルラ、「今日は」って言わなかっただろうか。
聞かなかったことにして薄く切ったヒラメとカンパチの刺身をしっかりつゆに浸るよう入れ、次いでカットした豆腐と野菜を入れていく。火の通りがこの中では比較的悪い人参ときっぱり煮込みたい玉ねぎは最初の方に、あとは適当に手に掴んだ順で。
終わったらいよいよ火を入れる……前に、まずは米を炊き始める方が効率がいい。炊飯器はないが、圧力鍋ならあるから全く問題はない。しっかり洗ったうえで伸ばした五指に力を入れ、流水でよく研いだ白米。水に濡れきらりと光る純白のそれを圧力鍋に入れ、水を流し入れてから蓋を締める。
今の水道もそうだが、この屋敷はナチュラルに魔法が普段使いされている。コンロやオーブンといった器具も当然ガスやIHではなく、私にはついぞ仕組みの理解できない魔法機構だ。見た目は古めかしい、というか現代日本では見ることもない燃料式のそれなのに、いざ動かしてみれば現代家電に引けを取らないほどの利便性。
「あっ、マスター使い方知らないんでしたっけ?それはですね」
―――――大丈夫だよ、ほら
しかし仕組みはわからずとも、やり方さえ知っていれば利用はできるのは科学も魔法も同じ。以前ティルルに誘われてクッキーを焼いた際、魔法動力のオーブンの使い方と一緒に教えてもらったことがある。しかしそのことはおくびにも出さずに少し得意な気分でぱっと火を付け振り返ると、私とは対照的に唇を尖らせ不満そうに足をばたつかせるメイドと目が合った。
「へー、知ってたんですか。良かったですねー」
わかりやすく拗ねられてしまったが、これは本当に私が悪いのだろうか……?ただ変に口先だけ謝っても余計にこじれそうなので、すっと火加減を見るふりをして目を逸らす。
「む~~~!!」
椅子の足でも尻尾で叩いているのか、バシバシと重い音をバックに私不満です!と全力で訴えかけてくるむくれ声。あのよく動く表情を最大限に活かしているであろうその様子を見たいという強い誘惑に駆られるが、折よく圧力鍋から目一杯に圧がたまったと蒸気音がしてきたためになんとかそれを振り払う。火の勢いを落として、もう少ししたら完全に火を落として圧が抜けるまで放置。
米の用意がひと段落付いたので、今度はメインの方だ。こちらもフライパンごと火にかけて、湯気が立ち始めたあたりのタイミングで味噌を手に取った。熱を加えながらこれをほんの少し、隠し味程度に溶かし込む。溶け残りが出ていないことを軽く菜箸で確認し、最後に卵。ボウルに割ると一目見ただけで分かる弾力に色合いは、これもあちらの感覚で言えば超高級品、あるいは牧場から直に回収したばかりの超が付くほど新鮮な代物だろう。勿体なさすら感じながらも手早く解きほぐし、ようやくすべての準備が整った。あとはフライパンの中身に完全に火が通ったら火を止める直前にこの溶き卵を全体に回しかけ、それを炊き立ての白米にかけるだけ。
こんなもの男の料理と言えば聞こえはいいが、独身貧乏男の料理と言ってしまえば一気に悲惨な空気が漂うようなそれだ。確かにそう無茶な味付けはしていないのと、素材が抜群にいいものだから食べられる程度のものにはなっているだろう。だとしてもここの食事で舌が肥えているであろうパルラのお眼鏡にかなうとは到底思えないし、それがそもそも宝の持ち腐れ、と言われてしまえば返す言葉もないが。
……どちらにせよ、火が通るまでにも米が炊けるまでにもまだ少し時間がかかる。その間にどうにかパルラの機嫌を少しでも直してもらおうと、気が付けばぱたりと静かになっていた彼女の居る方へと向き直る。
「あ、もうじきですね?」
てっきりむくれっ面で座ったままかと思いきや、こちらの気配を察したのかくるり振り返ったパルラの手元には二膳の箸と箸置き、そして和風の丼が二つ。麦茶入りのコップまで置かれ完全に食事の支度が出来上がっていた。
その表情にも先ほどまでの不機嫌さはもはや欠片も見当たらなく、一見澄ました表情の口元にはほんのわずかな、だがしかし間違いなく会心の笑みが浮かんでいる。一体いつから準備していたのか、どうやら私は先ほどまで抱いていた罪悪感やどうご機嫌伺いしようかとあれこれ悩んでいたことも含め、完全に彼女の手のひらの上で踊らされていたらしい。
―――――やってくれたね……準備ありがとね、もう!
「ふふん、いえいえ。でもこれでさっきの借りは返しましたからね、マスター?」
ぺろり、とピンク色の人間よりやや長い舌を出してウインクするパルラに苦笑で返したところで、そろそろ火加減もいい頃合いだろう。溶き卵を回し入れ、圧力鍋を開き、上記の中に輝く純白のふっくらしたお米にさっと濡らしたしゃもじを通す。炊き加減も悪くない、成功だ。パルラから受け取った丼に米を敷き、その上にできる限り具材が均一になるようフライパンの中身をお玉ですくい入れる。
―――――じゃあ、お粗末さまだけど
「うーん……それでもいいんですけど、それはそれで魅力的なんですけど。そ・れ・よ・り!」
言うが早いが緑の尾が蔦のように伸びて、私の腰を絡めとる。彼女もやはりドラゴン、とても抵抗などできないような力と勢いで、しかし間違っても私に怪我などさせないよう最大限気を遣っていることが伝わってくる動きで、抵抗する暇もなくその真横に動きを封じたうえで座らされる。困惑してすぐ横、ほとんど密着しているためその体温や心臓の鼓動、肢体の柔らかさすら感じられるほど近くのパルラに視線を送ると、当の本人はといえばいつの間にか私の手から丼を取り上げ、箸で一口分を摘み取っていた。そのまま口に入れるのかと思いきや、なぜかその手は自分ではなく私の口元へと伸びてくる。
「はい、マスター?一緒に食べましょ、あ~ん」
―――――パルラ、さん?
「ほらほらマスター、メイドさんからの『あ~ん』ですよ?食べないんです?」
これも、彼女なりのからかい半分なスキンシップなのだろうか。直接感じるその心臓の鼓動が先ほどから加速度的にペースを上げていることは、指摘しないのが優しさだろう。それにそんなことを直接言いでもしたら、私自身この密着に心臓が早鐘のように脈打っていることはとうに伝わっているはずなのだから、それをネタに言い返されるに決まっている。
だから私は、大人しく口を開けることにした。その中に、彼女の取った一口がそっと入れられる。口の中に広がる以前はよく食べていた懐かしい味を素材の差でグレードアップさせたものと、出来立ての温かさ。ゆっくり咀嚼して飲み込むと、その間こちらの口元をじっと見て生唾を飲み込んでいたパルラが顔を赤くして目をつぶり、ぱっと口を開いて私に見せる。
「じゃあはい、マスターもお願いしますね?ほらほら、あ~ん」
……ああ、間違いない。言葉だけ捉えれば余裕たっぷりだが、これはパルラもなかなか限界が近い。どのみち離してくれそうにないしここで退く選択肢はないと、私も自分の箸を取ってすぐに一口を用意する。
―――――……あーん
「はーいっ!あむ、もぐもぐ……うん、とっても美味しいですよマスター!」
材料がいいからね、という喉まで出かかった言葉は、ここでは口にしない。あのキラキラした目を見れば、パルラが本気でそう言っているのはわかる。なら、これ以上の固辞はかえって彼女に失礼だ。
「それじゃあ、次はマスターの番です!はい、あ~ん」
―――――!?あ、あーん……?
「上手に食べましたね、じゃあ今度は私に……」
結局、ふたつの器が空になるまでこの食べさせあいは続いた。その間ずっと密着しっぱなしだった体は柔らかいし、いい匂いはするし。いくらこの屋敷とはいえここまでべったり世話を焼かれたことは私も初めての経験だったけれど。
……正直、正直悪くない、いやむしろこれはこれでひとつ最高の経験だった。さすがに食事の度に毎回はやっていられないけれど、美少女に食べさせてもらうのがこんなに充足感と達成感を得ることだとは思いもしなかった。そしてまたパルラの方はというと同じく食べ終わるころにはすっかり満足してつやつやした顔で満面の笑みを浮かべていたため、お互い大いに有意義な時間だったのだろう。
ドラゴンメイド・パルラ
青春からアダルトまで幅広くこなせるマルチなマスターラブ勢。攻めている時はメイド内でも随一の強さを誇るが、反転されるとよわよわ乙女がすぐに顔を出す。屋敷では唯一彼女のみが「マスター」の呼称を使用するが、これは本編開始前から少しでも仲間との差別点を作り自分の存在を意識してもらおうと彼女なりに知恵を絞った結果の変化球だったり。
そうしたいじましい努力の結果として晴れて傍から見た場合最も気安げにほぼ毎日マスターとイチャついており、その距離の近さは内心他のメイドからも羨ましがられている。
偶然マスターの元の食生活を耳にした際、これだ!と反射的に決め打ちしてこの好機絶対逃すまいと全力で今日の約束を取り付けたのだが、実は楽しみすぎて昨夜はほぼ眠れていないため今朝の化粧はいつもより大変長い時間をかけることとなった。反面その徹夜テンションのおかげで実食直前の食べさせあいを思いついたのみならずゴリ押しで通すという大金星(メイド視点)を挙げたが、後になって正気に返った彼女は真っ赤な顔を枕にうずめ布団をすっぽり被ったまましばらく相部屋から出てこようとしなかったという後日談があったりなかったり。
余談だが彼女の産まれた地方には古くから、「竜が異性の体に尾を巻き付ける」行為は相手を番いとする合図とほぼ同義であり、その中でも相手の腰に巻き付けるというのはもし他者に見られでもしたら向こう数年は周囲でも名物のバカップルとして捉えられるほどに熱い仲であるという意味を持つ、というあまり外部には知られていない風習がある。